第九十七話
「人類最強の転職 ~魔物相手に成り上がる~」という作品を書き始めました。
こちらもどうか一読よろしくお願いします。
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「部員が入ったですって!?」
翌日の昼休み、教室中に夏子の声が響き渡った。あと少しすると五限目が始まる時間帯で、昼食を終え思い思いに過ごしているクラスメイト達の視線が一斉に集まる。
「うん、まあ……」
「まあ……じゃないわよ!竜ちゃんあたしにそんなこと全然言ってなかったじゃない!」
たじろぐ竜二に夏子が叫ぶ。どうやら体調は回復したようで、すこぶる調子が良さそうだ。
というより、絶好調だな。
そんなことを考えていると、制服の袖を引っ張られた。隣に目を向けると麻理と目が合う。何とかしろということらしい。そう期待されても、ヒートアップした夏子を御するのは骨が折れる。
今までの夏子なら。
「それは、ナツにいらぬ心配をかけないためにだな」
「随分心配していたな」
「そ、そうなの?」
夏子は発言した竜二でも悟仙でもなく何故か麻理に目を向けた。麻理はにっこりと微笑む。
「うん」
「……そっか」
麻理の一言で、目に見えて夏子の怒りが静まる。
あのクリスマス以降、夏子は少し変わった。具体的に言うと、しおらしくなった。特に竜二の前で。それが良い変化なのかはよく分からないが、今回に限ってはクラスメイト達の視線から逃れられたのでよしとする。
ここがチャンスとばかりに竜二が畳みかける。
「入ったのは、あの三島優弥だぜ?仮入部だし、そう長居することはないさ」
「確かに、そうかも」
「そうに決まってる。な?悟仙」
「さあな、俺には分からん」
「ちょっと竜ちゃん、どっちなの?」
「ちょっ、悟仙流れを考えろよ!」
「俺には関係ない」
夏子の怒りを再燃させた悟仙に恨みがましげな目を向ける竜二だが、悟仙は素っ気ない。
「麻理っ!?」
すると突然、夏子ががばっと麻理に抱きついた。
「な、なっちゃんっ」
目を白黒させる麻理に構わず夏子は顔を近付けると、両手で麻理の顔を挟んだ。
「あんた、何もされてないでしょうね」
麻理が何度も頷くと、夏子は麻理を解放した。そして、ポツリと言う。
「麻理の肌ってほんときめ細かいわね」
両手をしげしげと見てそんなことを言う夏子をぼんやりと見ていると、急に睨まれた。眼光鋭く、明らかな疑いの感情が見えた。
「陸奥、あんたは?」
「は?」
「は?じゃないわよ。あんたは麻理に何もしてないんでしょうね」
「してない」
「本当?」
「本当だ」
「……そう、ならいいわ」
許しを得た悟仙はふっと息を吐いた。あの視線から目を逸らさなかった自分を褒めてあげたい。取り調べを受ける容疑者の気持ちが少し分かった気がした。
予鈴が鳴ると、クラスメイト達がそれぞれ自分の席に歩いていく。同様に悟仙も窓側の席に向かおうとしたが背中に声を掛けられた。
「陸奥くん」
「どうした?」
振り向くと、麻理と目が合った。まだ席に向かう様子はなく、大きな目を真っ直ぐ向けてくる。
「今日、三島くんは部活に来ないかもしれません」
「そうだな」
というか来ない、絶対。
「でもそれは、陸奥くんのせいじゃありませんから」
それだけ言うと、麻理はそそくさと席に帰って行った。
もし今日優弥が来なかったら、昨日優弥に声を荒げた悟仙が責任を感じると思ったのだろうか。よくそんなに他人に感情移入できるものだなと感心してしまう。
容姿端麗で成績も良い。おまけにここまで他人を気遣うことができる。なるほど夏子が過剰に心配するのも仕方の無い事なのかもしれない。
そんなことを考えていると、控え目なノックのあとドアが開く音がした。教師ならそんなことしない。このクラスの生徒なら言わずもがなだ。他クラスの人だろう。その訪問者は女子生徒だった。
「陸奥悟仙くんはいますか?」
その女子生徒はよく通る声でそう言った。
クラス中の視線が集まる。
「俺、ですけど」
その女子生徒は野球部の二年生のマネージャーで、西口詩織と名乗った。何年生なのか分からなかったため敬語を使ったのだが、その判断は正しかったようだ。
その女子生徒、西口詩織は開口一番に言った。
「優弥を野球部に復帰させて欲しいの」




