第八十五話・『再会と呆れ』
誤字修正。
「がはっ…………ぐ、は」
まさに満身創痍といった様で、ルージュは命からがら『アリア』から遠く離れた砂漠地帯で焦げた自分の身体に収まっている暴走したままの魔力を辛うじて残っている精神力だけでどうにか制御しながら膝を付く。
ふと振り返ってみると、『アリア』は大炎上している。宮殿から起こった大爆発はその城下町にも被害を及ぼしたのだ。幸い死者は出ていないようだが――――正確には城下町の市民は――――今は消火作業で水竜が大忙しとばかりに水を轟々と上がる炎に吹きかけている。
あの調子ならば五時間ほどで消化は終わるだろう。
なんだか解せない気持ちで、ルージュは前に踏み出す。
そしてその体は一瞬で沈んだ。
「!? ぶはっ!」
そこはオアシス、というより水溜りであった。砂混じりの泥水は容赦なく怪我をしたルージュの体に纏わりつき、嫌がらせの様にその痛覚を刺激する。
「く、なぁ、―――――え?」
そしてふと気づく。
自分の傷が少しずつ治っているのが。いくら『炎の現身』の再生能力といえど依るん砂漠という低気温の状況下、暖も取れない状況で本領が発揮できるほど万能ではない。しかも水に浸かっている。普通なら再生阻害全壊で掠り傷を治すのが精一杯だ。
しかし今、確かに全身の傷が癒えていく。
何が起こっているのだ、とルージュは考えたが――――即座に気付いてしまった。
「リザの奴……こんな置き土産を」
そう、対極にして相性劣悪同士のリザ。『水の現身』である彼女ならば水だけで再生能力の促進など訳ないだろう。力を断片でも分け与えることも。
去り際にこんなプレゼントをくれるとは、気が利いているのかそれともおまけのつもりか。
どちらにしろルージュは一命はとりとめたのだ。嫌味ならともかく文句を言うつもりなど全くない。
微笑を浮かべながら水溜りから抜け出し、ルージュは着ていたルデュッセイアの生糸で出来たワンピースの端を絞る。一体どこからこんな高級品が出てきたのやら。と呟きながら、砂の丘を登ってゆく。
周囲をある程度見渡せる場所までたどり着き――――そして発見する。
砂の上で倒れている三人の影と、その看病をしている一人の女性の姿を。
その女性はこちらを見つけるや否や無邪気な顔で手を振ってくる。ルージュは渋々と手を振りながら、女性――――リザの元へと歩み寄っていく。
「遅いですよルージュさん。おかげでもう終わっちゃいました」
「そっちの手が早すぎるのよ。こっちが一体どれだけ苦労したか……全く」
「でもよかったじゃないですか。あちらは消火活動に熱心で追っ手を差し向ける余裕はない。今のうちに獣人の集落のある領域に行けば追っ手は来れないでしょうし」
「まるで狙ったかのような展開ね」
「……私はただ言われただけですよ。ダーリンから『俺と離れた場合、俺の仲間は必ず守れ。どんな手を使ってでも』と。因みにご褒美は添い寝です」
「最後の一言で全部台無しよ」
そう言いながら、ルージュは手を伸ばす。
リザは一瞬キョトンとした顔でそれを見たが、直ぐに意図を察して手を握り返す。
そして、に切られた手が一瞬だけ青色の光を放つ。
弾けれるように手を離したルージュは弾かれた手首を振りながら嫌がらせを受けたかのような目でリザを睨んだ。
「次はやめなさいよ。自分の体に膿の塊を突っ込む感覚って好きじゃないのよ」
「好きな人はどうかしていると思います~」
それもそうかと納得し、ルージュはボロボロの三人を軽く流し見する。
ソフィはそれほど怪我はない。精々軽い打撲程度だ。しかしジルヴェとスカーフェイスの損傷が酷過ぎた。ジルヴェは両足が砕け散っており、普通ならば絶対に曲がらない方向へと足が折れ曲がってしまっている。止血は既に済んだようだが、骨が治るには現身の力を行使した再生補助でもそう簡単にはいかないだろう。スカーフェイスに至っては両手両足が骨折、内臓もダメージを受けたようで口から血の泡が噴き出しており、十分な設備を持った病院でもなければ確実に後遺症を残すであろう惨状だ。
魔法ならば簡単に治せるだろう。事実完全回復系の魔法はそう珍しい物ではない。対象のダメージによっては魔力を馬鹿食いするのは問題だがその程度で命が一つ簡単に救えるというのだから安い物だろう。
ただし、使えれば、の話だが。
「アンタ、回復魔法って使えないの?」
「私は~、使う必要が無かったので~。必要のない物を覚えるほど私は物好きじゃありませんよ~?」
「そうね。アンタ、そもそも元人間でもないしね」
「あら、バレちゃってました?」
「……むしろ隠しているつもりだったの?」
例え元人間であろうと余りにも善意の枷が外れすぎた行動の数々。
そして魔女の性質から考えるにリザが人間ではなかったのを知ること自体はそう難しいことでは無かった。
そも、魔女という物は人間に悪魔の文様を刻み付けることで強力な魔法の数々を使用可能にしようとした人体実験の産物。だが稀にその文様を刻まれる負担に耐えられる『変化』してしまう者もいる。
例えば、契約した異界の種の姿そのものへと変化してしまったり。
「ま、いいか。とにかく最低限の治療を行ったら直ぐに移動した方がいいですね。今戦うにはあまりにも戦力不足です」
「私一人でも足止めぐらいはできるけど」
「大部隊相手じゃ精々稼げて五分でしょう。それならさっさと逃げて安全な場所でまた治療再開した方がマシですよ~」
ルージュは驚く。
まさかこの糞尼から正論が出て来るとは、と思ったのだ。今までの奇行を振り返ればそう考えることも無理はないが。
「今失礼なこと考えませんでした?」
「気のせいよ」
「……そうですか。じゃあさっさと移動しましょう~。その前に、《水精霊の寵愛監獄》」
魔法名を唱えながらリザは小さく指を鳴らす。
すると彼女の着込んでいた青いドレスの裏からスライム状の液体が大量に出てくる。その液体は怪我をした三人の体を包み込み、重力に逆らって宙に浮き始めた。
「これは」
「治療用の箱の中に閉じ込めた様な物ですよ。効果は微々たるものですが、人を運ぶには十分と思いますよ」
「便利な魔法ね」
「まさか。戦闘にも使えない産廃ですよ」
互いに嫌味を吐きながら、二人は歩む。
獣人達の集落へと。
――――――
鍛錬を再開する前にディザは俺に合う武器を見つけるべきだと言った。
理由は至極簡単。今度は素手では無く武器を使った鍛錬を行うからである。
別にそれについては構わないが、問題としてはそれを聞いた途端俺の『封物の書』にしまいこんであったイリュジオンが暴走を開始した。クソ剣めが。
気持ちはわからなくもない。おおよそで例えるならば信じていた親友が急に別の友達と仲良くなりたいと言いだしたとかそう言う感じだ。要するに我の強い独占欲の現れ。これだから意思のある武器は嫌だ。
『ソモソモ、何故君ハ双剣ヲ使ッテイルノダ?』
「……言われてみれば確かに」
ぶっちゃけると成り行きで双剣スタイルになっただけで別に双剣である必要性はない。
確かに手数は増えるがイリュジオンがそれ以前に重量で押しつぶすタイプ――――重量など固有能力で自在に変えられるが――――なのでその利点が潰されている。全方位の攻撃に対応は出来るものの、はっきり言って防戦向きのスタイルであると言える。それにいくら両手利きとはいえ流石に扱いずらい。双剣をあまり使わず最近は大剣形態にして使っているのがその証拠でもある。デフォルト形態でもある双頭剣はもう何のために存在しているのかすら理解できない。重さで潰すにも自在に重量が操れる時点で意味が無い。産廃と同然といえる。
それに個人的には日本刀や片手剣、もしくは槍や薙刀が向いている。魔法が使えるという面においても片手を空けていた方が魔法は行使しやすい――――魔力は末端器官に集中しやすいた――――ので双剣にする意味は一つも無いことはないが利点は少ないと言える。
中身が双子の人格とはいえ、流石にそれを武器の形にまで反映することはないだろう。
……形は自在に変形するとはいえ。
【検査・ユーザーに適している武器の判定を行いますか?】
あ、補助システムさんは生きていたか。
最近口を開かないから消えたかと思っていた。消えてもいいけど。
【…………判定完了】
おい、聞くだけ聞いて勝手にスキャンしやがったな。
【結果・ユーザーに適している武器――――無類】
……どういう事だ。
何にも合わないって事か。
【補足・全ての武器を扱える才を持つという意味です】
成程。しかしそれではあまり現状改善はされない。どんな武器を使えばいいのかという問題について全部使えるんだから全部使えばいい、という馬鹿げた答えは無しだ。
【返答・ユーザーの所有する魔剣イリュジオンの性質から見るに相手によって武器を変えながら戦闘する変則的な戦闘スタイルを推奨】
それもアリだろう。しかし、練度が中途半端では達人には勝てない。
要するにスペシャリストに対して多少覚えたてのアマチュアがかなうわけがないという事だ。いくら俺の特異体質で扱ったことのない武器が扱えるからと言って何もないところから戦闘経験が生まれるわけでは無い。
あくまでも『使用方法』だけだ。
効率的な使い方や発展的な使い方は本人のセンスに左右される。
「……やっぱ今まで通りでいいか」
今まで通り双剣のままでいいだろう。変に迷って中途半端な感じになるよりも今まで使っていた武器をずっと使い続けた方がいい。少なくともまだ落ち着けない環境の真っただ中である以上変に武器を変えて長い時間をかけて慣らすよりはまだよい判断だろう。
相手によって武器の形状を変えればいい。その戦い方では限界も出て来るだろうが、今はとりあえずそれでいい。
『ソウカ、ナラバ鍛錬ヲ続ケヨウ』
「わかりました。では」
地面に突き刺していたイリュジオンを引っこ抜き、二つに分け双剣にして構える。
腰を低く落とし、茂みから獣が得物に襲い掛かる様に――――
『ホウ、ソノ構エ、誰カラ教ワッタ?』
「フェーアですよ。休憩時間に少しだけレクチャーを」
『流石ハ御息女様、教エ方ガ良イノダロウナ。……ソレトモ教エ子ノ才覚ガ凄マジイノカ』
戯言には耳を貸さずに疾駆開始。
初速からフルスロットルで正面の脱力したままのディザへと駆ける。
そして疾走から五歩目で――――世界が切り替わる。
『――――!?』
ディザは驚きを隠せない。仮面をつけているとはいえその仕草で何を思っているのかは筒抜けであった。
ポーカーフェイスは得意でも癖を治すのは不得意か。そう思いながら俺は地面にイリュジオンを突き刺し急減速。
無事ディザの後ろへ回り込むことができた。
「遅いぞ」
『何ッ!?』
再加速。
魔力を局所的に腕から放出することで身体能力を極限まで強化。
全身に魔力を巡らせ、循環し、超高圧で噴射して行動を可能な限り加速させる。
要するに体全体に高出力ブースターを取り付けた状態と言えばいい。
行動一つ一つ行うだけで膨大な魔力が吹っ飛んでいくが――――その見返りは十分すぎる。
『グォォッ――――!?』
ディザの身に纏うローブの上から彼の体を斬りつける。
固い物に歯を当てた感触。しかし手ごたえはあった。
初めて一撃入れることに成功したが、調子には乗らず後退。流石に一度目は成功したが二度目が成功するかはわからない。
「っつ、いってぇ糞が……」
予想通り体に無理な負担を掛けたことで筋繊維が何十本か吹っ飛んでいた。
これはまだ俺の身には余る技術という事か。
『魔力ヲ、放出シテ行動速度ヲ高メタノカ……面白イ発想ヲスル』
「名付けて…………『魔力放出』でいいか」
【スキル『魔力放出』を習得しました。敏捷が2.00上昇しました】
勝手にルビ振ってんじゃねぇよ。別に気にしないが。
というか今思ったがスキル習得でのステータス上昇って序盤は嬉しいけどこんだけレベルがあってるともうその恩恵って微々たるものなんだよな。ぶっちゃけあまり嬉しくない。
どっちかっていうと経験値が欲しいんだが。
【スキル『強欲の無冠者』を習得しました。精神力が10.00上昇しました。『強欲の無冠者』の効果により追加+4.00】
【スキル『第一階・愚王の権能』を解放しました。全能力が30.00上昇しました。『強欲の無冠者』の効果により追加+10.00.『第一階・愚王の権能』の効果により追加経験値500,000を獲得】
……誰がチートスキル覚えろっつった。
強くなれるに越したことはないんだが。――――あ、今戦闘中だった。
とりあえず『魔力放出』に関しては今は使わないでおこう。あとから改良を加えねば。
体の負担を軽減するために、そうだな、魔力で体の細胞一つ一つを強化するのは今の俺では無理だ。ならば通常時は体に負担を掛けない程度の量を放出して、腕だけ振る場合は局所的に集中的な強化を施せば――――
【スキル『魔力放出』が『魔力放出・Ⅱ』へ進化しました。敏捷が10.00上昇しました。『強欲の無冠者』の効果により追加+3.00.『第一階・愚王の権能』の効果により追加経験値12,000獲得】
長いから次から省略で。
いや、突っ込むところはそこではない。こいつ俺がやろうとしたことを即座に実行しやがった。
まさかと思うが俺が改良点を指摘すれば実行してくれるのか。
【回答・私はユーザーを支えることを目的に作り出された存在です。スキルの改良など朝飯前です】
わかった。じゃあその機械的な会話やめろ。
【お兄ちゃ――――】
それもやめろ。
【了解しました。可能な限り学習は積んでおきましょう】
胃に穴が開きそうな感覚を味わいながら、剣を構え直す。
ディザは俺の付けた傷跡を軽くなぞり、小さく頷く。何をしているのか、と問う前にディザが身に纏っていたローブを脱ぎ捨てた。
「…………?」
『モウ――――もう私の体に傷を付けるか。流石だなリースフェルト」
今までハッキリと定まらず不安定だった声が比較的安定する。
ローブの効果だったのだろうか。
「私の着ていたローブは『情報不定の白装束』。内外全ての情報を変動させる特殊な物だ。このなりだ、最低限情報を隠すのは道理だろう?」
そう言い放ちながらディザは全身の凝りを解すように体を伸ばしていく。
やがて全身謎の骨だらけだった体は徐々にシルエットを変化させていった。
体内から骨が飛び出して、鎧を構成し始めたのだ。
「……随分凝っているんだな」
「お褒めにあずかり光栄だ。――――外骨格の形成は完了。この骨は厄災獣というSSS級危険指定生物の骨、簡単に破れると思わないことだ。そして」
ディザの右腕が変形していく。
いや、中から何かが飛び出してくる。大量の骨では無く、単一の巨大な骨が中から這いずり出てきているのだった。やがて全身を晒したそれはディザの右腕に収まる。
「鋼竜髄。鋼竜と呼ばれる鱗や骨の堅さだけならば竜種随一の生物の最も固い骨である背骨だ。ミスリル程度ならば撫でる様に両断できる」
「……え、ちょ、まさか――――」
「これからが本番だ。二度は言わんぞ」
二メートル近いその凶悪な形の蛇腹剣を振りまわしながらディザはそう告げる。
つまり、俺を今から本気で殺しに行くという事だろう。ふざけんな。
「待て待て待て! 死んだらどうする!?」
「そこまで、ということだろう」
「…………」
案の定予想通りの答えが返ってきた。畜生。
「手加減はせぬぞ。生きたいのならば――――死ぬ気で足掻け!」
「っぅぅうおおおおおおおおおおああああ!?」
一閃。ディザが大上段からの振り下ろしで十メートル近く開いていた距離を無視して攻撃してきた。
伸びてきた剣先を辛うじて避けるが足元が爆発する。遠心力と元々の自重、そしてあり得ない速度が合わさった結果だろう。まるで剣の形をした爆弾だ。
そして攻撃はそれで止まらない。ディザはそれを振り回し周囲の建物ごと無差別に攻撃を開始する。一撃一撃の速度が凄まじい。どうにか目に捉えてはいるが先読みの恩恵ありきの結果だ。つまり視認できない速度。
幾ら周囲の獣人達が『塔』が現れたせいで避難しているとはいえ容赦がない。殺意が万遍なく込められた連撃に背筋を冷やしながら『心眼(偽)』でディザのステータスを見抜いて行く。
普段ならば面倒事にわざわざ足を突っ込みたくないのでレベル測定以外はやっていなかったが今回はそれが災いした。
【ステータス】
名前 ディザ・ボーンブラッド=ワインドジェルド HP14199310/14200000 MP3400000/3400000
レベル 1199
クラス 虚無半人
筋力710.34 敏捷831.01 技量999.99 生命力0.00 知力999.99 精神力1067.17 魔力1729.85 運3.18 素質41.00
状態 虚無????.??
経験値 0/0(カウンターストップ)
装備 虚無の災禍呪
習得済魔法 測定不能
スキル 不老??.?? 災厄99.99 武芸の達人99.99 観察眼99.99 虚なる者??.?? 錬金術102.91 収納術99.99 才を齎す智慧43.82 人の意思??.??
化け物強い。
しかしあり得ない――――とは言わない。
こいつ並の化け物を前に見たことあるからだ。生物が至れる極地に達した人間。ヘルムート・ケッツァ=アインゲーブングという真性の化け物を。というか総合的なステータスだけならばアイツの方が上だ。
だからって弱いわけでもなんでもないのだが。
「いぃぃぃっ!?」
体を仰け反らして自分の胴体を真っ二つにしようとした薙ぎ払いを回避。
このままでは埒が明かないと判断し『魔力放出)を全開で発動。脚部に集中しディザの懐に一気に近づこうとする。
「《曲れ、歪め、捻じれ狂うは指で刺す小さな弱者》――――《歪なる指先》」
「んな――――!?」
突如足元の空間が歪む。直感的にその場で停止し後方に跳躍。
間一髪で歪みから足を抜け出すことができた。直後に歪みは空間を捻じ切る様にして破裂。
あれが足に当たっていたらと思うとぞっとする。
「どうした、その程度か」
「……空間操作もできるのかよ」
「古代魔法の一つ、空間魔法だ。……その剣の特殊能力の下位互換と思えばいい」
何か勘違いしていないか。
イリュジオンが操作できるのは重力だけで、空間操作はただの副産物なのだが。
「それと、一々私が説明しなければ相手の術の種すらわからんのか?」
「――――チッ、舐めんなよ」
再度疾走。
しかし今度は直線ではない。不規則にジグザグを描きながら確実に接近する。
振るわれる蛇腹剣の軌道を冷静に目で捉えながら最低限回避に徹することで最短で接近する方法を選択。そもそもあの攻撃力、今の俺に受け止めるすべはない。
「ふむ、ならば――――《アースウォール》」
「!?」
逃げ場を無くすように土の壁が俺とディザの左右から現れる。
作られたのは狭い道だった。回避するための左右のスペースを完全に殺し、ちょこまかと動けなくするために作ったのだ。ご丁寧に唯一の逃げ場である上空さえ柵を作って逃げられない様になっている。斬れば抜け出せるだろうが、あちらがそんな暇を与えてくれるとも思えない。
不味い。今の防御力では――――直撃を喰らえば死ぬ。
「《この盾は黄金で造られる。浴びせるは聖水。この身に降りかかる災厄を防げ。現れるは不動の盾》――――ッ!!」
速攻で今持っている最高の防御術式を展開開始。
それを見逃さずディザは自分の腕を限界まで引き絞る。
「形成せよ、金色の不動城塞よ――――《黄金王城の絢爛要塞》!!!」
「貫け――――!」
蛇腹剣の先端は鋭利であった。尾骨か何かを加工したのだろうか。
予測ならばこの術式は破られる。
その前に何か手段を考えねば――――そう思考を巡らせた瞬間金色の城壁にディザの一撃が衝突する。
たった一秒で装甲の半分を貫かれた。
つまりあと一秒しか時間が無い。
(『超過思考加速』ッ……!!)
ならばと思い思考を限界まで加速させる。一秒を千秒にまで切り刻み何をすべきか判断する。
新しい防御術式の展開――――駄目だ。最大級の術式で二秒持たない。
回避――――論外。
ならば――――
「ふっ!」
イリュジオンを双頭剣状態に戻し、地面に突き刺す。
そして盾形態へと変形。しかも大盾だ。これならば防御できるか。
思考速度を元に戻す。すると即座に防御術式を貫通したディザの蛇腹剣が盾にしたイリュジオンに突き刺さる。鋭い音が響く。金属同士を途轍もない力でこすり合わせたような音と盛大な火花が飛び散る。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
両足で全力で踏ん張る。それでも十メートル以上地面を足で抉ってしまう。
しかし防御はできた。これで――――
「――――視界から敵を外すとはな。初歩的な間違いだ」
後ろから声が聞こえた。
命の危険を感じ速攻でイリュジオンを双剣状態へと移行。直感任せに後方に振りぬく。
そうする事でようやく致死級の一撃を弾くことができた。代償として、十数メートル吹っ飛ばされ塔の外壁に己が身を埋め込ませることになってしまったが。
外壁に大きなへこみを作り、衝撃だけで肋骨が数本折れる。
「ごっ、ふ…………ぁが」
油断していた。迂闊だった。
幾ら防御に専念するためとはいえ視界を完全に覆ってしまう大盾を選択してしまうとは。
「戦いでのミスは時として一瞬の死に繋がる。それを忘れたわけでは無いだろう。それとも何だ、貴様は死なない身体でも持っていたのか。そんな無茶な戦い方では命がいくつあっても足りんぞ」
「ぐ、おっ」
口から大量の血を流しながら、外壁に埋もれた自分の体を引き抜く。
――――盲点であった。
今までは驚異的な再生能力に頼り特攻紛いの戦法で戦ってきた。そうする事でようやくギリギリ勝利に手が届いた。今回もそうすることができると思った。だが違う。
今は再生の恩恵が薄れている。今までと同じ戦い方をすれば言われた通り幾つ命があっても足りやしない。
あの攻撃はもう少しやりようがあっただろう。
防御術式では無く補助魔法を使い全力であの土の壁が作った道から抜け出していた方が後から来る攻撃にも対処しやすかった。道の長さもそれほどでは無かったので、こちらの方が生存率は高かったのだ。
どうも俺の中にはどうやら逃げるという選択肢は少ないらしい。
今まで何度も仲間を庇いながら戦ってきたからか。
悪い癖だ。
「…………イリュジオン――――俺を侵せ」
瞬間、握っていた魔剣が震える。
左腕全体にまで至っていた侵食が上半身左半身にまで広がる。
激痛に耐えながらそれを見届け、強力な再生によりダメージを負った全身を修復。
体に鞭打ち、倒れかけた身体を無理に立たせる。
【――――条件達成・イリュジオンの固有能力『歪曲転移』を解放しました】
「っらぁあああああああああっ!!!」
二つに分けたイリュジオンの片方を投擲する。
それはブーメランのように回転しながらディザに向かう。俺の「戦闘中に武器を手放す」という奇行に呆れたのか、ディザはイラついたように軽い仕草でイリュジオンを弾く。
「馬鹿か貴様は。それとも自棄になったのか」
「いや、計算通りだ」
「何? ――――ッ!?!?」
俺の見ていた景色が一瞬にして切り変わる。
遠くに居たディザは俺の目下で背中を向けていた。これ程の武人が自分から背中を晒す――――なんて事はあり得ない。
ならばどうしてこんなことになっているのか。
簡単だ。
俺が転移で後ろに回っただけの話。
間髪入れずに弾かれたイリュジオンを改修し、『魔力放出』で真下に加速――――ディザの背中を斬りつける。手加減無しの全力の斬撃。
ディザの鎧が大きく欠ける。切れ味だけならばイリュジオンはどんな名剣だろうが霞んで見えるほどなのだ。ある意味数少ない褒めるべきところだろう。
予想を裏切った不意打ちによりディザの意識は自身の背後に移る。
瞬間、また俺の景色が切り替わる。
今度はディザの眼前。遠慮なく一撃を喰らわせる。
「ぐっぉおっ!?」
ディザが反撃するが――――当たらない。
転移によって逃れ、再度斬撃。
反撃、回避、攻撃、反撃、回避、攻撃、回避、攻撃、反撃、回避、攻撃、回避、攻撃、反撃、回避、攻撃、回避、攻撃、反撃、回避、攻撃、回避、攻撃、反撃、回避、攻撃、回避、攻撃、反撃、回避、攻撃、回避、攻撃、反撃、回避、攻撃――――。
絶妙なタイミングでの回避と攻撃にディザは成す術もなく翻弄される。
転移による回避。例えよ即したとしてもそれを予測することで虚を突き不意打ち。こういう読み合いならば俺の『独壇場』だ。計算的な戦闘で俺に敵う奴といえば認知している限りは綾斗ぐらいしか存在しない。数十手数百手先を予測しながら戦うなどという曲芸を行えるものは。
実に五十を超える攻撃を喰らわせたその時、ディザは両手を上げて「参った」と呟く。
「あれ、もういいのか?」
「ああ、そうだ。――――流石ニ私モ疲レタ』
脱ぎ捨てた『情報不定の白装束』とやらを脱ぎ直したディザはため息を吐いて、纏っていた鎧と蛇腹剣wを体内に収納する。
『予想外ダッタ。ソンナ奥ノ手ヲ隠シテイタトハナ。私モ修行ガ足リナイトイウワケカ』
「いや、土壇場で腹くくっただけだ。こんな所で、死ぬわけにはいかないからな」
そう、無意味な死が御免だっただけだ。
でなければ自分の肉体を忌々しい魔剣なんぞにささげるか。
「――――大変だディザさん!!」
「おん?」
『ン?』
猫頭の獣人がとても慌てた様子でこちらに駆けつけてきた。
尋常じゃなく焦っているようで肩で息をしているほど。一体何があったのだろうか。
まさか竜種がもう……
「頭のおかしい奴らが来たんだ! 要求を受け入れなければ集落を破壊するって!」
『ソレデ、要求ハ?』
「治療道具一式と落ち着いた場所を貸せっていうもんで…………」
『……ワカッタ。私ガ行コウ』
ディザは身なりを軽く整え、急ぎ足で猫獣人の案内に着いて行く。
興味本位で俺も着いて行くことにする。流石に見に行くだけならばいいようで、特に抵抗もされなかった。
見ると、数人の獣人が戦闘態勢で殺気を放っていた。
その視線の先には、砂の上に倒れ伏した三つの影と赤い髪が特徴の子供と青い髪を伸ばした清楚そうな女性――――というか知り合いだった。
「――――はあぁぁぁっ!?」
『ナンダ、知リ合イカ?』
「……仲間です」
そう返事した後、今にも火が付きそうな現場に全力で駆け付ける。
「両方やめろ! 止まれ! 話を聞け!」
「貴様はフェーア様の御客……!? 幾ら客とて我らの外敵排除の邪魔をするならば」
「話聞けって!? 敵じゃない、こいつ等敵じゃないから大丈夫だ」
そう獣人達を宥めながら、振り向く。
そこには茫然とした顔のルージュと、何やら絶好の獲物を見つけた様な猛獣の顔のリザ。
何かが可笑しいような気がするが、まぁいいだろう。
「リース! 無事だったの!?」
「ああ、すまん。行くのが遅れた」
「それはいいけど――――」
「ダァァァァリィィィイイイイイイイイイイイイン!!!!」
リザが涎を垂らしながら飛び掛かって来た。
命の危険を感じ取り転移。リザはそのまま砂に顔を突っ込む。
「再会直後に飛び掛かるなよ……」
「――――他の女の臭い…………ダーリンまさか貞操奪われたんですか!? 童貞じゃなくなったんですかぁぁぁ!?!?」
「え、いや…………うん」
あまりの気迫に押される。
なんで感動の再会の場面に童貞喪失宣言しなくちゃならんのか。
「……殺す、私のダーリンの童貞奪った泥棒猫おぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっ…………!!!」
「いやお前のじゃねぇよ……?」
「私が食べるはずだったのにぃぃ~~~~~!! うわぁぁぁぁあああああああん!」
「ガチ泣き……ガチ泣きですか。さりげなく童貞食い宣言しながらガチ泣き……」
相変わらずといった様子に安心すればいいのか、呆れればいいのか。
そんなどうでもいいことに迷いながら、今日の波乱は終了した。
おまけ
【ステータス】
名前 志乃七結城――――真名・七死悠姫 HP2160000/2160000 MP5610000/5610000
レベル 172
クラス 多重適正保持者・最適者/愚王
筋力427.94 敏捷481.92 技量661.24 生命力253.08 知力424.77 精神力381.69 魔力443.09 運0.50 素質60.00
状態 精神汚染63.10 完全侵食35.99 暴走兆候51.89
経験値 817200/13200000
装備 魔剣イリュジオン 劣化した古着 簡素なチェストプレート 血で汚れたブラックコート 劣化した不可侵のグローブ 汚れた高級シルクのハーフパンツ 劣化したレザーブーツ
習得済魔法――――習得数二〇〇オーバーのため省略
スキル 天賦の代替武才99.99 才恵まれし者99.99 心眼(偽)32.19 魔力感知12.01 魔力放出・Ⅱ32.09 強欲の無冠者??.?? 第一階・愚王の権能??.?? 超過思考加速99.99 卓越した生存術10.00 戦術眼50.00 並列演算戦術50.00 先読み81.02 カリスマ18.24 全種魔法適正81.70 自己防衛99.99 過剰防衛99.99 ??????.?? 消失魔法0.01 炎の神法【セカンドステージ進行中】 土の神法【セカンドステージ進行中】 自己破滅??.?? 悪神の触覚??.?? 悪運99.99 月蝕の右腕??.?? トラブルメーカー99.99 悪魔の契約??.?? Re:Fate/YHN-SER<LaplaceSystem>-Re.Re.Re.??.??
【スキル解説】
・天賦の代替武才
多彩な武術スキルを一括りにまとめた総合スキル。全ての武芸に数値が共有化されるので、全く知らない武器であろうとも達人並みに使いこなすことが可能になる。デメリットとしてスキル獲得時に得ることのできるステータス上昇補正が得られなるのと、全く知らない状態からあくまでもスキルの補正によって動いているので同数値であり知識を積んでいる者に対しては不利になってしまう(つまり同条件では不利になる)。副次効果として相手の動きを学習し自分の物にできる(どちらかというと本人の性質を表しているだけだが)。
・才恵まれし者
知識が無い(あるいは圧倒的に不足している)状態で達人に並に技能を使うことのできるスキル。例としては料理、裁縫、冶金、鍛冶、調合等々。直感だけで物事を完遂してしまう天才の証。ただし上記した通り知識が無い以上常識外(といより例外的)な代物は作成不可能。こちらも数値を共有化している総合スキル。
・心眼(偽)
相手のステータスなどを読み取るためのスキル。普通は先天的に所有するものなのだが結城は知識だけで相手の実力を把握できるため(偽)が付くが習得が可能となった。しかし普通は直感的にとらえるスキルなので本物とは本質がだいぶ違う。
・魔力感知
魔力を『流れ』として視覚することができるスキル。本来ならばエルフなどのエーテルと良く触れ合う種族しか習得できないが天性の勘と才能が可能とした。しかしあくまで『流れ』を見るだけなので操作はできない。盲目状態になっている時でも物を見ることができる。
・魔力放出・Ⅱ
魔力を纏い、局所的に放出することで一瞬だけ身体能力を爆発的に向上させるスキル。しかし使用者への負担は凄まじく、短期決戦向き。改良を加えた結果負担はある程度軽減出来たがそれでも乱用には向かない。しかし魔力と引き換えに身体能力を数割向上させることが可能なので、格上相手のだまし討ちにはもってこいのスキル。因みに習得者は殆どおらず(習得していてもほとんど無意識化での運用)結城は炎の翼やディザの魔力操作による拳法を参考にこのスキルを発案した。
・強欲の無冠者
ユニークスキルと呼ばれる個人にしか所有できないスキル。結城のサポートシステムが強引に覚醒させた結果本来の機能の一割しか発揮できていないが、ステータスが上昇するときランダム(5%~95%)で上昇ボーナスを得ることのできるスキル(例・筋力が5.00上昇したとすれば最大で4.75のボーナス)であり、下手をすればバランスを崩しかねないチートスキル。
・第一階・愚王の権能
こちらも同じくユニークスキル。経験値を得た時追加でランダム(5~100%)に追加経験値、またスキル獲得時にその効力の強さに応じて経験値を獲得できるスキル。こちらも強引に覚醒させたことにより本来の使用用度とは違うスキルへと変質してしまっている。因みにこのスキルはルキナの所持していたスキルを参考にサポートシステムが力技で作成したスキルである。『愚王』という名は結城に対する称号のようなもの。システム曰く「王になった時、国の情勢ではなく私情を優先してしまう愚図のような王になる」という皮肉に満ちたメッセージが込められている(らしい)。
・超過思考加速
結城の特異体質をスキルとして定着したもの。思考速度を一〇〇倍から二〇〇〇倍まで変化させながら加速させることが可能であり、発動中は脳のリミッターが外れているので驚異的な身体能力補正がかかる。ただし反動も折り紙付きであり鍛えた今の体でも筋肉痛は免れない。これなくして格上の思考速度には付いて行けないのである意味結城を今の今まで生かしてきた命綱の一つでもあるスキル。当然ユニークスキルである。
・卓越した生存術
遭難した場合どう行動すればより生き残れるか直感的にわかることのできるスキル。なのだがどちらかというと生存本能の拡張の様な物であり、戦闘中に「どう動けばより長く生きられる」という答えを出すスキルになってしまっている。要するに所持者が全然違う事に使用している。
・戦術眼
相手の挙動からどんな行動をしてくるかを予測するスキル。しかし基本的に動体視力頼りなので素早すぎる相手や初見の相手には弱い。ただし嵌れば一度抜け出すことはできない。
・並列演算戦術
結城の驚異的な算術力により戦闘を全て数式化することで戦況を把握するスキル。戦術眼と併用することで自分だけでなく相手の行動をも予測し見切り、一方的に計算された戦闘を行うことができる。端的に言えば戦況を可能限界まで正確に把握することで最適な行動を選び出すためのスキル。
・先読み
文字通りの相手の行動を先読みするスキル。ただしこれは前述の二つとは違い、直感的な物なので興奮状態でも作用する。しかし直感と理性が齟齬を起こした場合思考が一瞬だけ停止するのでそういう意味では諸刃の剣ともいえる。要するに通常状態ではデメリットが多いスキル。異常状態ではメリットが強いスキル。
・カリスマ
大勢の兵士や大規模な軍団を指揮際に必要な天性の才能。所有者が滅多にいないので持っている場合は国がスカウトしに来るほど。ただし結城は殆ど後天的に近い形(それでも本人の常識外の才覚やその性格が無ければそもそも後天的に獲得すること自体無理)で取得したため伸びしろと効力は先天的に所有している者と比べて劣化している。本人が大軍を率いる気が一切ないだろうという問題があるのだが。
・全種魔法適正
四大属性(地水火風)と対極属性(光闇)に対して優秀な敵性を持っているという証。(太陽と月は実質古代魔法を蘇らせたような物なので例外)。数値が共有化されており得意不得意が無く、経験も共有化されていることにより一種の魔法を使うだけで全属性の魔法の熟練度が上がる。デメリットとしてやはり知識が無い場合は使いこなすことはできず、また伸びしろも一つの適正と比べれば劣悪という他ない(六つの適正を無理矢理まとめているような物だから)。だが極めた場合が他の追随を許さない。
・自己防衛及び過剰防衛
結城にも身に覚えのないスキル。しかしユニークスキルであるのは間違いなくその効果も強力。自己防衛はステータスの関係上すでに産廃となっているが過剰防衛は全ステータス(運と素質以外)+99.99という破格のスキル。特徴として意図して発動できない事と発動時は見に余る危険種を相手にした場合と異常に興奮した場合。前者の場合は精神の起伏が著しく制限されるが、後者の場合は興奮状態が維持されたまま戦闘を行うのが特徴。良くも悪くも一長一短なスキル。
・消失魔法
ある程度の情報が残されている古代魔法の類でもなく現存する魔法の派生でもない、本当に世界から消えてしまった魔法を扱うスキル。習得者は限りなく少なく(確認できるだけで5人程度)使うにも特殊な儀式をしなければならない。効果は最弱の物でも島を数個掻き消すほどであり、強力という言葉が生ぬるいほどらしい(情報がほとんど無いせい)が、結城本人がその知識が皆無な事と本人は「何だこれ」としか思っていないこと、更に適正があるといってもほぼ最低値なので現状は使えないお飾りスキル。
・自己破滅
詳細不明。しかし確実なのはいつか必ず全てが台無しになるという予兆だけ。運命を覆せるかどうかは持つ者次第。待っているのは破滅か幸福か。どれにたどり着くかは神のみぞ知る。
・悪神の触覚
名の通り、悪神の触覚であるという証。数値が高いほど悪神とのコンタクトが取りやすい。――――のだが、結城本人がその方法はわからずする気もないので事実上潰れているスキル。それ以外の効果も存在するらしいが詳細は不明。
・悪運
どれだけ辛い状況に陥ろうと数値が高いほど最後に生還する確率が高いスキル。生還するのは本人の意思関係なく、どんな形であろうと生き残ってしまうという見方によっては最悪のスキル。
・月蝕の右腕
ルキナのバックアップを受けて右腕を変質させて作り上げた肉体強化系スキル。その効果は絶大であり、ルキナの魂が生み出す膨大な魔力を直接供給されているおかげで竜であろうが一発で沈む腕力。そして対象を侵食するディフィート・スフィアの生成などを行う。当然ながら代償は存在し、肉体侵食の加速化と体への強大な負担が伴う。まさに切り札というべきスキル。
・トラブルメーカー
厄介事が自発的に迷い込んで来る自他認める最悪のスキル。何もせず隠居生活していようが孤島で一人寂しく生きていようがお構いなく面倒事は駆けよってくる。運命からは逃げられないという言葉を悪い意味でよく体現している最低最悪のはた迷惑なスキル。所持している本人も巻き込まれる者も溜まったものではない。
・悪魔の契約
悪魔と本格的に契約を開始したという証。肉体を代償に強力な恩恵を与えられることは勝利への悪循環。勝つことで次の戦場へ。勝てなさそうならば肉体を差し出しより強く。そして勝ちまた次の戦場へ――――悪魔が破滅しか生まないとされるのはそれ所以。一度嵌れば絶対に抜け出せない勝利の循環。諦めてしまえば全てが崩壊するたちの悪いギャンブルはやめたくても止められない。ルーレットは既に回っている。待っているのは生か死か。確かなのは悪魔は不気味に嗤って待っているという事。無間螺旋を下っていく契約者の破滅を楽しんでいるのは悪魔か、それとも自分か。
・Re:Fate/YHN-SER<LaplaceSystem>-Re.Re.Re.
始まりと終わり。黙示録に記された物語は繰り返す。筆者が何時の日か飽きるまで、何度も何度も。結末はいつでも最悪の結末。今回もそうなるか。それとも違うか。共通する事実は、筆者はその手を止めない。娯楽を求め、悲劇を求め、人間賛歌を謳いながら破滅する様を誰よりも愛し悲しみ嘲笑う。その筆は止まらず走り、書き記すのはいつもいつも勝手な運命。――――だが今回は違うかもしれない。などという戯言は意味をなさない。筆者に気まぐれは万が一もないのだから。悲劇を喜劇に変えることはあり得ない。故に第三者は何と願うか。何と誓うか。何と告げるか。全てを知る神が知らないのは自身の結末。神に与えられる物語は永遠か終末か。自身が産み落とした我が子を玩具とし、唯一の友を蹴落とし、高笑いしながら世界を眺めるその様は無邪気な幼児。だからこそ、見下ろしているからこそ神は知るすべがない。
自分の後ろに誰が居るのかさえ。
迎える展開はいつも同じでいつも謎。
今回は何が起こるか。
同じか。
異端か。
確実に言えることは――――第三者は理不尽な悲劇など許さない。
その命に代えても、自身の愛する者を遊戯で奪われた復讐鬼はその仇討を果たしにやってくる。
無量大数の時間をかけてでも。
読者は筆者を殺しに。
筆者は読者を嗤いに。
約束されるのは、終わりだけ。
「理不尽な結末など認めない」
【理不尽な結末など認めない】
あるのはいつでも互いの信念。
ぶつかるのも。
消えるのも。




