第八十八話
更新遅れてすみません。第八十八話です。
感想、評価は随時受け付けてます。
あと、最近は登場人物一覧も載せようかなあなんて思ってます。それに対する意見もあると嬉しいです!
「恋愛ってのはな、買い物と同じなんだよ」
今の恋愛をどう思うのか、そう前置きしてから向かいに座る宮田が放った第一声がこれだった。
「買い物、ですか?」
隣に座る麻理がいつもより一つ高い声で問いかける。
「ああ、そうだ」
宮田が鷹揚に頷く。それに対して麻理は困り顔で首を傾げた。顔には出さなかったが、悟仙も困惑していた。恋愛と買い物というワードがどうしても繋がっているようには思えない。
「よく分からん、説明してくれ」
「今はな、よくドラマである燃えるような恋なんてしてないってことさ」
「それが買い物とどう繋がるんだ?」
悟仙の問いに、宮田は長テーブルに両肘を突き少し前のめりになって話し始めた。
「皆、自分の懐事情を考えながら恋をしてるんだよ。例えば、クラスに絶世の美女がいたとする。何の取り柄もない奴がその女の子から好かれようとしても、それは無理な話だろ?何たって、そいつには買い物で言う金、つまり人間的魅力がないんだから」
宮田が言っていることも分からなくはない。確かに魅力に欠ける人間が引く手数多な美女の心を射止めるのは難しいだろう。
しかし……
「そう決めつけるのは違うと思います。多くの人が魅力がないと思う人でも、気付く人はその人の魅力に気付けるはずです」
麻理の妙に熱の篭もった声が宮田を否定する。過去にそういった人物と会ったことがあるのだろうか。あくまでも客観的にだが、それは悟仙も同意見だった。皆が皆一様な視点を持っている訳ではない。普通なら魅力的に見えないことでも、誰かにとっては魅力的に映ることもあるかもしれない。
しかし、宮田は首を振る。
「麻理ちゃんが言うことも分かるんだけどな、そうはならないんだよ」
「どうしてですか?」
「人間、周りの目がどうしても気になるからね」
「それで買い物なのか」
漸く悟仙は宮田が言いたいことを理解した。しかし、麻理はまだ分かっていないようで、目をぱちくりとしている。
「どういうことですか?」
「ようは、恋人もただのブランド品と同じってことだ」
「ブランド品?」
「ああ」
「えっと……」
尚も分かっていない麻理がこてんと首を傾げる。長々と説明するのも面倒なため、悟仙は対面の宮田に目を向けて先を促した。悟仙に促され、宮田が口を開く。
「例えばさ、麻理ちゃんが高いブランド品のカバンを買ったとするでしょ?それを持って出歩いているとき、同じようなカバンを持ってる人がいたら、気にならない?」
「気になる、かもしれません」
「俺は気にならないがな」
口を挟むと、宮田が軽く睨み付けてきた。
「お前が特殊なだけで、大抵の人間は気になるんだよ」
「そうですか」
悟仙の気のない返事に宮田はため息を吐いてから口を開いた。
「それが恋人にも言えるってこと、自分の彼氏より友達の彼氏の方が格好いいとかどうとかが気になり始めるんだよ」
「でも、自分の所持金、お前が言うところの人間的魅力ではそんなにハイスペックな恋人は買えないということか」
「そうだ」
その魅力というものは、殆どが外見に起因するはずだ。そして、そのレベルに応じてその人が恋人にすることが出来る人も変わってくる。だから、宮田は恋愛を買い物に例えたのだろう。
麻理はやっと理解できたのか、はっとした顔になった後暗い顔をして俯いた。
「皆さんは、そうやって恋愛をしているのですか?」
「俺の周りでは、ね」
部室に沈黙が広がる。それを破ったのは悟仙だった。
「お前の恋愛観は分かった。それで、それは今回の件とどう繋がるんだ?」
元々はそのために呼んだのだ。宮田もそれは忘れてなかったようで、あっけらかんとした口調で話し始めた。
「今は丁度クリスマス前だろ?だから、買い物ブームなんだよ」
クリスマスに恋人同士が出歩いている姿はよく見かける。ならば、あそこは自分達が買った商品の見せ合いの場なのかもしれない。
その時に手ぶらであるなど論外だ。しかし、貧相な商品では見せぶらかすことができない。だから、皆躍起になって自分をよく見せて恋人を作ろうとする。その一つの例があの教室に充満した香水の匂いなのだろう。
「それは大変そうだな」
呆れる悟仙に宮田は得意顔になった。
「お一人様一つだからな。まあ、俺は三つ四つ買えるけど」
宮田のよく分からない自慢を無視して今まで黙っていた麻理が口を開いた。
「でも、どうしてなっちゃんが……」
「誰でもいいって訳じゃないからだろ」
これは竜二の言葉なのだが、夏子はなかなか可愛いらしい。それならば、男子がこぞって狙うのも分かる。
「もう大抵の可愛い女子は埋まっちゃってるからな」
宮田が無視されたことを気にせずに腕を組みながら言う。
「じゃあ、井上も埋まってるのか?」
悟仙の何気ない問いに、麻理は目を見開いて両手をぶんぶんと振った。
「わ、私はその……今の所、予定はありませんけど」
「そうか」
麻理の動揺も凄いが、それより動揺しているのは宮田だった。口をあんぐりと開け、有り得ない者を見るような目を向けてきた。
「悟仙、麻理ちゃんが可愛いって認識はあったんだな……」
そこで、悟仙は先程の自分の発言を振り返った。宮田は可愛い女子は大抵埋まってると言った。それに対して悟仙は麻理も埋まってるのかと聞いた。ということはつまり……
「可愛いだなんてそんな……」
白い頬を赤く染めて麻理が俯いて、未だに摘まんだままの悟仙の制服の裾を何やら指でいじり始める。
「そういう意味で言ったんじゃない。井上は今年の文化祭の美少女コンテストで二位になった。だから、そう思っただけだ」
本当にそう考えていたので、表情にも声にも動揺は表れていないはずだ。なのに、自分の声がどこか言い訳めいて聞こえるのは気のせいだろうか。
「麻理ちゃんを狙う奴なんかいねえよ」
「どうしてだ?」
「麻理ちゃんは高嶺の花、買い物で言えば超高い商品なんだよ」
「そうか」
「それに、いつも誰かさんの隣で笑ってるところ見せられたら、誰だって身を引くさ」
宮田の声は小さすぎてよく聞こえなかった。
「すまん、もう一度言ってくれ」
「とにかく、麻理ちゃんはもう予約済みってことだよ」
「え、私誰からもお誘いを受けてませんけど?」
宮田は目を丸くして悟仙と麻理の顔を交互に見た後、深々とため息を吐いた。
「悟仙もそうだけど、麻理ちゃんも麻理ちゃんで大概だな」
「お前、一体さっきから何を言ってるんだ?」
「別に、何でもねえよ。要件はもう終わったろう?俺は帰るぜ」
悟仙の問いに立ち上がりながらそう言うと、宮田は一つ背伸びをした後帰って行こうとした。しかし、足を止めてこちらに振り返る。
「あっ、そういえば期末試験が終わった後クラス会をするみたいだぜ?」
「そうか。まあ、俺は行かんがな」
「そう言うと思ったよ」
仏頂面の悟仙にそう返すと、今度こそ宮田は去っていった。
ドアを閉める音がすると、再び二人の間に沈黙が降りた。
そんな中、麻理がおずおずと声を掛けてくる。
「あの、陸奥くんは宮田くんの話が本当だと思いますか?」
「まあ、否定はしきれないな」
宮田の話の信憑性は、恋愛を知らない悟仙には判断しがたい。しかし、人の目を気にして行動するという話は悟仙も同意見だった。
「そんな……」
麻理の眉根を寄せて少し俯く。このお嬢様はどこか恋愛に夢を見ていたのかもしれない。だが、宮田の話によってその夢は夢でしかないと気付かされた。
「もし、本当にあれが恋愛の真相なら、私は恋をしたくありません」
それを聞いて、悟仙は少々困った。普段なら、別に麻理が恋しようがしまいがどうでもいいことなのだが、今回は少し違う。宮田をここに呼んだのも、話をさせたのも悟仙だ。それによって、麻理にそう判断させてしまったのなら、それは悟仙に「関係ある」ことだ。
「まあ、宮田が言っていたのは一つの例だと思えばいい。そして、どこにでも例外はあるものだ」
悟仙の言葉に麻理はゆっくりと顔を上げた。少し垂れた大きな瞳と目が合う。
「私は、その例外になれるでしょうか」
「なれるんじゃないか?お前は変わり者だからな」
「もう、からかわないで下さい」
本気で言ったのだが、麻理は冗談と受け取ったようで頬を膨らませる。少し怒っているようだが、先程より表情は明るくなった。
「じゃあ、陸奥くんもその例外になれますね」
怒り顔から一転、今度は穏やかに微笑んだ麻理がそう言ってくる。
「それは、俺も変わり者だと言いたいのか?」
「はい、陸奥くんは少し変わってますから」
「そんなことはない」
頬杖を突きながら否定するが、麻理は上品にクスリと笑った。
「ありますよ?」
ここで否定と肯定の争いをしても、麻理は絶対に引かないだろう。
伊達に半年以上の付き合いではない。
「そうなのかもしれんな」
渋々認めてやると、麻理は満面の笑みになった。
「はい、きっとそうです」
外は未だに雨が降っており、部室はじめじめとしたままだ。しかし、にこにこ笑う麻理が隣に座っていると、そんなことも気にならなくなるのが不思議だった。




