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第五十三話・『土は今起きる』

 豪華な家具が揃いに揃い、煌びやかな照明が当たって実に目に優しくないほど輝くこのVIP専用エリア。

 その中で普通の平民では確実にお目にかかれないであろう超高級ティーカップの取っ手を取り、エヴァンはその中に注いであったカプチーノを一口飲む。


「ふむ、相変わらずいい足駄。サンディーノ産の珈琲豆とリォヒュス産の牛乳は」

「そんな呑気に珈琲など啜っていてもよいのか?」

「ならどうしろと。今俺にできるこたぁねぇよ」

「そうではない」


 同じ部屋にいたオルドヌングは、呆れたようにため息をつく。

 彼は、誰から見ても焦りが滲み出ているように見えた。

 まるで今にも自分の命より大切な何かが失われようとしている――――そんな焦燥を見てエヴァンはアホか、とつぶやいてティーカップをテーブルに置いた。


「じゃ、なんだ。会談を無視して今にでも救出に行くか? それこそお断りだ」

「理由は」

「言うまでもないだろ」


 今この高速船で向かっている国、帝国『フェーゲフォーイヤー』には今回で最後の会談だ。

 元々こちらから投げかけている会談提案であり、ここで延長などと口走ってみればその後は一方的に断られるに決まっている。そもそも今回の会談自体、何十回も交渉を続けてやっと手に入れた機会。

 今この機械をふいにしたら、そこにあるのは地獄だ。

 一体何十万、いや何百万何千万の犠牲が出るのかもわからない糞みたいな国家間戦争。


「……もしかしたら、これを狙って俺たちを呼び寄せたのかもしれないな」

「あの国が裏で糸引いていると?」

「可能性の一つだ。もしかしたらもっとヤバい奴らかも知れない」


 エヴァンはごまかすように肩をすくめて、ティーカップを取る。


(ま、そんなわけないな)


 いくら帝国とはいえ、現在は殆どの国と国交を断絶している状態だ。そんな状態で貿易など当然不可能だし、いくら国内に資源があろうとも節約して使わなくてはいけない身。最新兵器を造れるだけの余裕は殆どない。それに今の時代、あんな最新技術の結晶は『工房』が独占しているのだ。

 ならば自動的に、今回襲撃してくる『工房』自体が糸を引いているか、その技術の恩恵を受けている国からのバックアップを受け取っていると推測できる。


(……『工房』自身が事を動かしている可能性はあるが、こんな回りくどいことはする必要がない。俺を脅威に思っているなら、懐刀の『天使』を引き攣れて来れば解決する話だろう)


 今の『工房』は今エヴァンとオルドヌングが載っているステルス高速飛行船を創り上げるほど、この世界では断トツで技術が突出している。当然、この技術力を使えば国一つ吹き飛ばせる兵器など作れないはずがない。

 こんな回りくどいことをせず、相手は直接正面からぶつかれるのだ。

 それに貿易国を潰すと言う行動にメリットが存在しない以上、可能性は低いだろう。


「焦っているのか、エヴァンよ」

「今のテメーに言われたくねーよ老ボケ。さっさと寝るか成仏しろ」

「貴様が言えることか」

「黙れよ餓鬼」

「くたばれ糞爺」


 邪見な空気を漂わせたまま、二人は会話を止める。

 窓から見える夜空を、エヴァンは静かに見た。


(…………亡国の復讐鬼、ね)



――――――



「ランス・オブ――――」

「『紫電よ、今昂りたまえ。触る物すべてを跳ね返せ』!!」

「グロォォォォォォオオリィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」

「ライトニング・ディスマタァァァアアッ!!」


 ハインとエドヴァルドは、まさに『破壊』という言葉がふさわしいほどの激闘を繰り広げていた。

 その右手に持っている騎馬槍ランスをハインが魔法の加護によって加速させ投擲。

 それを見てエドヴァルドはシールドを張って防御する。

 その度に周囲の物体がことごとく破壊されていく様は、援軍に雇用都市tあ騎士たちを追い払うのに十分な効果をもたらした。

 それ以前にハインにとって雑魚が来ても足手まといなだけなので、こっちの方がある意味楽だともいえよう。


「しぶといですねェッ! これが子供に対する態度ですか大人げない!」

「ふっざけんなッ!! レベル400オーバーのガキが居て堪るか! クソッ!」


 彼ら二人の実力は拮抗していた。

 エドヴァルドのレベルは、推定でも400オーバー。

 対してハインも同じく400は優に超えていると言える。 

 実に可笑しな事実だった。


「一体どうやって経験を積んだ……! まだ十代前半の身で、一体どうやって!」

「まぁ、言いたい事はわからなくもないですが――――敵に手品の種明かしをするほど、僕は能天気野郎ではないので」


 右の掌から強力な力場を発生させたハインは、投擲した自分の騎馬槍ランスを呼び戻す。

 そして盾を前方に構えて突進。猪も涙目の速度で巨大な楯が進撃してくる口径に多少ながら恐怖を感じたエドヴァルドは後ずさりそうになる。

 しかし彼は唇を噛み千切り恐怖を拭うと、右手の片刃剣サーベルにその血を塗り放電させた。



「子供を殺す趣味はないんだがな――――法の雷撃レヒト・ブリッツ!!」

「――――がァァァァッ!!!」


 横一文字に薙ぎ払われた極太の雷撃。それを正面から盾で受けたハインは、強力な電流を脳に流し込まれたことで一時的に行動不能へ陥る。

 今の一撃で炭にならなかったのを褒めるべきだろうか。


「耐えた、だと!?」

「最高レベルの耐魔法を持つシルヴァリオミスリルでも、この威力……!」


 完全に防ぎきれないことにハインは小さく舌打ちをして素早く回復。

 自分の身の丈をはるかに超える巨大な楯を振りかぶり、限界まで引いた腕を撓らせるようにして振る。

 すると盾は回転しながら、まるでブーメランの様にエドヴァルドへと飛んでいく。

 大技を出した直後であるエドヴァルドはそれを弾くことはできないと直感し、背中ら仰け反らせた。

 回転している盾は勢いよく進み――――急に停止した。

 エドヴァルドの真上で。

 推力を失った盾は重力にした以外落下。計二百キロもの重量がエドヴァルドへかかる。


「ぐふっ」

「今だ――――!」


 ハインは両足を地面に沈ませ――――爆発的な速度で駆け出す。

 腰に騎馬槍ランスを構えて猛スピードでの突き。全重量と速度を乗せた一撃が、盾を退けようとしたエドヴァルドを突き殺そうとする。


「いや、違うな」


 即座に反応したエドヴァルドは盾を退けずに、自分を護るように前に立てた。

 そう、ハインのミスは一つ。

 自分から相手に防御の手段を与えてしまったことだった。

 だが――――


「で?」


 ハインは構わず突きを入れてきた。

 巨大な騎馬槍ランスは、盾を貫通・・した。

 その奥に居たエドヴァルドは顔を青ざめた――――直後に腹に巨大な槍の先端が突き込まれ、ミチッという肉が裂けるような嫌な音がする。


「ご、は――――!?」


 突きによる衝撃で、エドヴァルドは吹き飛ぶ。

 貫通しなかったせいで衝撃のエネルギーを正面から受け止めてしまい、エドヴァルドは結果的に超速度で吹き飛んでしまった。後ろにあった建物などなどを綺麗に貫通しながら粉塵を上げていく。

 槍で貫いた盾を放り捨てて、ハインはゆっくりと倒れ伏したエドヴァルドへと近づいて行く。


「僕がわざわざ相手に盾を貸し与えていることを気づかない馬鹿だと思っていたんですね」

「ぐ、う……は」

「残念ながらそれも考慮済みで、盾はある部分の一点に強い衝撃が加わったら自動的に分子結合を緩めるように細工してあります。言っては何ですが、僕の方が一枚上手でしたね」

「まんまと、俺は……策に引っかかったわけか」

「そういう事です。仮にその場所を避けていても、盾ごと吹っ飛んでいくだけですけどね」


 小さく笑いながらハインは騎馬槍ランスを両手で持ち、大上段に振り上げた。

 正確に、エドヴァルドの頭を潰すように。


「……子供に殺しをさせるとはな」

「それがなにか。僕は騎士です、この国に仇なすものは残らず殲滅する」

「やっぱ、変わってないな。この国も!」


 額に青筋を浮かべたエドヴァルドは、怒りのままに拳を地面に打ち付ける。

 傍から見たら、ただの八つ当たりに見えた。

 ハインも、そう思ってしまった。

 故に遅れた。



 ――――突如出現した巨大魔法陣の対処に。



「ッ!? 聖域のゲート・オブ

「遅い――――『真実の光ルクス・ヴェーリ』」



 魔法陣から光があふれる。

 それは二人を包み込み――――無慈悲なまでの高圧電流によりハインのみが焼き尽くされた。

 勿論エドヴァルドも少なからずダメージは負っている。

 しかし彼の『性質』のせいか、総合的にはハインだけは何十倍ものダメージを受けた。

 光が治まると、ハインは体の数か所から黒い煙を出してその場で佇んでいる。

 数秒後エドヴァルドが立ち上がり、軽く肩を叩いて通り去る。

 後ろで何かが倒れた音が聞こえても、エドヴァルドは振り向かなかった。



――――――



 自分の図体を上手く利用し、ジョンは瓦礫が積もった自宅の扉を蹴破る。

 ガラガラと壁の破片や焦げた木材などが頭に降りかかる中、息を荒げながら辺りを見渡す。


「ミナ、ミハエル! どこだ!」


 返事が来ないことに恐怖を覚えながら、ジョンは二階へと駆け上がった。

 片っ端から扉を開いて行き、人が隠れられそうな場所を隅々まで調べていく。

 クローゼット、ベットの下、天井裏――――やがて最後の部屋にくる。

 迷わず扉を開くと、強烈な熱風が顔を撫でる。


「おい、返事をしてくれ!」


 泣きそうになるのを我慢しながら、ジョンは燃え盛る部屋に飛び込む。幸い床にはまだ燃え広がっていないのか、ジョンが乗ってもだま床が抜けないぐらいには強度は保たれていた。


「くそっ、くそっ!」


 叫びながら燃えている家具を退けて、人影がないか探す。

 そしてついに、見つけた。

 クローゼットの中で衣服に包まって熱から体を護っているミナと、ボロボロの体のミハエルを。

 喜びで踊りそうになるが、残念ながら二人の様子を見るとそんな場合ではないのがわかる。

 クローゼットを開いた瞬間、ミハエルの身体は横たわった。

 ミナの顔色もひどく悪いのが伺える。

 自身の父親を認識したことで、少々改善されたように見えたが。


「おと……さ」

「ミナ、大丈夫か!」

「ミハエルさ、ん……が。私だけ……服で包んで」

「わかった! もうわかったから、急いで出よう!」


 ジョンはミハエルを背負い、皆を抱くようにして持ち上げる。

 総重量は百キロを上回っていたが、不思議とジョンは羽のように軽く感じた。

 二人の命を助けるならばこんなもの羽ぐらい軽いという事か。

 歯を食いしばりながらジョンは来た道を戻ろうとする。

 が、もうすでに床に炎が燃え広がっていた。

 今の状態で進もうとすると、床が抜けるかもしれない。その二谷は何が待ち受けているのかわからない以上、乗るわけにはいかなかった。

 舌打ちしてジョンは窓の付いている壁と向き合う。

 そして――――蹴った。

 壁は炎と老朽化により脆くなっていたのか、軽く吹き飛んだ。

 下は幸い街道。

 降りても問題ないだろう。


「ふっ!」


 掛け声を出しながら跳躍。

 直後、ジョンの後ろから何かが崩れる音が何度も何度も大きく響く。

 ジョンはそれに対し何も言わなかった。

 衝撃を限界まで殺しながら着地すると、ジョンは二人を地面に卸してポーチから薬品類を取り出し始めた。


「気づけ薬は、確か黄色の……」


 黄色の小瓶の線を開け、ジョンはその小瓶の中に入っていた黄色の液体をミハエルの口に流し込む。

 そしてそれに応えるようにミハエルは激しく咳き込みながら、灰色の煙を吐いて目を開く。


「ほ、ごっ、ごほっ、はっ、っ!」

「よし起きた! 大丈夫か。体に異常は」

「だ、大丈夫、だ! 大丈夫。煙を吸っただけだから、どんなにひどい状態ではないよ」

「ああ、よかった」

「それより、ミナはどうしたのかい」

「無事だよ」


 そう言ってミナを包んでいる衣服を剥いで、ジョンは身体の安否を確認する。

 特に目立つ傷がないことがわかると、ジョンは緑色の液体、つまりポーションを取り出して二人に飲ませた。これでしばらくは問題ないだろう。


「この後は、何処に」

「避難場所に行くに決まってるだろ。どこか行きたい場所でも」

「いや……この騒ぎを止めに行かないのかい、と言っているんだよ。ジョン」

「は?」

「君の力なら、事態の解決の貢献ができるんじゃないのかい?」

「それは……」


 その問いに対しジョンは口ごもる。

 もう二度と使いたくもない力を使え。

 嫌に決まっている。

 こんな、誰も守れはしない力など。


「……俺は、弱いんだよ」

「お父さん……」

「もう、戦う側は御免だ。全てを出し尽して、大切な者一人守れない苦しみなんてもう味わいたくないんだよ」

「じゃあ、どうするんだい?」

「決まっている。俺は、戦わない。皆と逃げるんだ。そうすれば――――」

「馬鹿かい君は」


 ミハエルは心底呆れたように、怒りを含んだ声でそう言った。

 いつもなら絶対に見せない怒気のある顔で。


「守れないから何もしない? 何もしない方で背中を向けるのがいい? ふざけるな。君は力がある。力があって立ち上がらないなど、それは力無き者に対しての侮辱だ」

「…………ミハエル」

「いい加減、眠りから覚めたまえ『雷神』。大切な者を失ったのは君だけじゃない。でもその中には、その悲しみを力に変えて前に進んでいる者もいるんだ。なら、君も今そうするべきだ」

「俺は」

「何時までもくよくよしていないで、瞼を広げたらどうだい。――――君が何もしなかったせいで、ミナを死ぬなんてことになったらどうする。それこそ、間違った選択だ」

「………俺はッ」


 ジョンは両手を握りしめる。ガントレットが軋みを上げて、震える。

 相反する感情が悲鳴を上げる。

 自分はどうすればいい。

 傍観者になるか、それとも――――



「ッ――――危ない!!」



 ジョンが振り向くと、不気味に光る雷撃の姿がそこにあった。

 恐らく流れ弾の様な物なのだろう。だがそれは確かに、自分とそばにいる二人に向かってきていた。

 今の自分では、止められない。

 だが、封じていた力を使えばあるいは――――


(できるのか)


 わからない。

 それでも、


(……………………………………………………すまない、アリサ)


 やる他あるまい。

 そうだ。

 何年も引きずってはいけないことなど、とっくの昔からわかっていた。

 わかっていたけど、自分が許せなかった。

 いや、許してはいけないのは今も同じだ。

 だが、それが



 ――――娘の、親友の命を助けない理由には、なりはしない。絶対に――――



 両手両足に限界まで力を入れる。

 瞬間、それぞれの指に存在していた何かが爆散した手ごたえがあった。


「『宿れ、英姿颯爽の戦神の力よ。天衣無縫なる雷霆の神威は邪悪を討ち、獅子奮迅の咆哮を鳴らす』」


 左足で地面を踏む。

 バコン、という音と共に、首位一体の地面がめくりあがった。当然、二人の場所だけを除き。


「『我が名は【雷神トール】。今こそその名を借り受け、人々を脅かす厄を払おう』!!!!」


 ジョンは、渾身の力を込めて右腕を突き出した。

 人知を超えた雷撃を纏った右拳を。


「久しぶりの技だ、耐えろよ俺の身体――――」


 今放たれる。

 かつて『雷神トール』と呼ばれた、元SSランカーの一撃が。




「『穿つは荘厳なる神槌トールハンマー』」




 真っ黒な夜空に、一つの稲妻が昇る。

 宙を照らし、白く輝くそれは人々にとって何に見えたのだろうか。

 全てを貫く一撃は迷わずあの雷撃が飛んできた方向に向かっていった。

 放たれた攻撃の射線上の物体は全て消滅しているか溶解しており、正面から受ければただでは済まないだろう。しかしジョンには、まだ犯人が健在だと感じていた。

 長年の勘が、そう言っているのだ。

 間違いはない。


「……これは、凄いね」

「元ギルドのエースは伊達じゃない」


 にっこりとジョンは笑顔をで、二人を見やる。

 二人とも苦笑いだった。

 しかしそこには確かな喜びが見れた。


「ミナは任せてくれ。私が責任を持って避難させる」

「ああ。頼んだ、親友」

「頼まれたよ、親友」


 ミナが、真っ直ぐジョンを見る。

 それに対しジョンは、ミナの頭を軽く撫でた。


「行ってくる」

「……うん!」


 かつて『雷神トール』と呼ばれた男は、ただの人間だ。

 笑うし、怒るし、たまには悲しむ。

 それでいい。

 彼は一児の父でいいのだ。

 だけど今夜ばかりは――――全てを破壊しつくす阿修羅となる。

 ジョン・アーバレストは全身に雷を纏い、跳んだ。



――――――



「ヒャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「るっせぇッ……!!」


 奇声を叫びながらロートスは不気味に空中回転しながら銃口から光線をばら撒く。

 敵味方無差別。いや自分以外味方などいない、という考えからロートスはこれ程に容赦なく攻撃を雨の如く降らせられるのだろう。例え味方が居ても彼なら「知るか」と一蹴しそうだが。


「これじゃどっちがテロリストなのかわかんねぇなもう……」


 俺はそう言いやりながら近くにいたテロリスト(らしき男)を横目で見やる。

 鎖で作った繭の様な物で飛んでくる光線を全て弾き飛ばしながら、鎖を飛ばしてロートスを掴もうとしている。しかしロートスは正確にそれを撃ち落し中々実行させてくれない。

 まるでもう対策済みだと言わんばかりだ。

 先程から何もしていないのが癪に障ったのか、テロリストは鎖をこちらにも向けてくる。

 しかし反重力という斥力場を周囲に張っているので届くはずもない。

 堪忍袋の緒が切れたのかテロリストは身の回りに展開していた鎖を集めて巨大な腕を造る。そしてこちらに向かって突き出した。

 斥力場と言えど俺の周囲に展開しているだけ。地面ごと吹き飛ばせばどうにかなると考えられたのだろう。

 しかし違う。

 別に俺は自分の周りにしか重力を発生させられないわけでは無い。

 というわけでテロリストの居る空間に強力な重力を発生させた。ざっと通常の五十倍ほど。


「ごうっ……!?」


 鎖で作られた繭から悲鳴が聞こえる。

 いや、実に便利だ。この能力。

 イリュジオンを握っている時にしか使えない&使いほど体を侵食されるのが傷だが。

 後者結構酷いデメリットじゃないか、とは思うが。

 右腕が痛み出した。

 さっさと決着をつけよう、とロートスが放った光線全てを捻じ曲げてテロリストへと向ける。

 ついでに新技も披露しよう。

 イリュジオンの『疑似重力フェイクグラビティ』を利用した遠距離攻撃技・・・・・・


「貫け、魔弾」


 長剣ロングソード超体のイリュジオンを振るう。

 するとその軌道上に幾つか黒い球体が出現した。

 ほんの直径二センチほどの球体だが――――その貫通力は絶大の言葉しか残らない。


「『ディメンション・レイ』」


 術名を呟くと、球体が蠢き――――真っ黒の光線を放つ。

 全てを消滅させながら突き進むそれは『魔弾』の言葉がふさわしいだろう。

 強力な重力を内包させたこの攻撃を防ぐ術は無い。

 テロリストに無数の白と黒の光線が向かっていく。



「舐めるな、よ…………餓鬼どもが……!!!!」



 跳躍。

 ほとんど視認できない速度でテトリスとは地を蹴り、空中に舞い出た。

 反応が遅れ光線はそのまま通り去り、どこかへと突き刺さる。

 ちょうどその頃滞空していたロートスも着地し、不機嫌そうな目で空を見る。


「手加減していれば調子に乗りやがって…………この、糞餓鬼がぁぁぁああああああああああああああ!!」


 逆切れだろ、と言う暇もなくテトリスとはここ一帯の地面から数千では収まりきらない数の鎖を出現させる。それをこの区画中に張り巡らすと、自分は鎖で練り上げた塔に着地しこちらを見下ろした。


「はぁ……はっ…………もう、いい。遊びに付き合うのは飽きた」

「アンタが勝手に入り込んできたんだろうが」

「うるさぁぁぁあああああああああああい!! 口答えするなぁぁぁッ!!」

「……子供かよ」


 こちらのことを餓鬼だなんだ喚き散らしている癖に、あちらが一番餓鬼という皮肉。

 自己中心的、傲慢、我が儘――――ああ、うん。


「…………餓鬼って、アンタが言えんのか」

「……言ったな? このエウレル・ヴォルガーを? 餓鬼と言ったな貴様」


 なんか勝手に名乗ったけど、どうやらエウレルと言うらしい。

 どうでもいいな。


「もういい。貴様らはここで殺す。せいぜい楽に逝けることを祈るんだな!!!!」


 何かしようとするのが見える。

 させまい、と右腕を動かそうとすると、何かが引っかかったように右腕は動かなかった。

 見れば鎖が何十本も右腕を締め付けていた。


「――――ッ!?」


 本能的に、不味いと感じた。

 歯噛みしながら足掻こうとするも、次々と四肢に鎖が纏わりついてくる。

 ロートスも同様。銃を撃とうとしたが指事態を絡め取られて行動不能に陥っていた。


「てめ――――」


 何かを言おうとしたロートスの口に鎖が巻き付く。

 その後数秒でロートスは鎖に全身を包まれ――――俺は嫌な予感がした。



「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」



 悲鳴らしきものが、鎖の向こうから聞こえてきた。

 地面に赤い液体が、少しずつだが広がっていく。それが血だと理解するまでそう長くはかからなかった。

 そしてその脅威が自分にも迫ってきているという事も。


「『疑似重力フェイクグラビティ』!!」


 瞬時に自分の周りに反重力を発生させる。

 もう大丈夫だ――――などと言う油断をした時点で、俺は自分の盲目さを愚かに思わなかった。

 右腕に纏わりついている鎖が、微小なワイヤーへと変化していっていた。

 ピアノ線の様に細く、鋭い線へと。


 ザシュッ。


 右頬の真っ赤な液体がかかる。

 ……自分の右腕が切断されたのだと気づくまで、何秒かかったのだろうか。


「………………………え?」

「終わりだ」


 イリュジオンを手放してしまったことで、『疑似重力フェイクグラビティ』が解ける。

 我を取り戻した瞬間に、アイテム欄から土色の透明な宝石を取り出そうもう遅い。

 鎖が自分の全身を締め殺そうと迫る。


(……まだだ)

 ――――お兄さん、死んじゃうの?

(まだだ――――!!)

 ――――そう……そうこなくちゃ。


 脳内にサルヴィタールの声が響き渡る。

 一瞬、自分が何かと切り離されたと感じた。

 口の中に何かがあった。

 反射的に、それを噛み砕いてしまった。

 それでいい。


 ――――こんな所で死んでもらっちゃ困るよ。折角長い時間をかけて君の体を一瞬だけ操作したんだから。その苦労に見合った見返りをもらわないとね。


 心臓は、一度だが大きく膨らんだ。

 アドレナリンが大量分泌され、意識が遠のいてゆく。

 入れ替わった・・・・・・

 久しぶりの感覚を味わう。


 右足の骨が砕ける勢いで地面が蹴られる。

 瞬間大跳躍。俺の身体を乗っ取ったサルヴィタールは切断された右腕を一瞬で回収し、迫りくる鎖らを回避しながら空高く飛んでいた。

 張り巡らされている鎖に着地すると、我の身体ながら実に黒い笑みを見せながらエウレルを見下ろした。

 右腕から発せられる痛みなど気にもしていないのか。


「いやいや、実に見事だ。あー、僕も一瞬死ぬかと思った」

「……僕?」

「気にしなくていいよ。今殺すから」


 サルヴィタールは自分の『現身の力』をフルに発揮して粉々になった右足を一瞬で修復し、切断された右腕を無理やり接着し傷を完治させる。

 致命傷ともいえる傷がたった数秒で回復したのにも関わらず、サルヴィタールはその直後にとんでもないことを仕出かした。


「く、鎖が……侵食われていく!?」


 乗っていた鎖から別の鎖へと、侵食を開始した。

 サルヴィタールの属性は『土』。しかし彼は厳密に言えば金属さえ生成することのできる、いわば地質変化のスペシャリストと言える。錬金術で変換したと言えど金属。

 元『土の守護者』に支配できない道理がなかった。

 金属変換系の錬金術師とは、相性が最高と言えた。

 相手にとっては最悪極まりないが。


「さて、お礼をしなきゃね」


 鎖の八割を支配しただけでなく、周囲数キロの地面を支配下に置いたサルヴィタール。

 エウレルは絶句している。

 自分のアイアンティティを殆ど奪われただけでなく、正面から打ち負けた事実をそう簡単に認められないだろう。彼は最後の悪あがきに出ようとしたが――――それさえもサルヴィタールは許さなかった。


「『集え星の欠片よ。かつて星上せいじょうを支配した巨人を模し、今その力を持って眼前の悪を討ち滅ぼさん』」


 右腕をすっと空へと向けた。

 反応して鎖と、土が、一点に集まっていく。

 それはすぐに造られた。

 神話上で、かつて神と戦争をしたと言う種族を模した人形が。


「『其の名は巨人族ギガース。神に戦いを挑む、誇り高き種族なり』」


 全長百二十メートルの土人形が、サルヴィタールの後ろにあった。

 それを見たエウレルがどうなったかは、言うまでも無かった。

 顔面を蒼白にし、上げていた腕を力なく下に垂らすその姿は、誰がどう見ても憐れな小動物にしか見えなかっただろう。



「『打ち下ろせ、その孤高なる剛腕を――――打崩せ巨人の剛撃ギガース・インパクト』」



 ヴァルハラの街が、今一度大きく揺れた。





・おまけ

 撃退した『帝国残滓エンパイアリービング』のステータス



【ステータス】

 名前 ニヒト・フェッセルン・セヴンズライフ HP3380000/3380000 MP1780000/1780000

 レベル915

 クラス 極・暗殺者マスターアサシン

 筋力778.91 敏捷999.99 技量927.01 生命力640.89 知力804.67 精神力684.33 魔力591.10 運4.80 素質13.50

 状態 正常

 経験値17809992/2230000000

 装備 秘刀『鬼断おにだち』 苦無『黒鴉くろからす』 気配消しの黒装束 黒色のマフラー

 習得済魔法 無し

 スキル 刀剣類999.99 暗殺999.99 戦闘続行389.04 存在隠蔽999.99 絶技・暗刀999.99 早熟??.?? 威嚇99.99 罠張り45.90 逆境返し??.?? 分身99.99 【ERROR】



【ステータス】

 名前 エウレル・ヴォルガー HP981000/981000 MP5890000/5890000

 レベル563

 クラス 最上級錬金術師スプレームス・アルケミスト

 筋力355.22 敏捷438.18 技量650.85 生命力341.70 知力895.69 精神力403.73 魔力896.34 運2.90 素質7.10

 状態 夢魔サキュバスの呪い99.99

 経験値3889100/187200000

 装備 アナザー・ペンデュラム×10 錬金術師の正装 魔力増幅のブーツ

 習得済魔法 【神代錬金術】

 スキル 錬金術999.99 材質分析99.99 薬品製造99.99 鎖術180.91 高速錬成99.99




・なぜ撃退できたか解説


 まずニヒトの方ですが、はっきり言って『遊び気分』であり全く本気を出していないことが原因です。

 彼女に関してはあくまで『仕事』、つまりビジネスで来たのでありそもそも出された任務が『爆破による敵のかく乱』なおかげで、暗殺専門の彼女は本気を出したくても出せませんでした(それでも十分強いけど)。

 彼女が本気で主人公サイドを殺しにかかろうとすれば三十分かからずに壊滅します(罠、暗殺、奇襲等)。なのでリーシャ、綾斗、紗雪の三人が数秒で戦闘不能に追い込まれました。

 (ゴリ押しと言う名の)ビジネスと言う理由で、彼女は興が覚めたところで帰ってもらいました。いや、こんな序盤で本気出されたらマジで全滅しかねませんもん。(それほどアホみたいに出鱈目な敵を出した私自身にも問題はあるのですが)


 次にエウレルの方ですが……若干不遇です。

 彼に関してはHPが低すぎることと、そもそも彼は前線で戦うタイプでも、少数を相手にするタイプでもありません。はっきり言って後衛で前衛を支援しながら便利道具で大量虐殺するタイプです。

 おかげで全てのスペックを出し切れなかった、と言う理由で早々に退場してもらいました。ロートス君仕留めただけでも十分戦果を挙げたと言ってもいいのかね。

 それと相手が相性最悪だったと言う点でも、彼は運が悪かったと言うしかありません。結城だけならともかくサルヴィタール相手するにはさすがに分が悪すぎました。彼も錬金術師みたいなものですし。

 本当なら接近して人格チェンジした結城に達磨にされる予定でしたが、流石に可哀想なので派手に吹っ飛んでもらいました。死んでませんけど。

 でも主人公相手に治ったとはいえ右腕を切り落としたと言う活躍は十分華々しいと思うんですよ私は(ロートスは左腕丸ごと吹っ飛ばした((しかもその時点でまだ完治していない))けど気にしない)。

 正直ハガ○ンの父上ぐらいは活躍してほしかったと言うのは内緒。割ける尺がもうないんだよ!




今更だけどサルヴィタールさん妙に結城に話しかけなかったねと言うのは内緒。

だって結城さんが喋るなって言ったんだからきっとしゃべらなかったんだよ。

今回美味しいところ持って行ったけど。

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