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第六十話

「いや~、麻理ちゃん達のクラスは大盛況だね~!うちらのクラスも結構人気なんだけどね」


茜が夏子達の方にやってくると、どこか間延びした声で言ってきた。夏子と隣にいる麻理は先程教室の前で初めて話したのだが、茜はまるで昔からの友達に話すような調子だった。夏子はそのことに少し違和感を持ったが、今時の女子高生となればこういうものなのだろうか。それとも中学校が女子校だった夏子がおかしいのだろうか。

確認のために隣の麻理を見てみるが、高校で初めて共学の学校である麻理は大して動揺していないようで、その大きな目は泳いでいなかった。ただ茜の顔をじっと見つめているだけである。


「そうなんですか?うちのクラスの男子が何か失礼なことしませんでした?」


少し驚いたが、友好的なのは大歓迎であるため夏子も笑顔でそう返す。


「うん!皆優しかったよ~。あっ!?あの竜二くんって言う人結構イケメンじゃない?」


「えっ!?」


突然茜の口から幼なじみの名前が出てきて夏子は先程の笑顔が強ばるのを感じた。


「ぜっ全然イケメンじゃないですよ!きっと茜さんが可愛いからしゃんとしてただけで、普段は本当にだらしないんだから!」


動揺して思わず大きな声を出してしまう夏子に茜は悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ふ~ん、なんかすごい動揺するんだね?夏子ちゃんは竜二くんの彼女なの?」


「なっ!?竜ちゃんとはそんなんじゃ」


「竜ちゃん?」


「あっ」


思わず墓穴を掘ってしまった夏子に茜の笑みが深くなる。夏子の顔は今林檎のように赤くなっているだろう。


「相沢さん、私達に何か用があって声を掛けてくれたんじゃないんですか?」


夏子が何も言えなくなっていると麻理が助け船を出してくれた。相変わらず穏やかに微笑んでいる麻理が夏子には女神に見えた。


「そうなのよ!あっその前に麻理ちゃん、うちのことは茜でいいからね」


「分かりました。茜さん」


麻理のおかげで茜はこの件に関してそれ以上言ってくることはなかった。


「うん、それでよし。それで、用って言うのはね麻理ちゃんにあるのよ」


「私にですか?」


麻理が自分を指差して首を傾げる。


「そう!それも朗報だよ!さっき美少女コンテストの張り紙が更新されるところを見たんだけど、なんとうちと麻理ちゃんがどちらも一位になってたのよ!」


茜が声高に言うが、対する麻理は困り顔だった。


「えっと、すみませんが、私にとっては朗報ではないです」


「どうして?」


「それは……確かに皆に嫌われないに越したことはないと思いますけど、多くの人に注目されるのはあまり得意ではないので」


「そうなの?」


「はい、なので私としては茜さんに優勝して欲しいです」


麻理の言葉に茜は驚いたのか、少し唖然としていたがすぐにいつも通りの一つだけ年上とは思えない大人っぽい笑みに戻った。


「そっかそっか、確かにそういうの苦手な子もいるよね。あと一つ麻理ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「はい、構いませんよ」


「麻理ちゃんってさ、悟仙くんと仲良いよね?」


「そう、なんでしょうか……」


茜の質問に対して麻理は歯切れが悪く、答えも曖昧だった。


「悟仙くんと、仲悪いの?」


茜は予想外だったのか、不思議そうに首を傾げていた。


「私はそう思ってません。ですけど、陸奥くんが私と仲が良いのか聞かれたら、きっと首を縦には振らないと思うんです。出会って半年経ちますけど、知り合い以上に親しくなれたとは思えませんし……」


麻理の言葉に夏子は妙に納得してしまった。確かに麻理は悟仙と親しくなろうとしている気がする。夏子は麻理が男子と仲良くするのは何となく気に入らないが、麻理の意志なので仕方ないことだと今まで何も言わないできた。しかし、対する悟仙はそんな麻理をのらりくらりとかわすだけで自分から麻理に近付くことはなかった。


「それはい意外だな~。麻理ちゃんにちょっと相談したい事があったんだけど」


「相談ですか?」


「うん、実はうち、悟仙くんとメアド交換したんだけど悟仙くんにどういったメール打てばいいか分からないんだよね~」


「メアド交換?」


夏子は驚いて思わず呟いてしまった。悟仙が茜を連れてきたのも驚いたが、まさかメアドまで交換しているとは思わなかった。

当然麻理も同じだと思っていたが、麻理の顔に動揺はなくただ茜の顔を見つめているだけだった。


「メール、ですか?すみません。私は陸奥くんとメールしたことがないので分かりません」


「悟仙くんのメアド持ってないの?」


「はい」


「メアド交換しよって言ったことは?」


「ありません。多分言っても断られていたでしょうし」


麻理が落ち着いた表情のまま答えると、茜は何か考えているのか暫く黙り込んだあとコテンと首を傾げた。麻理と並び立つほどの美少女であるため、これだけでも絵になる。夏子は茜には麻理にはない大人の色気みたいなものがある気がした。


「じゃあどうしてうちには直ぐに教えてくれたんだろ?」


「分かりません」


麻理がそう答えた後、二人が無言になってしまったが、夏子は一つ気になったことがあったため口を開いた。


「あの、先輩はどうして陸奥とメアド交換しようと思ったんですか?」


夏子の言葉にこちらに顔を向けてきた茜の表情はいつもとは違った真面目なものだったが、すぐに笑顔に戻った。


「うーん、何かびびっときたのよね~。だからちょっと気になるっていうか」


「それは、恋愛感情が出てくるかもしれないってことですか?」


「そうなるかもね~」


夏子は茜の呑気な声に唖然としてしまった。この人には恥じらいというものがないのだろうか。恋愛というものはそんなに呑気にできるものなのだろうか。


しかし、そんな夏子をよそに麻理は尚落ち着いていた。夏子は今更ながら麻理の様子がいつもと違うことに気付いた。麻理は先程からただじっと観察するように茜を見ている。


夏子が麻理の様子を不思議に思っていると、茜が洒落た腕時計に目を向けた。


「あっ!もう休憩時間終わるから行くね!うちらも喫茶店してるんだ!もしよかったら来てね~」


茜はそう言うと、廊下を引き返していった。


「あの陸奥が女子とメールねー、麻理はどう思う?」


茜が見えなくなった後、麻理に問いかけると麻理はふるふると首を振った。


「分かんない。陸奥くんって本当に不思議な人だから、考えを読むなんてできそうもないな」


「確かにそうね」


そう言って、改めて麻理の容姿を確認する。

ふわりとしたボブカットにくりっとした大きな黒目、つんとした形の良い鼻にぷっくりとしたピンク色の唇、出るところは出ていてスタイルも良い。同性の夏子でも見惚れそうな容姿だ。

そして、茜も同じくらいの美少女である。


しかし、悟仙は茜を拒絶しなかった。性格の問題なんだろうか。女子校育ちのせいか男子に免疫がなくおっとりとしている麻理に対して茜は今時の恋愛観を持ったどこか派手な所がある。

夏子にはどちらも良い気がする。


「訳分かんないわね」


夏子の言葉は奇しくも幼なじみと同じものだった。









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