砂の町の中心で銃声が響く
主人公はマスターです(大嘘)
「マスター!開けて!!」
「待て!!糞餓鬼!!」
木枠の窓を開けると心地いい風が頬を撫でる。同時に何発かの銃弾が頬を掠める。
扉を開けると町のゴロツキに追いかけられている少女が間一髪、店へ滑り込む。同時に裏へ回ったゴロツキ達が裏口を蹴り倒した音が響く。
「全員ぶちのめしてやる。さぁ、かかってこい!ゴロツキ共!!」
嗚呼、今日も平和だなぁ…。
「上等だ!!糞餓鬼!!」
店の中で鳴り響く銃声と怒声が止めばの話だが。
「店が…私の店がああああ」
「ごめん、マスター…気合いで直すから!!」
「直らないよ!!」
『砂の町の中心で銃声が響く』
「お前はっっ!!この馬鹿が!!」
「マジすまん。マスター」
と、店を破壊した張本人の少女の謝罪の言葉は、私が怒声を飛ばしたとしても、言わずもがな棒読みだ。
その手には私がついつい買い与えてしまった上等な銃。七発装填型デザートイーグル『聖子ちゃん』が握られている。
今年に入って十回目の出来事に私の胃はもう持たない。ボロボロだ。ボロボロのボロだ。そろそろ医者に通おうか…それともいつもの薬を変えようか。まだそれなりに若いのに何故こんなに苦労しなければいけないのか…。
*・・・
ラズライト・メゾソプラノ[女]
メゾソプラノ家長女[多分]
齢十六歳[多分]
血の気が多い[破壊主義者]
*・・・
「何故お前は直ぐに喧嘩を売るんだ」
「売ってきたのはあっちだよ」
「じゃあ、何で買ったんだ」
「私が……」
「私が…?」
「私が戦闘と武器が大好きな普通の女の子だから」
ラズライトは神妙な面持ちで一言。気づくと、デザートイーグルが仕舞われ右手には珈琲、左手には隣人であり友人のMr.スズキに持っていこうと思っていた手作りクッキー。既に残りは一枚。
「何を言うかと思えば、いつもお前はなんだってこう!!いつ盗ったんだ!!泥棒少女め!!」
「痛いよー、頭グリグリされるの痛いよー」
本当に腹が立つ。幼い時はもっと可愛かったものだ。銃で私を脅したり…銃で私の店を破壊したり…銃を私の店のお客につきつけたり……あれ、おかしいな…目に水が滲んできた。
「まあまあ、怒りすぎは良くないよ!マスター。血管が千切れ飛んじゃうかもしれないよ」
「血管が千切れ飛ぶって…私の体はスプラッタホラーにでも精通しているのか…というか、誰のせいだと思ってるんだ!!」
「あ!久しぶりにホラー映画が見たいなぁ…血と臓物がびゅんびゅん飛び交うようなやつ」
「はぁ……全然聞いてない…」
溜め息を吐きながら項垂れる。店のカウンターで珈琲を飲む少女は完全スルーだ。因みに彼女は珈琲に決まって砂糖を六杯入れる。私のこだわり『珈琲はブラックが美味しい』はガン無視で、だ。
「もう少し砂糖多めがいいな、あと焼き加減が足りない、それにちょっと冷えてたから気を付けてね」
「何の話だ」
「クッキーの話」
「なんでそんなに上から目線なんだ!」
「あとで作り方教えてよ」
「えっ?あっ、ああ、作るのか?それは殊勝な心掛けだな」
「うん、作って貰うよ、妹に」
「自分で作れ!!」
齢十六歳とは思えない子供の様な言動に、私の堪忍袋の緒はほぼ毎日といってもいいほど破裂している。ただ、私の怒声が飛んだところでラズライトが改心するとも思えないが。
「そんな性格をしてるとろくな大人になれないぞ」
「マスターみたいに?」
「まあな…って違う!俺は真人間だ!」
「マスターもう三十過ぎるもんね…」
「哀愁漂った目で見るな!俺はまだ二十八歳だ」
危ない、危ない……この少女の空気に飲まれてしまうといつも漫才のような空気感になってしまう。それに乗ってしまう私も私だが、この悪い癖は直さなければ。
「そんなに品曲がった性格してると就職どころか嫁にすら行けなくなるぞ」
「いいの、私はマスターのお嫁に行くんだから」
「……は!?」
「……なーんて…言って欲しかったー??アッーハッハッハッ!!」
「この餓鬼ー!!」
「無理無理、お腹痛い、笑いすぎてお腹痛い。大体マスター、嫁とかそんなん古すぎだよ!いつの時代の人間!?」
笑い疲れたのか、飽きたのか、ラズライトはテレビを点けた。私も少々このやり取りに疲労を覚えたので店の開店準備に取りかかることにする。
「そういえば、最近は滅多に戦争起こらなくなったね」
「報道されていないだけだ、国や地域ごとに規制がかけられているんだよ」
「あー、確かに最近のテレビは大昔に作られた番組の再放送しかやらなくなったからつまんないもんね」
「大方、人の娯楽に回す人材が政府に足りていないんだろうな」
つまらなそうにしながらテレビを見るラズライト、残念ながらそれはビデオだが…。
すると、目を薄め大音量で大昔の西武劇を見ている彼女が呟いた。
「まるでこの町みたいだ」
呟いた言葉は私の耳に入ったが聞こえないフリをした。
『砂の町』そう呼ばれ始めたのは何時からだったか、私の祖父が子供だった時はまだ『シュールコール』という町の名前が主流だった。
その名前も今はほとんど聞くことはない。住民が粗方出ていき、ほとんどが空き家と言っていいくらいのこの町では全員が顔見知りだ。
因みに先程ラズライトを追っていたゴロツキ達に知り合いはいなかった。ラズライトの中では『顔見知りではない=敵』という図式が出来上がっているのだろう。
荷物を確認したら通りすがりの賊だった訳だ。成敗して砂嵐の吹く町の外に放って置いた私の行動は間違っていないと信じたい。
この村でちゃんとしたお店など私のところだけだろう。まぁ、ここで来店する客などたかが知れているし、来るのは常連とラズライトの連れてくるろくでもない人間ばかり。
そもそもこんな砂漠のど真ん中にある町で珈琲を売るのもおかしな話かもしれない。おかげで赤字の毎日である。
「おっ、ガンマンの登場!」
「そうだな、って店で銃を出すな!危なっ危ない!!」
「いけ!ジェームズ!撃て!」
「ジェームズって誰だよ!!この第五シリーズの主人公はスティーブだ!」
このはた迷惑な少女、ラズライトは私の恩人の置き土産だ。因みに置き土産は一人ではない。明日になれば誰か一人は来るだろう。
「あ~あ、終わっちゃった。」
「もう開店するから、帰れ帰れ」
「酷いなあ、どうせお客さんは来ないのにねー!!」
「酷いのはどっちだ…、大きな声で景気の悪いことを叫ぶな」
「私、お客さん見たことないけど…経営大丈夫……?」
「急に心に…こう、グサッと来る発言はやめろ!…というかこの経営難の原因の八割ぐらいはお前の責任だからな!!」
「マスターひどい!子供の責任にするんだ」
「えっ、いや、八割は言い過ぎたな…多くとも七割だ」
「ほぼ同じじゃんか!急に優しく子供扱いしないで!!私はもう大人なんだから!!」
「子供なのか大人なのかどっちかにしろこの馬鹿!!」
「あー!馬鹿って言った!私怒ったよ」
マスターのロリコン野郎ー、と走り去りながら町中に触れ回る彼女を横目で見る。そして一息。
よし、今日も平和に過ごせそうだ。朝の一悶着を抜けば一日は平穏に過ごせる。
気づけば店は半壊したままだった。どっと疲れが体を襲い胃がキリキリと痛んだ。
うん、やっぱり薬を変えてみようかな。
あれ……?主人公……?あれ?