風に返したもの
僕は眠れない。だって風がうるさいんだ。今日学校で色々あってむしゃくしゃしてたら、なぜか風を連れてきちゃったんだ。それでなくても僕はこの頃、悩みごとが多くてなかなか寝付けないって言うのに。
「ビューンー」
「ヤホイッ!」
「シュシュシュシュンー」
「ドン!!」
「イタッ」
「バタン……」
風が僕の部屋を飛び回ってる。天井にぶつかってる。マジ眠れない。
「ねぇー」
僕は風に話しかけた。
「そろそろ、外に帰った方が良いと思う。きっとみんな心配してるよ」
「ヤホヤホー」
「イェーイ」
風は僕の声が聞こえているのかいないのか、楽しそうにはしゃいでいる。
「うるさい!!」
僕は大声を出した。
すると風はちょっと動きを緩めて手を差し出した。
「握手しよう」
「えっ?!」
僕はびっくりしてベッドから起き上がった。そして思わず風と握手してしまった。
「ひぇー、冷たいよ」
「へへ、北風モードだからね」
風はいたずらっぽく笑った。
「だってさぁー、オレもなかなか自由に吹けないんだよね。ちゃんと風の道って言うのがあるんだよ。そこから外れたりしたら、オヤジにすごく怒られるんだ」
「ふーん」
でも、じゃあここにいるってことは完璧マズイんじゃないか……
僕が口を開こうとした時、風が言った。
「分かってるよ。もう帰るよ。楽しかった。ありがとう」
「あっ、うん」
僕は窓を開けた。外からゴーゴーと風の唸り声が聞こえてくる。親父さんかな。怒っているのかな。僕はちょっぴり風が可哀想になった。
すると風が得意気に言った。
「さっき君と握手した時、君の悩みを吹き飛ばしてあげたよ」
「えっ?!」
「君の悩み小さかったぜ。オレはもっともっと大きい悩みを持ってるヤツ、たくさん知ってる。オレの力だけじゃとても吹き飛ばせないんだ」
そう言えば、胸の中が軽くなった感じがする。スッキリしたような。でも…… 僕は風に言った。
「僕の悩み返して」
風は不思議そうな顔をして言った。
「いいのかい?」
「うん」
僕は風ともう一度握手した。ゴロゴロと石ころが僕の胸の中に転がってきた。でも、こんなの軽いんだろうな。小さな風が吹き飛ばせるぐらいの石ころだもん。
いつの間にか風はいなくなって、窓の外も静かになっていた。不思議と風と握手した手が温かかった。アイツ本当は南風だったのかな。僕はベッドに入って目を閉じた。すぐ眠れるような気がした。