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第八十二話

「昔は最強でした。」という小説も執筆中ですが、こちらも平行して投稿しようと思ってるので、よろしくお願いします。

「好きです。付き合って下さい!」


昼休み、男子生徒の声が緊張感の満ちた屋上に響き渡る。


今では告白の常套句と言っても過言ではないだろうと思えるこのセリフを聞きながら、悟仙は果たして告白の成功率とはどの程度なのだろうかと考えていた。


告白というのはどこか予定調和じみたところがあるように思う。誰かが誰かに好意を持つのだから、当然外側から見た人間がそれに気付くこともあるはずだ。そして、その人間が「人の口には戸が立たない」ということわざを証明するべく噂を流し、それが巡り巡ってその想い人に伝わることだって起こりかねない。


そうなると、告白前に勝負が決している可能性もあるとも言える。だから、告白まで持って行けたならその想い人も多少はその気があるかもしれないので想い人への恋心を成就させる確率と告白の成功率はイコールではないのだ。


「まあ、今回はそんな事関係なさそうだがな」


こんな事を色々考えても結局は人の気持ちの問題だ。そこに決まった定理などあるはずもなく、確率云々言っても仕方ない。


それに、今悟仙の目の前で行われている告白は分が悪すぎる。何故なら、告白相手に想い人とはいかないまでも少なからず気がある相手がいるからだ。


「おいおいどうするんだ~?」


その人物は今悟仙の隣で絶賛実況中だった。


「おい竜二、もう帰ってもいいか?寒いんだが」


悟仙の問いにその人物、加藤竜二はにやりと不敵に笑った。


「ああいいぜ。でも、絶対にあそこの二人にバレるなよ」


「それは……確実に無理だ」


悟仙と竜二が今いる場所は、現在告白が行われている所から少し離れた給水タンクの裏である。

別に告白を覗く趣味など無いため、意図的にここに身を隠している訳ではない。竜二にはそんな趣味があるかもしれないが。


悟仙が十二月に近付き、気温が下がるにつれて人が寄り付かなくなった屋上に居るのは、自発的に来たわけではなく、腐れ縁の竜二に「話がある」と言って連れてこられたからだ。

その話の内容とは勿論愛の告白とかではなく、ある女子についての事だった。その話の最中に二人が上がってきたため、急遽隠れることになったのだ。


「ごめんなさい。あなたの気持ちに答えることはできません」


告白相手の女子がいつもよりいくらか落ち着いた声で答える。その言葉に、告白をした男子は悲しみ半分、納得半分の顔で頷き二言三言何かを呟いて去っていった。


その一連のやり取りを見終わった後、竜二がどこか得意げな顔を向けてきた。


「なあ?俺が言った通りだっただろ?」


「何でお前が誇らしげなのかは疑問だが、まあ強ち嘘ではないようだな」


竜二の話とは、今告白を断った女子、九条夏子についての話だった。竜二が言うには、最近夏子はくこうやって男子から呼び出されているのだそうだ。どこかの不良学校のように生意気な生徒を懲らしめてやろうという意図もないはずなので、先程のように告白されているのだろう。


そう、竜二の話端的に言えば「最近夏子がモテ始めている」というものだったのだ。


「それで、どうして俺なんかに相談するんだ?」


悟仙は竜二から度々恋愛ごとに関して疎いと言われてきたのだ。その悟仙に相談してくるのはどう考えても筋違いだとしか思えなかった。


「だって、こんな事相談できるのは悟仙くらいなんだよ」


「だが、俺に相談した所でどうこうできるわけでもないだろう?そもそも、九条が男子から人気が出ると何か都合が悪いのか?」


悟仙の言葉に竜二はうっと言葉を詰まらせた。


「いや、別にそんな事はねえんだけどさ」


竜二は少しふてくされたように言いながら、ドアに歩いていく夏子に目を向ける。

すると、その夏子がドアから出る直前にポニーテールを揺らして振り返り、一つのずれもなく悟仙達のいる場所を睨みつけてきた。


「ちょっとあんた達、隠れるならもっと上手くやりなさいよ!」


「やっべ」


竜二はそう言いながら観念したように、両手をあげて給水タンクの影から出て行く。悟仙も自分だけバレていないのは有り得ないので仕方なく出て行った。


「あんた達に人の告白を覗く趣味があったなんてね、幻滅だわ」


「は!?別にそんなんじゃねえよ!」


「どうかしらね?」


聞く気を持たない夏子に竜二は益々興奮する。


「ナツ、最近お前ちょっと調子乗ってるんじゃねえか?誰でもかれでもお前を好きになると思うなよ!」


「あほ……」


悟仙の言葉に竜二はしまったという顔になったが、もう遅い。夏子は切れ長の目に涙を光らせ


「そんな事思ってない……。もしそうなら、こんなに苦労してないわよ!」


と叫び、踵を返した。


「お、おい!」


竜二の制止を聞かずに夏子は勢い良くドアを閉めて屋上を後にする。


残されたのは男二人だけ、竜二はこちらに顔を向けると、弱々しく笑いながら言った。


「改めて、俺の相談を聞いてくれるか?」


「俺には関係ない」


悟仙の言葉に竜二は膝から崩れ落ちた。


「やっちまった」



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