第九十二話・『戦いの末に』
他の人の小説を見てふと気づきました。
あれ。私の小説って文字数アホみたいに多くない? と。
一話一話のボリュームを重視するせいで無駄に分厚いわ展開は遅いわで――――あ、これ三年経っても完結しないわ。と直感で理解しました。
とりあえずこの章を終わらせてこの小説を書き続けるか打ち切りにするか検討することにしました。
というか、一話一万文字という制約を自分に掛けていた私はなんでそこまで話を膨らましたかったのか・・・。初心者が作る作品なのにどう見ても五年ぐらい書き続けないと完結しない作品を作ろうとするのがそもそも間違いだろうと今更気づきました。話は長い、展開は遅いと、小説としてはかなり悪い部類に入るわこれは。そういう意味ではむやみに文字数を増やすのではなく展開を少々早めた方が良かったのかもしれません。
一応、この作品すべてを書き直すという案も検討したのですが、仮にも百万文字越え。そんな安直な策が通用するはずもなく、それをするならこのまま書き続けた方がまだ楽と思い、やめるか、続けるかの二択にしました。
それに、このスタイルで行ってしまうと私の学生生活が破たんしかねないので、どうかご了承ください。
一応代替の小説はあると言えばあるのですが、思い入れとしてはこっちの方がはるかに大きいんですよね。一年も書いていればそりゃそうだ。
まぁ、だからこそ致命的な問題が目立っているんですが(設定の齟齬、描写の不十分、読みやすさ皆無、予定に無い者をバンバン出して収拾付かなくなる、風呂敷広げ過ぎ、バランスが初っ端からぶっ壊れ、設定を活かし切れていない等々)。
・・・とりあえず、検討はするつもりです。皆様にはご迷惑を掛けるかもしれませんが、どうが悪しからず。
大集落にある焼き石づくりの住宅。
空き家となっているそこに、結城ら一行(ただし結城以外)が集まっていた。
秘密の会議――――というわけでは無く、単純に鍋を囲んでの食事だ。彼らが囲んでいる場所の中央には焚き火があり、その上には少し大きめの鍋が頑丈な木の棒によって吊り下げられており、鍋の中には粥らしき物が入っている。これが彼らの朝食だ。
食している者は普通の粥だ。多めに余っていた麦を希少な水で煮込んで作ったものだ。調理人は意外にもベルジェ。彼は近頃まで極東大陸方面に在住していたので割と和食が得意らしい。
味も、食材がかなり限られているというのに美味である。
「いやぁ、以外だったわ。まさかそこのトカゲさんがこんなに料理上手だったとは」
「トカゲはやめろ。ベルジェでいい」
「今更だけどベルジェとジルヴェってなんか名前似てない?」
「最後の発音しか似てないよ、姉さん……?」
「あ、やっぱり? にしてもマジうめぇ。『守護者』時代は碌なもん食えなかったからなぁ。偶にレオニードの奴が差し入れくれたりしたけど」
「今更思ったがどういう関係だったのよアンタと獣王って……」
ウィンクレイの軽口に呆れのため息が多く聞こえる中、一部の者は不安そうな顔で食事の手を止めている。アウローラ、エレシアの二人だ。
流石に無視することはできず、ベルジェが恐る恐る問う。
「二人とも……も、もしや口に合わなかったか? 済まぬな、これでも色々学んでいる途中なのだ。多少の違和感は覚悟していたがこれほどとは。しかし栄養価は十分なはずだから一応残さず――――」
「あ、いえ、そうじゃなくて。ち、違うんです、ベルジェさん……!」
「……お父さんが、いない」
「ぷぅぅぅぅぅぅっ!?!?! おっ、おぉおおおおおおおおおおおお父さん!?」
黙々と食事をしていたリザが粥をベルジェの方に噴き出してエレシアに飛び掛かる。
吹きかけられたベルジェは額に青筋を浮かべながら手持ちの布でそれを吹くが、そんなことはお構いなしにリザはエレシアの肩を強引に揺らす。
「お父さんってどういうことですかぁぁぁぁああああ!!! まっさかあのフェーアとかっていう腐れ糞尼の子じゃないですよね貴女ねぇちょっと口から泡ふいてないで何とか言ってくださいよぉぉぉぉおおおお!?!?」
「あの、リザさん。エレシア、気絶して」
「アウローラちゃんは黙っててください! これは家族の問題なんです!」
「何時から結城がアンタと家族になったのよ全く……」
「随分と接触的だね。ねぇルージュちゃん、まだ精神汚染続いてんのかな、リザちゃん。あ、まだ『守護者』なんだっけ」
「知らないわよ。ていうか私の粥取ってんじゃないわよ、ウィンクレイ」
そんなこんなで騒いでいると、リザの頭上に拳大の石が高速で落下しその意識を一瞬で奪う。
「ぎゃふん!?」
エレシアも同時に介抱されると、リザの頭上に石を落とした張本人であるソフィが低調に横に寝かせて看病を始めた。一応元奴隷仲間なので思うところもあるのだろう。
「うっわぁ……容赦ないなぁ~。てか誰だっけアイツ」
「俺と結城が中央大陸の港町に入った時買い取った元奴隷の一人だ。名前は確か――――」
「ソフィだ。こんな簡単な言葉も覚えられないのか、お前たちは」
十歳前後の女児にしてはかなり凶悪な笑みを浮かべ、挑発的な発言をするソフィ。
ストッパー役の結城が居ないのでかなりアバウトな性格になっている。普段の無言ぶりを知っている者達からすれば「ああ、暴走しているな」と即座に感づいた。
「だって話したことないし」
「そもそも名前すら教えられていなかったような気がするのだけれど」
「…………そ、そうだった?」
「話したことなんて指で数えられるぐらいだったわよね」
ウィンクレイとルージュがそんなツッコミを入れると、人を見下したような笑みが即座に不安そうな顔へと変わる。ソフィはこう思った。「アレ? もしかして俺コミュ障ってやつなんじゃね?」と。事実、ソフィが結城以外と話そうとした回数なんて数える程度しかありはしない。単純に互いに興味を持っていなかった、というのが原因なのだが。
「ちっ、違うぞ! 別にコミュニケーション力がないとかそんなんじゃないからな!?」
「そう必死に言われても……ねぇ?」
「ねー」
「お、俺はっ……俺は違うんだ。友達もいるし会話もできるし影も薄くない! だからコミュ障とか引きこもりとかそんなんじゃ――――」
なにやらぶつぶつ言っているソフィを無視して、ルージュはアウローラへと視線を移す。
まるで親とはぐれた子供の様に縮こまっている。流石に看過はできないとルージュは場所を移し、アウローラの傍へと寄り添う。
「どうしたの? 具合が悪いなら……」
「そ、そうじゃないんだ。ただ…………お兄ちゃんが傍に居ないと、なんでかな。寂しいんだ」
「……そう」
どうやらアウローラにとって結城の存在がかなり大きなものになってきていると推察するルージュ。考えてみれば簡単だ。彼女が目覚めたとき、ずっと寄り添っていたのは誰でもない、結城ただ一人だ。つまりアウローラにとって結城は仲間以上の感情を持ち始めている。
それが悪いとは言わない。何せルージュも同じ穴の狢だから人の事が全く言えない。
「そんな顔、リースはきっと見たくないわよ。アイツは元気のいい貴女が好きなんだから」
「そ、そう、なの?」
「誰だって仲の良い奴の悲しむ顔なんて見たくないわよ」
「……うん、がんばる」
そう言われてできるだけ笑顔を取り繕うアウローラ。これは少し無理があったかとルージュは軽く苦笑し、調子を変えずに食事を続けているウィンクレイを睨みつける。
怪しい、と直感だが思った。勘だと言えば簡単に処理できるだろうが、どこかわらとらしい態度が不信感を加速させる。
そんな視線を向けられてもなおウィンクレイはにやけ顔を崩さない。
流石にイラッと来たので、遠慮なくルージュはストレートに尋ねることにする。
「ウィンクレイ? 貴女、リースの居場所、知ってるわよね?」
「え? いんやぁ~? わたしぃ、しーりーまーせーん?」
「……(ブチッ)」
露骨にコケにされて完全にぶちぎれたルージュは無言でアヴァールを召喚。
間髪入れずに唐竹割りを繰り出してウィンクレイの頭蓋骨を真っ二つにしようとするが、当然そんな事ぅ陰クレイ本人が受け入れるはずもなく、彼女の魔剣である『竜屠る聖人の魔剣』で真正面から受け止められてしまう。
その余波で鍋が吹っ飛んだりしたが、スカーフェイスならぬライルが状況を察して中身を飛び出させずにキャッチしたので特に被害はなかった。
「このド低能がぁ……ちょっと全身を焼かれないと身の程がわからないようねぇぇええ………?」
「貧乳って胸だけじゃなくて気も小さいんだねぇ! これは良いことを学んだよありがとう」
「殺す。殺す殺す殺す殺殺kill――――」
ガタガタと互いの剣を揺らしていると、ふと別の視線を感じる。
鍔迫り合いを止めて、その視線を向けてくる者へと目を向けると、そこには一人の獣人が立っていた。
確か、マルタと言ったか。フェーアと共に大集落までの護衛――――名目上だが――――としてやってきた獣人の一人だ。丸太は色々馬鹿なことをやっているこちらをみて「何やってんだろこの人たち」といった呆れの視線を向けて、同時に疑問を持ったような視線を投げかけていた。
「何やってんですか、あなたたたち?」
「あ、いや、ちょっと挨拶をだね~」
「……へぇ、人間たちの挨拶ってこんなに苛烈なんですか」
「冗談よ」
「私は一応獣人なんだが」
流石にごまかし切れないのでルージュとウィンクレイは互いに武器を収める。周りの者たちも一安心したようで、改めて食事を再開しようとするが――――マルタの言い放った次の言葉でそれは急遽停止されることになる。
「ていうか、アンタらの親玉が獣王と決闘中なのに、視に行かなくていいのか?」
『……………………は?』
直後、静寂が五秒。
そしてその後秒で全てを理解した、事前に知っていたウィンクレイとジルヴェが以外即座にその場から立ち丸太を押しのけて全力ダッシュで住宅を出て行く。
何が起こったのかさっぱりわからないマルタは間抜けた顔で「え、え?」としか言えない。
「あーらら、余計な事言っちゃって」
「……まぁ、早かれ遅かれバレてたと思うけどな……」
「な、なんかまずいこと言いましたか?」
「まーいんじゃない? あ、麦粥食べる?」
「いや、遠慮しておきます……」
この後起こりそうな小さな波乱に胸を躍らせながら、ウィンクレイは何事も無かったかのように食事を再開するのであった。
――――――
「剛技・滅拳!! ハァァァァッ!!!」
「喰らうかよッ――――『戦術眼』!『並列演算戦術』!『超過思考加速』ッ! 全ッ開だァァァァアアアア!!!!」
城壁が迫るようなプレッシャーを振り払い、当たれば即死の拳を回避するため脳を限界まで活発化。同時に脳の未使用領域を解放し並列高速演算開始。回避した後に獣王がどう対応してくるか数百通りのパターンを見出し一番高い確率の高い物を選び取り、対策を立案。有用だと判断し即座に実行。
レオニードの拳を回避。しかしそれはフェイント。直後に別の拳が俺の首を刈り取るために襲いかかってくる。既に予測していた俺はそれを回避し、足を限界まで広げる様にしてレオニードの顎を蹴り上げる。弾丸の様に突き刺さるその一撃でレオニードの脳が揺れ、軽い脳震盪に見舞われただろう。しかし気絶せず、レオニードは体勢を一瞬で立て直しての反撃。
しかし今の俺に単純な攻撃謎当たるわけがない。幾重にも織り交ぜられたフェイントであろうがもう全て知っている。相手の行動パターンを数十手先まで予測してでの読み合い合戦。それで負けたことなど俺は一度も無い――――!!
「セィアアアアアッ!!!」
「むぅんっ!!!」
強烈な周り蹴りが蹴り出される。俺の予測ではそれを受け止めてのカウンター。
しかし予想に反して、レオニードは俺の蹴りを受け止めずに――――受け流した。
「柔技・錬功肘打!!!」
そして俺の攻撃の衝撃を転用しての肘打ち。それが真っ直ぐ俺の脇腹へと打ち出されんとする。
予定変更。すぐにその一撃を両腕で受け止め衝撃で体を回した。
こちらへ伝わるであろう衝撃を全身から魔力を放出しながら往なし、全て逸らして回転力へと転換したのだ。柔道と『魔力放出・Ⅱ』を限界までを応用した技だがギリギリで上手く行った。代わりに空中できりもみ回転をする羽目になるが些細な問題だ。
回転しながら着地し、跳躍。隙も見せずにレオニードの懐へと転移する。喋る暇があるならば相手を叩く。殺し合いの基本だ。
「オオォォォォォォォォオオオオオオオッ!!!! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!」
「ぬぅっ、ぉぉぉおおおおおおおおッ!!!?」
俺はスタープラ○ナ張りの怒涛のラッシュを繰り出す。
腕が数十にも分身して見えるほどの拳の連打。反撃の隙など与えて堪るか。前に見せた気合での全方位攻撃? しるか発動する前に押し切る。押して押して押しまくる。拳の壁で圧殺する勢いでレオニードの全身を殴り続けた。
「舐めるな小僧――――耐技・重轟烈波ァァッ!!!」
「うっぉぉぉお――――――ッ!?!?!?」
突如レオニードの全身から放たれる赤色のオーラ。全身から放たれるその気の波に押されて無様にも吹っ飛ばされる。
しかし転ばずに足で砂を抉りながら勢いを相殺。地面にキスなどせずに、ギリッとレオニードを睨みつける。
「ダメージを氣に転換する耐技か。厄介な……」
「まだ終わらんぞぉっ――――波技」
「ッ……! 来るかッ」
レオニードは右腰に両手を集めると、その手の間の空間に赤黒い氣を収縮していく。
その氣は禍々しく、本来ならば生命に宿る力である筈が生命を脅かす力と化している。あまりの密度に、並の生物では受けただけで内部爆発を起こしてしまうほどの超圧縮の氣弾。
はた目から見るとどう見ても波○拳です本当にありがとうございました。いや、北斗剛○波か。
「死に物狂いで耐えてみよ―――――緋焔剛狂波ァァァァアアアアアアアアッ!!!!」
圧縮された氣の塊は打ち出される。バスケットボール程度の大きさながらもその存在感は小惑星の如し。
受ければ確実に死ぬ。復活? 無理だ。受ければ全身が爆発するのだと理解できる。かと言って避けたら確実にレオニードの追撃で死ぬ。ついでにいばその時はアレの副産物である衝撃波のせいで行動不能状態だ。そうなったら積み。
ならば――――喰らう。
そう判断し、俺は右手で、『月蝕の右腕』で氣弾を受け止めた。
周囲の砂が融解して吹き飛び、着ていた衣服はハーフパンツを覗いて吹き飛ばされる。なんでパンツだけ残るんだろうかなどとは今は考えまい。
(ちょ、ヤバい、やばいやばいやばい!!?)
右腕に亀裂が入り始める。想定外の威力だ。早くしなければ右腕がこの世から消える。
「ルキナァァァアアアアアアア!!! 手伝えェェェェェッ!!!」
――――ほう、面白そうなことしている。で、対価は?
「右足全部やるからさっさとやれボケェェェッ!!」
――――その口は気に入らんが、いいだろう。存分に使えよ私に力を!!
「うぉぉぉぉおおおおおアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
右腕が変形して一瞬で顎の形に変化する。これなんてゴッ○イーターとは言っている場合じゃない。
全力で踏ん張り、押されていく身体を食い止める。
「喰え――――!!!」
右腕が変化した顎が氣弾を捕食。一瞬で右腕が肥大化し、気持ち悪く脈動する。更に赤熱まで帯び始め、焼けるような臭いが立ち始める。さらには全身に氣が駆け巡りかけており、右半身の筋繊維が絶え間なく千切れ始めていた。
これ以上の維持は限界か――――
「なぁぁぁぁらばぁぁぁあああああああああ!!!!」
顎を疲労で膝を付いているレオニードへと向ける。
右腕が一気に膨らむ。限界だ、爆発する――――寸前、顎を開く。
すると栓が明けた破裂寸前の風船の如く、氣は吐き出される。超高密度のそれは熱線の様に照射され、放った本人であるレオニードへと直撃する。
「なんとぉぉぉぉぉぉおおおおおッ!!」
「くたばれぇぇぇぇぇええ!!!」
流石に自分の攻撃を受けて堪えたのだろう、勝者が終わり露わになったその姿は全身の意たるか所から流血しているという悲惨な物であった。だがこちらもまた、右半身の筋繊維がズタズタになりしばらく使い物にならないほど凄惨な有様となっていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………しぶといんだよ筋肉ダルマぁッ……!」
「く、くはははははっ……貴様も大概、だろうに……!」
どちらも満身創痍。
よくもまぁ、ここまで持ちこめたものだと自分を褒めたい。
「――――貴様に一つ問おう。其の力、誰がために振るう」
「…………んだと?」
その言葉にピクリと眉が動いてしまう。
――――お前もか? まさか、お前までそんなくだらないことを言うのか?
「何だよ、また責任がどーこら言うのか? お前も? 御託も大概にしろとしか返事はできないぞ?」
「違うわ、馬鹿め。誰のために力を求めて、そして振るっているのか……単純に気になっただけだ」
「…………こんな俺を、信じてくれる奴らのためだ」
「それだけか?」
「……そうだな、面倒ごとを片づけるためでもある」
「――――自分のためだろうに、すぐわかる嘘はつかぬが身のためだぞ」
「……………………ッ」
図星を突かれて、押し黙ってしまう。
そうだよ。結局は自分のためだ。
「お前に俺のっ――――――何が分かるッ!!!!」
柄にもなく、頭に血が上ってしまう。
我ながらなんて子供なのだろう。図星を突かれて逆上するとは。
実に、馬鹿すぎる。
「そうだよ、結局は自己満足だよ。それの何が悪い! 護りたいもの護りたいと思って奔走して頑張って死にかけてそれでもまた立ち上がって!!! 仕方ないだろ!? 求めてもいないのに厄介事が転がり込む! やりたくもないことを強制的にやらされる! それから背を向ければお前の責任だなんだ! それを解決するための力を手に入れたら今度は化物呼ばわり! もう沢山なんだよこんなのは! 俺だって守られたいよ、俺だって楽したいよ、俺だって日常満喫して大人しく暮らしたいんだよ!!! でもこの様だよ!! 少し額の高い依頼を受ければ知り合いを巻き込んだ種族間戦争。友人を失いたくなくてこんな無様晒しながら血反吐吐き続けての殴り合いッ!! で、この後は何だ? この場の全員が殺しにかかってくるか!? ああそれもあるだろうなァ!! それとも力を示せと一人で竜種の首都にでも送り込むかァッ!?! あァッ!!!? そもそも何だよ、なんで俺はあの馬鹿どもこんな必死になって守りたがってんだよ。俺一人で、見返りも無いのに!!? 馬鹿馬鹿しいだろ何が『失いたくない』だ! 何が『悲しいから』だ! 結局全部自分のためじゃねぇかよ!! 挙句の果てに自分への言い訳が『これしかやることが無い』だとよ! 笑っちまうだろ、他人を護ることでしか存在意義を見出せない大馬鹿だぞ俺は! 化け物のくせに人間気取って他人を護ることが人間であり続ける条件だと勘違いしているアホだッ!! あははははははっ! 沢山人を殺しておきながら自分を信頼してくれる奴には贔屓する屑だッ! ああ、今戦っているのも全部自分のためだよッ! 好きな女を犠牲にしたくないから戦っているんだよ! 獣人? 竜? どうでもいいわ両方滅びても知ったこっちゃねぇよ!! こっちは『世界を救いたい』とか『命は大切にするべきだ』とかそんな腐った御託や理想並べて戦っているわけじゃねぇんだよ!! 戦争したいんなら勝手にやってろよ!! 戦いたいんなら同類同士でやってろよ!! 無関係な奴や戦う気の無い奴ら巻き込んでやってないでとっととくたばれやこの糞どもがァッ!! 俺に全部任せてふんぞり返る気なら全員ぶっ殺すぞッ!! わかってんのかよこの純血主義種族差別戦闘狂の阿呆どもがァァアアアアアアアアアッッッ!!!! 少しは他人との協調性ぐらい育ててみろや!! 子供でもできるだろうがふざけんなァ!!! ああァッ!!? 呆けてないで反論の一つでも返したらどうだ腑抜け共がッ!!! 一族郎党根絶やしにされてぇのかァァアアア!!!」
もう溜めていたものがあり過ぎたのだろう。自分でも何言っているのかわからないぐらいに喚き散らし、絶叫し、吠え続けた。あまりにも滅茶苦茶に殺気や威圧をまき散らすものだから観戦していた者たちは平汗を流しながらじりじりと下がっていく。
そんな物知るかと俺はそれでもまだ中にあったものを吐き出し続ける。
「んだよぉぉっ…………!! 俺が何したっていうんだよぉぉッ!!! なんで静かに暮らさせないんだよぉぉぉおッ!!! なんでみんな俺に武器を向けてくるんだよォッ!! ふざけんなよ!! 俺だってなぁっ――――」
膝を付き、号泣しながら――――心の奥底に閉じ込めていた本心を吐露してしまった。
「もう、戦いたくないんだよ――――――――――ッ!!!!」
その言葉を吐いたのがきっかけになったのか、涙が止まらず溢れてくる。
そうだ、どうだったのか。
俺は、戦いたくなかったのか。
自分でも理解していなかった自分の本心を、今ようやく、知ることができた。
「うっ、ぐぅぅぅぅッ…………ぁぁぁぁああああああ…………!!」
膝を付き、這いつくばり、泣きわめく姿は自分でも醜いと思う。
それでもこれは、俺の本心なんだ。
もう戦いたくない。
もう帰りたい。
静かに、皆と日常を過ごしたい。
それだけなのだ。俺の願いと言うのは。
「…………結局、貴様も『王』ではなく、『人』であったか」
「っ…………っせぇよっ。勝手に人を格付けすんなよ。俺はお前の思っているほど立派な奴でもないんだよッ……!!」
「どうやら、そのようだ。――――だが、だからこそ、他の者の心を理解できるのであろうな」
意味深な台詞を吐き、レオニードは――――そのまま後ろへと大の字に倒れた。
……は?
「……参った。私の負けだ」
「待っ――――テメェふざけんな!? どう見てもわざと負けてんじゃねぇかよ!!」
「……これでもかなり危ない状態なのだがな。何せ自分の全力を食らえば、鍛えていても老骨には堪える」
「マジかよっ……?」
恐る恐る彼のステータスのHPを見てみる。
結果は――――
【ステータス】
名前 レオニード・レックス・クロスフォード HP72308/98210000 MP0/0
言葉通り、瀕死と言える状態であった。
実に0.0007少しと言うありさまだ。確かにこれ以上戦闘を続ければ、かなり不味いといえる。
しかしそれはこちらも似たような状態だ。勝手に負けてもらってはこちらが困る。
「お前っ、全部俺に丸投げしやがったな!?」
「ふふふっ、老人を気遣うのは若者の特権だぞ?」
「ふざけんなよクソっ! ……ああ畜生がッ、やりゃいいんだろうやりゃ! どうなっても知らねぇぞ!」
こちらもまた限界で、大の字にぶっ倒れる。
流石に、血を流し過ぎたらしい。
「おい糞ライオン! テメェが選んだ選択だッ――――後になって後悔すんじゃねぇぞ…………今から犠牲になる奴らは全員お前が背負えよ!!! 俺は責任取らねぇからなァッ!!」
「うるさい小僧だ全く……ああ、そうしろ。私は少し眠い。このまま、休ませてもらうぞ」
「勝手にしろクソジジイめッ!!!」
そう吐き捨てて、俺は全身の力を抜く。
もう、何なんだよ。クソッ。全部滅茶苦茶じゃねぇか。
しかも観戦していた獣人達は完全に絶句している。もう収拾付くかどうかもわからねぇぞコレ。
「――――これにて両者の決闘を終了します。勝者は、リースフェルト・アンデルセン!!」
静寂を打ち破る様に、その声は宙に反響する。
決闘を見届けた、フェーアであった。その目には少なからず泣いたような跡があり、この決闘に色々複雑な気持ちが入り混じっていたことが伺える。ほとんど同時に――――この事を内密にしていたはずの仲間たちが獣人達の群れを割って俺の傍に駆け寄ってきた。
「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!!」
第一声はアウローラのそんな言葉。無理もない。
そして飛びつかれた。更に涙で顔をぐちゃぐちゃにしているエレシアも俺にのしかかる。重い重い、傷が開く。などと言えるはずもなく、何とも言えない表情で俺は二人の頭を優しく撫でた。
「無茶するわね、相変わらず」
「それがダーリンの魅力の一つでもあるんですが……今回ばかりはちょーっと後でお灸をすえないと、ね?」
「ぎゃっはははははははっ! マジで勝ちやがった! 大博打に勝ちやがったよこのお馬鹿! ぷははははははははっ! 笑うしかねぇ!」
三人の『守護者』もやがて姿を見せる。それぞれから有り難いメッセージを貰いながら後でウィンクレイテメェぶっ飛ばすとか思ったりした。
そして最後にベルジェとジルヴェが姿を現す。その表情には呆れはなく、単純に尊敬の眼差しが見て取れた。その視線が辛いです。
「…………やったんだな、お前」
「見事な手腕だ、リースよ」
「……やっちまったよ、笑うしかねぇよ…………」
もうここまで来てしまった。こうなったらもう後片付けまでやってしまうしかないだろう。
「……は、はは…………すこし、疲れたよ……」
赤い空を見つめ乍ら、俺はそう呟いた。
流石に、もう限界だった。
俺は抵抗せず――――意識を闇の奥深くへと、沈めていった。
主人公の本音暴露、一体何回目だろうか。確かに嫌でも死闘を強いられ続ける人生を送ればそりゃ戦う事もしたくなくなるだろうけど。




