第3話・Preparation 1
久々の投稿! 長かったです!
≪《ORS》は、ただフルダイブさせるだけの機械ではありませんヨ?≫
「え、そうなの?」
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「………ん、」
妙に重い頭を振って、意識をハッキリさせる。で、何でナイトライトがついてないんだ? とカーテンを閉めきっている所為で暗い室内を見回した。
「……?」
まあいっか、昨日はつけずに寝たんだろ、と安易な結論を出し、日課の育てている草木に水をやるためじょうろを持って洗面所へ。
水を入れるついでに顔も洗い、そこで、
「……あれ、何か忘れてる様な気が……」
――何だったっけ、昨日寝る前に何かしてた筈なんだけど……。
思い出せないまま記憶を復活させようと四苦八苦していたが、思い出すより先にオートで動いていた体がベランダとリビングの間にあるカーテンを引く方が早かった。まあ先に水やりを済ませるか、と下を向けていた視線が扉のロックを外すために上向いて、
「……え、な、何これ!?」
――そこで硬直した。だって――ベランダから見えるのが見慣れた高層ビル、ではなく、巨樹と言って良いレベルの木々が寄り集まっている……ぶっちゃけ、ジャングルの様な森の状態の街だったら、普通そういう反応がでるものだと思う。うん、そう思いたい。
――え、何、気付かないまま異世界トリップ? 僕にそんな能力がついたとか? それともおかしくなったのは頭の方か!?
そんな思考を巡らせつつ、じょうろを持ったままベランダに出る。5階から下を見下ろしてみて――少なくとも異世界トリップでは無いと結論付ける。見えているのはジャングル(っぽい森)の様な街なものの、下を行き交う人々の格好はスーツ等の当たり前な服装だったからだ。にしては、通りを歩いていく人々は街がジャングル化した事に気が付いているのかいないのか、普通の足取りで違和感無く巨大な木々の間へと消えていく。異世界じゃない、と結論づけたのは早かったか、と思ってもう一度よく見ると、さっきまでは秩序性の無い様に見えたこの街も、元々の街をベースにして、巨樹としての情報を《上書き》したかの様な感じが…………。
……閑話休題。
「……これ、どういう状態なんだよ……」
ふと右を見たのだが、どうやらこのマンションも他の場所の様に(外から離れて見れば他の樹木等と同じ様にみえるのだろうが)《上書き》されているらしい。隣との部屋との境目の壁にびっしりと苔や蔓やらが生えていて、それを恐る恐る触ってみてみたのだが――。
「……どう見ても触っても本物なんだけど」
見た目も触感も偽り無く本物だと理性が告げていた。近くに生えていた蔓の葉っぱを千切り、目の前まで持ってくる。網状脈の順序性の無い枝分かれの仕方、葉の表面にあるフサフサした毛(の様な物)の触り心地、更には切り取った茎から出てくる水滴までも、どう見たって本物だった。
――自分としては、信じたくないが本音だったが。
目が覚めたら異世界でした、はよくある。と言うかそうである方が楽だったりするのだが、見えている世界は変わっているのにそこを行き交う人々はいつもどうりと言う変な違和感。しかも、変わった方の世界もよくよく見れば似通った所が無い訳でもない。ハッキリ言って、全く訳が分からない。
しかしそこで、そー言えば、と。
今も手でいじくっている葉っぱの、妙な《リアル感》。何故か、この様な有り得ない所で本物を目にする、と言う状況、前にあったような……。
「――あ、あ、あああ! そうだそうだ! 昨日の夜のチュートリアルだ!」
目が覚めた時からずっと付きまとっていた何かを忘れていると言う感覚の原因をやっと思い出して、頭を小突く。どれだけ忘れっぽいんだよ、と呆れつつ、再度眼下の光景を見下ろした。
この状況が、《ORS》と言う今も頭につきっぱなしの機械の仕業なら、まあ説明はつく。昨日の夜見せられたあの《リアル感》は、疑わなくても本物だ、と納得させられる感じがあった。
にしても、意識を保ったままでフルダイブ状態(現実に無い物を見せる)とは、どんなロジックで出来ているのだろうか。少なくとも今2035年現在の技術では不可能な筈。昨日の夜(強制的に)フルダイブした先で、あの鳳と名乗った少女の話では、詳しい事は分からなかったしなあ、と首を捻る。鳳が言うに、《RWO》のテスターをして欲しい、との事だったが、意味不明な説明しかしなかったし、それ以前に、
「……説明役を送るって言ってたけど、……どうやって?」
此処は何気に政府関連の管轄のマンションだ、誰が来るにしても、第一エントランスにいる管理人に見咎められてアウトな気がするのだが。
その答えは、予想外な所から返ってきた。
≪それはですネ!≫
「うおわ!?」
右耳側から至近距離で大音量をぶちまけられ、慌てて右耳を押さえ振り返る。が、何もいない。
「え?」
≪あはハ! こっちですヨ~?≫
再度声がした方を見る。正確には、右肩。
其処には、予想以上に小さい――身長が僅か10㎝弱しかない小人の少女が、腰かけていた。
幅広の袖で、服の裾がワンピースの様に広がっている淡い黄緑色の服を、腰のあたりで紐で絞っている。上に着ている服が長い所為で見えにくいが、下は濃い緑色のズボンの様だ。髪は薄いプラチナのショートヘア。目の色は緑色。そして、頭に――ヘッドホンの様な物が付いている。付いている、と言うのは、ヘッドホンに隠れている筈の耳が無く、ヘッドホンがまるで体の一部の様になっていたからである。
その小人の少女は、右肩からフワリと空中に浮かぶと、向き直ってペコリと頭を下げた。
≪どうも、初めましテ! 私は、《RWO》で貴方様のサポートをする事になりました説明役の《サポートキャラ》でス≫
「は、はぁ。君が鳳の言ってた?」
急な出現と、その少女の小ささに興味をそそられて恐る恐る手を伸ばしたが、少女はヒョイ、と避けて半眼のまま言ってくる。
≪……ちなみに、実体はちゃんとありますが、現実には存在しませんヨ?≫
「……実体があるのに存在しない?」
フリーズ状態から脱却しつつ(避けると思っていなかったのだ)、少女が言った言葉を反復する。……まあ確かに、こんなに小さい人間がいるなんて聞いた事が無いし、冷静になってみれば、この少女も《ORS》が見せている――言ってしまえば幻影の筈で、それなら見えても触れない筈では?
疑問に首を傾けると、少女は何に疑問を持ったのか分かったらしく、苦笑して言ってくる。
≪《ORS》は、ただフルダイブさせるだけの道具ではありませんヨ?≫
「え、そうなの?」
≪と言うか、今私の姿が見えている時点で、普通のVR機器とは違うと分かると思いますガ。《ORS》は、従来のVR機器の『フルダイブしないと別世界を見せれない』と言う前提を覆し、視覚・聴覚・触覚にだけ偽りの情報を与えることによって、体の制御を奪わなくても使用者に現実に無い物を見せられる様にした機械なのでス≫
「……ああそれで、ハーフダイブな訳?」
≪そう言う事でス。何しろ脳の半分にだけ情報を与えている訳ですかラ。《ORS》は、その機能を最大限に活かし、現実に起きていながら、他の人とは別の、本当の異世界を見れる様にしたのですヨ。他にも、別世界だと思わせる為にはポリゴンでは現実に存在している物とそうでない物の区別がついてしまうので、新しくその技術を開発する羽目になりましたし、《ORS》対応ソフト、《RWO》は現実の肉体のスペックがそのまま反映されますので現実での行動と見せている情報との同期をしなくてはなりませんからその演算も大変でしたシ! しかも、鳳様がちゃんと説明しなくて私達にちゃっかり仕事を押し付けられていかれましたシ!! 開発者様達はどれだけ私達に仕事を押し付ければ気が済むんでしょうカ!!!≫
説明が後半愚痴にすりかわっている事に気が付いたのか、驚き半分疑問半分の視線にそこまで言ってから、少女はやっと声のトーンを落とした。
≪……もう、色々と分からない事があったら遠慮無く聞いて下さい本当二。私はテスターを押し付けた側ですが、どうぞ宜しくお願い致しまス……≫
「……君も大変だね……君、NPC? にしては人間臭いけど」
少女は色々とこき使われているらしい。彼女の境遇にそう呟いてしまってから、ふと気になった事を問う。
NPCは、VRワールド内ではよく目にする、ノンプレイヤーキャラクターの事。プレイヤーに聞かれた事に対する返事しか返さない、無愛想な機械、と言うのが一般的なNPCで、某黒ベータテスターさんが無双している小説(何気にこの小説に出てくる『鋼鉄の城』は、その小説と同じ名前でVRゲーム化されていたりする。しかも、細部まで忠実に)の9巻辺りで出てくるNPC《A.L.I.C.E.》とは比べ物にならない程劣っているのだが。
少女は少し考え込んだ後、ニンマリ笑って言った。
<<疑問に思われるのなら、《RWO》でNPC関連のクエストを探してくださイ。そのクエストをクリア出来ましたら、教えても構いませんヨ?>>
「……あるんだ、そんなクエスト……まあ要するに、秘密な訳ね」
≪そう言う事ですネ~≫
あははと屈託の無い笑顔で少女が笑う。結構可愛い。
その少女に、ああそうだ、と今更ながらに聞いた。
「……それで、《RWO》ってどんなゲームなの? 僕は《RWO》で何をすれば良い?」
≪……ああ、そうでしタ……≫
◆◇◆◇
何故か肩を落とした少女は、嫌そうに溜め息を1つ吐いてから口を開いた。
≪《RWO》は6つの種族に分かれ、……今は日本限定ですが、日本領土を取り合うゲームでス。ベータテスト中は領土の取り合いは発生しませんが、その代わり本稼働で実装予定のクエストを試して貰ったりしまス≫
「……具体的には?」
≪テストが始まれば、街にエネミーがpopする様になりまス。殆どが建物内にpopしますけド。それを倒したり、色々な場所をまわって素材集めとか、其処ら辺ですネ≫
「……それ、フルダイブじゃなくてリアルな方で歩き回るんだよね……? とっても大変じゃない?」
≪ええ、だからその事も考慮して動かないといけない様になるんですヨ。だから、経験値の振り方や、行動の仕方も重要になってくるんでス≫
「うわ、なんか大変そ~……」
思わずそう言うと、少女は苦笑して先を続けた。
≪ですよネ~。自分の経験値の振り方1つで、そのアカウントの行く先が変わる所がゲームの醍醐味ですシ……ちなみに、今回は《RMO》ではクローズドβテストのみをしまス≫
「……ゴメン、そもそもβテストって言うのが何か分からない……」
説明についていけなくなり白旗を上げると、少女は笑って説明してくれた。
≪βテストは、本稼働前に機能等の不具合が無いかを確認するテストでス。人数を限定する物を『クローズド』、制限無しは『オープン』、となりまス。今回のはクローズドで、4月から5月が終わるまでが期間ですネ。テスト中に出た不具合等を6月中に修正して、本稼働は7月からですネ≫
「へ~」
関心していると、ふと少女が言った。
≪……えー、そうい言えば、経験値とかの説明されましタ?≫
「え? え~と、……いや、されてない……と、思う」
≪……あの人達は私にどれだけ仕事を押し付ければ気が済むんでしょウ……《RWO》は他のVRMMORPGと違って経験値の入り方も振れる枠も違うっていうのニ……ああでも、経験値の説明の前に色々しないといけないんですよネ……≫
少女が肩を落とし、そのまま床に着地してorz状態に移行する。
「……だ、大丈夫?」
≪……ええ大丈夫じゃないでス。ちょっと絶望してるので先に水やりを済ましてしまって下さって構いませんヨ……≫
「あ、そうだった枯れちゃう枯れちゃう!」
数分後。
水分を得ないまま日に当たり干乾びかけていた植物達を水と言う救援物資で回復させて室内に戻ってみれば、少女も何とかorz状態から復帰していたので、リビングテーブルに朝食の際に下まで行けない時の為に置いているシリアルを持ってきてから、座る。
袋についている開口を塞ぐ形のシールを剥がした上で袋を開け、カラカラと音を立てて皿に出して食べ始めると、少女が自分の手元を見下ろしている事に気付く。
「……お腹、空いてるの?」
≪……えエ。正直に言うなら私は食事を必要としますが現実世界の物は食べれませんのでどうぞお気遣い無ク≫
「……現実世界の、って事は、仮想空間内の物なら食べられるって事? 売ってるの?」
そう問うと、少女は一瞬キョトンとした顔をした後、ポン、と両手を打った。
≪ああ、丁度良いですネ。この際メニュー画面の説明もしちゃいましょうカ。視界の左下に、四角い黒の枠がありますよネ? それをタッチして見て下さイ≫
そう言われ、目をやると確かに枠っぽい物がある。それに重ねる様に左手を動かすと、シャラン、と言う音と供にウィンドウが開いた。一番上にPN欄|(勿論空欄)、右側に人のマネキンみたいなやつ、左側にタップして開くとSTRやAIGなどが書かれているらしき能力値欄がでるボタンや所持品のボタンが続いているのだが、その所持品の欄の一番上に、
「……これ? この所持金って言うヤツ?」
≪えエ。その横にある家みたいなアイコンがあるでしょウ? それが《ショップマーク》でス。そのアイコンが浮いてる場所は物を売ってますヨ。回復薬とか食料とカ。まあVRワールド内で食事するのと一緒で、本当の体には栄養がいきませんので注意ですけド。まあウィンドウから開ける《ショップ》だと、現地で買うのより高くなっていたり買うのが不可能だったりしまス。購入不可能な物は実物を買うとウィンドウからでも購入出来る様になる物もありまス……値段は高いんですけどネ……≫
「栄養がいかないって……その場合、回復薬は肉体の疲労を感じさせなくするって事で良いの? ……あ、シリアルっぽいのあるね、何かいっぱいあるなあ……どれも値段は一緒か。んじゃこれで良いかな」
少女の話を聞きながら見ていた《ショップ》の売り物一覧の中から、食べている物と同じ物を注文すると、目の前に袋詰めのシリアルが出現し、所持金額の1000レウが850レウに減った。出現した数、3袋。1袋で50円(チュートリアルで1レウは1円と同等と言う説明があったため)とはこの食料問題が深刻化している現実世界では法外な値段だが、そこら辺はどうなのだろう。とか思いつつ少女が目を輝かせているのを尻目に小さめの皿を持ってきて、袋を(現実には存在しない筈だが、普通に持てたし持ってる感触も本物)開けて中身を出し、少女の前に置く。
≪ええ、ゲーム上のHPは回復しますし、疲労も消える様になりますネ。ほぼドーピングですけド≫
が、そう答えた少女が食べたそうな顔をしているにも関わらず手を出そうとしないので、遠慮しているのかと思って言う。
「……食べて良いんだよ? 遠慮しなくて良いんだし」
≪……良いんですカ? で、では、い、頂きまス!≫
遠慮していたらしい。一応そう言った少女は、身長からしてピザ丸々一枚と同じ位になるシリアルを一枚抱えあげ、かぶりついた。嬉々として次々と消化していく少女が出した半分弱を食べ終えたところで、先を促す。
≪そうでしタ。《RWO》の説明……と言うより、必要事項あるんでしたネ……早く終わらせてしまいましょウ≫
「……どうすれば良いの?」
そう聞くと、いきなり背中に背負っていたリュック(持ってたの?)を下ろし、何やらゴソゴソやりだした。そう言えばこの子、名前無いのかな?
ようやくお目当ての物を見つけたのか、何かを取り出す。何かと思えばメモの様だ。普通の人からしてみれば手のひらサイズでも、この子からすれば体とほぼ同じ位で、持ちにくそうに上の方へと動かすと、そこに書かれている文字を読み上げる。
≪まず、アバターネームを決めましょウ。これは《RWO》をプレイするにあたって必要になりまス。ウィンドウのPN欄に打ち込んで下さイ≫
「僕全然ゲームしないんだよなぁ……うーん、何にしよう……」
悩む。大体ゲームはしないし(と言うか政府が普通にさせてくれなかった)、政府が毎日入るように取り決めたあのVRワールドでのアバターネームの《サム》だって、自分の名前の《ある》の英語版だ、大した意味は無い。
数十秒間悩み(その間少女はシリアルの残りを食べていた)、ようやく良い名前が見つかる。
「……えと、その……僕のアバターネームは《ルプス》にする」
≪それで良いんですネ?≫
「うん」
≪……ちなみに、その名前の理由ハ?≫
そう切り返しがきて、本当に人間臭いな、と苦笑し答える。
「別に大した意味は無いけど……僕、幼少期に狼として過ごしてたから……確か、ラテン語で狼が《ルプス》だったから、それにするかな、って」
そう言いつつNP欄の所をタップし、出てきたホロキーボードでウィンドウに打ち込んで決定ボタンを叩いた。
≪成る程。では、次ですネ……えーと、私の名前を決めて下さイ≫
「え? 君の名前を? って言うか僕が決めて良いのそれ」
やっぱり無かったのか、と思いつつそう聞く。返ってきた返事は、肯定だった。
≪えエ。《RWO》では、アカウントごとに《サポートキャラ》がつき、プレイヤーは自分の好み通りに《サポートキャラ》を育てられるんでス。その区別の為と、何より《サポートキャラ》では呼びにくいでしょウ? その為でス≫
「へー……んじゃ、君の名前は……」
こちらは、大して悩まなかった。第一印象から、これ、と言うものがあったのだ。
「《ナノ》、にしよう」
≪……《ナノ》……≫
反芻するように2、3度呟く小人の少女。いや、ナノは、やがてクイ、と頤を上げた。
≪分かりましタ。今現時点から、私の事は《ナノ》とお呼び下さイ。ご主人様≫
ラテン語で小人、と言う名を貰った少女が突然恭しくそう言って、少々むず痒くなりつつも一応言っておく。
「……少なくとも、マスターと呼ぶのはやめてくれないかな……」
≪規則なのデ≫
「お、お願いだから御主人様はやめて? せめて、名前に様とか」
すげなく返されたが、でも、と反論する。自分が何を嫌がっているか分からないままに。お願いしたのが効をそうしたのか、ナノは不精不精、と言った感じに頷いた。
≪……分かりました、ルプス様≫
「……本当は様もいらないんだからね?」
≪それは出来ませン。私達は所詮、《サポートキャラ》にすぎませン。プレイヤー様の方が上なのに敬称を付けずに名前をお呼びするなどとても出来る訳がありませン!≫
その言葉に何か変だと思いはしたが、ナノの言い分に押され結局様付きのまま、となった。
その一悶着が終わってから(本当はこの後数十分間議論を交わしていたのだが、時間が勿体無いので割愛する)、ナノはコホンと咳払いを1つしてから、再度メモを広げた。
≪えーと、次は、《自宅》と《職務先》を決めまス。《自宅》は寝起きする場所で、ルプス様の場合はここですネ。ルプス様は《職務先》はどこですカ?≫
「え? ……えーとこれって『高校生』でいいの?」
≪通われている高校名ハ?≫
「市立水面高校」
そう答えると、ナノがメニュー画面の下の方の地図マークを叩く様言ってくるのでやってみると、目の前一杯に地図が広がり面食らう。縮尺の調整方法などで一悶着あった後、今いるこのマンションが書かれている座標から、少し離れた所を指差して(同じ画面が見えているらしい)ナノが言う。
≪ここで、間違いないですネ? 問題が無いならそこをクリックして下さイ。《自宅》の所モ≫
「うん」
ポチ、と音を立ててその座標を押すと、よくスマホ等の地図マップで出てくるピンの様な物がその場所に刺さった。立体的に見えて何か変な感じだ。
そんな事に御構い無く、ナノはキョロキョロと周囲を見回し、目的の物が見つかるとテーブルからピョンと飛び降りて(その前に≪御馳走様でしタ≫と手を合わせるのを忘れていなかった)、キッチンと反対の所に置いているテレビの向かいのソファへと一直線。フワリと浮かんでソファの上に飛び乗ると、そこに昨日から置きっぱなしのダンボールの縁によじ登り中を覗き込む。
その一挙一足に注視していたが、ナノがダンボールの中に、
≪あっ、これで……キャアァ!?≫
と言う声と共に落っこちてしまったのを見て慌てて駆け寄った。
「……大丈夫?」
≪あ、はい大丈夫でス。一応私にもHPはあるので、中にクッションが無かったら1割位削れてたかもしれませんネ……≫
ダンボールの中から見上げてくるナノにホッと溜め息1つ。NPC(の筈)の彼女は、少々天真爛漫な性格の様だ。
それに構わずナノはテケテケとダンボールの端まで歩いて行くと、《ORS》を取り出した時には気付かなかった物を指差した。
≪それじゃ、今度はこれを持って外に出ましょうカ≫
「……何するの?」
そう返しつつそれ……白い掌に収まる程の大きさのボールを手に取ると、ナノは笑って言った。
≪勿論、測定ですヨ!≫
以上です。
何故か説明ばっかになってます上に話が全然進んでませんが後2話位このままですすいません……頑張って進めますが次話投稿は1か月以上空くと思います。