チーコと僕
渋谷千尋は、18歳。
高校を卒業して、就職した。
職業、宴会サービス課。接客は、大の得意だった彼女は、正社員として駅前の某ホテルに 雇われたのだ。
しかし、何かしら、ぬけの多い子でした。
お皿を持ってこいと言われても、種類を間違い、また婚礼の時でも、新郎と新婦のスピーチをしている真ん前を横切ってしまったり。(でも、皆様、暖かいお客さんでした。)
そもそも、彼女はホテルに働きに来たのではなく、おしゃべりをしに来ていたのである。
「あれ?なにを取りに来たんだろう?」
彼女の口癖でした。
そして、ついに彼女は、正社員ではなく、契約社員として雇われた。
さすがに、危機を感じていた。
「このままじゃ、私はくびにされてしまうぅ」
彼女は誰にも相談しなかった。
彼女はそんな友人がいないのである。
すると、上司は彼女に言った。
ちなみに、彼女は上司から、チーコと呼ばれている。
「チーコ、もっと落ち着いて仕事しなさい。
一気に2つの事は誰でも、そんな簡単にできないから、
一つ一つ、的確にやりなさい。分かった?」
「分かりました!」
しかし、千尋は、分かってなどいなかった。
こんな説教を受けるのは毎日だったが、それでもうまくいかなかった。
そして、数日後、
「チーコ・・課長が呼んでるよ。事務室まで、来なさいと。」
「えっ・・何でしょうか?」
千尋はもう大体見当がついていた。
課長は、事務室で電話越しで、何かにやにやしながら誰かと話していた。
おそらく人事部の誰かだ。課長は千尋に気付いた。
「おお、渋谷君・・・」
チーコはくびになった。
その夜、彼女は一人お部屋で泣いていた。
彼女はこんな時でさえ、誰も慰めてくれないのである。
私がそのホテルでバイトをし始めたのは、そんなときの事でした。
私の名前は「音和田 浩」今年で18歳の若造である。
「おはようございます。」
「おお、音和田君かい。」
「今日からよろしくお願いします。」
「よろしく。」
私は、出勤して、宴会場へと向かった。
するとそこに、チーコがいた。
チーコは上司と他のバイト連中と共にピアノを運んでいた。
「おーい!新人君!ピアノをステージの上から降ろすの手伝ってくれる?」
私ははい、と答えて、すぐさまピアノを持ち上げた。
なんか、この女性、一生懸命だ。
でも、あんまり力入ってないな。
私はそう思った。彼女が何かしらぬけている所も、瞬時にわかった。
しかし、上司は言った。
「皆ありがとう。」
上司が、心の底からそう言っているのがすぐ分かった。
そして、ピアノが降ろされた後、彼女は定時になったので、みなさんに最後のあいさつを告げた。
「いままでご迷惑おかけしました。」
そうして彼女は、ホテルを去った。