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メゾ姉妹の終末ライフ  作者: 杠入子
3/5

砂の町の中心で希望を唄う


「おはようございます。マスター」


「……嗚呼お早う。トルマリン」


「今日は随分と起きるのが遅かったですね」


「昨日は徹夜したからな」


「それは大変でしたね」


「あぁ、……一つ疑問なんだが…」


「はい?」


「…何故お前が此処に居るんだ!!!」










『砂の町の中心で希望を唄う』










「この鍵簡単に開きましたよ?もっとちゃんと戸締まりをした方がいいんじゃないですか?」


「鍵開けができる奴に戸締まりが通用するか!!」


「いえ、鍵開けじゃなくて銃でぶち壊しました!」


「鍵の意味!!」



*・・・


トルマリン・メゾソプラノ[女]


メゾ姉妹三女[双子の妹の方]


齢十四歳[妥当]


純粋[たまに困る]


*・・・


「朝からこんなに必死になったのは久しぶりだよ、トルマリン」


「パジャマの人に言われても説得力ありません」


 彼女はメゾ姉妹の一人、トルマリンだ。純粋具直をまさに体現したとても明るい少女である。ここに顔を見せたのは一週間ぶりだ(因みにラズライトが来るのは不定期である)。


 一つ言いたいとすれば、空気を読まないところと、目的の行動を起こすためには手段を選ばないところだけが最大の短所なのだが。




 茶番を終え、服を着替えて二階の寝室をあとにするといつの間にか一階に降りていた彼女が珈琲を入れていた。


「待て待て待て、何で店の道具を勝手に使ってるんだ!」



「まあまあ、マスター。これでも食べて落ち着いてくださいよ」


「それは昨日私が作ったアップルパイなのだが!!」


「美味しかったです」


「嗚呼、時既に遅し!!」


 隣人、(言わずもがなMr.スズキ)に持っていこうと思っていたアップルパイは既にトルマリンの胃に消えていた。幸か不幸かそれは全てではないが哀れなアップルパイはクッキーと同じ末路を辿った。(詳しくは前話参照)


 最近、トルマリンはラズライトに行動が似てきている。感化、もしくは洗脳されたのだろう。




「ところで聞きたいのだかトルマリンよ」


「なんでしょうか、二十八歳独身のマスター?」


「詳しい歳を言うな」


「なんでしょうか、二十代後半のマスター?」


「……お前は何の用があってここにいるんだ」


 トルマリンは目的をしっかりと見据えて行動するような子だ(ラズライトと違って)。目的も無く店に来るような子ではない(ラズライトと違って)。


 私の目には荒々しく壊された店の錠前が見えるが…ラズライトの全壊、もしくは倒壊よりはましなことだ。ましなはずだ。ましだよな?うん。



「実はラズ姉に伝言を貰っているのです」


「はぁ、何だ?」


「『クッキーの作り方を教えてくれ、独身野郎。by,ラズライト』だそうです」


「あの野郎……。お前も大変だな、変な長女がいて」


「別に変な長女だなんて思ってないんだからねっ!!」


「おかしなタイミングでツンデレを放つな」



 要するに、ラズライトがトルマリンにレシピを持ってこい、と頼んだ訳なのか。相変わらず回りくどい。



「ラズ姉が御所望とのことなのでレシピを寄越しなさい!豚野郎!」


「何キャラなんだ……さっきから…」


「……やっぱり私なんかにはくれないんですね……」


「はいはい、分かったから。そのキャラを戻してくれ、やりずらくて仕方がない」


「ありがとうございます!マスター」


 棚を引っ掻き回して見つけたレシピ本を渡すとトルマリンはそれを受け取った。しかし、帰ろうとはせず何故か店の中を見回している。




「なんだか廃れましたね、この店。お客さんがいらっしゃってないんじゃありませんか?」


「悪口か!しかもだいぶ陰険だ。」


「はい。でも本当のことなのでマスターは言い返せないと思います。私これでも正直なので」


「ぐっ、言い返せない!!」




 トルマリンは嘘をついたことがない。それは私の偏見かもしれないが何に対しても正直に感想を言ってくれる。数年前、新作の珈琲を口にした時も馬鹿正直に「不味い」と叫んでいた。


 私は正直かなり凹んだが同時に発見でもあった。以来、新作はトルマリンが一番に味見してくれる。




「どうでしょう、ここは私が歌ってたくさんのお客さんを呼び寄せる、というのは!!」


 と、トルマリンが提案を叫ぶ。歌うことは彼女の得意分野だ。


 まだこの町にそれなりの住民がいた頃、広場で歌を歌っていたのは幼き日のトルマリンだった。幼いその歌は決して上手とは言えなかったが、未来の見えない砂の町に希望を与えていた。


 だけれども、私の答えは決まっている。



「愚問だな、お断りさせていただく!!」


「えー!?なんでですか!正直いけると思っていた案だったのに…」


「ここは俺の店だ。同時にお前の父親から受け継いだ店でもある。お前で客引きするのはプライドが許さないし申し訳ない」


「そうですか、私の素晴らしい歌を披露する場所を探していたんですけど……マスターが言うなら歌ではなく詩を歌います!」


「は?」


「既に幾つか創ってきているんです。では、唄いますね!」


「違う!!」


 

 以降、トルマリンは店に詩を置いていくようになった。捨てるのもしのびないし、ラズライトの目が光っているため定期的に(週三回)店の中で(お客様が居る時に)読みあげている(客足が遠のいた)。




 嗚呼、私の平穏はいつになったら戻ってくるのだろうか。



次話はいつになるのやら……

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