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第三十一話

「え、井上さん笑ってる?」


竜二は麻理の突然の変化に驚きを隠せなかった。いつもは穏やかな表情をしていることが多い麻理だが、今のような意地の悪い表情をしているのは初めて見た。

竜二同様宮田も麻理の変化にたじろいていたが、何とか平静を装っていた。


「あれ?麻理ちゃん急にどうしたの?頭おかしくなった?」


「いえ、私はいたって冷静です」


からかうような口調で言う宮田に薄く笑ってそう返す麻理の姿は竜二にはやはりいつもの麻理とは全くの別人に見えた。


「そうか、別にそれならいいけどさ。もう答えを聞いてもいいかな?まあ答えは一つしかないんだけどね」


今の麻理に負けないくらいの悪人面で言う宮田に麻理ははっきりと答えた。


「では答えますね。私はあなたと付き合えません」


「え?」


麻理の先程と同じ回答に驚いて竜二は思わず呟いてしまう。流石の宮田もこの答えは予想外だったようで口をあんぐりと開けている。

麻理が宮田と付き合わなければ、悟仙は今後暴行を受け続けることになる。麻理はそれでも良いと言っているのだろうか。


「お前、何か勘違いしてないか?俺はあいつをやると言ったら確実にやるぞ?俺は前々からあいつが気に食わなかったからな。お前に危害を加えないのは俺のプライドが傷つくからで、男のあいつをやるのは何の躊躇いもないんだぞ?」


「あなたこそ何か勘違いしてませんか?」


やっと驚きから余裕の表情に戻った宮田に麻理は変わらぬ薄ら笑いを浮かべたまま問い掛けた。


「勘違い?俺が何の勘違いをしてるんだ?」


「私があなたと付き合えないのはあなたが嫌いだからです」


「お前がそう思っていても、あいつが傷つくとなればそう言ってられないはずだ」


「そこが勘違いなんです」


ため息をついて、呆れたように指摘する麻理は竜二には今窮地に立たされているであろう少年の姿に重なって見えた。


「だから俺は何を勘違いしてるんだ!?」


宮田から余裕の表情が消える。それは宮田も竜二と同じようにある人物を麻理に重ねたからか、それとも麻理が言う勘違いに全く心当たりがないからなのか竜二には分からなかったが今確実に宮田は動揺している。

それに追い打ちを掛けるように麻理が答える。


「私がどれだけあなたのことが嫌いなのかをあなたは勘違いしてる」


「お前が俺をどんなに嫌いだろうと俺と付き合うしかないだろ!?」


「いいえ、私はあなたと付き合いません。それは陸奥くんがあなたに何をされても変わりません。別に陸奥くんがどうなっても構わない。それくらい、私はあなたの事が嫌いなんです」


悟仙の名前を出したときに麻理が少し動揺したように見えたが、宮田はその事に気付けない程動揺しているように見えた。それ程までに麻理の言葉が信じられなかったのだろう。それは竜二も同じだった。


「お前は、お前はそんな女じゃないだろ!?」


唾を飛ばして叫ぶ宮田に麻理は肩を竦めてとぼけたような声を出す。


「そんな女とはどのような女ですか?」


「お前は近しい人が傷付けられて平気な女じゃない!」


「あなたがそう思ってるなら、それも勘違いですね。私はあなたが思ってるような女じゃない」


「嘘だ!」


まるで子供のように膝をついて喚く宮田を麻理は冷ややかに見下ろしている。


「嘘じゃありませんよ。私はそんな女じゃない。あなたにも分かるはずです」


そう言って言葉を切る麻理に宮田は待ちきれないのか血走った目で麻理を見上げている。そんな宮田に麻理はあの悪女のような笑みを浮かべて言う。


「皆の前では自分を偽り仮面を付ける。それをしているのが宮田くん、あなただけとは限らないでしょう?」


これは強烈だ。


竜二はそう心中で呟く。宮田はこれまで仮面を付けて生活していた。そのため、自分と同じ様に仮面を付けている人はすぐに分かったのだろう。そんな宮田でも麻理の仮面は見破れなかった。それなら、麻理はもう宮田の手には負えないだろう。プライドの高い宮田のことだ、自分より高位な女と付き合うなんてするはずがない。


宮田は口を開けたままふらりと立ち上がった。ついに動くのかと竜二は身構えたが、宮田はそのまま非常階段を下りていった。


それを確認した麻理はくるりと振り返ってこちらに脱兎の如く駆け出してきた。竜二は慌てて身を隠し姿を見せないようにしたが視界に入った麻理の顔を見て余り意味がなかったことだと分かった。


「あいつ、少しやりすぎたな」


必死に足を動かしながらも麻理の顔は涙に濡れていた。





☆☆☆





「おい、いい加減頭は冷えたか?」


悟仙は荒い息を吐きながら先程から襲い掛かってきては悟仙にかわされているクラスメイト達に言った。


「なんで当たらねぇんだよ」


「お前も凶暴な肉親を持てば分かる」


悟仙と同じ様に荒い息を吐くクラスメイトに肩を竦めて言うと、ようやくクラスメイト達の戦闘態勢が解けた。


「お前ら、宮田に脅されてこんな事してるって事でいいな?」


呼吸を整えながら言うとクラスメイト達は驚きながらも頷いた。悟仙はそれを見て予想が当たっているのを確認するのと同時に麻理の母である律子に対して娘同様苦手意識を持った。あの時の律子の忠告はこうなることを予感してのものだったのだろう。そのお陰もあって悟仙は宮田を見てすぐに自分が狙われていることが分かった。悟仙を見る宮田の目には明確な敵意があったし、まるで罠にかかった動物を見ているようでもあった。それを一目で見抜いた律子には恐怖すらしてしまう。


「宮田にどう脅されてるのか知らんが、こういう事をするのは今回が初めてか?」


「ああ、そうだ」


悟仙が問うとクラスメイトの一人が頷く。これも悟仙の予想通りだった。クラスメイト達の目には宮田のような敵意はないし、躊躇いすらある。少なくともこの行為を楽しんでいる者はいない。もしこの行為を楽しんでいるなら悟仙は早々に逃げていたが、そうでないならやぶさかではない。


「そうか、それならもう逃げない。しっかりやってくれ」


悟仙が両手を広げて言うと、クラスメイトの一人が驚きの声を上げた。


「なっ!?いいのか?」


「ああ、多分お前等が俺をやったことでまたそれをネタに脅されるだろうから、その時は俺がお前等に突っかかったと言えばいい」


「そんな事までしてもらっていいのか?」


「勘違いするな。それはただのおまけだ。俺がお前等にやられることに意味があるんだからな」


そう言いながら悟仙達から少し離れた所にいる一人に目を向けた。


「それと、お前は撮影係だろ?ちゃんと撮ってくれよ。テイクツーはないからな」


「あ、ああ。分かった」


戸惑いながらもスマホを取り出す撮影係から目を戻し他の四人向き直る。


「それじゃあ、どうぞ」


「分かった。やる。そしてもうこんな事は二度としないよ」


「好きにしろ。俺はお前等が改心しようがしまいが関係無い」


悟仙が仏頂面で言うと、四人は苦笑いを浮かべた後、再度悟仙に襲い掛かってきた。




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