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彼女は美少女でしかも霊媒師  作者: 松山カイト
幽霊よりも怖いもの
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あの湖

湖のある森の入り口には15分ほどで着いた。


 湖に続く山道の遊歩道に一歩入れた足が震えた。

 今までの興奮が虫ゴムを取った自転車のタイヤみたいに抜けていった。僕にも分かる。これはヤバい。ひとりで行けるようなところではない。どうしよう。真美ちゃんを待つべきか。


 しかし彼女がいつ来るか分からない。早く行けば助かっていたのになんてことになったら死んでも後悔する。今まで散々守ってくれたのだからここで逃げるのはおかしい。


 チーちゃんが入ったリュックを前に担ぎ、カンガルーの赤ちゃんみたいに袋から顔を出した頭を優しく撫でた。心落ち着かせ、一歩ずつゆっくりと中に入っていく。


 遊歩道はさほど嫌な感じはしないが左右の雑木林からは、暗いオーラを感じる。木々が揺れる音以外に足音や叫び声が聞こえている気がする。


 だんだん緑が濃くなってきて足を速めた。


 相変わらずチーちゃんは泣いているのだが聞こえない。子走りで階段を登り湖に向かった。とりあえず最悪は消しておきかった。


 15分ほどで湖にたどり着いた。冬の雪不足と最近の雨不足で水深が低くなっているものの10m以上の深さはあるだろう。落ちたら戻ってくるのは無理だ。


 楕円状の湖は全体を見渡せられる。200mほど先の向こう側にも人影は見えない。転落防止の金属製の柵が湖を囲んでいて、至る所に転落注意と「よく考えてあなたを必要としている人がいる」と書かれている看板がある。ざっと見るだけで20以上はある。この異様な光景に恐怖が何乗にも増す。

柵の向こう側の湖面を見た。


 あまり近づくと引きずり込まれそうだ。というより、後ろから押されるか、足を引っ張られそうな気がするので、柵から離れた。


 さすがに彼女がぷかぷかと浮かんでいなかった。もしそうだとしても、助けようがないが。

「ねえチーちゃん、珠理ここに居るの?」


いつのまにか泣き止んだ彼女に聞いた。首だけでなく両腕を大きく左右に動かした。居ないってことなのだろう。


 まだ、日が出ているものの、あと30分で完全に夜だろう。それまでにどうしても見つける必要がある。


 しかし、こんなにも広い山、たったひとりで見つけるなんて不可能だ。体が震える。恐怖心もあるが本当に寒い。風邪の初期症状みたいに体の中から冷える。


 見えないが、僕の周りにはたくさん幽霊が居るのだろう。それは、チーちゃんみたいに良い霊だけではなく、珠理ちゃんの言うこの世に未練を残した死んだ霊がたくさんいるに違いない。


 こんなにも恐怖を感じたのは生まれて初めてだ。珠理ちゃんのパパや詐欺師に襲われたがそれが可愛く思えてきた。目の前にはっきりと死を提示されている。日の入りの時間までが僕の余命だ。それと同時に彼女の余命である。もし、本当にここに居たらの話だが。


 とにかく早く見つけないと。居ないってことを確認するためにも。


「じゅ。じゅ。」


 チーちゃんがこっちに顔を向けながら言った。怒っているように見える。早く探せってことか。僕の周りに居る女性達はどうしこんなに気が強くて、頼りがいがあるのか。


「珠理ちゃん。」


できる限りの大声で叫んだ。


 しかし、木々が擦れるざわざわに消された。その音はだんだん大きくなってきている。どんな大きな声出しても、僕には聞こえないいろいろな音が彼女には、聞こえているに違いないから彼女には届かないだろう。


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