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第八十四話

ブックマーク数が200を超えました!読者の皆様、本当にありがとうございます。


感想、評価、ご指摘はどんなものでも募集中です。(なるべく優しくして頂けると嬉しいですが)


これからもどうかよろしくお願いします!

「それで、どうしてクリスマスの前にあいつらを仲直りさせる必要があるんだ?」


今までの経験上、麻理から逃げるのは難しい。だが、面倒なことと無関係でいたい悟仙は思いっきり首を突っ込むような真似はしたくない。だから、考え得る最善の策は「それなりに」協力することだ。そうするためには先ず理由を聞いておかなければならない。


打算を含んだ問いだったが、対面に座る麻理は真面目な顔で答える。


「実は、今年のクリスマスをなっちゃんは加藤くんと二人で過ごそうと思っていたんです」


クリスマスに異性と二人、それをはたから見ればきっと誰もがその二人の事を恋人同士だと思うだろう。

竜二と夏子は長い間友達以上恋人未満、付かず離れずの関係だった。夏子はそこから一つステップアップしようとしているのかもしれない。恋愛というものをよく知らない悟仙には分からないが。


「思い切ったものだな」


「そうです。なっちゃんは勇気を出しました」


「まだ竜二には言ってないんだろ?それはまだ勇気を出したとは言えないだろ」


あることを決意するのと、それを口に出すのは天と地ほど差がある。いくら良い考えを持っていても、それを表に出さなければ何の意味もない。


「で、でもなっちゃんはもう少しで勇気を出せていたんです。それが……」


「何とも良いタイミングで喧嘩したな」


悟仙が呟くと、麻理は軽く睨んできた。穏やかな性格をそのまま表したかのような顔をした麻理に睨まれても全く怖くない。麻理の場合、むしろ怒った時の笑顔の方が迫力がある。


「悪いタイミングです。もっと真面目に考えて下さい」


「そうでもないと思うけどな、約束をしてから喧嘩した方が最悪だった」


「そう、かもしれませんね」


麻理の言うように、夏子が竜二を誘うのに勇気が必要なら、約束を取り付けた後に喧嘩した場合もう一度その勇気を出さなければならない。


「まあ、もしクリスマスまでに仲直りできなくても、クリスマスは来年もある」


「そ、そんな……」


麻理がどんよりと落ち込む。毎度の事ながら他人のことによくここまで感情移入できるものだ。今も二人が仲直りできなかったことを考えているのだろう。


これはチャンスかもしれない。


「そもそも、喧嘩は二人の問題だ。俺達が口出しできる事じゃない」


悟仙の言い分にも一理あると思ったのか、麻理は下を向いて黙り込んでしまった。

麻理は暫く顔を俯けていたが、悟仙が丁度湯呑みに手を伸ばした時、口を開いた。


「陸奥くんは、誰かと喧嘩したことはありますか?」


「ない」


即答した。そういう事を避けるために悟仙はあまり人と深く関わらないようにしているのだ。


悟仙の答えに麻理は困ったように笑った。


「実は私もありません。だから、二人を仲直りさせようにも方法が良く分からないんです」


悟仙は少なからず驚いた。穏やかな性格をしている者でも、誰かと深く接していけば普通喧嘩の一つや二つあるものだ。それなのに、麻理に喧嘩の経験がないのは悟仙と同じように誰とも深い関わりを持たなかったからだろうか。

それとも、麻理がどこまでも穏やかだからだろうか。


「じゃあ、俺達があいつらを仲直りさせるのは無理だな」


悟仙は早々に諦める。しかし、麻理にその様子はない。そもそも、ここで諦めるならこんな提案してこなかっただろう。


「無理かどうか、まだその答えを出すのは早いと思うんです」


「と言うと?」


「私達でできる限りのことをしましょう。なっちゃんが加藤くんを誘おうと考えたように、私達も何とかして二人の関係を修復する策を考えるんです。それを決行するかどうかは後で考えればいいじゃないですか」


確かに、何か行動を起こす時にはそれなりの勇気がいる。だが、その前段階には勇気も必要なければ大したリスクもない。


「分かったよ。それくらいならする」


悟仙が渋々ながら頷くと、麻理はぱあっと笑顔になった。


「はい、頑張りましょう!」


「それで、先ずは何をするんだ?」


ここでお互いの志気を高めるためにエイエイオーと右拳を突き上げるほどやる気がある訳ではない。


悟仙が仏頂面で問うと、麻理は少しの間口に手を当てて考えた後答えた。


「そうですね、先ずはどうして二人が喧嘩したのか考えましょう」


「それは、俺が見たから分かる。何てことはないただの言い合いから喧嘩に発展していった感じだったぞ」


「では、その言い合いの原因は何だったんでしょう?」


「それは、よく分からん」


そもそも、ただの言い合いなどあの二人はいつもやっていることだ。その原因について本人達も分かっているのか怪しいものだ。今回だって特に大した原因がある訳じゃ……ん?


「それに直接関わってくるのか分からないが、竜二は今日俺にあることを相談してきた」


悟仙の言葉に麻理が身を乗り出して聞いてくる。


「差し支えなければ、教えて頂いてもいいですか?」


「確か、九条が男子から人気が出てきたことについてだったな」


今日の昼のことを思い出しながら言うと、麻理は不思議そうに首を傾げた。


「なっちゃんに人気が出ると、加藤くんに何か困ることがあったんでしょうか?」


「知らん」


麻理は暫く難しい顔をして考え込んでいたが、答えは出なかったようだ。


「う~ん、よく分かりませんね」


お互いに喧嘩の経験がないため、悟仙と麻理はどこか似ているのかもしれない。似たもの同士がいくら話し合っても大した結論に辿り着くはずがない。それに、そろそろ下校時間だ。この作戦会議もお開きにしなければならない。


「もう時間がない。今日のところは終わりにしないか?」


麻理は時計にちらりと目を向けた後頷いた。


「そうですね、この話はまた明日にしましょう」


立ち上がり、湯呑みなどを片付けてから二人で部室の外に出る。人通りの少ない廊下は少し肌寒くて、これからまだ寒くなると思うと、気が重くなった。


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