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第十六話

夏子はバレーコートとバスケコートをどちらも見下ろせる場所でバレーの決勝戦と竜二達の準々決勝を平行して観戦していた。どうしてもバレーの決勝戦が気になったのだ。


バレーの決勝戦が終わり、バスケコート側のギャラリーに向かうと丁度親友の麻理が上ってきた。


「麻理!」


それを見つけ声をかけると麻理がこちらを向き、にっこりと笑った。


これは強烈な可愛さだ。


「決勝戦、やっぱりうちのチームに勝ったところが優勝したわよ」


「へー、強かったもんね」


麻理が納得したように、何度も頷く。


「竜ちゃん達は勝ったみたいね」


「うん!」


元気よく頷いた麻理は、誰がどういう動きをしたかなどを細かく語り出した。特に終盤の悟仙のプレーを語るときは特に熱っぽかった。

その姿に、夏子は同じ試合を見ていて全部知っていたが思わず頬が緩む。


すると、整列の合図が出て両チームが整列する。

竜二達のチームに比べ、クラスの運動が得意な男子を集めた宮田達のチームは体格が皆良い。平均身長は相手のほうが遥かに高いだろう。


「これは、厳しそうね」


「そうだね」


呟くと隣でそれを見ていた麻理も賛同の声を上げた。




準決勝が始まった。

夏子の予想とは異なり、試合は竜二達が優勢だった。

楽をしていると思っていた悟仙だが、注意して見てみると結構動いている。得点しないから目立たないが、運動量なら活躍している竜二と同じかそれ以上だろう。

試合も中盤に入り、未だに劣勢である宮田達は必死に応戦しているが、焦りが生まれたのかミスが目立つ。


すると、ボールを持った悟仙がドリブルで相手を振り切り竜二にパスを出し、それを竜二が決めてまた点差が広がった。相変わらずスムーズな連携である。


それを見た宮田が味方の選手に何かを言ったが、ここからでは何を言ったか分からなかった。


試合が再開し宮田達のチームが攻め込むが竜二達の必死のディフェンスに阻まれる。竜二達のチームは息も絶え絶えだが、その顔はとても楽しそうだ。悟仙はとても楽しそうには見えないが。


ボールを奪った竜二が悟仙にパスを出し、悟仙がドリブルでサイドを駆け上がる。ここから、中央の選手にパスを出し、それを決めるのが竜二達の得点パターンだ。相手もそれを理解しているようだが、止められない。先程の試合で悟仙がシュートを決めたため、悟仙のディフェンスにつかない訳にはいかず、かといって悟仙のドリブルを止めた者はいない。何人がかりで挑んでも、悟仙が全て振り切ってしまうからだ。

サイドで、悟仙が相手選手を振り切りパスを出そうするが、その背中にかわされた体格の良い選手が勢い良くぶつかった。

悟仙はたまらずコートの外へ吹き飛ぶ。


「陸奥くん!」


麻理が隣で悲鳴のような声を出す。慌てて竜二達が悟仙に駆け寄るが、悟仙は上手く受け身を取ったようで怪我もなくケロッとしていた。


「良かった~」


麻理が安堵の息を吐くが、夏子は安心出来なかった。

夏子の予想通り、その後も相手選手によるラフプレーは続いた。標的とされているのは主に悟仙だった。

それでも悟仙は体勢を崩しながらもパスを通すため、点差に変化はなかった。

終盤に差し掛かると他の四人も標的にされていた。竜二は上手くかわしているが、他の三人はもろに受け、中には泣き出しそうな顔をしている者もいた。


不自然なのは宮田が一つもラフプレーをしていないことだ。先ほどの様子から指示を出したのは宮田で間違いないのだが、どういうわけかラフプレーを一度もしていない。それどころか、竜二達を気遣い声を掛けている。なので、他の四人に対する批判の声があっても宮田に対するそれはない。


おもむろに悟仙が竜二に近付き何やら呟いた。

すると、急に竜二と悟仙の動きが悪くなり、あっという間に逆転されてしまった。


「あいつ、何を言ったのよ」


「多分関係無くなったんだと思う」


「え?」


驚く夏子に麻理が真剣な表情で話し始めた。


「陸奥くんはチームの皆が勝ちたいと思ってるから同じチームの自分にも関係あるって言ってた。今はチームの皆がとても勝ちたそうには見えないよね。だからもう陸奥くんには関係ないんだと思う」


「はあ?何よそれ!」


自然と声に怒りがこもる。そんなの意味が分からない。悟仙には自分の意志というものがないのだろうか。


「私も良く分かんないけど、今回は間違ってなかったと思うんだ」


穏やかに笑う麻理から目を離し悟仙以外の人に目を向ける。

竜二は少し不服そうな顔をしているが、他の三人はほっとしたような表情をしていた。

もう無理をして攻め込まなくてもいいと思ったのだろう。


すると、試合終了のブザーが鳴った。竜二達は逆転を許し、準決勝敗退となった。





☆☆☆





試合後、悟仙が荒い息を落ち着かせていると宮田が嫌みな笑みを浮かべながらやってきた。


「意外と歯応えがなかったな」


「俺はお前と違ってそこまで熱い性格じゃないからな」


「俺もそこまで真剣にやってないぜ?ラフプレーをしたのはあいつらだ。勘違いは止めてくれ」


宮田が勝ち誇ったように口角を上げる。

悟仙は実際に負けているので言い返すこともできない。言い返す気もないが。


「もう決勝戦が始まるぞ」


代わりに言ってやると、宮田は馬鹿にしたように声出して笑った。


「何言ってるんだお前?決勝戦はあと十五分後だろ」


悟仙はその態度を気にせず決勝戦の相手のリーダー格であろう人物に目を向けてあることを言う。宮田は動揺したが、すぐに平静を装いそちらに歩いていった。


「何か言ったのか?」


すると宮田と入れ替わるようにやってきた竜二が宮田の方を見ながら言った。


「別に、少し激励しただけだ」


「本当か?まあいいや。早く上に上がろうぜ」


竜二がそう言ってギャラリーへの階段に向けて歩き出すが、不意に足を止めて振り返りニヤリと笑い言った。


「ああ、それと悟仙。貸し一だからな」


それにため息をつくと悟仙もゆっくりと歩き始めた。

ようやくゆっくりできそうだ。




☆☆☆





本当に気に入らない……。


宮田は決勝戦の相手チームのほうに歩きながら心中で悟仙に対してそう吐き捨てた。


「よう」


宮田は手を挙げ相手チームのリーダー格に近付いた。


「本当に大丈夫なんだろうな?」


宮田は不安そうに言う相手に取り繕っていない嫌らしい笑みを浮かべた。


「ああ、大丈夫だ。それに俺を敵に回さないほうがいいんじゃないか?」


「それもそうだな」


宮田は取引がうまくいき安心しながらも、取引に応じた相手に対して心中では見下していた。

しかし、取引に応じるのも仕方のないことだ。

年頃の男子なら彼女の一人ぐらい欲しくなって当然だ。そんな人に対して自分の数多くいる女友達を紹介してやると言えば釣られてしまうだろう。

それに、女子に早くも人気が出ている宮田がお前の悪口を校内にばらすと言って脅せば言うことを聞くのも理解できる。


そう考えながらギャラリーに上っていく悟仙に目を向ける。


宮田は中学の頃から悟仙のことは気にくわなかった。

自分と同じくらい有名だった竜二も好きではなかったが、竜二ほどのスペックがあれば人気が出るのも当然だろうと思い納得もしていた。

しかし、悟仙が男子からの人気を集めているのは気に入らなかった。悟仙は何も目立ったことなどしなかった。先ほどのように騒がれることなど滅多にないことだった。そのくせ、気付けば悟仙の周りには男子が集まっていた。本人はそんな奴らから逃げるように長いつきあいである竜二以外とはつるむことは無いのだが、それでも悟仙の事を悪く言う奴は誰もいなかった。なので、悪い噂を流して陥れようとしてもうまくいかず、悟仙は女子に全く興味が無いので宮田の手先にもできなかった。何度か取り入ろうと思い声を掛けたが悟仙はまるで宮田の事を車窓を流れる風景のように気にもとめなかった。


そんな悟仙を始めて言い負かす事が出来そうだった為昨夜、演技を忘れて攻め立てると悟仙に全てを見透かしたような目で指摘され、ターゲットの麻理の前で墓穴を掘ってしまった。そのため順調に思われた作戦は変更の必要があった。麻理を落とすためにはここでの活躍が必要不可欠なのだ。


そこで、さっき悟仙に言われた言葉をまた思い出し腹が立った。


悟仙の目はいつでも相手のことを見透かしているように感じる。飄々として相手に興味を持たないが、妙に感が鋭いのだ。


「『お前の』決勝戦はもうすぐだろ?頑張れよ」


さっき悟仙にそう言われた。奴はとっくに宮田がやっていることに気づいていた。しかし、周りにそれを言う気はないようだ。宮田ならすぐにばらしてしまっている。


本当に気に入らない……。


宮田は一つ舌打ちして整列の合図を待った。



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