第一話
処女作です。感想あるとうれしいです。
陸奥悟仙は、自分自身のことを特別義理堅く情に厚い人間だとは思っていないが、逆にひどく冷たい人間だとも思っていない。
例えば
「ここ、どこー?」
このように見るからに迷子な小学校低学年の女の子が目の前にいて、見て見ぬ振りができない程度には……
☆☆☆
時刻は昼過ぎ、人通りがあまりない道の上で悟仙は今日こんな事態になった原因を探していた。
今日は休日で、文字通り休む日ということで昼前まで寝ていた。起きぬけに冷蔵庫を開けると中に食材らしきものが何も入ってなかった。
これでは食べるものがない。同居人である姉の葉子
にその旨を伝えると
「なら、何か買ってきて~。そしたら何か作ってあげる」
いつもの軽い調子の声で言われた。
料理をする能力のない悟仙にとって、仕事で帰ってくるのがいつも遅く、滅多にありつけない姉の料理が食べられるというのは朗報だ。寝起きのため覚束ない足取りで出掛けたのである。
そしてこの状況だ。
しかし、こうやって振り返っても原因は自分にしかないことが分かっただけであった。
まあ、原因が分かったところで事態が変わるわけではない。意味のないことに時間を費やしてしまった。
少しの後悔を抱えながら、未だに目の前から動かない少女に目を向ける。辺りをキョロキョロと見回し、時折その小さな背丈を目一杯伸ばして遠くを見ようとする。その少女に、日頃滅多に使わない作り笑いを浮かべて尋ねてみた。
「どうしたんだ?」
「え?」
少女が驚いたような、困ったような表情でこちらを向いた。
よく見ると目には涙が浮かんでいた。うなじの辺りで二つに結んだ髪も何となくへこたれて見える。
悟仙が再度慣れないぎこちない笑顔で尋ねようとすると少女のほうが先に口を開いた。
「ともだちとはぐれちゃったの」
少し警戒されているが何とか答えてくれた。まだ少女の表情は晴れず、作り笑いの効果は余りないらしい。やはり慣れないことはするべきでない。
「友達と何をしてたんだ?」
「おにごっこ」
「こんな所で?」
近頃の子供はこんな道端で鬼ごっこをするのが流行っているのだろうか。
「はじめはがっこうでしてたんだけど、みんなそとにでちゃって」
そういうことらしい。
その後もいろいろ尋ねたところ、この少女の名前は由衣といい、悟仙も昔通っていた近くの小学校の二年生だそうだ。
とりあえず、小学校まで連れて行けば大丈夫だろう。
「じゃあ、俺がそこまで連れて行ってやろう」
「ゆいはまいごになったわけじゃないもん」
すこし怒った表情で言われ悟仙は思わず言葉に詰まってしまった。
この年頃の子供は子供扱いされることを嫌うと何かで聞いたことがある。それは本当らしい。悟仙は由衣と目線を合わせるために屈んだ姿勢のまま少し考えた。
「じゃあ、俺を君の学校に連れて行ってくれるか?」
そう言ってみると由衣は少し明るい表情になった。
「いいよ」
そう言って由衣は頷いた。




