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第八話

次の日の昼休み、悟仙は前に座る旧友の竜二に対してため息をつきたい気分だった。


「だからさー、もう本当に大変だったんだよ。あれはもう飢えた狼どころじゃないな。飢えて死にそうなライオンだな」


意味の分からない比喩表現を用いながら言う竜二は、今日の朝からずっとこの調子である。

何でも、あの後麻理の家に行ってもずっと雑談をしていて、一向に話が進まなかったが夏子と協力して、何とか決めたらしい。

雑談をするにしても、よくそんなに話題があるものだと、逆に感心する。


「その話なら、昨日の夜何通もメールを送ってきただろ」


「じゃあ、返信してくれよ!」


うんざりする悟仙に対して竜二が顔を近付けてくる。

整った顔立ちの為そんなに嫌悪感はないが、そういう趣味はないのでやはり気持ち悪い。


「あのメールの内容にどう返信すればいいんだ。ただの愚痴だっただろ」


「バカやろう。返信することに意味があるんだろ?」


「そんなの知らん。俺には関係ない」


「あんたは昔からそればっかりね」


仏頂面で言うと隣に誰かが立った。座っているため自然と見上げる形で見ると、夏子が呆れ顔で立っていた。後ろには昨日、スーパーで姉が絶賛したおつまみを勧めてきた麻理も苦笑いを浮かべ立っていた。


「初志貫徹というやつだ」


「進歩がないって言うのよ」


ああ言えば、こう言う。

こいつも昔から変わらない。


「どうかしたのか?」


竜二が首を捻って言うと夏子は胸を張って答えた。 


「作戦会議よ。明後日からだしね」


そう言えばそうだった。

問題の林間学校は明後日から二泊三日で行われる。

帰ってくるのが土曜日の昼なので、およそ半日休日が失われることになるが、いつも昼過ぎまで寝ているので大して変わらないだろう。


すると突然、夏子が後ろで不思議そうに話を聞いていた麻理を指差した。


「陸奥はあっち。作戦は竜ちゃんと二人で立てるから」


「そうか。それなら俺は退散する」


立ち上がって教室のドアの方に向かう。麻理のことは視界に入れないようにする。


「ちょっと話聞いてたの?あんたは麻理と一緒にいなさいって言ったの。人の話ちゃんと聞きなさいよ」


夏子がため息をついて言う。


「どうしてだ?」


問うと今度はさっきより大きなため息をつかれた。

意味が分からない。


「あんた、あたしたちに協力するんでしょ?」


そう言えばそんなこともあったと思い出す。

しかし、だからといって納得はできない。


「林間学校は明後日からなんだろ?」


「何言ってるの!もう林間学校は始まっているのよ!ほら、あそこ見てみなさい」


指を指す夏子に促され、見てみると数人の男女が固まって楽しそうに談笑していた。


なるほど、あながち間違ってはいない。

ようやく納得しかけていると、麻理が初めて口を開いた。


「あの、何の話かよくわかりませんけど、陸奥くんは出て行ったらダメですよ?」


「何でだ?」


「昨日の夜言った通り、私と陸奥くんは保健係ですから、色々確認しなければいけないことが沢山あるんです」


「いや、そんな事しなくていいだろ。確認する事って言っても、怪我人や病人の対処とかだろ?そんなの、近くの教員に伝えるだけだろ」


麻理は静かに首を振る。


「確かにそうかもしれませんが、確認しておくのかしてないかでは、緊急時の対応が大きく変わってきます」


「そんな起こるか分からない事を確認してたらきりがない」


らしくないと思いながらも、少しムキになって言うが、麻理は譲らない。


「でも、確認できることは全てするべきだと思います」


「そんなこと、俺には関係」


「あります!」


議論するのも面倒になり、いつものセリフを口にしようとするが、昨日スーパーで会った時と同じように遮られる。


悟仙は麻理に対して明確な苦手意識を持った。


麻理は、見てくれはおっとりとしているが芯はしっかりしているようで、意外と頑固者らしい。

悟仙の周りにはこれまでいなかったタイプだ。


麻理が真面目な顔で詰め寄ってきて、思わず少し後ずさってしまう。


「関係あります。大いにあります。もし、少しの対応の遅れで命に関わることになったらどうするんです?

謝っても済まないことだってあるんです!それでも、それでも関係ないって言えるんですか!?」


「わかったよ……確認する」


大きな声で言われ、渋々了承する。

これ以上口論したところで、麻理は譲らないだろう。

あっちが折れないならば、こちらが折れるしかない。

何故そこまで拘るのか疑問だが、別にどうでもいい。


悟仙には関係ない。これは自信を持って言える。


「そうですか、ありがとうございます。それでは、私の席で確認しましょう」


ため息をつきながら麻理について行っていると、後ろで竜二が笑いを堪えていた。

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