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第九話

「これで最後ですね」


麻理は、一年生皆に配られた林間学校のしおりの保健係の項目を全て確認し終えて、自分と同じしおりを持って、いつも通りの眠たそうな顔をしてしおりに目を向けている悟仙に最後に言った。


「そうだな」


「あ、あの」


未だにしおりを見ている悟仙に、同じようにしおりに目を向け、時折悟仙の表情を窺いながら言うと、悟仙は目だけこちらに向けた。


「なんだ?」


「さっきのこと、怒ってます?」


「さっき?ああ、あれか」


「ああって……」


本当に忘れていたように言う悟仙に唖然とする。

悟仙にとっては、さっきの口論などたいして気にかかることではないようだ。


これでは、一緒に確認していた時からずっと気にしていたのがバカみたいだ。


「あの、私はさっき間違ったことを言ったつもりはありませんが、ちゃんと理由を聞いてほしくて……

聞いてくれますか?」


悟仙は何やら作戦会議なるものをしている夏子と竜二に目を向け、まだ終わってないことを確認するとこちらに目を向けた。


「ああ、聞かせてもらう」


どうやら、夏子と竜二の話が終わるまでの暇潰しみたいだが、それでいい。


このまま理由を言わないとなんだか寝覚めが悪い。理由を話すというその行為が大事なのであって、それをどう聞かれようとも、麻理には関係ない。


これではまるで悟仙みたいだと笑いそうになる。


「私が中学生のときに妹と公園で遊んでたら、妹が遊具から落ちて動かなくなっしまったんです。私、その時どうしたらいいのか分からなくて、頭が真っ白になってしまったんです。私は今でもあの時の事を思い出すとすごく怖くなります。だから、そうならないように、確認できることはしておいた方がいいと思ったんです」


言い終わると、悟仙はしおりを閉じて彼にしては珍しく少し神妙な顔になった。


「不躾なことを聞くが、いいか?」


「はい、余りにも失礼なことでなければ」


「あんたの妹は、健在なのか?」


「はい、健在です」


「そうか」


悟仙は再びしおりを開くとそれに目を向けた。

心なしか安心したような表情に見える。

妹が健在かどうかなんて、それこそ悟仙にとっては『関係ない』ことなのに、そういうことは気になるらしい。


意外と優しい所もある。


なんだか可笑しくなり笑うと、悟仙がこちらに向けた目をすっと細めた。


「なにが可笑しい?」


「別に、何でもありませんよ」


笑いながら言うと、悟仙は再びしおりに目を戻した。


「何か、分からない所とかある?」


その仕草が可愛く見えて、また可笑しくなって笑っていると、突然背後から声を掛けられた。


振り向くと、すこし茶色に染めた髪を整髪料を使って整えた、彫りが深く少し悪そうに見える男子生徒が立っていた。




☆☆☆




「何か分からない所とかある?」


その声の方に目を向けると、顔だけは知っている男子生徒が麻理に話し掛けていた。


「特にはありません。宮田くん」


悟仙は麻理の言葉でやっと思い出した。確か、中学の頃にそんな奴がいた気がした。

竜二の話によると、相当モテるらしい。悟仙にとっては絶対に無関係でありたい世界だ。

恋愛ほど面倒なことはない。


「悟仙は?」


いきなり下の名前で呼ばれ、少し驚く。しかし、フレンドリーなのは別に悪いことではない。むしろ、いいことだろう。

もっとも、だからといって友達になれそうという訳ではないが。


悟仙からすると恋愛はとても面倒なものである。

だから、総じてモテる奴も面倒なのである。

そんな人と友達になるなど、願い下げである。


竜二とつるんでいたおかげで、恋愛から派生する人間関係のいざこざなど嫌というほど見てきた。

竜二も今でこそ、夏子とつかず離れずの関係のため他の女子から余り声を掛けられたりしないが、そうなる前は、凄かったのだ。人間関係がどんどん複雑になり、その収拾をやらされたのも一度や二度ではない。


それに、女の本性など姉を見ていてとっくに分かっている。


「そっか、あとさ係長って俺でいいかな?」


「宮田くんも保健係なんですか?はい、いいと思います」


係長とは文字通り各係から、それぞれ一人選抜された人である。


「悟仙も、俺でいい?」


「もう決まってるんじゃないのか?」


「いや、皆に聞いて回ってて、ここが最後なんだ」


ひどく効率の悪いことをするものだ。

そんなの、皆を集めて言えばいいのに。


「皆は何て言ってるんだ?」


聞くと宮田ははにかむように笑った。


「皆、賛成してくれたよ」


「じゃあ、俺に聞く必要ないだろ。多数決で決定だ」


無駄なことを聞いたものだ。


「でも、皆に賛成されてやった方が気持ちいいだろ?」


「そんなことは知らん」


悟仙は皆に賛成してもらった事などないし、皆に賛成してほしいとも思わないのでそんな気持ち分からない。


それに、自分の口癖だって、賛成されずに今のところ二連続て遮られているのだ。


そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。

昼休みが終わったようだ。

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