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第二十二話・『思わぬ再開と波乱の幕開け』

なんかちびちびやるのが面倒だったので連続三話投下しました。もうストックないよどうしよ。まぁいいか。

追記、ちょっこら付け足し。

修正完了。

「クスクス……あはは」

「……?」


 目を開くと、真っ黒い空間にいた。

 異世界に飛ばされたことがあるのだから特に驚くことではないが、何だろうか、記憶が曖昧になっている。先ほど何があったのか、それが全然思い出せない。

 下を向いていた首を上げると、白い液体でできた湖で黒髪で白い肌を持つ双子がじゃれ合い、遊んでいた。

 その双子には、全然見覚えがない。

 だが、初対面とは思えない雰囲気を帯びていた。


「ねぇねぇ、おにーさん」「私たちの事、好き? 嫌い?」

「…………何、言ってるんだ?」


 会ったこともない子供に「好きか嫌いか」などと言われたことすらない。

 そして、答えに困るというものだ。

 こういう時は適当にはぐらかせばいいのか。


「……さぁ、な。俺、お前らの名前も知らないし。好きでも嫌いでもないかな」

「何言ってるの? 私たちの名前、知ってるでしょ?」「そうだよ。もう忘れちゃったの?」

「……すまん。教えられた覚えがないんだが」

「えー? あの時呼んだくせに!」「くせにー!」


 なぜか怒られてしまった。

 何だろうか、子供とはこんなに対応が面倒なのだろうか。

 この二人のことは放っておいて、今はなぜここにいるかを探らなければならない。

 のだが、湖から上がってきた双子――――二人の女の子は濡れた手で俺の足を掴む。

 振り払おうとしたが、その力は子供のものとは思えないほど強力だった。


「おい、一体何を……」

「私たちはね、お兄さんのこと、結構好きだよ?」「うんうん。その全てに興味がない・・・・・・・・心」「自分を信頼してくれている人を騙し続ける所とか」「肉親のためならすべてを犠牲にしていいその心意義」「美しくも醜い、儚い家族愛」

「…………お前ら、は」

「「――――何時まで自分と他人を騙し続けられるのかな?――――」」


 自分の本性・・を一瞬差し当てられたことにより動揺してしまう。

 すると次の瞬間、双子の内一人の腕が俺の胸に突き刺さる。

 しかし痛みは感じられない。


「ほら、これで思い出せる?」「出せるー?」

「な……何、を……!?」

「おにーさんが気を失う前に」「私たちがこうしたでしょ?」「忘れたわけじゃないよね?」「怒っちゃうかも」


 双子が水のように溶ける。

 そして、俺の胸を貫いている腕に集まると――――双頭剣ツインブレードへと形を変えた。

 色が白から反転し、黒へと染まる。

 そうすると、俺は自分の胸を貫いているのが何か分かった。


「イリュジオン……なのか?」


 そうだ、俺はこいつに、胸を貫かれて――――


「おにーさん、だぁい好き」「殺したいほど」「愛してる」「壊したいほど」「愛おしい」

「や、めろ……っ!!」

「「大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き」」

「おぐっ……ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉおぉおおぉぉおぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!!」


 好意的なことを表す言葉のはずなのに狂気しか感じられない。

 狂っている。こいつらは、間違いなく狂っている。

 頭の中に直接語り掛けているせいで耳をふさいでも声が聞こえてくる。


「あァっ……ッ、アァガ、アァァァッァァァァァッァアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 やめてくれと願っても止まらない。

 声を聴きたくない。もう嫌だ。やめろ。

 ――――そうだ、死ねばいい。そうすれば、声は聞こえない。


「く、くふっ、くくくははははははは!!」


 正常な判断ができなくなっているのに、手は正確に胸に突き刺さっているイリュジオンを抜く。

 血の代わりに白い液体が吹き出す。それが何なのかはわからないが知って何になる。とにかく俺は居今死にたい。一刻でも早く、早く、早く。

 そして俺は、刃を喉に向け、思いっきり力を込めて――――





「………………」


 目を開く。

 そこには、白い壁が……いや、天井があった。

 ここがどこだかわからないが、とにかく酷い夢を見たような気がする。頭が痛い、吐きそうだ。

 ゆっくりと上体を起こすと、俺は先ほどまでベットに寝ていたことが分かった。マットレスは柔らかく、まるで寝るものに安楽を与えるような心地よいベットだ。

 体を見ると、少し大きめの患者服を着せられていた。いい材料を使っているのか触り心地がとても良い。

 カーテン、椅子、ベット、テーブル、ほとんどが白に埋め尽くされたこの部屋。しかも微かに薬品特有の鼻を刺す臭いがする。

 保健室に似たようなこの臭い。そして今俺が着ている患者服。導き出される答えは一つ。


「病院か、ここ」

「ご名答。ようやく起きたか」

「!?」


 いつの間にか、俺の隣に人がいた。

 腕を組んで椅子に座り、細い目でこちらを見てきている中年男性。黒の髪に無精髭。

 それを見て、何処かで見たようななどと思ってしまう。


「……ええ、と。アンタは?」

「エヴァン・ウルティモ・エクスピアシオン。自分でも糞長い名前だと思うよ」

「エヴァ……は!?」


 人類最強の名を冠する男、エヴァン・ウルティモ・エクスピアシオン。知らない者を探す方が難しいであろう、超有名人。そんな男が俺の隣に座っていた。

 一応偽物でないかどうか、心眼で調べようとした。が、


【ステータス】

 名前 エヴァン・ウルティモ・エクスピアシオン HP【測定不能】MP【測定不能】

 レベル【測定不能】

 クラス【判別不可能】

 【以下全項目・測定不能】


 これに俺はどういったリアクションをすればいいのだろうか。


「……エヴァン……でいいんですよね」

「敬語はしなくていい。さて、まずは自己紹介だ。俺の名前はもう言ったから二度言う必要はないよな。年齢は……明かしたら面倒なことになりそうだから伏せておく。趣味は鍛錬、好きなものは威勢の良い若者、嫌いなものは始末書の束。このぐらいでいいか?」

「……本名と偽名、どっちがいい?」

「名乗りたくないなら偽名を使っていい。見た所犯罪者には見えないが……まぁ、訳アリなんだろ」

「リースフェルト・アンデルセン。リースでいい」


 そういうとエヴァンは小さく頷き、テーブルに置いていた水とガラスのコップを取り、コップに水を注いで差し出してきた。

 それを黙って受け取るが、注意深く見てしまう。


「別になんも入っていねぇよ。する必要がないからな」

「……どうも」


 水を一気に飲み干す。からからになっていた喉が水を得たことで活動を開始し、急に何かを与えられた胃は驚きながらも少しずつ動き出す。


「……それで、用は何だよ人類最強。一応俺とアンタは初対面のはずだが」

「敬語はいいと言ったが、まさか本当に堂々と来るとはな」

「なんだ。気に入らなかったのか」

「まさか。威勢の良い奴は好きだ。さて、用件だな。簡単に、少し聞きたいことがあって来た」

「聞きたいこと?」


 コップをテーブルに置きながら、思い当たる節がないか探す。

 そもそもエヴァンが俺に聞くことと言ったらあのことぐらいしかないのだが。

 エヴァンは一回だけ息を吐くと、こちらを冷たい目でにらんでくる。そんな視線ていっど今までに何度も受けたはずだが、背筋に冷たい物を入れられたような気がしてならない。


「アウローラ・デーフェクトゥスの件……知らないわけじゃないな?」

「……何のことだ?」

「白を切っても無駄だ。調べはついてる。お前が記憶メモリーを探してここまで来たことも、アウローラ・デーフェクトゥスを傍に置いていることも、な」

「…………チッ」

「まぁ、別にそれについてどうこう言うつもりはない。お前のやりたいようにすればいい。だが、一つ聞かせてもらう」


 体が固まる。

 そう錯覚するほどの殺気が放たれる。

 蛇に睨まれるという次元ではない、一匹の蟻が丸腰で恐竜に立ち向かうようなものだ。

 文字通り住んでいる次元が違い過ぎた。殺し合いになったら、勝てると思うことを許される相手ですらない。


「――――聖杯騎士団に敵対するつもりか?」

「…………ッ」

「ふむ……漏らさず泣かず、か。汗は流しているが……さて、答えは?」


 はっきり言ってしまえば、敵対つもりだった・・・。しかしそれは相手方がメモリーを渡さなかった場合だ。出来れば何らかの交渉で済ますつもりでいた。

 しかし応じる可能性は限りなく低い。つまり俺は、ほぼ敵対する覚悟でここに来たということだ。

 だがその気も、こいつエヴァンの存在によって消え失せた。

 こいつは命を懸けたぐらいで倒せるような奴ではない。


「……しない。話し合いで済ますつもりだった」

「半分嘘で、半分本当だな」

「今は、話し合いでやるつもりだ」

「だろうな。ま、その話し合いというやつは却下させてもらう」


 やはりか、と落胆する。

 ところがエヴァンは、申し訳なさそうな顔を作る。あちらとしても、不本意なのだろうか。


「却下っつーか、すまんがメモリーはもうここにはない」

「何?」

「お前がここに着いた一日前……四日前に受取人が来てな。メモリーを持って、もうどこかに行ってしまったよ」

「い、行き先は!?」

「それは俺も知らん。知ってるのは……あ、いや、とにかく俺は知らないんでな。すまん」


 遅かった。その事実が、更なる落胆を生む。

 あの時もう少しだけ早く回復し、出発していたら、間に合っていたのかもしれない。

 これも、不幸か。


「くそっ!!」


 左腕を自棄気味に振り、テーブルに置いてあるガラス製のコップを砕いてしまう。

 幸い左腕は義手なので傷はつかなかったが、そんなことは今どうでもよかった。いや、傷つき、痛みがあったほうが気を紛らわせただろう。

 フレームを歪ませたいと思うほど義手の拳を握り、痙攣する右手を額に当て押さえつける。


「……ま、俺が聞きたかったのはそれだけだ。ああ、あともう一つ聞きたいことが――――」


「リィィィィィィスフェルトォォォォォォォォォォォ!!!!」


「……ああ、手錠は付けたはずなんだが」


 エヴァンが心底呆れたような顔を作るや否や、扉の向こうから聞こえる奇声がどんどん接近してくる。

 扉がぶち破られ――――灰色の髪をベースに先端に黒のグラデーションが施された髪を持つ少年が二丁の銃を持って入って来た。その顔はどこか見覚えがあるものだった。


「死ねやオルァアアァァァァァァァアアアアア!!!」

「は? いや、お前は――――ロートスか!?」


 返事の代わりに、二丁の銃からの鉛玉が襲い掛かる。

 その二丁の銃は前見た青のラインが走った黒色銃ではなく、ガバメントのようなシンプルなデザインのものだった。見える銃弾の大きさも前と比べれば小さいものだ。

 即座に『超過思考加速オーバーアクセル』を使い弾丸の軌道を見切り、避けられないものは義手を使って掴んでいく。計三十六発の弾丸をしのいだ俺は、ベットからシーツを剥いでそれをロートスへと投げる。


「目くらまし程度――――」

「目くらましじゃねぇよ!!」


 そのシーツの向こうからロートスに跳びかかり、不意打ちに近い形でロートスにシーツをかぶせて体を絡みつかせる。若干の抵抗があったが、関節を決め右腕を脱臼させるとその抵抗は悲鳴とともに終わった。


「……ったく、病み上がりに何してくれてんだ」

「く、ぉっ……い、いってぇ………」


 シーツを破って手足を縛る。

 無力化が完了したところで、後ろからエヴァンの拍手が聞こえる。

 振り向くと、歯で弾丸を咥えていたエヴァンの姿が見えた。当然すぐに吐き出したが。


「お見事だな。いい人材だよ、お前は」

「……で、もう一つ聞きたいことってのは?」

「てめぇ! 無視すんなやクソガァァアァァアアアア!!」


 やかましいクソガキは放っておいて、俺は立ち上がりエヴァンを見る。

 彼方もこちらを見て、ニヤッと笑いこう言ってきた。


「聖杯騎士団に入団しないか?」

「断る」

「……返事早くないか?」

「動機が無い。関係が無い。義理もない。目的もない。四拍子そろっているから入団するほうが逆に可笑しいわ馬鹿が」

「てんめ放しやがれクソ――――げぶっ」


 足でロートスの頭を床に叩きつけて、エヴァンを睨む。

 一応聞いておかなければならないことがあるのだから。


「……それより、あの飛行船、どうなった?」

「あ? ああ。あれか。止めたよ」

「どうやってだ? ぶっ壊したにしろ、そんなもんに巻き込まれて俺がほぼ無事でいる理由がわからないんだが」


 そう。飛行船を消滅させるほどの魔法か攻撃を受けて俺が無事でいられるわけがない。

 現身の力があっても、流石に不可解だ。それ以前に大怪我を受けているのならば数名ほど傷が勝手に治っていく現象を目の当たりにしたはずだ。それならば俺が普通の病院にいること自体がおかしい。


「素手だよ」

「……すまん、俺最近耳かきしていないんだ。もう少し大きな声で頼めるか?」

「素手。下手に武器使ったら住宅街が割れるっつーの」

「…………はあああああああああああああああああああああ!?」



――――――



 目覚めた当日から即座に退院手続きを済ませた俺は、店で買った花束を持ちある場所に来ていた。

 即座に退院できたのには、ある理由があった。一つ目は傷らしい傷がほとんど見当たらなかったこと、二つ目はエヴァンからの推薦を受けたこと、最後の三つめは只ちょっと金を積んだことだ。

 まぁ、いろいろ手を尽くして外に出た俺はまず服を買った。来ていた外套やシャツはボロボロの雑巾のようになっていてとても着れるようなものではなかったから、病院側で処理したそうだ。

 当然着るものを無くした俺は患者服のまま店に行き、おかしなものを見るような視線を受けながら適当に見積もったのを購入した。宝石を換金したので今や少し小金持ちになっているので、少々高い服でも問題なく買える。

 と言ってもファッションに気を使うタイプでもないので、無地のシャツとジーンズ、気休め程度の防寒具として膝に届くほどの大き目のフード付きコートを買い、身に着けた。これなら大金を持っているとは思われないし、顔も隠せて一石二鳥だ。少々怪しまれるだろうが、エヴァンから写真と名前だけの仮の身分証明書兼在留証明書をもらったので何とかなるだろう。

 ついでに言うと、今の俺は丸腰だ。そう、武器らしきものは何も持っていない。

 一応安物の果物ナイフを懐に仕込んではいるが、それが武器として機能するかは怪しい所だ。

 なぜ持たないか、と言われると返す言葉に困る。

 ただ今は、武器を持ちたくない気分だ。

 ……イリュジオンに、裏切られたような気がするから。

 イリュジオンはエヴァンに預けてきた。というよりあちらが貴重品保管庫に持って行ってくれるらしいからそれに従っただけだ。とうせ持たないのなら、どこかに預けたほうがいい。


「…………」


 俺が着ていたある場所とは、住宅街。

 そこには大型飛行船『ストラトスオルカ・ザ・スカイヴェッセル』の残骸が位置していた。危険警告テープらしきもので囲まれており、テープで囲まれた範囲内では作業員が残骸を処理している。

 俺はふと思う。

 もし、あそこでエヴァンが現れなかったら、どうなっていただろうか。

 住宅街に突っ込み、多くの命が失われていただろう。いや、それはどうでもいい。俺が失敗していたら、リーシャらアウローラの命はなかっただろう。その点でいえばエヴァンは俺たちの命の恩人と言っていい。

 俺は、弱い。

 確かに強いかもしれない。吸血鬼と対抗できるぐらい強いかもしれない。だが、それでも俺の持つ『不幸』は覆せなかった。

 俺が求めるのは自分の不幸をも捻じ伏せる強さ。

 それが簡単に手に入れば苦労しないのだが、後戻りできない状況になる前にはそれを手に入れたい。

 今のままじゃメモリーどころかあいつらさえ守れない。


「……アル、いや……ローウェン」


 その場間に合わせで作った木の棺桶が何十個、何百個も並んでいる中、一人の男性の死体の上に花束を置く。その男性が着ている服は――――テロリストと同様のものだった。だが、彼はテロリストなどではない。

 飛行船内でアルと名乗っていた男性。本名、ローウェン・エストラルという齢三十にも満たない青年。聖杯騎士団の一員であり、今回の事件に貢献した者の一人である。

 そして、俺たちの命の恩人でもあった。

 アル、アール、R……ローウェン(rowen)、イニシャルを偽名にするとは考えたものだ。


「……すまない」


 祈るように、両手を合わせた。

 彼は状況から考えるに、弾が尽きてもゾンビの群れと戦い続けた。死体が防腐の術をかけているのにも拘らず若干腐りかけているのは、一瞬だがゾンビになりかけたという証拠だろう。

 顔や四肢は潰れて、所々が噛み千切られている跡がある。彼は、自分が喰われてもなお、戦うのをやめなかった。そして最期に、全てのリビングデッドを道連れにした。

 更に、俺とヴィルヘルムが通った非常通路のドアノブは後々調べるとかなり歪んでいたことが分かった。言わずもがな、ローウェンが死ぬ前に完全に出入り口を封鎖した。

 可笑しいと思ったのだ。戦闘中にあれだけいたゾンビが一匹も来ないというのは。


「……馬鹿野郎」


 踵を返し、フードを目深にかぶって遠くへ行く。後ろから婦人の泣き崩れる声を聴きながら。

 飛行船の残骸が遠目で一望できるほど離れたところで、近くのベンチの腰かける。


「よォ、ここにいたのか」

「……ロートスか。なんだよ」


 横から私服姿で、右腕にギブスを巻いたロートスがひょっこりと現れた。

 こいつは俺をついてきて何をしたいのだろうか。今は害はないようだし、放っておくが。


「ッたく、テメーも派手にやらかすなァおい」

「なんだ。羨ましいのか?」

「ヒャハハッ! そうだよ。エヴァンのやつから派手にやらかすと始末書が増えると念を押されちまってなァ、久しぶりに暴れてェなと思ってんだよ。ああ、あとこの一件のせいで始末書書く羽目になったと泣いてたぜ、あいつ」

「な、泣くのか?」

「あいつにとってデスクワークは天敵だからな。ヤレヤレ、騎士団長も大変だねェ」


 いつもとは違う、ちょっぴりさわやかな雰囲気を纏ったロートスは友人にでも接するように軽口をたたく。それを面倒臭そうに受け流しながら、『炯眼』と『読心術』スキルであいつの心を見抜く。このスキルの存在をすっかり忘れていたが、使い勝手は大体わかる。


「……決着はいつかするぞ、か?」

「……へぇ、お前にもその気があるのか?」

「これ以上しつこく付き惑われると面倒なんでね。ま、気が向いた時に相手してやるよ……左腕の借りを返さなきゃならないしな」

「はっ」


 やはりロートスはロートスらしい。

 今すぐにでも戦いたいが、腕の関節を外されているし傷が完治していないのでその気にはなれないのだろう。あの時関節を外しておいてよかったと密かに思う。


「それで、届け物か?」

「……読心術でもできんのかお前はよォ。ほら、テメェの病室に女が来てな。こいつを渡しておけとよ」


 手裏剣のように封筒を投げ渡してくる。

 それを難なくつかむと、封筒を破り中に入っていた手紙を広げる。


【リースへ


 見舞いに来たんだけど、一足遅かったみたいだね。退院するならするって一言残しておけばよかったのに。まぁそれはそうとして、私とうとう探索者ギルドに入団したよ! 一発合格するとは幸先いい見たい。リースもよかったらギルドに来てみて! いい人いっぱいいるよ! ついでに、アウローラちゃんは私が預かっています。安心してね。

 追伸・道草してないで早く来てね。絶対だからね? 絶対だよ?

 因みに、後で一発殴るから。

                                    リーシャより】


「……そうか、入団、したんだな」


 そういえばあいつの目的が探索者ギルドへの入団だったことを思い出す。

 たった数日の間にいろいろあり過ぎて忘れていた。

 そういえば、俺も誘われていたなということも思い出した。

 つかおい、殴るってどういうことだ。


「最後に、これは俺からの忠告だ」

「ん? なんだ」

「もし正義なんて甘ッちょろい言葉を少しでも信じているなら、聖杯騎士団には入団するな。後悔するぞ。あそこはイカれた奴らの溜まり場だ」

「……?」


 それだけを言い残して、手を鵜しながらロートスは去る。

 元々入る気はないのだが、なんだか意味深なことを言われたような気がする。

 軽く舌打ちし、ぼやっと空を眺める。


 抑制者ディータレンターを殺さず死んでいいと、使命を果たさず死んでいいと、誰が言いました?


「……なんだったんだよ、あの声」


 自分のでもルージュのでもリーシャのでも、誰のでもない。聞いたこともない声だった。

 それに抑止者ディータレンターなどという言葉、聞いたこともない。

 本当に、俺に何が起こっているっていうんだ。


「……行ってみるか」


 情報が一切ないのにこれ以上考えても無意味だ。無意味なことは嫌いだ。だから、少しは意味のありそうなことをしようと思い、俺はリーシャに言われた通り探索者ギルド本部へと向かうことにした。

 幸い、このヴァルハラは糞広いがその分街の地図はそこら中に設置されている。よほどの方向音痴でもなければ迷うことは少ないだろう。

 ――――まぁ、街の中でもいやでも目に映る城塞めいた建物がギルドだとは微塵も思わなかったが。


「――――でさ、今日倒した奴が落した甲羅が……」「そうそう。あの羽焼いたら珍味だったんだよ。今度取ったらご馳走して――――」「もう汗たく。シャワー浴びて早く寝たいよ~」「はいはい。今日のノルマ果たしてから」


 かなりの密度で人がその要塞の中を行き来する。ほとんどが背中か腰に武器を吊り下げている。確実にほとんどの者が探索者であることがわかる。

 物騒だなと、失礼なことを思いながら要塞の中に入る。

 全体的な構造はまるで大きな酒場のようで、アンティークな装飾とジャズめいた音楽が流れて人を安心させるような独特な雰囲気を出している。俺自身も思わず肩の力を抜いてしまった。

 俺の義手が目立っているのか、多人数の視線を感じる。それが嫌で剥き出しの義手部分をポケットの中に仕舞いながらリーシャを探す。あの美貌だ、かなり目立つはずだが。


「やったぁ! 私の勝ち!」

「ちっくしょぉー! 私の金貨がぁぁぁぁ!」


 何やら人ごみが出来上がっており、自然とそこに視線を向ける。

 人ごみの間をすり抜けるように視線を這わせると、ちらっと銀髪が見える。そしてあの聞き慣れた声。

 もう言う場でもないだろう、と人ごみを分けながら奥へと進む。


「――――あ!」

「よう」


 リーシャもこちらに気付き、駆け寄ってきた。

 その速度があまりに早いのに気付き、すぐに何をやるのかを察すると俺はリーシャのハグを回避。

 ハグを交わされたリーシャは不服そうな顔を向けてきた。


「も~~、何でかわすの!?」

「お前、一応俺病み上がりなんだよ。お前のような高レベルにハグでもされてみろ、良くてあばら一本持ってかれる」

「ぶー」

「それで……賭けの相手は誰だったんだ? ずいぶんと聞いたことのある声だったが」


 ちらっと、視線をリーシャの賭け相手がいるテーブルに向けた。 

 そこにいたのは灰色の髪に狼のような耳、紛れもない獣人でとてもかわいらしい顔立ち。

 かなり前に、どこかで見たような奴だった。


「よっすよっすリースフェルト。おっ久しぶりぃ~」

「……ファールかぁ」


 焔火の塔攻略の時一時的にパーティーを組んでいた獣人であった。

 ファールだけではない、後ろからジョン、ニコラス、セリアが顔を出した。


「ははは、久しぶりだな。元気だったか? あとなんでファールを見てそんな地味に嫌そうな顔しているんだ」

「どうもリースさん。相変わらず……ではありませんね」

「わ~! お兄ちゃん、お久ー!」

「あ、あははははは…………」


 それぞれに握手を返しながら、テーブルの席に着く。

 リーシャはどこからか、ずいぶんと奮発して買ったのか、高級そうな洋服をきているアウローラを連れてくる。その洋服とは、ゴスロリと呼ぶようなものだった。ずいぶん趣味に走っているな。


「お前……幾ら使ったんだよ」

「う~ん、銀貨三百はしたかな? まぁ、いいよね!」

「お前の自腹だからいいけどさ」

「あ、ちなみにリースの懐から半分ぐらい分捕りました」

「っておぉぉぉい!?」


 そのうち服は買ってやるつもりだったが、こんなに高いもの買うつもりはなかった。どうせすぐ汚れるのだから安いものにした方がいいというのに。

 そんな不満も、何気に喜んでいるアウローラを見たことで吹き飛ぶ。

 本人が喜んでいるんだし、今は良いだろう。金など、また稼げばいい話だ。


「しっかし、ファール。お前リーシャに賭けで負けたのか?」

「う、うるせぇ! コイントスで負けても悔しくなんかないやい! あれはマグレだ!」

「運も実力の内、ってね」

「むきーっ!!」


 そりゃリーシャの運はファールを上回っている為、確定した賭け事でもなければ勝つことは難しいだろう。俺がやったら確実にボロ負け確定だが。

 ていうかコイントスで金貨一枚も出すのかよ。こいつスロットマシンの前に出したら確実に有り金全部使うタイプだな。


「おお、ファールか」

「お、お久しぶりです!」

「ん~? ……ヴィル!?」


 と、後ろから聞いたことのあるような声と名前が出てくる。

 後ろを一瞥すると、何だろう、すごく見知った顔が写っていた。


「……って、リース? なんでお前らファールたちと一緒に……」

「え? お前らヴィルたちと知り合いなの?」

「…………うん、まぁ……うん」


 縁というのは凄いものだ。

 全く関わらないと思ったやつらがまさか知り合いだったなんて。そしてその人物の鉢合わせするとは。

 運がいいのやら悪いのやら判らなくなってきた。

 まさか、新たな波乱の起こる前兆というやつか。


「いや~、マジか。縁起がいいと言えるのかこれは」

「いいでしょう。まさか知り合いが知り合いと知り合いだったなんて」

「ややこしいわ」

「……ホントに、誰か狙ってやってんじゃないかと思うよ」


 フードを取り、皆と話し、笑い合う。

 何時までも、こんなことが続いてほしい。そう、思ってしまった。

 いつか、終わらせなければならないのか。


「おい! スーパールーキーどもが帰って来たぞ!」

「……す、スーパー?」


 そのネーミングセンスに呆れながらもファールに話を聞く。

 するとファールは「常識も知らないのか」といったむかつく顔でヤレヤレと呆れながら語ってくれた。

 後で殴ろう、こいつ。


「確か、一週間ぐらい前に二人の新人が入ったんだ。で、入団時に行うランク決め試験の結果がなんとA。普通ならDかCで始めるのに、それをぶっち抜いてAランクになったんだよ入ったばかりの新人の二人は。普通ならAランクになるのに年単位は必要なはずだから他のやつがスペシャルやスーパー言うのも納得だ。それでその二人は特例としてAランクになり、今や誰もが羨む探索者になった。そしてその異常を見て誰かがこう名付けたのさ」

「スーパールーキー、と?」

「ああ。ネーミングセンスが欠片もないなと思うだろ? ちなみに代わりの名前として一番目の候補は『超新星スーパーノヴァ』。どや?」

「それもそれでどうかと……」


 ぶっちゃけ名前などどうでもいい話だが。

 そうしているとそのスーパーだかノヴァだかの二人は割れた人だがりの間を歩く。

 一人は男でチャラ臭い喋り方でナイフを器用に回して遊んでおり、もう一人は女で落ち着いた様子で弓を背負い、男と会話をしている。


「フハハハ、今回は楽勝だったな」

「今回も、でしょう。さすがにもう慣れてきたから、大抵のやつには負けないわね」


 …………え?


「いやはや、でも途中で横取りしようとして失敗した奴の顔見たか? 傑作だったぜあれは。 ぎゃはははははっ!」

「笑い過ぎよ。確かに、尻に矢を撃ち込んだ時の顔は笑えたものね。でも気味悪さの方が上回ったわよ」


 あの二人の顔は、知っていた。

 一生忘れないであろう、唯一あの世界で友人と呼べた二人。

 チャラチャラしている印象をはじめに与える金色のウルフカットをもつ青年。量のある後ろ髪を一本に結んでおり、前髪は自然な形で整えられ、それがまるで美術家の作品のように美しい少女。


「これで今月は働かなくて済むな~。いやー、お金ってすば……ら…………ッッ!?!?」

「? 何してるの。そんな亡霊でも見たような顔し………………え?」

「……お前、ら…………」


 なんで、ここにいるんだよ。


「柊……草薙……なんで…………?」

「結城……か!?」

「……嘘でしょ」


 その二人の顔を、見間違えるはずがない。

 俺の友人――――ひいらぎ 紗雪さゆきと、草薙くさなぎ 綾斗あやとの顔を。


「なんでお前等がここにいるんだ!?」

「なんでお前がここにいるんだよ!?」

「なんであなたがここにいるの!?」


 俺たち三人の声は、見事に一致した。




次回の更新はかなり遅れます。三週間後です。

失礼ながら学校のテスト期間が迫ってきてしまったのでそちらに気を使わなければならないのです。すいませんが、どうかご了承ください。

文章・ストーリー評価、共にありがとうございまず。ほぼ思い付きでプロットもろくに立てていない作品でしたが予想以上でした。適当にやっていたらいつの間にか累計アクセスが4000突破していた件。

 本当に書いて良かったと思っています。どうもありがとうございました!

 とりあえずこれで第二章終了です。巻き込まれて異世界にきてしまった妹。何か知らない間にきていた友達。これらをどう活用していくか、今後自分と相談しなけらば。

 それでは、これで。


追記・次回更新日決定・二月二十一日(土)に一つ投下。



追伸。

第二章の修正が三月二十二日をもって完了したしました。

改めて誤字の多さに気付いて死にたくなりました。本当に申し訳ありませんでした。

これからも誤字があるかもしれませんが、私も極力なくすように努力したいと思います。


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