表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は美少女でしかも霊媒師  作者: 松山カイト
幽霊よりも怖いもの
13/54

幽霊より怖いもの

 部屋に帰り着替えを済ませてシャワーを浴びた。そして、勉強を自分の部屋で2時間ぐらいした。それから夕飯を食べるため冷蔵庫を開けた。中にはほとんど何もなかった。おかずになるのはキムチぐらいだがそれだけでは、お腹が空くので買いに行くことにした。今日は親が出張で居ないのでコンビニで弁当か何かを買おうと向かった。自転車で行こうと思ったがどうしても鍵が見つからなかったので歩いて行くことにした。たぶん15分はかかると思うが、別に問題はないだろう。太陽はだいぶ前に寝床に着き、雲に覆われ今は深海の底のような暗闇が広まっている。まだ10時だというのにほとんどの家は明かりが消え街灯の光だけが寂しく僕を時折照らす。


 もちろん人は居るのだがゴーストタウンと勝手に思ってしまう。


 住宅街を抜けしばらく歩道のない県道を進むと、気が安らぐ明るさが見えた。コンビニは3台ほど車が止まっていたが客は誰も居なかった。この時間だから弁当は唐揚げ弁当しか残っていなかった。しょうがなくそれを手に取り、デザート、ドリンク売り場と物色したが特に目に留まるものはなく、そのままレジに行き弁当を温めることなくお会計を済ませ外に出た。


 コンビニの駐車場から先はまるで違う国と思えるぐらい人工の光がなかった。この時間に出かけるのはごく稀だがこの国の闇を見ているみたいで不安を覚える。そういえば今の首相誰だっけと思いながら家に向かう。


 細い路地に入ったところから後ろに気配があった。初めは誰か犬散歩でもしているのだろうと思って振り向いたが誰も居なかった。


でも、やっぱり後ろに気配があった。それは振り返っても同じだった。この体の芯を舐めるような感じに覚えがある。闇が一段と深まった。


 袋に入った唐揚げ弁当を大きく揺らしながら全速力で走った。ひとつの角、さらに角と曲がるたびに前から現れかもしれないという恐怖に怯えカーブミラーを絶対に見ないよう、何者から逃げた。家がようやく見えた。あとちょっとと思い、鍵をポケットから出し右手で掴んだ。


 その時、肩に何かがぶつかった。とても重くそして冷たい。その何かに抑え込まれるように体が後ろに傾きバランスを崩し、コンクリートの上に激しく尻もちをついた。体中に激痛が走った。それでも、声を上げずに急いで立ち上がろうとすると目の前に何かが居た。


 人のような形をしているが人ではない。それははっきりと分かった。空気が真冬のように冷たくなり、汗と血の気がすうと引いた。それは新雪のように真っ白な着物を着た女性に見えた。この闇と見分けがつかない長い髪は顔の白さを引き立てている。近づいてきた。腰が抜けて立ち上がることが出来ず、ただあわあわしていた。


「ねえ、私が見えるの。」


針のように細い声でそれは話しかけてきた。思わず首を横に振ってしまった。


「そう、見えるのね。ねえ、来ない?一緒に来ない。」


さらに一歩近づき手を伸ばしていた。棒のように細い腕だった。ようやく腰に力が入ったと思ったら今度は足ががくがく震えだした。


「早く行こうよ。ほら。」 


彼女の氷のように冷たい手が僕の腕を掴んだ。振り放そうとするも全然力が入らない。彼女が僕の体を引きずり出した。こんな華奢な身体のどこにこれほどの力があるのか分からないが、どんどん引っ張られていく。相変わらず体に力が入らない。このまま、連れていかれる。死を感じた。


 そのとき、


「やめろ。」


と男性の声がした。彼女が引っ張るのをやめた。自分の腕を大きく振り彼女の腕を外した。

そして、僕は地面を虫のように這いつくばりながら自分の家へと向かった。玄関の前で振り返ると、スーツを着た男性が何か呪文のようなものを言っていた。腕にはたくさんの数珠のようなもの掛けて、右手には棒のようなものを持っていた。


 彼女は地面をのたうち回り、そして走って逃げて行った。


 ゆっくりと彼が近づいて来る。昔話のおじいさんが被っているような笠を深くしていて顔はよく見えない。背がとても高くがっちりしている。


「大丈夫ですか。」


体格に似合わず優しい声だ。そう聞こえただけかもしれない。だって彼は僕の命の恩人なんだから。


「低級の幽霊でしたが連れ去れたら命はなかったと思います。ここ辺りはとてもたくさん霊がおります。それにあなたは特に幽霊に好かれやすい体質のようですね。この先どんな危険があるか分かりません。そこでこの辺りとあなた様にお祓いをさせていただきます。」

「そ、そうですか。どうか、お願いします。」


僕がそう言うと彼は首にかかっていた小さなひょうたんから白い粉を玄関に撒きだした。そして、何か呪文のようなものを数分間唱えた。その間僕は正座をして彼に向かって手を合わしていた。


「これでこの家は大丈夫です。霊は居なくなりました。」


「ありがとうございます。」

そう言って頭を下げた。彼がポケットから小さな貯金箱のようなものを出してきた。

「お気持ちで結構ですのでこちらに寄付と言うかたちで。」


「いくらでもいいんですか?」


「そうです、みなさん千円ぐらいお入れになっております。」


全然寄付じゃないがそんなこと言われたら千円入れないわけにはいかない。千円札を折り畳んで入れた。


「わたしどもは、あなた様のことが大変心配でございます。そこでこちらのお守りを差し上げたいのですが、とても貴重なものでございますので少々値が張りますが。本当に素晴らしいものとなっております。」


「いくらです?」


「一万円です。」


戸惑っていると彼が畳みかける。

「ここだけの話これ本当は100万円するんですよ。あなた様だから特別価格で提供して頂いております。本当に心配なんです。」


何も言わずにいると、また勝手に話してくる。


「これを持っているだけで幽霊に襲われなくなるだけではなく、幽霊を見なくなるという効果もあります。さらにお客様の多くが運気が上がった、モテ気が来たなら大変好評ですよ。」


セールスマンみたいに言ってきた。そこあまり気にならず、幽霊が見えなくなるって言うのに心引かれた。財布の中身を見た。ちょうど一万円札が一枚入っていた。


 かなり迷ったが、一万円で平穏が買えるならなんて安いんだ。彼に一万円を渡し、お守りを受け取った。見た目は普通だが表面に霊除けと金色で書いてあった。


その金色が恐怖の真っ暗な海を照らす小さな光に見えてしょうがなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ