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第三十八話・『逃亡の始まり』

ルージュが体力の割に弱すぎる気がしたので若干強化しました。

「アはッ」「ヒヒっ」

「ごっ――――」


 双子の同時に繰り出された回し蹴りが顎を襲う。抵抗する問題以前に、先ほど金縛りが説かれたので身動きや防御もできないままそれを喰らい、吹き飛んだ。

 顎が割れるかと思うほどの威力に痛点を正確に狙った蹴り。素人ではまずできない動きだとは速攻で分かったが、まずどうしてこいつらがそんな技術を持っているのかが疑問だった。ただ剣に生まれた人格のはずなのに人体の構造を把握しつくしている。敵になれば間違いなく厄介な奴になる。

 地面と思わしき黒い空間を何回か転がり、顎を抑えながら立ち上がる。

 軽く体をさすってみるが、飛び散っていた内臓などはすっかり元通りになっている。というか健康体そのものだ。裸で肌が妙に白いのが気になったが、殺されるかも知れない状況ではそんなものは些細なことだろう。

 とにかく金縛りが解けた。あの苦痛や精神攻撃からようやく解放されたかと思うと腰が抜けそうだ。

 妹が目の前で殺される夢を何時間も見続けるのは、危うく精神が崩壊するところまで追い込まれるものだ。はっきり言って今もそ光景が目に焼き付いていて気持ち悪い。障害で味わった不快感ベストスリーに食い込むだけでなく間違いなくトップだ。

 そんな悪夢を見せてくれた双子にはたっぷりと礼をしなければいけないだろう。あの謎の人格は理由はわからないけど消えた。つながっている感覚はあるが少なくとも存在は感知できない。

 紗雪か綾斗、もしくはリーシャあたりが何とか上手くやってくれたのだろう。とにかく止めてくれた奴には礼を言っても足りないくらいだ。

 痺れが残っている体をほぐし、白色の双子を見据える。


「あれれー。もう終わっちゃったかー」「面白くないなー。もっと遊びたーい」

「……お子様の遊びに付き合ってあげられるほど暇じゃないんでな」


 純粋な、素で激怒の感情が生まれてくる。

 生まれて初めてではないが、純粋な怒りを感じたのは生涯で三度目だ。今を含めて。

 両手を握りしめる。幸い左腕は義手ではない。これなら全力で迎撃できそうだ。


「いい機会だ。お前らを潰して、俺の中に入れないようにしてやる」

「できるかなー?」「でっきるかなぁ?」

「フッ!!」


 挑発的な言葉を無視し、約二十メートルほど空いている距離を――――一瞬でゼロにする。


「あれー?」「あれれ?」


 縮地。武術の達人にしかできないという距離短縮法の一種。

 瞬時に相手との間合いを詰めるために使われる体捌き。中国では仙術の一つとして扱われていたらしいがこの際そんなことはどうだっていい。元の世界にいたころ紗雪に剣道を仕込まれたときに教わったが、まさか役に立つ日が来るとは。今までは相手との距離が開くことが少なかったのであまり使わなかったが(そもそも距離を開けさせなかったが)、相手の不意を突くときには最高の手だ。

 そんな縮地を使い、ほぼ最高速に到達しながら距離をゼロにした俺は拳をそのまま振りかぶって、殴りつける。変に工夫などするよりこの方がよっぽど早いし威力もある。

 双子の片割れの頬に拳が食い込み、そのまま下に振りぬいた。頭が地面らしき場所に激突し、無音で頭部が止まる。隋骸骨が陥没する音は聞こえたが。

 そのままもう片割れに後ろ回し蹴り。全体重と遠心力を乗せ首に一発入れる。足先から骨の折れる音がし、体はそのまま遠くへと回転しながら吹き飛んだ。あちらも地面に着地し、しばらくスライドして停止。

 黒い空間が文字通り無音になる。


「……違う」


 無意識のそんな言葉が出た。

 違う。こいつらは何かが違う。肉を蹴ったというよりはむしろ、シリコンを蹴っているような感覚だ。

 手ごたえがあるようでない。矛盾している自分の考えに混乱する――――前に答えに達した。

 すぐにその場で跳躍。数メートル上空に対比すると先ほどいた場所から白い剣が数十本も生えてくる。

 剣はそのあとドロドロに溶け、人型になっていった。当然あの双子に。

 姿勢を整えながら着地する。


「偽物にしては妙に質感がよかったんだが」

「私も偽物」「私も偽物」「本物はここにはない」「でもここにある」「矛盾を孕んだ人形劇」「いつまで続けられるかな」「ヒントは一つ」「視野を広げて全部を見ろ」「受け入れろ」

「……人形劇ね」


 随分と悪趣味な人形劇だ。幼稚園で見るシンデレラ並に。


「お人形遊びなら二人でやってろ。お兄さんはこれでも忙しい身――――」

「おりゃ!」「あははは!」


 それぞれ片手に黒い剣を生成させると問答無用で斬りこんできた。

 黒い剣、黒色だらけのこの空間では見難い。剣の軌道は腕を動きを見れば一目瞭然だが如何せんリーチが不明だ。大きさを変えられないものならともかく、ここはアイツ等の世界。変形する剣があってもおかしくない。

 しかもこちらは丸腰。生身で刃物を受けようとする奴などそれこそ馬鹿だ。

 引くにも引けない。ここは一度馬鹿になれと神が言っているのやら。


「っつぅ!」

「ほらほら~♪」「よけてよけて~♪」

「随分楽しそうに斬ってくるなこのクソガキッ!?」


 丸腰故に避けられない攻撃などは腕を使って防ぐしかなかったとはいっても正面から受けたら間違いなく輪切りになる。なので手を使って軌道を逸らすぐらいしかできないが、それだけでもなかなか難しく何度も手を腕を切る。それにさばききれない攻撃も出てくるものだから胸や肩、腰、腹、腿、脹脛などにも浅い傷が増えていく。夢の世界だとは解っているが痛覚がやけにリアルだ。心拍数がどんどん跳ね上がっていく。


「このっ……ハァッ!!」


 一瞬だけできた隙を見逃さず電光石火のストレート。

 攻撃の間を縫って拳が双子の片割れの顎に入る。顎が砕ける感触が伝わる。


「ぅぁおっ」


 可笑しな呻き声を上げて剣を落とす。

 落とした剣を素早くつかんで、その間にも顎押さえている双子の片割れの頭を掴み顔面に膝蹴り。腕を使って引き寄せたのでダメージは倍増し、顔は当然陥没した。そのまま動か成ることを確認してぼーっと突っ立っているもう一人の首を豆腐を切るように切断。

 だがその二人の死体はすぐに水になり、またもや体を再構成。手に持っていた剣もいつの間にか消えていた。振り出しに戻された。


「…………」


 こいつら二人を攻撃し続けるだけでは、ここから出られない。

 かといってこいつらの茶番に延々と付き合わされるのも御免だ。突破口は有る筈。有る筈だ。

 これは双子の繰り広げる『劇』。見続けることもできるし、途中で抜け出すこともできる。その方法がわからない。もしかしたら無い可能性も否定できない。


(……待てよ)


 本当に、その二つだけか? 傍観と逃走。この二択だけなのか。

 違う。それこそこいつらの思惑通りだ。アイツらは『ヒント』と言った。抜け出すためのヒントなのか、それとも、自分の思惑を超えて見せろと言う意思表示なのか。

 いずれにしろ答えはある。

 まだ現世の常識にとらわれている証拠か、それが全然浮かばない。


 人形劇、矛盾、視野拡大、受容的、液状化による再生、いやそもそもあの液体は何なんだ、無間に続く演劇、謎、突破口――――キーワードはこれだけか。


(……待て、俺はさっき何と思った)


 ここはアイツ等の世界――――確かにそう思った。

 あれは一種の比喩表現のつもりだった。だが違う。あの液体がもし、この世界の一部だとしたら。『本体はここに居てここに無い』。本体は空間ここに居て視界ここに無い。それがこうも解釈できるとしたら。


「この世界自体・・・・が、本体か」


 この空間はアイツ等が作り出した精神隔離空間。支配権な操作権限はアイツ等にある。

 それに所詮は遊び。本体が目に映る場所に出て来る必要は一切ない。

 一時の遊戯。暇つぶし。

 それが答えか。


「だーいせーかぁい」「でも、出られる方法は、教えないよ?」

「……いや、ここまで来たらもうわかる」

「そう」「じゃあ」

「「シネ」」


 待ちくたびれたように双子はほぼ同時に地を蹴り、同じ速度で向かってくる。

 息の合ったコンビネーションどころではない。一心同体。二人で一人を体現している。人同士でも世ほぼ馬鹿みたいに信頼しあっている奴でもなければあんな動きは絶対に不可能だ。

 今は気にすることではないが、少しだけほほえましくなる。

 羨ましいとも思えてしまう。


「…………っ」


 二人が繰り出した同時突きを正面から受け止める。

 その時双子の笑みが消えた。想定通り。

 そのまま剣が抜けないように腹筋に力を入れ、双子の頭を鷲掴みにして抑える。

 捕らえた。


「気づいた?」「早いよ」「もうちょっと楽しみたかったのに」「あーあ。残念」

「るっせぇ……糞が、同化してお前らを支配することが唯一の出口とか、ふざけんなよ……」


 刺さった剣が血管のように脈動し、腹にあいた穴に吸い込まれていく。

 あの双子もまた、腹の傷にゆっくりと吸い込まれていった。あっけない結末だが、当人にしてみれば自分の中に異物が入ってくるような感覚を味わているのだ。例えるなら生きたまま腹掻っ捌かれて中に胎児を入れられるような感覚。先程の精神攻撃ほどではないがかなりキツイ。


「歯車が動き出した」「戻りだした」「悲劇の再現」「英雄の償い」「ただいま」「ただいま」

「「人形劇を再開しましょう」」

「……ゴフッ」


 双子が完全に吸い込まれた後、白い液体が口から這い出る。

 体から力が抜け、膝をついてそのまま頭を地面に叩き付けた。最近無理をし過ぎた。せっかくの休養もこれで清算だ。これ以上動いたら本格的にヤバいかも知れない。


「……フレイ、ヤと……フ、レイ?」


 頭にそんな文字が浮かんだところで、今度こそ本当に失神した。



――――――



「――――ぎ、ゴホッ、ハガッ」

「起きたか」


 一瞬で意識の明暗を切り替えられた。脳が熱い。情報を処理しきれていない。体はところどころ関節が外れていて感覚が薄くなっている。だが全身が際限なく痛いのはわかる。

 喉から生々しくも温い液体が吐き出される。憑き物が落ちた様な清々しさが感じられるがそれが嬉しいとはこれぽっちも思わない。瀕死の状態だ。この状況をどうやって喜べと言うんだ。


「立て、とは言えないな。重いっきり痛めつけた身としては」

「その声……なんでお前が……?」


 眼を開くと四十代ほどのオッサンが目に入る。こちらの目をのぞき込んでおり、何とも絵面が気持ち悪い。それを押しのけて視界に入ってくる少女、ルージュ。オッサンの顔を見るよりよっぽどいい気分だ。


「ほら、戻ったんならシャキッとしなさい」

「無理。――――ブッ」


 即答したら殴られた。理不尽だが彼女なりの気合の入れ方なのかもしれない。

 だが今の俺の体の状態は根性論でどうにかなるものではない。


「……それで、この惨状どうする気だ? リースフェルト」

「は? ……え」


 言われて周りを軽く見渡してみる。

 ……更地、焼け野原、戦場、爆心地――――どの言葉もしっくりくる場所だった。

 自分の目を疑ったが先ほど殴られたばかりなので目は覚めている。

 なん……だと……。


「いやー、騎士団の予算もギリッギリでね~。流石に関与したとはいえこの参事をやらかした当人に五割以上は弁償してもらわにゃならんのよ」

「……遠まわしに言わなくていいからさっさと弁償代言えコン畜生!!」

「そうだな。半径二、三キロは焦土になっているから……建築物はもともと違法なものが多いからそれを差し引くと……ざっと金貨千二百枚は下らんだろうな」

「せんにぃっぅッえ……!?」


 現在の全財産、約銀貨千五百枚。金貨にして十五枚。

 全部かき集めても一割未満。代金が半分でも一割未満。――――よし、すぐに夜逃げの準備をしよう。

 そう決心して気合で体を起こして逃げようとする。だが相手は人類最強、簡単に逃がしてくれるわけもなく力を入れた瞬間肩を掴まれて拘束された。


「まぁまぁ一回話を聞け」

「聞くか!? 放せ俺は借金生活なんて真っ平御免なんだよ!」

「なぁに。その千何枚俺の個人的な出費でチャラにしてやるって言ってんだよ」

「一番それが怪しいわ! 絶対なんか条件突き付けてくるつもりだろ!」


 個人的な出費――――ああ、出される側からしてみればかなり心が安らぐ言葉だ。

 代わりに裏にはとんでもない闇が潜んでいる。ほぼ恒久的隷属などが主だ。まさに今そんな心を持っている奴に対面しているわけだが、ああ、かなり悪い顔をしている。唾を吐きたくなるぐらい。


「そう。肩代わりしてやるから、騎士団入れコラ」

「恐喝しかも強制かよ!?」

「欲しい物を手に入れるためならなんだってやるぞ俺は」

「それでも正義の騎士団長様かテンメェェェェ!?」

「別に悪い話でもないだろうが」

「俺に取っちゃ最悪なんだよ……!」


 この時、喉から生暖かいものが出てくる。

 血だ。動くのが無理な体を無理くり動かした反動だ。くそっ、抵抗する力も残っていない。


「……ま、金はこっちで何とかしておくから、お前は入るかどうか考えろ。別に入らなくていいが……次はどんな手を使うかわからねぇぞ?」

「このっ――――ゴホッ、ゴホゴホッ!」


 血反吐を吐く。

 二度目の意識切断が行われるのを堪えて、なんとか膝をつく程度に収める。

 脳内麻薬が洪水の様に分泌され、痛みを緩和しようとする体。もう限界ギリギリというところで、燃料切れのジャンボジェットによる超低空飛行。中々スリルがある。


「ほら、大人しくして。死ぬわよ」

「ああ……流石に、キツイ」


 普通なら人体では耐えられない動きをしたのだ。あの動きを再現しろと言われたらまず物理的な壁が阻んでくる。『ディアボロス・マニフェスティアション』や『自己防衛オートガード』なる自己強化スキル使っても反動が来るのは確実だ。しかもい週間以内でそんなスキルを連続して使うなど自殺同然。

 まだ、この程度で済んだことが奇跡だと思える。下手したら全身の重要末端器官の靭帯が切れていたかもしれないのだ。

 幸か不幸か……この場合はどっちだろうか。


「……リース……それに、ルージュちゃん……?」

「――――リーシャ!?」


 瓦礫の山から、銀髪の少女が這い出てくる。そこまで重症ではないが、傷がかなり悲惨な状態であり今すぐにでも治療を施さなければ跡が残るほどの傷を有していた。

 リーシャは脇腹を抑えながらよろよろと俺の方に近づいてくる。


「もう、ひどいよ……隠し事なんて。おかげでこうなっちゃった」

「……ごめん」

「傷物にされたからには、責任、と、って……ぁ」


 言葉が途切れた直後、リーシャは膝をついて倒れる。

 原因は、出血多量。脇腹から見える貫通痕から多量の血が流れ出ており、服に滲んでいた量がその嬉々さを物語っていた。


「はっ、早く治療しないと……!」


 自分の体のことは忘れて駆け寄り、直ぐに『ブラットストップ』をかけ止血。そして『痛み止めペインキラー』『遅速再生ローリジェネ』『殺菌消毒ディスインフェクション』『腐食切除サージカルリームバル』――――覚えている応急手当系統の魔法をすべて展開。


「どけ」

「んな……」


 俺を軽く除けたエヴァンは、ポーチから薬品の入った小瓶を一つだけ取り出す。

 それを空中に放り投げるとデコピン・・・・で起こした風圧の弾丸でそれを粉砕。中に入った液体が散布され、容器のガラスはその場で砂となって風に流され消えた。


「霊薬エリクシルと神薬ソーマの調合薬だ。仮の名前としては神霊薬ソーマエリクスと呼ばれているが……これ使えば死んでなきゃ何でも治る」

「……なんでそんなものを」

「サービスだ」


 それだけ告げてエヴァンは踵を返した。

 どうして俺をそこまで勧誘したいのかはよくわからないが、それでも一つだけ言うことがあった。


「おい」

「何だ?」

「……あ、ありがとう」


 頬を掻きながらそういうと、満面の笑顔になりながらエヴァンは無言で跳躍。数秒足らずで視界から消え去ってしまった。まるで野生動物だなと、結構失礼なことを思いながらリーシャへと視線を戻す。

 腹の傷や体中についていた細かい傷は消え去り、健康体そのものへとなっていた。俺自身も体の傷や疲れが吹き飛び、問題なく体を動かせる域にまで回復している。試しに右目に触れてみたが、相変わらず。

 恐らく呪いの類なのだろう。外的干渉では一切揺るがない呪いを。


「ゆっ……リース!」

「うわぁ……すげぇことになってるけど大丈夫か?」

「うん、しょ……お、重い」


 紗雪、綾斗、アウローラの三人が瓦礫を除けて現れる。

 ここまで騒ぎや被害が大きくなればそりゃ駆けつけてくるだろう。紗雪は索敵をしながら、綾斗はアウローラの買い物袋を何個か持ちながら駆けつけてくれる。


「一体何がどうしたの。これは一体……」

「説明は後だ。警吏なんかが来る前に早く逃げるぞ」

「ええ」


 リーシャを両手で抱えて立ち上がる。

 ……面倒事は、望んでなくともやってくるというわけか。


「俺たちのいる宿屋は目撃情報が出ているから恐らくもう使えない。別の宿を取ってそこで休もう」

「別のって言っても……そんな簡単に」

「難しくてもやるしかないだろ。それぐらい熟せないとなると、先が暗い」

「はぁ……わかったわよ」

「別の宿ならもう無理よ」

「……ルージュ?」


 地面に落ちたアヴァールを広い、肩に担いでいるルージュが唐突にそう告げた。


「別に金ならいくらでも出せるが」

「……封印したと言えど、アレがいつまた暴走するかわからない。正直に言って今のあなたは歩く爆弾よ。はっきり言って隔離した方がまだいいと思っている」

「……」

「それに目撃証言が飛び交っているとすれば、顔なんてもうバレている。最低一か月は、このヴァルハラには足を踏み入れない方がいいわ。リーシャは被害者だから何とかなるとして……貴方はもう騎士団などに入るか何かしなければ、無理よ」


 正論。言い返すことができない。

 顔がもう知られているとしたら、周りにいるやつらに迷惑をかけることになる。許されるのは単独行動。許されないのは集団行動。無意識に舌打ちをする。

 結局あいつ、一本道しか用意していないってことか。それともこれぐらいは簡単に乗り越えろと言っているのか。


「……聞いたな、お前ら」

「リース。まさかあなた一人で」

「そのまさかだよ。お前らに迷惑をかけるわけにはいかない。……最低一か月は会えなくなるが、俺が居なくとも――――」


 後頭部に硬いものが当たり、言葉が遮られた。

 振り向くとルージュが俺の頭に向かってアヴァールの刀身の腹の部分をぶつけている。子供を叱りつけている母親のような顔で。


「私も一緒に行く」

「いやでも――――」

「身分証明ができないようじゃ、私は不法入国者同然の存在よ。下手に見つかってつかまるより、あなたの近くにいた方がよっぽど正解で安全。私は効率がいいからあなたと一緒に行動するの。勘違いしないで」

「ったく……嫌味の多い子供だよお前は」


 身分を証明する物を持っていないようじゃ、確かに不法入国者として扱われる。この国の国民が生まれ持って自分の爪を溶かした身分証明用のカードを持っているように。外国人入国者は必ず何か身分を証明できるものを持っていなければならないのだ。国民ならすぐに発行されるだろうが、外国人はそうもいかない。発行に数週間はかかるだろうしその間は自由に動けない。

 確かに外である程度自由に動いた方が有意義というものだ。

 巻き込むわけにはいかないリーシャの身柄を紗雪に預け、野に転がった長刀ロングブレードから双頭剣ツインブレードに戻ったイリュジオンを拾う。

 不思議と拒否感は無かった。


「……この後はどうすんだ、結城」

「どうもこうも、『塔』の攻略を続けるよ」

「それに意味はあるの?」

「『力』が欲しい。それだけだ」

「そう」


 出された紗雪と綾斗の拳に、自分の拳を軽くぶつける。


「健闘を」

「そこら辺でくたばんじゃねーぞ」

「お前もな」


 ルージュと共に、背中から炎の翼を出現させ、空に舞い出る。

 未練は残る。だが、絶対に戻ってくると約束した。約束は破らない。必ず帰る。

 俺の場所は、そこにしかないのだから。

 振り向き、黒い夜空へと飛び立った。



――――――



【ステータス】

 名前 椎奈結城しいなゆうき HP12800/12800 MP8900/8900

 レベル56

 クラス 最適者オプティマイザー

 筋力88.01 敏捷71.52 技量68.10 生命力51.03 知力80.68 精神力41.77 魔力73.54 運0.15 素質30.00

 状態 精神汚染・・・・18.38

 経験値156889/8610000

 装備 無地の白Tシャツ(右腕部分消失) 不可侵のグローブ 身軽のレザーブーツ 汚染の魔剣『イリュジオン』

 習得済魔法 炎魔法【ファイアボム】【フレアバースト】以下略 水魔法【フローズンエア】以下略 風魔法【ウィンドトラップ】以下略 回復魔法【ブラットストップ】【痛み止めペインキラー】【遅速再生ローリジェネ】【殺菌消毒ディスインフェクション】【腐食切除サージカルリームバル】自作魔法【賢者(Lapidis Ph)の石(ilosophici)】【至高の四大元素スプリーム・フォースエレメンツ】【金色の(Aurum i)不動城(mmobile )(arcem)】【愛した娘(In saltu c)は森の中(um dormire)でもう一度(m dilexit )眠る(filia.)】【開花するは(Ferrum flo)血染まり(ruit flos )の鉄の花(sanguineam)】以下略

 スキル 剣術51.70 格闘術23.81 八属魔法13.30 消失魔法0.01 危機感知31.70 行動感知38.71 直感先読62.32 記憶透見メモリークリア28.37 空間索敵17.32 読心術13.53 武器解析ウェポンサーチ12.06 道具解析ツールサーチ4.85 炯眼6.19 乗馬8.97 超過思考加速オーバーアクセル99.99 宝石鑑定13.22 武器整備10.02 特技解析スキルスキャン4.00 自己防衛オートガード99.99 炎の神法【ファーストステージ進行中】


【ステータス】

 名前 ルージュ・オビュレ・バレンタイン HP2000000/2000000 MP1200000/1200000

 レベル694

 クラス 選定者セレクショナー

 筋力673.01 敏捷701.61 技量463.46 生命力460.79 知力557.90 精神力251.88 魔力412.93 運3.00 素質11.00

 状態 精神負荷10.00 残光??.??

 経験値0/1580000000

 装備 無地のTシャツ(灰色) 茶色のハーフパンツ 白の下着 セフィラの髪留め 焔殺の魔剣『アヴァール』 簡素なマント

 習得済魔法 神法【仮初の炎の現身】

 スキル 剣術188.63 格闘術121.50 炎の神法【サードステージ進行中】 直感89.06 高速戦闘91.85 武の極地99.99 天使の器??.?? Chamael??.??




最近どうも作成が進まない。

原因は二つある。単に私のやる気のなさとゲームに現在嵌っていること……つまり全部自業自得デスネ。すみません。

まー、できるだけ努力はしていますがどうにも先の見えない無間スパイラル地獄にぶち込まれたような感覚で、実を言うと本当に無事で終わるのかと心配し過ぎて頭痛がしてきます。

ぶっちゃけ大まかな構想はすでに完成しており、そこにちょこちょこっと話を挟んでいるような形で話を作っているのですがどうも風呂敷を広げ過ぎてしまい……どうにもこれまでのペースでは百五十話以上は完璧に作ってしまうという、自分でも絶句するほどの数が出来上がるという結論に至ってしまいました。

 ペースを上げるにしても一話作るのに最低三日、そして最低一万二千文字、最長で一万五千文字という、自分なりで限界を振り絞っているのですがどうも誤字確認やアイディア絞りに時間がかかってしまい、至った結論としてはこのままやっていくしかないというものへと至りました。正直気が重いです。

 それでもがんばっていこうと思います。学生の身としてはいつまでこのまま続けられるかと心配で心配ですが……やはり、自分の描いた作品は最後まで書き切りたいですから。

 ……なんで今こんな話をしたんだろうかと、一時間ほど悩んできます。

 次回更新は来週の土曜日です。



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