表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/110

第八十話・『大集落』

ようやく全部終わった・・・疲れた・・・。

大変遅れて申し訳ございませんでした。これからは前の様なペースで投稿を再開していこうと思います。

 泣いていいかなと心底思う。

 目覚めたら前が見えなかった。まだ夢見ているのかと思いきや、両目が潰されたらしい。ベルジェが眼窩に指を――――超絶痛かったが――――突っ込んでくれたので、その事実は受け入れるしかなかった。

 眼球がなくなった。別に治せなくもないが、かなり時間がかかる様だ。何故かというと、まぁ、目の中に火を長時間ぶっこまれる感覚など到底耐えられるものではなく、下手をすると脳が焼き切れる可能性があったのだ。手足もげても痛いのなんの言わないから大丈夫? ハハッ、人間気合で何とかできる物さ。

 ……冗談だ。単に複雑な感覚器官なので再生に時間がかかるだけだ。痛みも少し目の中に塩を突っ込まれたような鈍痛が断続的に襲ってくる程度なので問題はない。

 ただ、治すのに二日は安静にしていなくてはならないのはとても残念な話だったのだが。

 何せ目が見えない以上鍛錬もできない(体のダメージでそもそもあまり動けないのだが)。それに周りで何が起こっているのかも把握しずらいのだ。

 目が見えない状態で周りの様子がわかる様になればいいのだが。


【質問・エーテル感知による『魔力知覚』のスキルを習得しますか?】


 ……毎度毎度思うのだが何なんだこのテキストは。

 前までは網膜に映っていたのに、目がなくなってからは頭の中に直接テキスト表示してきやがった。

 一体誰が何の目的でこんな変な代物を俺に組み込んだのか。

 いや、この世界では常識なのか? スキル習得したら自動で表示されるのか?


【回答・本システムは最適者オプティマイザー専用オペレーティング・ユーザーサポートシステムであり、他者にそれが存在する確率は極めて低確率であり、心配はございません】


 喋るのか。いや、オペレーションシステムという事は、補助係か。

 つまり俺の補助を役目として俺の中に組み込まれたという事か。だが何時だ。何時そんなものを植え付けられた。

 いや、あの時しかないか。俺がこの世界に来た瞬間。


【補足・この世界で本システムは『非常識』に該当されます。このシステムは何らかの要因で異邦人、この世界の者ではない者が来訪された場合、自動的に本システムはその該当者に発現する仕組みとなっており、発現時期もまた来訪の瞬間から、という事となります】


 大まかに言うならば、右も左もわからない奴のためのナビゲーションシステムか。

 その割には全然役に立っていないような気がしなくもないが。


【弁解・本システムはユーザーの特異性により最適化までの時間が引き伸ばされた結果、不十分なオペレーティングとなっており万全のサポートは不可能であったと回答します。不十分とはいえ現在時刻までその生命活動に支障が無いことから、そこまで問題は無かったと推定できます】


 お前殆ど働かなかったがな。


【誤解・本システムは現在時刻を以て問題なく正常稼働状態に移行したのであり、その非難はそれまで時間がかかった要因であるユーザーに向けられるべきかと本システムは回答します】


 とどのつまり俺が悪かったとな。

 中々図太いというか、肝が据わっているシステムだな。


【抗議・本システムに責任は無く、ユーザーに責任があると思います】


 中の人とか絶対いるだろ。つか待て、「思います」ってなんだよ。お前システムなのに自我あんのかよ。


【回答・自我については最適化中での突然変異により生まれたものであり、仕様上の物ではありません。削除しますか?】


 いや、このままでいい。ちょうど話し相手が欲しかったし。

 目も見えないし体中痛いし、内臓とかも今再生しているから下手に動いたら出血する状態だ。

 暇をつぶすにも仲間たちは明日出発するための準備をしており忙しい身である。病人に一々構っていられる余裕はない。アウローラは暇そうだが、残念ながら唐突に「かわぃぃぃいいいいいい!!」と奇声を上げて入ってきた獣人の女性集団に獣人の少女と共に拉致られた。

 おかげで今孤独なのだ。動けない話せない故にすっごく暇で、退屈で死にそうだったんだ。

 このシステムが今起動してくれたことに深々感謝しよう。


【回答・それほどでもありません】


 それで、なんだっけ。スキル? 役に立ちそうなら、覚えていいよ。

 覚えたところで今動けないし。


【了解・スキル『魔力知覚』を習得しました】


 ――――視界が唐突に訪れる。

 周囲の光景が薄くだが、黒に染まった世界で白い線によって描かれ始めたのだ。恐らく先程の『魔力知覚』スキル習得による恩恵だろう。


【解説・このスキルは待機中に漂っている魔力の元、エーテル視覚化し、目ではなく肌で感知させることにより周囲の景色を見ることができるスキルです。本来ならば盲目の者が数年修業を積みようやく習得可能なスキルですが、ユーザーのポテンシャルにより初期段階を0.81秒で習得しました。最終段階まで約47時間ほどです】


 なかなか便利だ。

 しかし目が再生したら使い物になるのだろうか。そこら辺はどうなんですかね。


【回答・眼球復元が完了したとしてもスキルの恩恵は消えず、に言いでスキルを起動することで魔力の流れが目で見え、目を塞いでも物が見えるようになり、視界を三百六十度全方位確保することが可能となります。不便はないかと】


 回答ありがとう。しかし全方位が見えるようになる感覚か。慣れるようにならないときつそうだ。

 さて、暇だしスキルの整理でもするか。スキル一覧ごちゃごちゃしすぎてみるたびに頭が痛くなる。せめて一括りにできたら楽なのだが。


【了解・『剣術』『格闘術』『危機感知』『行動感知』『直感先読』『空間索敵』『炯眼』『乗馬』などのスキルを圧縮し『天賦の代替武才オルタナティブ・トレースコマンダー』に変化させます。同時に『記憶透見メモリークリア』『武器解析ウェポンサーチ』『道具解析ツールサーチ』『宝石鑑定』『武器整備』『特技解析スキルスキャン』を圧縮し『才恵まれし者カスタマイズ・チャイルド』へと変化。残ったスキルは全て固有技能であるため統一化は不可能でした】


 ……あっさり行いやがった。別に害になるわけでは無いので気にはしないが。

 流石サポートシステムというわけか。これで役に立たなかったらただのやかましい壊れたナビゲーションだし、当たり前か。


【感謝・本システムは万全なサポートを行うために創られた物であり、役に立つのは至極当然であります】


 そりゃどうも。

 じゃあ聞くが、俺の中にある悪魔を取り除くことは可能か? それと魔剣の侵食の無力化は。


【回答・不可能と答えます。本システムはあくまで補助用であり、ユーザーの健康状態を改善するための特効薬の生成は管轄外であります。また、高次元レベルで融合している霊魂同士を乖離させるにはアストラルボディにダメージを与えられる道具でなければ試行も行えない物であり、現時点でそのような道具、または手段はユーザー含め周囲五キロ以内には存在しません。故に『不可能』、と答えます。魔剣の汚染については、あくまで力の対価として肉体を差し出す、端的に申せば『等価交換の儀式』の様な物であり、侵食行動自体は食い止める手段はあれど、儀式により差し出された肉体を元に戻す手段は肉体を切り離し再生させるか、浄化魔法や儀式などによる肉体浄化しかございません。しかしユーザーが所持している魔剣は現時点で世界中のどんな魔剣よりも性質が凶悪で、汚染のレベルも他の追随を許さない物であり、浄化するにはそれに長けている専門家や高位の霊媒師ミスティック祓魔師エクソシストを手を借りねば不可能であり、これもまた現時点で行使できる手段がありません。故に両方ともに現時点では解決できません】


 やはり不可能だったか。最初からあまり期待はしていないが、こればかりは仕方ないだろう。

 しかし今立てられる対策は全て用意しなければならない。システムの言った通り、侵食自体は多少ながらも妨害できるのだ。進行速度を遅速化させられるのならば、するに越したことはない。

 今できるだけの事をせねば。


【了承・現在習得できる全てのスキルを習得しますか?】


 したらどうなる?


【回答・神になります】


 じゃあやめるわ。


【冗句・ジョークです。現時点で習得できるスキルは『基本系スキル』が五千種以上、『戦闘系スキル』が三千以上、『特殊系スキル』が二百種以上、『常時発動パッシブ系スキル』が五十種程です。すべて覚えますか?】


 システムがジョークを言うのかよ。自我を持っているとは言っていたが。

 何にせよ、スキルはこの世界では希少だという。だがこれを見る限り完全にそれをぶっちぎっている。俺のスペックが可笑しいのかそれともこの世界の人間が無能すぎるのか。どっちだ。

 ちなみに全部覚えたらどうなるんだ。


【回答・一時的にですが自己のアイデンティティーを失い、一定期間、衰弱・倦怠・睡眠のバッドステータスが付けられます】


 期間は?


【補足・約五百年ほどです】


 …………昏睡状態にならずに二日程度で収まるぐらいの一番有用そうなスキルを覚えてくれ。


【了承・わかりました】


 何だろうか。この疲労感は。これでは一人で独り言をつぶやいていた方がまだ楽だった。

 何にせよ優秀な補佐を手に入れたと思えばいいだろう。そうでなければまた面倒くさい人格が俺の中に増えたという事になる。いや、ルージュとサルヴィタールは抜けているからもうルキナとイリュジオンだけなのだが。二つあるだけで可笑しいんだけどさ。

 やがてかなりの倦怠感が襲ってくる。スキルの自動習得が始まったのだろう。体から力が奪われていくような感覚だ。あまり良い物とはお世辞にも言えない。

 だが寝るだけで技能が増えるのだ。出血大サービスが生易しく見える機会、使わない手立てはない。

 ――――本当に、疲れた。



――――――



「んほぉぉぉおおおおおおおお!! エルフのお姉さんぱらだぁぁぁぁいギャアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?」


 開幕早々なんだというのだこの男は、と紗雪は顔面ハイキックを繰り出しながらつくづく綾斗の奇行に呆れる。たださえドレス姿で蹴りを出すのは難しいというのに、無駄な手を煩わせてくれる。

 鼻血を出しながらはるか向こうの石柱に顔面を強打した綾斗は、けなげにも、というか懲りずに興奮したように息を荒げながらエルフの女性たち、国王の側近である侍女たちを視姦する。

 アホかと紗雪はさらに呆れた。いやアホだったなと同時に納得もしたが。


「……すみません」

「いやいや。別に悪いことではないよ、むしろ彼ぐらいの年齢ならば欲情など日常茶飯事だろう?」

「そういう問題なのお父さん!?」

「だって僕も彼ぐらいのときはよく父上の侍女の布の少ない服の隙間からチラッと見えるぷにぷにムチムチの太腿と完璧で美しくて壊れそうな鎖骨を隠れて見ながら熱い青少年のリビドーを噴火させて友人と妄想に吹けながら共に手を上下――――あ、いや、何でもないですごめんなさいグーはやめてグーは」


 玉座に座っている妖精国『アルヴヘイム』の国王、シーフル・オベロン・イストワールは威勢堂々な王の風格――――ではなくスケベ男子が良く身に纏うエロいことを考えていそうなオーラを纏って、口から出た至極どうでもいい性癖の話はその妻であるフェイシリア・レイユ・エーワンゲリウムの鉄拳制裁の準備によって止められる。

 この玉座の魔ではいつも通りの光景なのか、侍女や出入り口の前で見張りをしている王室守護騎士ロイヤルガードナイツは呆れている表情をしているだけだ。


「おお、まさか国王と趣向が一致するとは! これはこれは話がはかどりそうですね」

「そうだ。今度君に見せてあげるよ。子供のころから僕が初めて作った映像投射魔法で撮影し続けた五十年分のNAMAHADA画像をね! いい思い出になるぞ!」

「おっしゃぁぁあああああああああ!!! 久々の夜のオカズ来たァァァアアあああああああ!!!」

「いざ行かん、我々へんたいの夢へ続くまばゆききたないロードへ――――」


 瞬間、綾斗とシーフルの頭部が床にめり込んだ。

 紗雪とフェイシリアの鉄拳が脳天に突き刺さった結果だった。同時にこの場に居る全員が「あ、この二人、同類アホだ」と団結した。してしまったという方がいいか。


「本当に、すいません」

「いえいえ。こちらも同じですから」


 ゆるくなった場を整えるように、フェイシリアは改めて表情を整え紗雪と向き合う。

 きっとこの先の会話は冗談では流せないものだ。そう紗雪は確信し、静かに息を整える。


「まず、あなた方の意思を問います。……リーシャを、どう思っておりますか?」

「どう、とは?」

「あなた方にとってリーシャはどんな存在なのですか?」


 それを聞かれて、紗雪は押し黙る。

 答えを間違えれば、今まで築いてきた何かが全て台無しになる。

 だが、間違える道理は無かった。


「親友ですね」

「……彼女が皇族の血を引き、そして女王を継ぐ運命であり、混血児であると知って尚その考えは」

「変わりませんよ」

「理由を聞いても?」

「いや、理由も何も――――それって親友じゃなく・・・・・・・・・・なることに関係あるん・・・・・・・・・・・・ですか・・・?」


 その答えに、周囲に居たエルフ全員がざわついた。

 何せ、皇族であろうが、混血であろうが、そんなもの知るかと一蹴したのだ。

 普通なら誰でも気にすることを、紗雪は簡単にひねりつぶした。その事実は、フェイシリアの眉を少しだけだが動かして見せた。


「皇族? 混血? エルフ? 異種族? 知らねぇよんなモン・・・・・・・・・。そんなもの気にしている程度の奴なら私はわざわざここまで来ていない。親友の頼みを聞いて、此処に来た。自分の意思で、此処に来たのよ。その私が今更皇族だとか混血だとか下らない問題を視野に入れてとやかく言うと思った? 馬鹿じゃないの・・・・・・・?」

「いててて…………そうそう、俺達に種族なんざ関係ない。信じたい奴を信じているだけだ。そいつが異形の化け物だろうが魔物だろうが悪魔だろうが、自分が信じた奴は何であろうが助けるんだよ」


 だらだらと流れる鼻血を埃だらけのスーツの袖で拭きながら、綾斗は立ち上がった。

 嘘偽りなど一切ない瞳で二人はフェイシリアを見つめ、迷いなく言い放つ。



「「『信じたならば最後まで信じろ。信じあえる仲間が困っているなら死ぬ気で助けろ。出来なきゃ死ね。』それが私(俺)を助けてくれた大親友からの譲り言葉よ(だ)」」



 言いたいことを最後まで言い切り、紗雪は溜まっていた熱気を吐き出し、綾斗は「してやったぜ」といった超絶ウザいドヤ顔表情で胸を張っている。

 当然、全員絶句していた。

 若干二名以外は。


「いたたた…………実に素晴らしい言葉だ。国民たちにも聞いてもらいたいね」

「ええ。とても胸に響きました。やはり娘の目に狂いはなかったようですね」


 シーフルは頭に乗った床の建材の欠片を掃いながら玉座に戻り、フェイシリアと共に微笑んだ。

 まるで長年待っていた友人と再会したような表情で。


「ならば、君たちに協力を仰ぎたい」

「……何でしょう」


 綾斗もヘラ付いていた表情を一新し、真剣な顔つきになる。

 もう冗談やおふざけの介入は許されないという事を、直感で理解したのだ。

 自分たちがしくじれば、全てが終わるという事を。



「この自己判断もできない哀れな国を、群がる同族から救っていただきたい」



 国王であるシーフルと、女王であるフェイシリアは共に頭を下げた。

 その壮絶な光景に、二人は息をのみ込んだ。



――――――



 獣人の少女は馬車に揺られながら、いまだに眠ったままのリースフェルト――――結城を見つめる。

 彼が原因不明の昏睡状態になってから、もう二日が経とうとしている。流石に時間が限られているため起きるまで待つという選択肢はなく、彼は寝たままの状態で馬車に運ばれ集団と移動していた。

 大集落、十数もの集落が寄り集まり作り上げられた獣人達の国、『獣王』の住処である場所に移動する集団と。

 護衛として付いて来ている獣人の中には、彼が未だに眠っていることに不満を持っている者もいる。

 だが言えない。彼が竜種の部隊を一人で蹴散らしたからこそ、集落の誰もが犠牲にならなくて済んだこととに気付いているからだ。竜種の集団相手に犠牲ゼロで勝てると思うほどこの大陸の獣人達は楽観的思考ではない。

 しかし考えを改める気も無く、故に彼らは無防備な結城に近付かない。

 恩義を感じているが、同時に恐怖もしているからだ。


「あ、ぁ~、う?」


 言葉が上手く喋れない獣人の少女は、やがてフェーアが仮の名前を付けた。

 エレシア、と。

 頭に浮かんできた名前を付けただけだが、獣人の少女は気に入ったらしく、少しだけ笑顔を浮かべていた。今でも偶に自分の名前を途切れ途切れにだが、繰り返し呼んでいるほどだ。


「うー、ぅえ…………あ、あ、りが……」


 少しずつ、言葉を出そうとする。

 だがその瞬間、あの日々が、奴隷として扱われていた忘れられない日々が脳裏にフラッシュバッグする。

 純粋な獣人達の『お遊び』によって両親を失い、途方に暮れ砂漠を彷徨い、孤児院にひこ取られて一時の抗服に身を寄せ、その果てに待っていたのは人間による拉致という絶望。毎日のように鞭による痛みで調教され、食事は砂の混じった泥水、一番よかったときは腐って数週間たった食べかけのパンだ。

 そんな地獄の様な、死ぬ方がまだマシな日々を思い出してエレシアは無意識に手を引っ込める。

 人間と獣人の両方に対して恐怖を覚えているのだった。

 獣人、というより自分のように人間の肌がかなり混ざっていたあの集落の人々になら問題なく接せられた。だが未だにアウローラや結城の様に、純粋な人間に触れるのを本能が拒否していた。

 ただ一人、ソフィという同じ境遇だった者以外は。


「ひっ、う、ぇ」

「…………」


 そう怯えながらも、エレシアは必死に手を伸ばす。

 この人が私を助けてくれたのだ、と。

 私を護ってくれたのだと。

 見ず知らずの自分の希望を与えてくれた、恩人と自分に言い聞かせた。

 指の先が、毛布の下にあった黒い肌に触れる。


「あ、ぅう」


 人間の物とは思えないほど黒く染まった肌だった。

 だが、それでも――――


「あた、だ、か…………い」


 温もりだけは、確かに感じられた。

 暖かかった。それを感じて、エレシアは少しずつ結城の肌に触れていく。


「……あり、がと、う」


 涙を流し、エレシアはそっと毛布の中にもぐりこんだ。

 そして迷いなく結城に抱き付いた。

 父親に甘える娘の様な顔で。


「……お父……さ、ん」




 まっ、窓から、キノコが。キノコが、生えている。

 男根みたいなキノコぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!??!?!


「うぉあぁぁあああああ白い液体飛ばしてくんなああああ失明するぅぅうわああああああっ!?!?!?」


 ――――あれ?

 気づくと、まるで倉庫の中のような場所に居た。周りにはいくつもの木箱や壺やらが置かれており、中から匂うのは鉄と塩の香りだ。武器と食糧だろうか。

 どうやらスキル習得のための昏睡状態が終了した様だ。計算上はもう二日経っているはずだから、恐らく馬車の中か。天幕に空いた穴から少しだけ流れる景色が見えることから移動手段に登場していることだけは間違いないだろう。

 しかし嫌な夢を見た。なんだあの悪夢は。窓の縁から触手みたいな男根が大量に生えてきて白い液体を飛ばしながら襲ってくるとか過去最大級の悪夢だった。つか二度見たら正気を保てる自身が無い。なんだあの精神攻撃。


【質問・本システムが作り出した目覚めに最も効果的な映像を脳に直接送りましたが、いかがでしょうか】

「お前の仕業かぁぁああああああああアアアアアアアアアッ!!!!!」


 糞が、糞システムが。ユーザーサポートするためにユーザーに攻撃してどうすんだ。

 恐らく今まで受けた傷で一番深く大きい物だろう。じつに有難迷惑のド畜生ファックオアファック。キルゼムオールと何百回叫べば気が済むだろうか。もういらねぇよこんなユーザー殺しのサポートOS。


【質問・謝罪は致しませんがそれよりユーザーの下半身にしがみ付いているそれは何でしょうか】

「謝れよっ! ……って、はぁ? 何言って――――」


 言われて自分の下半身に視線を向ける。

 ピンク色の髪と狐の耳がチャームポイントかも知れない獣人の少女が俺の股に顔を突っ込んで眠っていた。


「……………Oh」

【修正・ユーザーがペドフィリアの可能性を上方修正します】

「すんなぁぁあああっ!!」


 とはいえかなり不味い状況だ。

 幼女が股間に顔面ダイブ。オゥイェスダネ! とか言わねぇよ、うん。そういうこと言うのは綾斗だけで十分だ。俺までそんなキャラ付けしてしまったら紗雪が胃潰瘍になってしまうではないか。つーかマジで不味くないこの状況。起こすか? いや寝顔がスゴイ気持ちよさそうだし起こすのもなんだかなー。いやいやいや考え直せ俺、これマジで不味いって。他人に見られたらどう見える? 暗い部屋で幼女に○○○しゃぶらせている鬼畜野郎だぞ。やばい社会的に死ぬなそれ。でも綾斗は喜んで「FOOOOOOO!!」とか叫びながらマジでやりそうってそうじゃなくていくらなんでもあいつでもやらないか。アイツ年上好きだし。巨乳熟女マニアだし。曰く「JKに手を出そうとするやつはチェリーボーイな!」だそうだが手前もチェリーだろうがと突っ込んだのはいつ頃の話だろうかって違う違うそういう話をしているんじゃなくて今どうするかという話をしているんであって決して幼女にアレを舐められることに「あ、結構いけるわ」なんて世迷言ほざきながらかなり背徳感を覚えて快感に浸りたいわけでもなくて何言ってんだ俺は待て待て待て句読点付け忘れているしノンストップで思考回路大爆発しそうなんだけどおいサポートシステム働け俺はどうすればいい。俺は一体何人しゃぶらせればいい。答えてくれ五飛じゃなくてシステム、ゼロは俺に何も言ってくれない。ゼロ無いけどな!


【回答・丁重にお断りさせていただきます】


 こんな時ぐらいには役に立てや糞システムがああああああああああああああああ!!!! ゼロ○ステム

の方が未来予測できるあたりまだ有用だからマシじゃねぇか糞が! あれ碌なもんじゃないがな!


【理解・いつか未来予測が可能になるように尽力します】


 そういう事言ってんじゃねぇんだよこのポンコツッ!!


【提案・この喋り方いい加減面倒なんですが変えてよろしいでしょうか】


 知るかぁああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!


【困惑・ユーザーが混乱状態に陥りました。どうするべきでしょうか】


 それを俺に聞いてどうするんだよ。

 駄目だこのサポートシステム、役に立たないわ。ごみ箱フォルダかアンインストールコマンドは何処だ。

 いやそれより早くこの状況を何とかしないと。不味い。(社会的に)死ぬ。


「つ、着いた、よ?」


 うんわかってた。誰か来るってことぐらいわかってたよ畜生。

 案の定というか、知っている声だった。アウローラ。彼女が幕を避けてこちらに顔を見せていた。

 そしてこちらを見た瞬間、その表情が凍り付いた。


「は、ははは……」


 もう乾いた笑い声しか出てこない。どうしよう。死にたい。


「……ずるい」

「え」

「私もそれやりたい!」

「ちょっ!?」


 何を勘違いしたのか、アウローラは起こりながら俺の股間に飛び込んだ。

 なんで、どうしてこうなった。なぜ俺は幼女二名にキンタマクラなどをせねばならない状況に陥ったのか。そんなに俺が憎いか神よ。死ね。ファッ○。ゴッド○ァック。神様のサノバ○ッチめ。


「急に飛び込んでどうしたのアウローラちゃ…………ってリース!? 起きて――――え?」

「………………あー、えーと」


 止めとばかりにフェーアが入ってきた。

 顔から血の気が引く。

 フェーアが身体を震えさせる。確実に起こっている。激怒している。フェーアは激怒したとか今そういう事考えている場合ではない。不味い不味い不味い死ぬ死ぬ死ぬ犯される食われるッ!!


「わっ、私という物がありながら……!」

「いや待って。せめて話を聞いて。というかどういう意味それ!?」

「私はいつでもあなたの欲望を受け入れられるというのに、無垢な子供たちに手を出してっ……――――せっ、せめて掃除を……」

「待ってって言ってるよね!? いやまってそういうのじゃないから。決してやましいことやっていたわけじゃないから!」

「ああ、あの味か恋しい……」

「完全に欲望に従っているだけじゃねぇかぁあああああああああああああああああ!」


 貞操の危機を感じて爆発するような勢いで起床。股で挟んでいた二人に極力気を使いながら両足で床を踏みしめてこちらに涎を(少しだけだが)垂らしながら凄い形相で迫ってくるフェーアに接近。


「私、やっぱりあなたに――――」

「ごめんなさいまた今度ぉぉおおおおおおおおおおっ!!!」


 再加速してフェーアの脇をすり抜け、馬車の外へ出る。

 まぶしい陽光が目を刺す。二日も眠っていたのだから目が慣れずに一瞬視界が真っ白になるがそのまま走る。地面は砂ではなく普通の乾いた土であることから、特に転んだりもせず全力で走れた。


「待って! お願い、一回だけでも! 先っちょ、先っちょだけだからぁぁ――――――!?」

「ひぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!??!?」


 股間と尻の穴が警報を鳴らす。

 あの時の事を思い出す。


『あぁっ、奥にっ、出され、っ~~~~~~~~~!!』

『し、尻がっ。か、身体が、干からび、て…………ごふっ』


 そう。記憶は途切れ途切れだが、なんだか前立腺を長い棒か何かで刺激されながら行為をしていたような覚えがある。しかもかなり太い奴で。

 男としての尊厳を正面から崩しに行っている。もう二度とやるもんかあんなプレイ。

 だから走った。視界が戻ると、正面に気の策に囲まれた――――フェーア達の住んでいた集落を何十倍にも膨らませた様な集落があった。いや、巨大な塔らしき建築物などが建っていることから、国ともいえるだろうか。


 ――――塔?


 ぶるっ、と体に怖気が走る。

 だが今は、後ろのケモノをどうにかせねば本当に生死の境を何度も彷徨うことになる。

 という事で俺は全力疾走して、こちらを邪魔しようとしてきた犬や狼の頭を人間にそのまま取り付けた様な獣人衛兵たちを徒手空拳で蹴散らし、本能のまま無理やりその集落に入り込んだ。

 やっちまった。と、やった後で後悔した。

 もう後の祭りだが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ