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第八十八話・『見えた過去は誰の物』

「兎人の脚力舐めんじゃねぇキィィィィィィック!!!!」


 城壁すら軽く消し飛ばす膂力を持ってジルヴェはその蹴りをギガントトレント――――巨大な大樹に顔が付いたような高レベルモンスターの顔面にぶち込む。するとどうだろうか。ギガントトレントの顔面が大きく凹みその身の中へと潜り込んでしまう。世するに『前が見えねえ』状態だ。顔がアスタリスクになっていると言えばわかりやすいだろう。

 ギガントトレントの主な戦闘方法は周囲に無数の根を張り、得物に絡ませその身の養分を吸いつくして殺す戦法だ。事実ジルヴェが居る巨大な空間には隙間がほとんどないほどに根が張り巡らされている。

 しかしその戦法には致命的な弱点が存在する。

 つまり、触れなければ意味が無い。

 トレントなどの植物系モンスターの感知方法は突然変異の過程で生まれた目を使うか触覚を使うかのどちらかだ。トレントはその中でも目を使い部類に属する。そして触覚が無い故に目を潰されれば相手を知覚することが不可能になる。

 例えば、今の様に。

 空中に滞空しながらジルヴェは自分の後方で炎の翼を吹かしながら待機している赤髪の少女、ルージュに叫ぶ。


「今だっ! 行けぇぇっ!!!」

「わかってるわよ――――――――《世界焔蛇ミドガルズオルム》ゥゥゥゥゥゥッ!!」


 右腕に纏わせた巨大な炎は大蛇と成りて、主人の敵を食い殺すために巨木の化物へと襲い掛かる。

 植物系モンスターに取って火は天敵中の天敵。一部が持つ耐火性質を持つ粘液が備わっていない植物系モンスターは一度引火してしまえば一巻の終わり。一応魔法などによって消化はできるが、一瞬で大規模に引火してしまえばあとは死を待つだけ。

 炎で形成された大蛇はギガントトレントの幹に纏わりつき、触れた個所から一瞬でその身を炭化させ始める。顔が潰され悲鳴すら上げることのできないギガントトレントは重心が崩れて横転。その致命的な隙を逃さず大蛇はその咢を広げて自分の獲物を喰らいつくす。散る木片。蔓延する煙。そこら中に張り巡らされた根が本体と同じく火が付き始めたところでジルヴェが生命の危機を感じて着地直後に出口に向かって駆ける。

 ルージュはどうってことないが、だからと言ってペアを孤立させる理由にもならないのでため息つきながら適当に追いかける。

 そうして煙の蔓延する部屋を潜り抜けて、ジルヴェは汗だらけの身を休ませるためにその場で尻もちついて胡坐をかく。あとから追いついたルージュもまた多少の疲労感は感じているのか、近くで体育座りをする。

 相性抜群だったとはいえ相手は腐っても高レベルモンスター。てこずりはしなかったものの、多少のダメージは与えられた。休むに越したことはないだろう。


「ああぁ、クソッ。やっぱブランクはそう簡単に埋められないかぁ……こりゃさっさと勘を取り戻さねぇと」

「ブランク? なに、貴女アレ本気じゃなかったの?」


 ルージュは言葉に少しだけ非難する気持ちがこもってしまった。

 別に本気を出さないことに怒ったわけでは無い。そう言う事を事前に行ってもらっていないことに怒りを覚えたのだ。気の許せる仲間同士ならそれぐらい言ってくれたってかまわないだろう、と。


「まぁ、そうだな。率直に言えばそうなる。一応訳はあるんだが……」


 そう言いながらジルヴェは胸元の服を指に引っ掛け、汗だらけの体に空気を送ろうとする。

 そしてルージュは見逃さない。

 ジルヴェの体の一部分が微かに変色していたことを。


「…………まさか、変質瘴気……?」

「……驚いた。知ってる奴が居たとはね」


 変質瘴気。肉体が強靭で病気などにも滅多に掛からない獣人が唯一致命的な病として知られる代物。

 その実態は砂漠に埋まった大量の毒性生物の死骸――――何らかの目的を終えて埋められたモンスターの腐敗した死骸なども含めた――――が発した毒ガス。しかしその凶悪性は頗る高く、数百種類の毒が混ざり合った代物だった。現在はその危険性を認めた『アースガルズ』が悪用防止のために徹底的にガス発生個所を潰して回ったので滅多に掛かる者はいないが、それでも掛かる者はいる。

 そしてその性質は、感染者の肉体を著しく変質させDNA情報を徹底的に破壊しつくし、再生した細胞と拒否反応を起こさせることにより感染者を死亡させるという凶悪な物。治療薬など在る訳もなく、かかった場合の死亡率は100%。文字通り最悪の瘴気であった。


「変異した肉体が適合するまで三十年近く安静にしていたんだ。ブランクもできるさ。それに――――」

「もう長くない、なんて言わないでよね」

「…………医者によると後一ヶ月持つかどうからしい。どうせ長くない命だ。なら人のため世のため、使ってやろうかなって、そんなくだらないことを思って、悪いか?」

「生きるための方法を探すのは」

「無理だ。諦めろ。そう言われたよ。何せ変質した肉体を切り落としてその上で自分に適合する肉体をくっつける――――できるわけない。もう六割近く変質し終えているんだ。そんな方法取れば確実に治る前に死ぬよ」

「――――悲しくないの?」


 ルージュは問う。それに対しジルヴェは苦い笑顔を浮かべた。


「悲しいさ。だが、長く生きすぎた。なら、自分のできることやって、笑顔でくたばってみたいんだよ」


 それ以上ルージュは問い返さなかった。

 彼女の気持ちは、痛いほどよくわかるから。

 余命一年の自分とは比べ物にならないだろうが、それでもその気持ちには同感できる。

 それだけで十分すぎた。


「なら――――進みましょう。時間が惜しいでしょう」

「だな。全く、最近の子供は大人げあるな」

「大人よ」

「子供だろ」


 そんなやり取りをしながら二人は次の試練に挑む。



――――――



 ベルジェ・Lレイ・ハイベルト・SスパーディッシュBベルンディグス・ヴァーミリオン。人と竜が交わり生まれた忌み子である竜人ドラゴニュートであり、その生の大半を己の鍛錬につぎ込んだ生粋の武人。

 何百年、何千年、何万年、何十万年、何百万年、何千万年生きたのかもとうの昔に忘れてしまった孤独なる者。全ての武を極め、全ての理を見極め、全ての自然を見極め――――その果てには欲しい物は存在しないと真理を悟った、竜人ドラゴニュートでも最高の武人。

 武の極地に何を見たか。彼の眼にはすでに生気はなく、しかし死気があるわけでもまたなく。

 彼は『無』を見た。

 真理を見た。

 それが何なのかは、本人でも言葉にすることはできない。

 しかしそれによって得た物は、欲しくもない極大なる力。


 ――――本来ならばSSランカーでさえ下手をすれば呆気なく殺される『エンペライト・ヂュラハンナイト』を一秒足らずでこの世から消滅させるほどの圧倒的な力。


 塵と化した首なし騎士デュラハンを見届けながら、ベルジェはその手に握る大太刀を納刀する。

 そして振り返れば、彼の視界には健気にも身の丈に合わない鋼鉄の大剣を握りしめたまま硬直している少女。またの名をアウローラ・デーフェクトゥスが大きく口を開けていた。


「安心せよ。脅威は去った。次の部屋に進めば、また現れるだろうが」


 そう言うと我を取り戻したようで、アウローラはあたふたしながら小さく頭を下げる。


「あ、ありがとう……ございました」

「礼には及ばん。それより、怪我はないか」

「なっ、無いです」


 する前に脅威を一秒足らずで屠っておいて何を言っているんだこいつは、と結城がその場に居たらツッコミを入れるだろう。

 ベルジェは満足したように笑顔を浮かべて、次の部屋へと歩き出す。


「この程度の雑兵ならばさっさと片が付くだろう。我々は一足先に試練の果てへと赴こうぞ」

「わ、私は、何をすれば」

「何もせんでいい。というより、下手に動いて怪我をしてしまえば、リースに怒られてしまう」


 苦笑しながらそう言うと、アウローラはしゅんと落ち込んでしまった。

 これは困ったとベルジェは頬を掻きながら、ふと思いついたようにアウローラの頭に手を乗せる。


「別に役に立たないと言いたいわけでは無い。単純に、危険に晒したくないという事だ」

「……お兄ちゃんと、同じですね」

「お兄…………ああ、リースの事か。確かに似ているかもしれんが――――あやつは少々過保護というか何というか。私と比べてしまったら駄目だろう」


 事実、結城の仲間に対する過保護っぷりは半端ではない。

 何せ仲間が本気で抗議でもしない限り安全性の一案高い場所に置いておこうとするのだ。要するに親馬鹿みたいに自分の子ともを外出させたがらないのと一緒。何があるかわからない。だからできるだけ安全な場所に居てもらおう。――――余計なお世話というか既にそういう風に思考パターンが塗り固められているのでもはや手遅れという他あるまいが。


「とにかく、ここは任せておけ。私は戦いにしか能がないからな。唯一の役目を奪われてしまえば私が困る」

「そうですか。それなら…………仕方ないかな」

「納得してくれたみたいで何よりだ」


 ベルジェはアウローラの頭を軽く撫でてその小さな手を握り、離れない様に手を引いて歩き出す。

 当然の如く歩幅も合わせている。中々の紳士っぷりだ。


「……君のことを聞いてもよいか」

「私の事、ですか?」


 歩いている内に、ベルジェがふとそんな事をアウローラに問う。

 そして当の本人であるアウローラというと、どう答えて良い物やら困っている。何せ――――記憶が無いのだから。自分の子ともまともに分かっていないのにどう自分の事を言えばいいというのだろう。


「自分の事は……よくわかりません。記憶が無いんです。あるのは……目が覚めたらとても悲しい顔の人が居たことだけ。そこから私の人生は、始まったと言えばいいんでしょうか」

「リースか」

「はい。……最初は怖かったです。誰かもわからず、自分の周りにある物をとにかく投げつけていました」


 アウローラは苦笑いする。

 まるで子供の頃癇癪を起こした自分のことを思い出した大人の様だった。

 後悔と無念。そして呆れ。

 それが渦巻き複雑な感情を作ってしまう。


「でもお兄ちゃんは優しく接してくれて。寝る時は優しく頭を撫でてくれたりもしていました。本当に、兄の様で。ちょっとだけ嬉しかったです」

「……おせっかい、というのだろうか。あの者は。だが――――悪くない」


 ベルジェも酷く感心した様子だった。

 話だけ聞けば見ず知らずの子供を匿い、優しく接する人格者その物なのだから。

 色々事情があるのだが――――しかしそれを聞いても恐らくベルジェの気持ちは変わらないだろう。

 それほど捻くれて、しかし誠実で、臆病な人間なのだ。

 志乃七結城という人間は。

 人間の汚さを知っている。しかしその優しさも理解している。

 だからこそ今の彼がある。


「……だから、思う時があるんです。記憶を失う前の私は何者なのか。家族か、友人か、従妹か、それとも――――」

「恋人、か?」

「ッ~~~~~!? ちっ、ちちち違うんです違うんです! 別にお兄ちゃんにはその、家族愛という物は感じてますけどその、あの、ええと――――傍に居ると、安心して、ずっと一緒に居たくなって」

「それが恋だろう?」

「そ、そうなのでしょうか」

「しかしアレは何というか……天然の女子落としというか、たらしというか……女難の相が強いぞ?」

「……それが魅力でもありますけど」


 事実、結城は今まで何人もの女性を落としている。

 その数、最低でも八人以上。なんとも罪深い男である。


「まぁ――――私としても、あの者に背中を預けるならば本望だ」

「え? ど、どうして」

「あれほど自分の大切な人たちを護ろうとしている誠実な人間は、残念ながらほとんど出会えなかったからな。一歩でも踏み外せば崩れるであろう危うい精神。しかしそれを踏まえて、自覚したうえであのような無茶をやってのける。素直に、個人として、尊敬に値する」


 そう微笑しながらベルジェは結城を高く賞賛する。それは本心である。

 アウローラは自身の兄ともいえる者を褒められたことで悪い気は起きなかった。むしろ嬉しい。


「では次の部屋へと赴こうか」

「はい!」


 満面の笑顔でアウローラは元気良く返事を返した。



――――――



 少し膨らんだ腹を抑えながら、気怠そうな顔で俺は次の部屋へと続く廊下をふらふらと歩く。

 その足取りは不安定で今にも倒れそうなほどだ。

 当然だ。人体に悪影響があるモンスターの肉をたらふく食った後に、ルキナが嫌がらせか自分の力で取り込んでも同じ結果が起こると後から教えたのだ。おかげで俺は今葉っぱではない倦怠感と後悔を胸に歩いている。

 とはいえ、貴重なタンパク源を補給できたのは幸いだった。

 何せ非常食は可能な限り保存し、必要とあらば彼女ら二人に回しているのだ。均等に分けようという意見も却下だ。俺より彼女らの方が死亡確率が高い以上、コンディションは高めに保ってやらねばならない。


「うおぇっ」

「……大丈夫かよ」


 ソフィは流石に今は嫌悪感を修めて俺の背中を叩いている。

 その微かなやさしさはありがたいが背中を叩くな。叩くな吐く吐く――――あ、


「うぼぼぼぼぼぼbbbbbbbbbb」


 盛大に廊下の片隅で赤黒い物体をぶちまける。消化しきれていないのだろう、エルダーベヘモスの肉であった。栄養価は高いようだが、どうやらモンスターの肉は消化しずらいらしく胃の中がヤバいことになっている。

 せめて消化できればある程度は楽になるのだろうが。


【『胃酸強化』を習得しました。ある程度気分は良くなるでしょう】


 おお。珍しく有能なサポシステムが登場した。

 おかげで居の中の肉がどんどん溶けていくのがわかる。勢い余って胃も溶かすような――――


「うごがあぁぁああああああああああああああああああ!?!?!」

【すみませんマスター。『酸化耐性』スキルの習得を忘れていました】

「ふざけんなぁぁぁぁあああごばぁぁあああああああああああ!?」


 盛大に胃酸混じりの血を吐く。胃酸はとてつもなく強力になっており、石レンガを簡単に溶かし始めてしまう。マジか。なんかどんどん人間離れしていってないか俺の肉体。


【そうですね。通常の人間と比べれば六割ほど差異が見られるかと】

「誰が嫌味を言えっつったぁ!!」


 こいつ割と毒舌だ。くそう、クーリングオフが効かねぇとか詐欺だろ糞がッ。

 しかし体に残っているダメージは凄まじい物だった。何せモンスターの肉を食べたことで何度も全身の細胞が壊死と再生を繰り返したのだ。その精神的にも肉体的にも悍ましいほどの疲労は未だ完全には取り去られておらず、非常用の精神安定薬を飲んでも未だ完治したとは言えない。

 だが一刻も早くここから出ねばならない。他の仲間たちがすでに着いているかもしれない。その場合ウィンクレイが何かを仕出かさないとも限らない。だから早くせねば。

 ソフィに肩を貸してもらい、隣でエレシアに「がんばれがんばれ!」とエールを送ってもらいながら進む。このの応援があれば後五十年は戦える気がする。

 そんなことしてして内に次の部屋にたどり着く。

 待っていたのは、巨大な顎を持つ竜のようなモンスター。モササウルスをそのまま凶悪な形にした様な

見た目だった。こいつは、何というか。


【情報の照合――――判定。サンドフィッシュ・ライフキャンサー。砂を泳ぐというサンドフィッシュの突然変異体であり、生態系を著しく崩すモンスターです。危険度はSSSオーバー。国が総力を上げて討伐に向かう超特級危険種です。勝てる可能性は40%を下回ります】

「……何でそんなもんがここに居るの? あとここ砂ないんだけど」

【砂が無い状態でも本来の戦闘能力の六割は発揮可能です。一応四肢は存在しておりますので、陸地移動も可能ですから】

「ソフィ、アレは任せた。死んで来い」

「おいちょっと待てお前ェッ!? 死んで来いって何だ!? 殺す気か!?」

「ああ」

「即答かよ!!」


 馬鹿にされているのに気づいたのかソフィは怒り心頭といった感じで髪の毛を逆立てていた。

 そして自棄になったのか白い本を召喚して大股でサンドフィッシュ変異体に向かって歩き出す。マジで死ぬ気かと思った直後、三次元的――――否、それ以上の高次元的な理解不能の魔法陣がソフィを中心に展開される。

 本能で理解出来る。

 アレは不味いと。


「馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって!!! もういい、全部吹き飛ばしてやる!


 ――――星よ、貴(Stella luc)女の光で(e omnium d)万物全て(omina reru)を無に。(m nihil.)元素(Elementoru)(m,)虚無、(nihil,)月、(mensis,)海、(Maris,)大地、(terrae,)空。(caelum.)遍く全て(Universali)が原初(ter omnes )へ逆行(retro decl)する(arare.)――――――ッッ!!!」


「テメェッ!? 待て! こんな場所でそんなふざけた極大規模の魔法行使なんざやっちまったら――――ッ!!」



「《原初の権能アウクストラタス・オブ・オリジン》ッッ!!!」



 放たれたのは、光。星の輝き。

 空をも断つ原初の星が生み出す極大なる熱量。かつて地獄だった地球が生み出していた人知を超える星の力。どんな生命体をも生きることを許さない星の暴力。

 問答無用でサンドフィッシュ・ライフキャンサーはその極光の剣による一瞬で蒸発。当然だが放たれた光の柱はその勢い留まるところを知らず遥か向こうの三つめの空間に居たであろう正体不明のモンスターを軽々と消滅させる。微かに断末魔が聞こえたので間違いないだろう。

 あまりの光量に目を瞑っていた。光が収まり、目を開くと――――赤熱した石レンガが目の前を転がっている。見ると、ソフィから真っ直ぐ赤い道が伸びていた。それは溶解して溶岩となった石レンガの末路。

 超威力の魔法による強引な突破。

 下手をすれば自分たちが部屋を崩落させ自滅してしまう可能性さえ存在していた。

 だお云うのに怒りに任せて極大魔法を使うとは――――呆れるしかあるまい。


「何やってんのぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお――――!?!?」

「……後悔はしていない。反省はしている」

「そういう問題じゃねぇぇぇだろがよォォォおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」


 危うく全滅する所だったのだ。怒りもする。

 エレシアは全く条項が理解出来ていない様子なので取りあえず抱きしめておく。


「俺の許可あるまでその魔法禁止だ! ていうか軒並み駄目だ! お前いつか味方ごと敵を殺すことになるぞ!?」

「えー……で、でも俺の有用性は証明されただろ?」

「これから相手する的が小さいうえによく飛び回るし詠唱する時間も与えてくれないっていうのに、お前はそんな奴相手にそんな手間暇かかる魔法を一々唱えて正確に先読みまでして味方を巻き込む可能性のある魔法を使うのか?」

「そ、それは、そのー、えーと、あのー」

「……せめて実用性のある魔法使えよ」

「どんなの?」

「弾速は必ず確保、自動誘導機能付き、使用後の隙が無い、詠唱短い、連射可能、足止め重視、消費魔力は可能な限り軽減、味方を誤射しない、使いやすい、全距離対応、以上!」

「無理です」

「しろつってんだよこっちは!」


 あの威力で誤射などされてみろ。肉片一つ残らないことはアホでもわかる。

 渋々といった様子でソフィは了承する。流石に危険性自体は理解しているのだろう。していなければ拳でわからせていたのだが。俺の男女平等拳が炸裂しなくてよかったな。


「まぁ、折角向こうの奴を倒してくれたんだ。さっさと先に進むか」

「いや、無理」

「だーかーらー…………ああそういう事。すまんすまん、早とちりだった」


 当然だが小さな通路はソフィの魔法により消し飛びトンネルのような大きな空洞が出来上がっている。トレーラー程度ならば二つ並んでも楽々通過できそうなほど大きい。問題は地面の方だ。

 超高熱によって熱せられて赤熱した床は煙を上げてどろどろした赤い液体が満ちている。溶岩と言っていい。確かにこれは生身では通れないだろう。かと言って炎への絶対耐性を持つ俺一人が進むわけにはいかない。冷やして進むにも時間がかかり過ぎる。量では無くて長さだ。何せこの状態が数キロも続いているのだから一々冷やしながら進んでいたら何十分もかかってしまう。理想としては十五分程度で付きたいものだが。ソフィの魔法で冷やすにも細かな調整ができない馬鹿だ。間違って道を氷で塞いでしまうかもしれない以上下手に酷使するわけにもいかない。

 仕方ない、と割り切ってお子様二人を両腕で抱っこする。これならば進めなくもない。


「な、な、ななななっ!?」

「お父さん……えへへへ」


 二人はそれぞれ別の反応を示すが、ソフィは無視して溶岩に片足を突っ込む。

 フム。痺れる程度は痛いが、火傷はしていない。それを見てソフィは化物でも見たかのような目でをレを見る。その認識は間違ってはいないが。


「な、なんで焼けないんだ。魔法か?」

「お父さん、熱く……ないの?」

「うん? ああ、コレでも炎熱系には絶対耐性を獲得していてな。口の中にマグマを流し込まれようがマグマの海にダイブしようがノーダメージ。あ、ついでに土魔法への耐性と地中活動可能もついているから」

「なんつー出鱈目な……」

「ん……お父さん、凄い」


 ある意味反応的にはソフィの方が正しいだろう。人間の形をしているのに焼かれようがマグマに飛び込もうが傷一つないというのは既に人間ではない何かだ。もう人間と認識されなくなるかもな俺。構いやせんが。

 そんなわけだから今の俺はルージュと真っ向勝負してもあいつの炎は効かないからこちらに分が上がるというわけだ。戦うつもりなど毛頭ないのだが。穴があると言えば複合魔法には効果が薄いという事か。この前竜属性を複合した竜の息吹ドラゴンブレスはかなり痛かった。焼けるような痛みでは無くじわじわと分解されるような痛みであったが。とはいえあくまで複合魔法に入っている炎攻撃を無効化して別の属性ダメージを喰らうだけという仕組みなのだが。それなら普通に別の純属性ダメージを噛ました方が効率的だろう。とはいえ初見でこちらが炎への絶対耐性が存在しているなど想像もできないだろうが。


「さて、そろそろ着く頃だが」


 十五分ほど歩くと、ついに終着点が見える。

 魔法により消し飛ばされてはいるが、一応円形の広間が広がっていた。中央には転移装置らしき水晶玉が置かれた台座。溶岩も途切れているので二人を降ろす。

 ふと見れば靴が溶けていた。しかし下はハーフパンツなので溶けはしなかったので無事俺の社会的尊厳は確保できた。


「他の皆は……まだか」

「そりゃ俺の魔法でショートカットしちゃったからな」

「ショートカットじゃなくて通路破壊っていうんだよソフィ。わかるかい?」

「馬鹿にしてんのかテ「うん」…………」


 ソフィを適当にあしらいながら、周囲を警戒する。罠らしきものは何もない。

 唯一存在する水晶玉に近付き、触れる。

 ――――違和感を感じた。脳裏で強烈な電流が流れる。


「…………?」


 直感的に水晶玉に対して記憶の読み取りを開始。

 何を持ってそんな奇行に走ったのかはわからないが――――少なくとも、それは正しい選択であった。

 ウィンクレイ・ライムパールという一人の獣人の事を理解することに繋がったのだから。



――――――



 竜人ドラゴニュート混血獣人ミクシードブラッド・ワービーストが交わり生まれた子。

 それがウィンクレイ・ライムパールという人間の出生であった。その特殊すぎる出生のためか、彼の母親は彼女を匿いながら集落を転々とせざるを得なくなり、彼の父親もまた彼女らと離れていなければならなかった。

 何せ彼女が生まれた時は今の様に二種族間の争いが沈静化していなかった時期。そんな時世、敵の血を持つ同族など混乱の種にしかならないだろう。――――しかし人の口の戸は立てられないということわざの通り、彼女が生まれてたった十年でその所在は突き止められてしまう。

 全ての歯車が狂い始めた。

 味方陣営は嫌悪感剥き出しにウィンクレイを襲う。それに逃げ出した先で竜種に存在を特定され、追われる。両種族から追われる身になって唯一味方であったのは彼女の母親のみであった。

 しかしその母親も――――殺された。

 当然だろう、禁忌以上の問題を仕出かしてしまったのだから。

 だが、それが、どうして。

 父親が妻を己が手に掛ける理由になるのだろうか。

 我が子を殺す理由になるのだろうか。

 本来ならば交わる筈の無い因子が混ざり合ったことで、先天的にモンスターの様な凶暴性を獲得していたウィンクレイは、敵味方無差別に暴れる。いや、彼女の母親が亡き者と化した時点で彼女の見方は何処にもいない。

 結果的に彼女は幼い身でありながら大勢の竜種と父親を手に掛け、同族を殺め、力で周辺の集落を支配し始めた。力ある物が全てを支配する。自然の法則に従いウィンクレイは次々と自身の領域を拡大していく。自身の持ち駒の犠牲など知らずにただ猪突猛進と敵を食い荒らす。

 何時頃だろうか――――彼女が泥の真珠ライムパールと名乗り始めたのは。

 ある筈もない(願望)で出来た真珠(希望)。中身もない、信念もない、志もなければ、目的もまたなく。本能に従うまま相手を蹂躙し続けた彼女が初めて『家族愛』などに目覚めたのは。

 彼女自身もアホかと自嘲した。だがそれでも――――一度想ってしまえばそう簡単に消せるはずもあるまい。

 何も知らぬ無垢な混血の子供獣人を己が手で抱き上げて初めて人間らしい感情を手にした化け物は、他者に優しく接するという事を覚えた。

 そして彼女らは名を共有した。同じ姓を名乗った。姉妹となった。

 ちっぽけなもの慣れ度、化物は、忌み子は幸福を手に入れた。

 ――――そして幸福を得たからには絶望も手にして貰う。

 そうとでも言うかのようにウィンクレイの人生は粉々になる。

 統治していた領地の獣人達の一斉反旗。対応できるはずもなく、そして――――獣人達が通じていた竜種との合同による自分の討伐作戦。頭がどうにかなりそうだった。自分を倒すためだけにお前らは頑なに頑固に汚らしく薄汚い種族の誇りとやらを捨てたのかと。自分のそんな価値があったのかと。そしてそんな誇りに価値など有るのかと。

 結果ウィンクレイは敗北した。

 正確には『無力化』された。就寝している妹を人質に取られて、虐殺を止めたのだ。

 そして悟る。自分は、足枷を作ってしまったのだと。


 ――――愛がほしい。家族が欲しい。理解者が欲しい。


 そんな物、化け物が持つには綺麗過ぎた。

 故にウィンクレイは――――迷う。

 食物も水分も何か月も断線され、それでも死ななかったのを見て砂漠のど真ん中に放り出され手もなお迷う。偶然通りかかったモンスターの血肉を喰らい生き長らえ、いつの間にか『塔』の守護者ガーディアンなどという御大層な名分を手に入れた今でも迷う。

 妹を自分の都合に巻き込ませて良い物か。

 勝手な都合で人生を弄んで良い物か。

 いいわけない。

 だが復讐したい。

 己を産んだ世界に。

 だが――――ただ一度だけでいいから――――


 家族が欲しい。

 幸せが欲しい。

 安心が欲しい。

 友人が欲しい。

 冒険が欲しい。

 愛情が欲しい。

 恋人が欲しい。


 そんな、当たり前の『日常』とやらを。

 彼女は。

 ウィンクレイ・ライムパールは。

 狂気の中で健気にもそれを望んでいたのであった。

 決して手に入らないと理解しているからこそ。

 手に入らないとわかっているからこそ。

 欲しいと願っていたのだ。




キャラの掘り下げって難しいんだねと、百話近く書いといて今更気づいた馬鹿な私。つかいい加減主人公で無双したいよ。今まで散々書いておいてほとんどがギリギリな死闘ってどういうことですか。私は主人公が無双してハッピーエンドしか見えない物を書きたかったなのにどうしてこんな主人公の手足がポンポン取れる崖っぷちの戦闘しかないんだ。教えてくれ(ry

 というわけでまぁ・・・何時か今までの鬱憤を晴らすように無双するんじゃないかなぁ。溜め書きしている奴にそんなもの一切ないがな! でも何時か絶対書くからな! ふりじゃないからね! 絶対だよ! 絶対だぞ!?

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