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《RWO》 ~現実でVRプレイ~  作者: 蒼穹之風
第1章 説明
8/10

第6話・Preparation 4

「――で、ナノ何吹き込んでるんだよっ!?」

≪いやァ、お2人とも良い雰囲気になる事多いのに全然進まないので後押しヲ≫


 4

 漸くナノ達と会話出来る様になる。


「と言うか早めに方法聞いとけば良かった……」

≪そこはルプス様のミスですかラ♪≫

「……そこで聞いてた、私、グッジョブ」

≪確かに一通り説明してから家を出ましたもンね≫


 そんな会話をしながら、封を切ったスルメを噛む。野菜味とは言うが、正直そんなに普通のスルメと変わらないぞ……。

 (なぎ)と手を繋いだまま(スーパーで繋いでそのままなのだ)歩いて、大通りから少し外れた公園の横を通りかかった所で、


「「……」」


 2人して視界を掠めたソレにピタ、と足を止めて凝視する。


 端的に言うなら。

 ……()()、居る。


 見た目は普通に蟻っぽいんだけど……サイズがおかしい。優に凪の身長と同じぐらいある上に、体の色が真っ黒だ。

 ついでに言うなら、ソレは2匹で公園のど真ん中に居るんだけど……公園内に人は居ないものの幾人かは通るのに、誰もソレが()()()()()()()()()()()。いや、()()()()()のかな……?


 一応、ソレを指さして、嫌な顔をしながら――ナノに問う。


「……ねぇナノ」

≪ハイ、何でしょウ?≫

()()、何」

≪ルプス様が想像されているもの、とだけお答えしまス≫

「「……」」


 ……成る程。


「……凪」

「……何?」

「逃げよう」

「分かった」

≪≪ってちょっとちょっト(ッと)!≫≫


 踵を返して来た道を走る。頭の上でナノとサキがつっこんできたが、無視して走る、走る。


≪何で逃げるんですカ! ワザワザpopさせたんですヨ!?≫

「やっぱりかナノ! 何であんな衆人環視の目がある所に出現させた!?」

≪勿論戦闘データを取る為ですヨ! あと何も居ない所に攻撃してるルプス様を見て笑――ごほん、周囲の反応を見ようと思いましテ≫

「1個目は兎も角2個目はアウトだよそれっ!」

亜瑠(ある)君っ、追って、来てるよぉっ……!」

「えええ!? 別に気づかれる様な事してないよねっ!?」

≪ア、ス、スイマセン……お2人が逃げた時点で追わせまシた……≫

「まさかのサキちゃんっ!?」

「サキ……後で、お仕置きっ」


 ちらりと後ろを振り返り、凪の言う通りあの黒蟻2匹が追ってきているのを視界の端に見つけて更にスピードを上げる。正直普通に走るだけだと僕と凪はそれほど変わらず、手を繋いだままの全力疾走でさっき基本能力を測った時に居た堤防の下まで来る。


「亜瑠、君……っ、人、誰も、居ないよ、ぉっ!」

「ありがと凪! ……と言うか――」


 《耳千里》で確認したのだろう凪に礼を言ってから、橋の下まで来てからパッと振り返り、追ってきている蟻2匹を視認する。全身真っ黒の蟻2匹は結構な速度で迫ってきている上に、蟻の前脚2本には鎌の様な物が付いている――あれ、もしかして蟷螂の方だったか?

 ……とりあえずこれは言うべき事の筈だ。


「――何で(コレ)なの」

≪そこはこウ、人からすると一番小さいものの代表である蟻から戦う事で少しずつ戦うのに慣れていこうと言ウ……ネ?≫

「いやサイズおかしいし僕が蟻って言ったけどどちらかと言うと蟷螂っぽいし、どう考えても序盤で戦うような敵に見えないんだけど」

≪……実際はどの敵をぶつけるか考えるの面倒くさくて適当に選んだんですよねナノサん≫

≪否定はしませン≫

「いやそこせめて否定しようよ」

「ナノちゃん……面倒くさがり?」


 変に脱力してしまった所で、蟻改め蟷螂2体は近くまで来ると僕らの反応を見る様に抜き足差し足忍び足で近づいてくる。


「……でも、亜瑠君、」

「うん?」

「戦って、も――()()()、なの?」

「……え?」


 凪を振り返った僕の目に、心配そうな凪の顔が映り、次に言われた事の意味が分からずそんな声をあげた。思わずその意味を問い返そうとして、

 ――視界の端には入れていた蟷螂2体が、両手のあたる部分の鎌を構え、敵意を向けてきた。


 ……その敵意に当てられ、体は勝手に動いて凪を庇い、腰を僅かに落としどっちにも対応出来る様にする。

 まだ感覚的には戸惑っていたが、体の方は既に戦闘体勢になっていた。野生の狼と一緒に過ごしていた期間は2年弱だったが、その間に体に叩き込まれた感覚はいまだに健在だ。野生本能といっても良いかもしれない。


 理性が押しやられ、沸々と体内の血が湧きあがっていく感覚がする。

 頭の中で、声がする。


 ……目の前に敵が居る。自分の命を脅かす奴が居る。

 敵はどうする?

 僕の後に居る凪は、逃げればやられてしまうだろう。

 敵は、どうする?

 ……勿論、


「……殺す」


 両手が自然に地面につく程下がる。四つんばいに近い体勢で視界が狭窄し、敵が視界の中心に来る。

 意識から、ナノ達の事が一時的に消える。守るべき仲間()と、相対する(蟷螂)の事しか頭に無くなる。


≪……ア、あレ?≫

≪ナ、何か様子が変でスよ……?≫


 そんな声が、僅かに耳に残り――



 ドン、と地面を蹴った足が立てた音と。

 ……グチュ。と言う湿った肉を掴む感覚が、両手と口元に発生した。



 ……起こった事を具体的に言えば――


「……グルル」


 ――僕から見て右側に居る蟷螂を、右手に()()()()()()で切り裂き右手1本でねじ伏せ、左側に居る蟷螂の喉下を()()()()()()のだ。


≪……エ≫

≪……うわォ≫


 誰かの声がする。敵意は無いから無視しているが、味方以外が近くに居る事を煩わしく感じながら、血を噴き出し絶命した敵2匹に更にもう一度動かない様、胴体を切り裂いてから放り捨てる。()()に付いた赤い血を四つんばい状態で舐めとり――


「あ、亜瑠……君」

「…………っ、」


 凪のその声で、僕は漸く()()()()()


「…………あー……やっちゃったか」


 我に返って自分の状態を見下ろし舐めていた手を下ろして座り込む。右手に出現しているおぼろげな鉤爪――実際の人間ではおかしい、指の先を包み込む様な大きさの爪を見て嘆息する。口元に付いた赤い血を服でゴシゴシ擦ってとるが、拭いている左手の感覚的に口にも八重歯が右手の爪と同じ状態に、つまり一回り巨大化している事に更に長く大きく溜め息を吐いた。


 粗方とれた様なので、《能力》を発動させた反動で疲れを感じたまま先刻の声――ナノ達を見上げ、口を開く。


「……で、倒しちゃったけどこれで良いの」

≪エ、ア、ハイ≫


 反応が遅れたものの頷くナノに、足を投げ出し手を後ろにつっかえ棒代わりにして凭れかかりつつ空を仰ぐ。その後視線を下ろしてうわぁ、と真っ赤になっている服に辟易した。


「……亜瑠君、大丈夫?」

「……あーうん、それより服の方がやばい事になったなぁ……」


 服を掴んで持ち上げ、グジュグジュになった布地に嫌悪感を覚える。

 ()()、やってしまった。


「……こんな所で《能力》を発動するなんて思わなかったなぁ……ハァ」

≪ア、アの……≫

「うん?」

≪イ、今ノは……ルプス様の《能力》、なんでスか?≫

「……うん、《能力》と言うよりは副次効果かな」


 若干戦々恐々としているらしいサキに出現したままの右手の鉤爪を見える様に振り、自嘲気味に笑う。


 僕の《能力》、《ビースト・ウルフ》は僕の年少時の経験――狼に育てられると言う奇異な体験が元となっている。狼として生きていた間はもの凄く短かったが、この経験の所為で僕は人間世界に馴染むのにも時間がかかった。そして、人間として生きる事を選択した僕にとってはいらなくなった経験は《能力》として定着し、それによって発生した効果は大きく2つある。


 今のこの鉤爪は、その内の1つ――『狼としての意識(考え方)の時は、身体能力が向上する』の副次効果だ。『四つんばい状態だと、足が速くなる』のもこれ。


 狼には爪も牙もあるが、人間には無い。当たり前だ、人は狼じゃないのだから。

 でもこの《能力》で狼(の意識の)状態になると、《能力》が『本来ある筈の、しかし無くなっている鉤爪や牙を補完する』のだ何故か。その結果、この様におぼろげな爪や牙が出現するのである。

 しかもこの爪や牙、見掛け倒しではなく本当に触れるし攻撃にも使える。半透明な見た目だが実際質量はあるらしい。――政府は『《能力》が物体を生成している』のはこれまでで初の事例だ、とか何とか言っていたが……良く分からない。


 ついでに言うと思考が狼レベルまで落ちる為、単純な事しか出来なくなるし……敵、味方、と言う見方でしか周囲の生きているものを見れなくなるので、敵と認識してしまうと襲ってしまう可能性があるから出来れば発動させたくないんだけど……我に返った時に凄く罪悪感を覚えるから。

 ただ例外として、『四つんばい状態だと、足が速くなる』の場合思考が落ちる事も無い。ただ狼を模倣しているだけだから、……なんだろうか。


 もう1つはまた使った時にでも説明するとして、と言ってフワリと薄れる様に消えた右手の爪を見ながら説明を終えると、1人と2人は心配そうな、納得の、困惑の表情をそれぞれ浮かべた。勿論心配そう→凪、納得の→ナノ、困惑の→サキだ。


「それ……前に発動、した時も、その後……しんどそうだったけど、本当に、大丈夫?」

「うん、精々全力疾走した程度だから……実際体力結構使うけど、体力はそこそこあるし大丈夫だよ」

≪成る程、ルプス様の能力はそう言う物なんですネ。確かに狼でしたシ≫

≪セ、政府のデータベースにあった報告とは少しずれてましたケど……こんなに怖くなるとは思ってなかったデす≫

「……うん? ()()()データベース?」


 ナノの後に隠れてしまっているサキの言葉に思わず聞き返す。

 政府が《能力者(アビリティ・ホルダー)》の研究をしている事はこの国の国民なら誰でも知っている事で、尚且つ国にとっては研究成果は機密事項だ。勿論厳重にプロテクトがかかっているはずなんだけど……。


 僕の問いにサキが何故か更にナノの背中へと隠れてしまったので、それに苦笑したナノが答えた。


≪この《ORS》を作った鳳様ハ、政府に少しコネがありましテ。この《ORS》のコンセプトは元々『《能力者(アビリティ・ホルダー)》の人の《能力》も最大限に生かせる機械』ですかラ、その対象者となる《能力者(アビリティ・ホルダー)》の方々の実験データが無いト、そもそも反映すら出来なイ、と言う事になりますヨ?≫

「……そう、なんだ」

≪あぁ勿論、この《ORS》ならびに《RWO》両方ともに反映する分しか情報は得てませン。私達が知ったのも《ORS》のデータベースを漁ったからですシ≫

「……ふぅん。……それより、この服どうしよう? 服真っ赤の状態で歩けないし、さっきの蟷螂も放っとく訳に……あれ、蟷螂無くなってる?」


 腑に落ちない所があるものの一応納得し、再度服を摘む。当然の事ながらどうしようと思いつつ、僕がさっき倒した蟷螂の方を向いてその姿が無くなっている事に気がつく。

 倒したらモンスターは消えるのか、と思った所で、……凪の遠慮気味な声がかかる。


「……あの、亜瑠君」

「うん?」

「……その血、他の人には、見えない……よ」

「あ」

≪ついでに言うならルプス様が倒したモンスターは消えたんじゃなク、私が戦闘データを取る為に回収しただけですのデ、本来なら死骸はもう少しの間実体化状態で放置されますのでそこの所宜しくお願いしますネ≫

「あ、そ、そうなんだ……どちらにせよ消えるんだね」


 すっかり忘れてた。現実との違和感が全く無いからそのまま受け入れてた。

 思い至らなかった事に若干恥ずかしくなっていると、ふと蟷螂達が死んだ場所に何か落ちているのに気がつく。


「……何コレ」

「コイン、と――玉?」


 拾い上げてみる。

 コインは、僕たちがいつも使っている通貨とほぼ同じ大きさで、片面に100の数字が絵の様にデザインされ、裏面には――鳳凰かな、鳥が羽を広げて羽ばたいている様子が写っている。

 玉の方は、水晶玉の様に透明の緑色で、大きさ的には卓球ボールぐらい。ガラスみたいにツルツルした感触があって、玉の中心には何か入っているみたいだけど……小さすぎて見えない。


 玉はともかくコインの方は何となく予想がついて、確認程度にナノへ問いかける。


「このコイン、レウだよね?」

≪はイ、そうですヨ。モンスターを倒すト、死骸の傍にこれらのドロップアイテムが落ちまス。大抵の場合、モンスターと戦うのはこれらのドロップアイテム目当てですネ≫

「ふーん……こっちの玉は何?」

≪それは経験値ですヨ≫

「……経験値?」


 凪が首を傾げる。と言うかそもそもゲームやらないから、ドロップアイテムの意味も一瞬はかりかねたんだけど……経験値って、確か僕らの能力を上げるのに必要なものとか何とかナノが言ってなかったっけ。


 凪のの反応に顔を見合わせた2人は、と言うよりサキに言っていないのか確認していたらしいナノは、≪……まぁ説明しますネ≫と少し面倒くさそうに(本当に人間っぽい)口を開いた。


≪ルプス様には一応話しましたガ……ゲーム内で攻撃力や索敵能力を上昇させるのに必要な物でス。モンスターを倒すト、多かれ少なかれその様な玉を落としまス。それをメニュー画面で取り込む事デ、『モンスターを倒した』事が認識され能力が上昇していくんですヨ。色によってどのパラメータが上昇するかも分かるようになっていますシ≫

「……分かる様な、分からない、様な」

≪やって慣れていきましョう、ネ?≫

「……そう、だね」


 納得出来なかったらしい凪が首を傾げるのに、サキが肩に乗って囁く。

 一応分かってはいる僕は、ナノが言う通りにメニュー画面を開いて能力欄を開く。パラメータの所に並ぶSTRやらの数字がすべて埋まっているのを見ながら、一番下の経験値総計と言う所かな? と試しに球をあてがってみると、水色の玉は光の粒になって消えた。


 今の今まで手の中にあった玉が消えてから、何も違和感無くやってたけど、現実でVR空間と似た様な状況になった事に何処と無く言い知れない気持ち悪さを感じる。だって普通、現実世界で見て触れる物が跡形も無く消えるだなんて、それこそ魔法や超常現象だ。「発達しすぎた科学は魔法と変わらない」……とか何とか似た様な台詞を誰かが言ってたけど、確かにそうだ。

 まぁそれはともかく。


 経験値総計と言う所の『0』が『10』へと増え、更にSTRの値の横に書かれている『×0』と言う数字が『×0.1』と表示された。成る程、さっきの卓球玉サイズのは10相当なんだ。

 それを見て、家でのナノとの会話を思い出して首を傾げる。


「ねぇナノ」

≪ハイ、なんでしょウ?≫

「そう言えば、『経験値の振り方が普通のゲームと違う』とか言ってたと思うんだけど」

≪ハイ、言いましたネ≫

「それって、『経験値がそのまま能力値にプラスになる』んじゃなくて『経験値の値が倍率に関係する』ってだけで、自分自身でどの能力値の倍率に振る事は出来る、と思ってたんだけど違うの? これ、今勝手にSTR(筋力値)に加算されたけど……」


 あまりしないからそうなのかはハッキリしないけど、普通経験値って自分で振れる物じゃなかったっけ、と言う質問だったのだが、ナノは一瞬思案顔になってポン、と手を叩いた。


≪あぁそれですカ。さっきの玉は色がついてましたよネ?≫

「ん? うん」

≪色がついている物はどのパラメータに上昇効果がつくのかが固定されている物でス。色のついていなイ、つまり透明の物だとご自身で振れますシ、大半のモンスターからドロップするのもこちらですネ≫

「へー……大半の、じゃないモンスターってどう言うのが該当するの?」

≪クエストで大量に狩るモンスターやイベントなどで出現する大型ボスなどは透明ですガ、野良――今回の様に偶然遭遇したモンスターなんかは大抵色がついていますネ。ちなみニ、体が燃えていたりすると赤、植物系や昆虫系だと緑、海に関係するモンスターだと青、など見た目でどのパラメータを伸ばす経験値玉が出るか分かったりしまス。海の近くだと青、とか場所でも分類があったりしますネ≫


 成る程、さっきのは蟷螂だったから昆虫、それで緑色だった、と言う事らしい。


「色はパラメータとどう対応してるの?」

AGI(敏捷)は赤、DEX(器用)が橙、VIT(頑丈)が黄、INT(知性)が黄緑、STR(筋力)が緑、SEN(感覚)がそれぞれ上から水色、青、群青、赤紫、青紫、ですネ≫


 ちなみに、SENとはSense、つまり五感の事で、彼女の言う上からとは視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚の事なのだが……正直、味覚は要らない気がする。

 これらはつまり《ORS》と脳との反応速度に一任される為、もろIQ測定だったINT以外は測定が凄くやりにくかったのだがそれはさておき。


 ふーん、と再度納得しかけて、パラメータの1つを指さして聞く。


「……僕AGI2つあるけど、その場合どうなるの?」

≪えっとちょっと待ってくださイ≫


 僕の目の前でホバリングしながら、ナノは僕の問いに数秒目を閉じて米神に手を当てる。

 何をしているのか分からないけど、3秒ほど経ってパチリと目を開いたナノはこう答えた。


≪……どうやラ、ルプス様の場合AGIに限ってどちらに振るか選べるそうですヨ≫

「そうなんだ。……と言うか、AGIが伸びても走るスピードまで速くなる訳じゃないんじゃ……いくら《ORS》が現実と同じ物を見せれると言っても、現実の走るスピードまで上げれる訳じゃないと思うんだけど。さっきHPが無くなった人に攻撃すると強制停止させるって言ったみたいに、脳に強制的に『早くしろ』って命令出すの?」

≪良くそんな質問がポンポン出ますネ……と言うかそれやると本当は違法ですシ、やりすぎると脳が壊れて死にますヨ……?≫


 呆れた、と言うよりちょっと引いてる感じのナノに、流石にヤバイ質問をしたか、と口を引きつらせつつ聞き返す。


「……そうなんだ?」

≪そうなんでス。これらの倍率ハ、確かにあくまでゲームである《RWO》内で関係する物ですのデ、確かに現実のルプス様などの走るスピードを上げれる訳ではありませン。これらのパラメータが関係するのハ、ゲーム内で生成された物を投げたりする時ですネ≫

「……あー成る程。なら僕的には二足歩行の時の方を上げた方が良いね」

≪……一応言わせて貰いますト、普通ゲームでのAGIっテ、アバターを動かす時のスピードだけでなく物を投げたりする時のスピードやら何やラ、全ての物に関係する物なのデ、この《RWO》では投げるスピードと走るスピードの2つだけを考慮して出した値となってるのでかなり簡略版なんですヨ?≫

「へー……」


 そう頷いた所で、ふと更に疑問。


「……んじゃ、例えば元の値は低いけど倍率加味したら速いAさんと、元の値はAさんより高いけど倍率が低くてAさんより遅いBさんが走る勝負したとしたら、どっちが勝つの?」

≪Bさんですネ。あくまで倍率は《RWO》内の物に干渉する場合のみですのデ、その条件の場合Bさんが勝ちまス≫

「……そのAさんがBさんから逃げたい時とか、それこそBさんが《RWO》を悪用してAさんに対して犯罪を犯そうとかしててAさんが逃げてる時とかだったら困るんじゃ……」

≪その場合は問答無用でBさんに強制停止命令が飛びますので大丈夫でス。この《ORS》は犯罪防止の防犯カメラも兼ねてますのデ≫

「え、それプライバシーはどうなるの? 防犯カメラって事は今この状況も見られてるって事じゃないの?」

≪家の中など人の所有物の空間内では作動しない様になってまス。今は作動してますけド、ルプス様の家の中では撮ってはいますが送られてはいませんヨ、私はバッチリ見ましたけド。一応『テイク』と言えバ、『本人の許可が出た』=『撮らないと犯罪が起こる』と解釈して作動しますけどネ≫

「……色々考えてあるんだね」


 スラスラと出てくる返答に今度こそ納得して、


「……それより、亜瑠君、服、どうするの」

「……あ」


 凪のつっこみに思い出して見下ろす。若干乾き始めていたが、服に飛び散った赤い(モンスターも血は赤いんだ……)血痕は元の薄い緑色のシャツと相反してかなり目立つだろう。

 ……けど、これ同じ《ORS》持ちじゃないと見えないんだよ、ね? でもまぁ服に血がつきっぱなしと言うのは確かに他人に見えなかろうと嫌なのは事実。


「……ナノ、これすぐ消す方法とか無い?」

≪すぐに消したいのであれば服脱いで川で洗ってくださいナ≫

「……それ、本当に濡れるよね」

≪はイ。《RWO》で受けた汚れは実際に洗ったりしませんと取れませン。たダ、水は実体でなくても可能ですガ≫

「……ERの、水なら、OKって事だよね、それ」

「持ってないよそんなの――あ、《ショップ》で買えばいいか」


 それぐらい売ってるだろう、とメニュー画面を開いて(若干まだ気持ち悪い……)《ショップ》アイコンに移動、ズラッと並んだ中から『水』で一番安い物を見つけて(ペットボトル500cc100レウだった)購入ボタンを押すと、ホロウィンドウの前にまんまペットボトルが出現した。

 手にとって蓋を開け、……えっとこれ、


「……もしかして、これ濡らした服を着てたら『風邪を引いた』、……なんて錯覚させられるとか無いよね?」

≪勿論、ありますヨ≫

「どこまでも、現実準拠……」

≪カ、確率にはなりますケど、かかる可能性はありマす……一応≫


 融通が利かないとはこの事か。

 血がつきっぱなしでうろうろするか、服の血を流して風邪を引く可能性をとるかで悩んだものの、結局シャツを濡らして汚れを粗方とる。まだ4月も初めで風は少し肌寒かったりするが、風邪は引かないだろう――多分。


 血を洗い流し水気を出来るだけとった(此処に第三者が居たら、濡れも汚れもしていない服を絞っている様に見えるんだろうなぁ……)後、水が余った為試しに飲んでみると、VR空間で水を飲んだ時と同じ感じだった。つまり、良くも無く悪くも無く、冷たくも無く熱くも無くと言った感じ。


 漸くサキが喋ってくれる様になったので(よほど《能力》使用時と未使用時のギャップが激しかったかららしい)、この後どうするのか問う。


≪うーン、私としてはルプス様とラル様の戦闘データをもう1、2回ほどとっておきたいんですガ……ルプス様、《能力》発動連発はキツイですカ?≫

「キツイ」

≪ですよねェ。また血で汚れる事になりますシ……それニ、敵意を見せられてすぐアノ状態になるのでしたラ、ラル様の戦闘データをとる事も難しそうですシ……≫

「……そうだね。さっきのリプレイ状態になると思うよ僕も」


 あの爪や牙――《実装(インプレメンション)》と政府は呼んでいる――を出現させるのは必要以上に疲れるし、狼状態後は体力を削られるから、1日1回発動がいい所なのだ。体力が増えればもう1回ぐらい発動させても大丈夫になりそうだけど、今は無理。

 それでも、凪を――味方と認識している人に敵意を向けられれば、後の事などお構い無しに理性を飛ばしてアノ状態になるだろう。それぐらい予想できる。たとえ、敵が偽物でも。


 VR世界なら何回狼状態になろうと《実装(インプレメンション)》は発動しないから大丈夫なんだけどなぁ、と溜め息を吐いた所で、


「……んじゃ、亜瑠君が、VR世界に入ってれば、大丈夫なんじゃ、ない?」

≪ア≫「あ」


 ◆◇◆◇

 数十分後。


≪ルプス様、終わったので戻ってきて下さって結構ですヨ≫

「ん、分かった」


 《ORS》が生成するVR空間――いやER空間内で(何故か僕の家と全く同じ内装だった)テレビを見せられていた僕は、何の前触れ無く声をかけてきたナノに返事して、テレビの電源を落とした。ちなみに、見せられていた番組は普通のニュースだった。……何でニュースなんだろう。


「と言うか何で僕んちが再現されてるの……」

≪そこは慣れた空間の方が良イ、と言うのとデータを入れられてなかったのでやむを得ずでス≫

「僕の体今河川敷で寝てるんだよね……何か変な感じになるから、次から別の場所でお願い」

≪分かりましタ、捜しておきますネ≫


 完全に再現された家の中から、今現実で僕の体がある河川敷の方角を見る。当然ながらER――つまり現実と何ら変わらないので、本当に幽体離脱してる気分になる。


 一応再現されているベッドに寝転んで、左下に浮かんだメニュー画面を開き(この空間は完全に《ORS》だけが生成している筈だが、メニュー画面は《RWO》と一緒だった)、メニューの左下にある『ログアウト』ボタンをクリックして確認ダイアログをOKすると、フッと意識が遠のいた。


 すぐにその感覚は遠ざかり、耳に草がそよぐサァア……と言う音と、凪の声が響いて、


「……亜瑠君?」

「……ん、…………えーっと、」


 その声が真正面、いやそれは良い、息がかかりそうなほど近くから響いて――端的に言うと、

 何故か馬乗りになられていた。


「……何で乗ってるの」

「亜瑠君が、起きない、から――」

「いや、ログインしている時は何されても気がつかないから、起こそうとしてくれても無駄だと……」

「――色々、しようかな、って……色、々」


 そう言って、何故か下半身を見下ろす。

 ……とりあえず顔が赤くなったのは分かった。


「……うん、ちょっと待って、此処外だから」

「……? 駄目?」

「……あの凪さん、何故そんなに思考がぶっ飛んじゃってるの? 僕がダイブしてる間に何があったの!?」

「……(照)」

「いや、赤面するぐらいなら言わなきゃ良いのに……」


 とりあえず彼女の顔を見ない様に視線を逸らして肩を掴み、上半身を起こす。凪も僕も顔が赤くなってるのが分かる。

 で、全く止めない《サポートキャラ》2人に視線を向け、片方が顔を手で隠しているのでもう片方へ怒鳴る。


「――で、ナノ何吹き込んでるんだよっ!?」

≪いやァ、お2人とも良い雰囲気になる事多いのに全然進まないので後押しヲ≫

「そんなのしなくていいって! と言うか何を言ったら寝てる僕に馬乗りなんて選択肢を取らせられるんだよ!?」

≪そりゃまァ、色々ト?≫

「色々じゃないっ! ……サキちゃんも、頼むから止めてくれ……」

≪ソの、スイマセン……止めれませんでシた……≫


 一周回って疲れを感じながら溜め息。


「……で、終わったんだよね、どうだったの?」

「うん、上々……かな?」

≪ラル様の戦闘スタイルは遠距離後方支援型に落ち着きそうデす。元々MP多いでスし≫

「……うん? そういや僕もMPの欄埋まってたけど、どうやって出してるのコレ?」

≪えート、若干ややこしいんですガ……≫


 そう言って、ナノが説明した内容はざっとこんな感じだった。


 基本的にはINT……知性の値が基準だが、測定した全ての値の平均がその人のINTよりも高かった場合は、その平均の値に、更にその平均よりも突出している値からINTの値を引いた値をプラスする。

 平均の値がINTの値よりも低かった場合、INTの値に、更に平均値よりも突出している値から平均値を引いた値をプラスする。


 ……説明がややこしいが、具体的な値を入れるとすると――


 10個ある値が、それぞれ10を最高として、3、9、7、6、8、5、9、10、7で、INTが6だったとする。この場合、この10個の値の平均は7となる為、この場合平均値の7に、7よりも大きい値である9、8、9、10からそれぞれINTの値の6を引いた値、3、2、3、4を足して、魔力の総量は19となる。これが前者のパターン。

 後者のパターンは、10個の値が5、4、7、3、9、5、8、6、5で、INTが8だった場合、この10個の値の平均は6となる為、この場合はINTの値の8に、平均値よりも大きい値である7、9、8、8(この場合INTも含む)から6を引いた値、1、3、2、2を足して、魔力の総量は16となる。


 ――と、いった感じらしい。


≪まぁこんな感じなんですガ……実際人に魔力なんて無いですかラ、強すぎず弱すぎずでこんな面倒くさい値になってしまったんですよネ……≫

「た、確かに面倒くさそうだね」

≪とは言っても全部コンピューターで計算してるんで大丈夫なんですけド≫

「ナノが計算してないんだ……」


 面倒くさそうな雰囲気で言ったくせに一転してあっけらかんと笑ったナノに脱力しつつ、そういえばと気になった事を聞いた。


「……そう言えば。ちなみにどう言う戦い方したの?」

「へへ……内緒♪」

≪本番見てのお楽シみ、デす♪≫


 凪とサキが小悪魔的な笑顔でそう言う。可愛い。

 ただ、僕の上に乗っかりっぱなしなのはどうなんだろう。そろそろ退いてほしい。……気になるから。

 幸い、ナノの呆れ混じりのつっこみが言葉が助け舟になった。


≪たダ……ルプス様、戦闘の度に《能力》発動していたら体が持ちませんから確かにラル様の活躍も増えるでしょうガ……ルプス様が暴走したラ、ラル様の戦闘なんて見れないんじゃないですカ?≫

「……あー、そこはどうしようか……」


 そう言えば確かにそうだ。凪が戦う度にダイブしている訳にもいかないし、そこは考えないといけないかもしれない。

 落ち込む凪を立たせ、僕も立ち上がりつつ髪を撫でて慰める。すぐポワポワオーラを出す凪に苦笑したナノは、パンと手を鳴らして肩をくすめた。


≪まぁそこも含メ、とりあえず測定項目は一通り終了しましたので後は明日のお楽しミ、ですネ≫

「あ、そうなの? やっとだね」

≪えエ、私もこんなに時間を食うとは思って無かったでス≫

「……ナノがちょっかい出さなければもう少し早く済んでた気がするんだけど」

≪さぁて何の事やラ≫

「んじゃ……帰る?」

「そうだね」

≪ア、私達は本部の方へ連絡がありますので一旦消えまスね≫

「え、そう、なの?」

≪ハイ、データの集計やら何やラ、する事多いんですヨ。明日、テストが始まったらまた来ますのデ≫

「うん、分かった」

「じゃあ、ね、2人とも――ナノちゃんは、後で、サキちゃんと、お仕置き」

≪わァ、怖い怖イ♪ でハ、これデ≫


 フッ、と2人が空気に溶ける様に居なくなる。

 それを見届けてから、2人顔を見合わせて、家への道を――マンション型の木々の森の中を歩き出した。



 ……ちなみに、何でか、手を繋いだままで。

……。

……えっと、言い訳等は活動報告の方で……。

誤字脱字、感想は感想の方へ宜しくです。

……と、書くのも二回目ですよねこれ……前の話と間髪入れずに投稿してますし。

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