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第二十九話

悟仙はリビングにあるテーブルから少し離れた所にあるダイニングテーブルの椅子に腰掛けて何やら面白おかしく騒いでいるクラスメイトを眺めていた。勉強会と聞いていたが、さっきから殆ど手が動いていない。ちなみに悟仙も勉強していない。悟仙はいつも夜に勉強しているというのもあるが、この騒がしさでは何をやっても捗りそうにない。


「それにしても、本当に勉強熱心な奴らだな」


悟仙が頬杖を突いて皮肉を言うと、対面に座る麻理が苦笑いを浮かべた。


「陸奥くんが来る前からずっとあの調子です」


「俺が来てからもう二時間近く経ったが、本当に勉強しに来てるのか?」


「えっと、正確に言うと今日は勉強がメインではないんです」


曖昧に言う麻理に悟仙は首を捻る。昨日電話で麻理は勉強会だと言っていたが、違うらしい。

そう考えると、一つ思い付いたことがあった。


「じゃあ昨日言っていた俺が聞いたら行きたくなくなる事がメインなんだな」


「はい、そういうことになります」


「それで、それは一体何」


悟仙がもう来たんだから聞いてもいいだろうと思って聞こうとしたが、先程まで騒いでいた一団が急に帰り支度を始めた音に遮られた。


「それじゃあ、行こうか」


そう言う宮田を先頭に皆は続々と玄関に行ってしまった。


「あいつら、どこに行くんだ?」


とうとう玄関からも出てしまった一団を見て隣にいる麻理に聞くと何やら麻理も支度をしていた。


「今から出掛けるんです」


「それは見たら分かる。どこに行くかを聞いてるんだ」


「それは、着くまで聞かないで下さい」


「お前も行くんだな」


「はい、行きます。陸奥くんは気にしないかもしれませんが、付き合いというのもあるんです」


それなら悟仙も行くしかないだろう。付き合いを重んじている訳ではなく、せっかく早起きして来たのにこれでは拍子抜けだからだ。それに、気掛かりなこともある。


支度を終えた麻理と一緒に玄関を出る。帰る旨を下に降りてきた律子に告げると意味ありげにウインクされたのは見なかったことにした。


それから宮田たちの後ろを三十分程ついて行くと、日頃多くの人が集まるショッピングセンターに着いた。


「おい、着いたんだから教えてくれるんだろうな?」


炎天下の中を三十分も歩かされて不機嫌さを隠しもせずに悟仙が言うと、隣で行き交う人々を見ていた麻理が重々しく口を開いた。


「実は、クラスの皆で今日開催される花火大会に行くことになっていて、ここで待ち合わせをして時間を潰すことになっているんです」


「花火大会があるのは何時からだ?」


「確か七時からだったと思います」


「待ち合わせ早過ぎだろ」


全く意味が分からない。今時の高校生はこういう意味のないことが流行っているのだろうか。呆れを通り越して感心してしまい、どうして麻理の家に集まったのか聞く気にもならなかった。


悟仙が溜め息を吐いているとオルゴールの音が聞こえてそれに気付いた麻理が鞄からスマホを取り出した。どうやら着信音だったようで、電話の相手に今どこにいるのか話している。悟仙はオルゴール音というのま麻理の雰囲気に合っている気がした。


「なっちゃんと加藤くんも到着したみたいです」


どうやら竜二と夏子も誘われていたようだ。そして少しするとクラスメイトと思われる一団がこちらにやってきた。


「あとは竜二と夏子ちゃんだけかな」


宮田が全員の顔を見て言う。この企画は宮田が立てたものかもしれない。悟仙の中で疑惑が確信に変わっていると後ろから肩を叩かれ、振り返ると竜二の笑顔があった。


「いやー、来るとは聞いていたけどまさか本当に悟仙が来るとはな」


「こんな面倒な事になっているとは知らなかったんだ。知ってたら来てない」


そう言って元凶である麻理を悟仙が睨むが、麻理は竜二と一緒に来た夏子と楽しそうに話していたためこちらを見ていなかった。


「竜二、一つ頼みがあるんだが」


悟仙が一つ竜二に頼み事をするとそれを聞いた竜二は顔をしかめた。


「別にいいけど、お前はどうするんだ?」


「俺は、そうだな。何もしない」


「無責任な野郎だな」


目を細めて言う竜二に悟仙が肩を竦めていると、ひと通り話し終えた麻理と夏子がこちらにやってきた。


「何話してるの?男二人で顔つきあわせて気持ち悪いわよ」


「いやいや、そんなんじゃないって」


来て早々絶好調な夏子の物言いに竜二が弁解する。相変わらずの二人のやり取りを見ていると宮田が皆に向かって声を出した。


「じゃあ皆、各自四時まで時間を潰してその後またここで落ち合おうか」


宮田の提案に皆が賛同の声を上げる。しかし、悟仙は納得できなかった。それなら最初から四時に待ち合わせで良かったのではと思うが、今さら言ってもどうしようもないため言わなかった。


一時解散となり悟仙も時間までにどこかで暇を潰そうと考えたとき突然誰かに肩を組まれた。


「なあ悟仙、今からナツと井上さんが買い物するらしいからさ、付き合ってくれないか?」


「嫌に決まってるだろ。俺は買うものなんか何もない」


悟仙が竜二の腕から抜け出して言うが、竜二は引かなかった。


「お前俺に頼み事しただろ?これでチャラにするからさ」


「竜二に頼んだのはあくまで保険だ。けどまあ、付き合うよ。どうせ力ずくでも付き合わせるつもりだったんだろ?」


「さすが、よくわかってるな」


竜二ににこやかに褒められても悟仙は全く嬉しくなかった。

こ悟仙と竜二が二人と合流して向かったのは衣類が売られている店だった。女性陣二人は直ぐに店に入り陳列されている服を体に合わせたりしていた。

それを悟仙と竜二がぼんやりと眺めていると、夏子が声を掛けてきた。


「ちょっと竜ちゃん!そんな所につっ立ってないでこっち来なさいよ。似合ってるか分からないじゃない!」


「分かったよ。でも別に俺じゃなくても良くないか?」


「竜ちゃん意外とセンスいいのよ。いいか悪いか言ってくれるだけでいいから」


「はいはい。分かったよ」


どうやら竜二は夏子のファッションショーの審査員のようだ。悟仙を誘ったのはもしかしたら悟仙が審査員に選ばれる事にかけたのだろう。

そんな事を考えていたら隣から仄かに甘い香りがしてそちらを見ると隣に麻理が立っていた。


「では私達も見て回りましょうか」


笑顔で言う麻理に頷いて悟仙と麻理はそれから暫く色々見て回ったが、麻理は何も買わなかった。買う気にならなかったという方が正しいかもしれない。


夏子のファッションショーが終わるとそれから四人であちこちの店を回って悟仙が疲れを感じて腕時計を見ると三時半を少し過ぎていた。

そろそろ頃合いかと思い悟仙は立ち止まる。


「じゃあ、俺はそろそろ帰ることにする」


「ちょっ!?何考えてんのよあんた!」


「色々だ」


悟仙はそう言って踵を返して歩き出す。

後ろから夏子がまだ何か言っていたが無視して歩みを進めながらぽつりと呟く。


「やっぱり、早起きはするもんじゃないな」

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