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第十三話

係会議の主な内容は、明日行われる『ふれあいマッチ』と題した、球技大会のようなものの事で、その時に出た怪我人への対応の仕方だった。ちなみに、競技は男子はバスケットボールで女子はバレーボールだ。場所はオリエンテーションが行われたあの体育館を使うようだ。


係会議が終わり、騒がしくなった部屋の中で悟仙は立ち上がろうとするが、隣の宮田が反対側に座る麻理に先程とは打って変わって穏やかに声を掛けた事で、二人の間に座る悟仙は何となく立ち上がれなくなった。


「麻理ちゃんはさ、スポーツとか得意なの?」


「い、いえ。これといって得意なものはありません」


麻理は未だに少し青くなった顔をしており、その大きな目は泳いでしまっている。そして、先程と同じように服の裾を摘まれた事で悟仙は本格的に立ち上がれなくなる。


「そっか。俺は結構得意なんだ」


「そ、そうなんですか。優勝できるといいですね」


宮田はこれ以上話しても進展は難しいと感じたのか、苦笑しながら立ち上がり「おやすみ」と麻理に言ってその場を去ろうとする。しかし、おもむろに口を悟仙に近付けて、悟仙にしか聞こえない声の大きさで呟いた。


「バラしたら、殺す」


悟仙はその言葉に反応しそうになるが、ぐっと堪え、宮田が部屋を出て行った後盛大にため息を吐いた。


殺すとは物騒な言い回しだが、あれでは仮面を付けていたと言っているのと同じだ。

別にバラす気など毛頭ないが、面倒な事になった。


それにしても、麻理はそこまでして手に入れたくなるような人物なのだろうか。


疑問に思い、悟仙が未だに隣に座る麻理に目を向けると麻理は俯いたまま、悟仙の裾を摘んでいる。先程の宮田の豹変ぶりがよっぽどショックだったようだ。


「おい」


「あっ、すみません」


しかし、これでは立ち上がれないので麻理の手を指差し言うと麻理は慌てて手を引っ込めた。

悟仙は別に慰める気もなければ、慰めようも無いので、立ち上がり出て行こうとするが、後ろからの申し訳なさそうな声に足を止めた。


「あの、すみませんでした」


振り向くと、麻理は頭を下げていた。どうやら宮田を豹変させたのは自分のせいだと思っているようだ。

間違いではないが、全部が全部麻理のせいだというわけではない。

しかし、そんな事は言わない。この件については無関係でいたいのだ。


「夜、ちゃんと寝とけよ。保健係が倒れたら本末転倒だ」


「うん。そうだね」


敬語じゃないのが気になったが、悟仙は何も言わず部屋を出た。




悟仙が自分が寝る部屋に入ると、中にはクラスの男子が全員いた。


竜二が言うには、突然宮田が明日のバスケットボールのあらかじめ決めておいたチームをやっぱり変えないかと提案したようだ。


悟仙が宮田に目を向けると、それに気付いた宮田が睨みつけてきた。


「お前、宮田と何かあったのか?」


ため息をついていると、それを目ざとく見つけた竜二に問われたが、悟仙は肩を竦めるだけだった。





☆☆☆




夏子は、係会議から部屋に戻ってきた親友の麻理があらかじめ敷いておいた布団に飛び込んだのを見て、慌てて駆け寄った。


「ど、どうしたのよ。何かあったの?」


「うう」


少しだけ上げた麻理の顔は、風呂から出て余り時間が経ってないにもかかわらず、少し青ざめていた。


班長会議に出て、帰ってきたばかりの夏子の顔色と比べると、一目瞭然だろう。


「また、告白されたの?」


「されたけど、そうじゃないの」


麻理は布団にその可愛らしい顔を押し付けて言う。

ちなみに、麻理が告白されたのは入学してから数えると、今回ので二十回目だ。

四十名六クラス、計二百四十名の学年のうち、男子生徒が約半数いるので、告白してきたのが全員一年生とすると六分の一の男子が麻理に告白している事になる。入学してまだ日も浅いのに、これは驚異的な数字である。

ちなみに、毎回断っているようだ。麻理はまだ男子に慣れていないので無理もない。竜二と悟仙以外の班の男子が静かだったのは、林間学校の前日に振られたからだろう。


「じゃあ、何があったのよ。麻理、係会議に行く前は普通だったじゃない」


ウォークラリーで道に迷った後は、珍しく機嫌が悪そうにしていたが、少なくとも風呂に入る時には元に戻っていた。


「係会議で何があったのよ。あっ、陸奥に何か言われたんでしょ?あいつの減らず口はまともに聞いちゃだめよ」


閃いて言うと、麻理は顔を押し付けたまま首を振った。


「違うの。確かに、陸奥くんの口は悪いけど、そうじゃなくて」


「あっ!分かった。あんた陸奥に告白されたんでしょ?」


麻理は顔を上げ、青くなっていた顔を真っ赤に染めて手と首をブンブン振った。

普段おっとりしている麻理が、ここまで慌てるのは珍しい。


「そ、それも違うよ!陸奥くん、今まで異性を好きになったことないって言ってたし!」


「なら、何があったのよ?」


いつそんな話をしたのか気になったが、話がこじれそうなので、代わりに聞くと麻理は再び布団に顔を押し付けた。


「私にもよく分かんなくて……」


「そっか」


なんだか可哀想に思えて、追求するのを止めると麻理は暫く動かなかったが急に顔を上げて、大きな黒目を潤ませて上目づかいこちらを覗き込んできた。これは同性の夏子でもクラっときそうだ。


「あのさ、男の子って二重人格な所とかある?」


「うーん、少しはあるんじゃない?竜ちゃんとかたまに凄く怒ることとかあるし。でも、女子もそういうところあるでしょ?男子だからって訳でもないと思うわよ」


夏子が少し考えて言うと、麻理は何度か頷いた。


「うん、そうだよね」


麻理が呟いたのと同時に消灯時間となり、部屋の明かりが消えた。

明日は一日中体を動かすことになりそうなので、夜更かしは明日の夜の方が良いだろうと思い、麻理の隣の布団に入る。


「でもね、二重人格じゃないっていうか今も昔もずっと変わらなくて、怒ったことも見たことない奴を一人知ってるわよ」


「え、それって誰なの?」


まだ、暗さに目が慣れない為、こちらに顔をむけた気配だけを感じてその人物の名前を口にする。


「陸奥悟仙よ」


そう言うと、隣から朗らかな笑い声が聞こえてきた。





☆☆☆





翌朝、麻理は朝食の席で班の男子が来るのを待っていた。班員が揃わないと食べられないのだ。

周りを見てみると、所々空席があった。


昨日の夜は、夜更かししたい気持ちもあったが、悟仙の忠告通りしっかり睡眠をとった。

しかし、悟仙はいつも一言多い。せっかくの優しい言葉が台無しだ。

思い出し、腹を立てていると班の男子達がやってきた。


「遅いわよ」


「わ、悪かったよ」


夏子に睨まれ、竜二が頭を掻きながら言った。

そんな竜二の後ろでは、悟仙が寝癖頭で欠伸をしていたが、麻理の向かいの席に着くと、嫌そうに顔をしかめた。


「何か、苦手なものでもあるんですか?」


朝食は焼き魚に味噌汁という、たいして特徴のないメニューだった。


すると、悟仙が何か言う前に竜二が口を開いた。


「悟仙は、起きてすぐは喉に何も通らないんだ」


「そうなんですか、でもちゃんと食べて下さいね。保健係が倒れちゃったら本末転倒ですから」


昨夜の仕返しを込めて言ってやると、悟仙は何も言わず、渋々食べ始めた。

隣では、竜二がゲラゲラ笑っていた。




朝食が終わり、班員で食器を分けて集め手分けをして持って行く。

すると、皆が周りの友人と談笑している中で、前に並んでいる悟仙が厨房にいた中年の女性に「おいしかったです」とポツリと言った。


やっぱり優しい………


そう思いながら、麻理もその女性に「おいしかったです。御馳走様でした」と笑いかけて言うと、女性は悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「お嬢ちゃん、さっきの子、絶対にいい旦那さんになるわよ」


言われ、麻理は顔が赤くなるのを感じながらそそくさと、その場を後にした。



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