第1章 1話 崩れ去る日常
無機質な冷たい木の床の上に少年は座り込んでいた。
「ぎゃあああああ‥‥」
部屋中に響き渡る男の叫び声と共に、何度も血飛沫が少年に飛び散っていった。
鳴り響く鉄と鉄が擦れあう音。どれも全て彼の耳に入ることはなかった。
「くそッ!くそッ!‥‥ミライ、逃げろ!!」
‥‥あれ?俺の前で剣を振るっている男の人は‥‥
「ミライ!逃げ‥‥」
「‥‥誰だっけ?」
──血に塗りつぶされた燃える部屋の中、少年は呆然と呟いた。
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「‥‥なさい」
遠くで誰かがいっているような声がする‥‥が、今はこれを手放すことが俺にできるだろうか?否、出来ない。出来るはずがないのだ。
「いい‥‥に‥‥さい!!」
くそッ!もう少しだけ、もう少しだけでも‥‥ッ!
「いい加減に起きなさぁぁぁい!!」
「ぐはあッ!」
妹の強烈なダイブを一身にに受け、あちこちの骨が軋む感触と共に乱暴に引き剥がされるオフトゥン。
真冬の朝という地獄において、その存在価値はあまりにも大きすぎる。
「ああ、さらば愛しきマイハニー‥‥」
「なーにくだらないこと言ってんのよ。今何時だと思ってんの?」
「え?」
妹であるモモの発言に、恐る恐る壁にかかった白い時計を見ると、その画面は無情にも8:00を表していた。
「やっべぇ!行ってきまーす!!」
ベッドを飛び出して玄関へと走る俺を「ちょっとちょっと!」と
エプロン姿の妹が並走してくる。
端からみれば、異常にして非常に滑稽である。パジャマとエプロンがドタドタと廊下を並走する‥‥‥
「何考えてるの!パジャマで学校に行こうとか正気の沙汰じゃないわよ!?」
「なあ、妹よ。」
「な、何よ」
「‥‥制服を貸してくれ。学校で着替える。」
「‥‥は?」
この生物は何を言っているのか?というような顔でこちらを見てくるこいつは俺の妹、八ツ橋 モモ(14)。
両親は去年事故で他界してしまったが、後部座席を独占して眠っていたモモと、生まれつきの変人でトランクの中で遊んでいた俺(当事16歳)は奇跡的に助かったが‥‥こんな感じで、楽しく生きています。
おっと、紹介が遅れたな。俺は八ツ橋 未来(17)。探偵さ!
身長170cmの高校2年。ごく普通の黒髪に少し鋭めの目。
これといって特徴は無いが、何故か忘れられない存在感がある。
昔やっていた剣道の影響か、高校生にしては筋肉質な細マッチョ体型だ。
先程の会話から察してもらえるかもしれんが、世間一般で言われる『変人』である。
まあ、少しテンションがぶっ飛んでるだけで、一人でいる時は真面目なんだけどネ。
「はっ‥‥ハアアアア!?」
「何を驚いているのだね?実に日本人らしい日常会話ではないか。」
「はあ~‥‥マジワケわかんない。」
まあ、何だかんだ言って制服を持ってきてくれるんだけどね。
モモちゃんホント天使ですわ~
「それじゃあ行ってきます!」
「ほ、本気でいくの!?おーい!」
バタンッ!とドアを開けると爽やかな風と共に、眩しい日差しが突き刺してくる。なんという青春溢れる情景なのだろうか!!
‥‥パジャマを除けば。
「あ~あ、行っちゃった‥‥ご飯くらい、食べていってもいいじゃない、このバカ。」
少しめに涙を浮かべるモモ。何だかんだで兄のためを思って食事を作っているのだから。
彼女は熟練のお母様ではなく、ただの中学生なのだ。
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こちらは颯爽と冷たいコンクリートをはだしで駆ける高校生。
「足が冷てぇぇぇえ!!学生は本当毎日辛いなぁ‥‥」
まあ、そんな苦労をしているのはこの広い世界の中で彼だけだろうが。
制服を羽織り、右手に靴を、左手に靴下を。そんな状況でネクタイを締め、走りながら。
「へへっ、ご馳走さま!いつもありがとな、モモ。」
いつのまに持っていったのか、朝食のサンドイッチを食べ終え、数少ないマトモな発言をしていた。
そう、これこそ変人でありながらボッチ生活を回避できる理由。彼自身が時折見せる優しさこそが人をよせつけるのだ。(そうでもないと誰も寄り付かねーよ。)
ほら、そんな彼の優しさに魅せられた人間が‥‥
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ‥‥」
学校へと走る未来の後ろから、走ってくる音と荒い息使いが聞こえてくる。
ふと振り向いた先には未来のクラスメイトであり無二の親友である文月 健人が走っていた。
身長165cm、おっとりとした風貌に、近年希に見るショタ顔。
我が学校のマスコットキャラである。
「おお、健人!お前も遅刻したのか?」
「ふぅっ、‥‥え?未来?こんな時間にどうして‥ってなにその格好!?とても登校中の学生の格好じゃないよ!!」
「何言ってんだ?いつものことじゃないか。」
「遅刻してる日はいつもこんなことやってたの!?」
「‥‥ああ、普段遅刻しないお前は知らないか。この学校では本当に間に合わないと思ったとき、登校中の着替えが許可されている。」
「‥‥は?」
美しく暖かな太陽の光に照らされる青春の1ページ。
まるで冷凍食品に混入した異物でも見るような目でこちらを見ながら走る健人。
走りながらも器用に、着々と着替えを進める俺。
神よ、青春とは何なのでしょうか(泣)
「いや、そんなわけないでしょ、大体そんなことするのなんて未来くらいしか‥‥」
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、クソッ!」
どっかで一度見たような場面だが、そこを気にしてはいけないな。
タップダンスのような独特のリズム感のある足音と共に本日3人目のランナーが現れる。
(まあ、この足音から察するに‥‥あいつだろうな)
「ハアッ‥‥何だ、君は、また、寝坊したのか‥ゴホッ」
スラリとした長身に銀縁の眼鏡、どこを取ってもTHE・風紀委員長といった風貌のこの男は同じくクラスメイトである霧島 |《裕也》(生き物係)。
特に親しいこともないが、様々なところで出会ってしまう、俗にいう腐れ縁である。
高校1年の運動会での2人3脚から始まり、学園祭のダンスパフォーマンスも何故か二人でやる羽目に。
スキー研修では2人だけ遭難するわ‥‥まあ、俗にいう腐れ縁というやつである。
「おいおい、息切れてっぞ?トマトボーイ。」
「だあぁぁッ!トマトって言うな!!」
このトマトボーイというあだ名は彼が入学初日の弁当が冷やしトマトだけだったことから来ている。
そう、彼もまた立派な変人である。‥‥いや、自覚がない分、俺より厄介かもしれんな。




