心理テスト
目の前にA君がいる。パソコンの画面を眺めながら、文章を斜め読みしている。
1「女の子が首から血を流して死にました」
「あなたわかわいそうだと感じますか?」
A君はあまり考えないで、すぐ下の続きを見はじめた。
「特になんとも思わなかったでしょう。『わ』の誤字が気になった人もいるかもしれません。可哀想だと思った人は楽な生き方ができるかもしれませんね」
2「家族が仲良く暮らしています。庭には犬がいる、大きな一軒家。リビングからは笑い声の絶えない、幸せそうな家庭です。お父さんとお母さんはとっても仲良しです。子供はお兄ちゃんがもうすぐ五年生。妹は三年生です。ある日、妹が二階で首から血を流して死んでしまいました」
「あなたわかわいそうだと感じますか?」
A君は鼻から息を吐いた。
「少しは同情しましたか?何も感じない人は、いい家庭を築けないでしょう。あ、誤字はずっとそのままです。」
3「幸せそうな家で暮らしている女の子には、好きな男の子ができました。男の子は隣の家に住んでいて、将来の夢は野球選手です。女の子の夢はその子のお嫁さんになることです。ですが、その夢が叶えられることはありませんでした。女の子は首から血を流して死んでしまったからです。」
「あなたわかわいそうだと感じますか?」
A君は少し憂鬱な表情になった。
「同情してくれましたか?次からは少し変えていきましょう。」
4「少女は下着姿で死んでいた」
「あなたわかわいそうだと感じますか?」
A君は眉をひそめた。
「何となく、それだけでも嫌なものですよね。次行きます」
5「少女はいつも部屋で猫と一緒にいた。その日は暑いのでお風呂上がりは下着で過ごしていたようだ。そしてそのまま下着姿で死んでいた。」
「あなたわかわいそうだと感じますか?」
A君はあくびを始めた。
「安心しないでください。ちゃんと同情してくれていますか?忘れてしまってはいませんか?」
6「少女は小学校でいじめをしていた。友達の泣くのを見るのが好きだった。動物もよくいじめていた。楽しくて仕方がなかった。少女は、部屋で猫を棒で叩くのが好きだった。そして、怯えた猫にのどを食いちぎられて死んだ。」
「あなたわかわいそうだと感じますか?」
A君は眠そうだ。
「同情してください。首から血を流して死んだ。幸せそうな家に住んでいて死んだ。A君のお嫁さんになりたかったのに死んだ。下着姿で死んだ。夏の暑い日に死んだ。たかだか猫にかみ殺されて死んだ………………………かわいそうなわたしを……!」
今は目の前でうたた寝しているA君を肩越しに見ている。もう何十年も。これからもずっと。