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第 5話 「四番目の国 探偵の国」

「お帰りなさい。次の国はどこですか?」


「いや。ちょっと問題が有るんだ」


「どんな問題ですか」


「嘘つきの国だから、云った事が嘘とすると真実は『探偵の国』になる。でも、嘘でなかったら『聖人の国』になる」


「つまり、2カ国の名前を聞いてきたと云う事ですね」


「そうです」


「私には判断できません。貴方が決めれば良いでしょう」


 ガイドはニコッと笑いながら、答えた。


「やっぱりそうですか。では、探偵の国にします」


「判りました。探偵の国ですね。それはそうと、全身ボロボロになっていて、おまけに顔は腫れていますが」


「ああ、あの国で、ボコボコにされたんだ。持っていったピストルも、このボコボコの原因にしかならなかったし」


「では、また、メディカルセンターに行って下さい。私は後から参りますので」


 1時間後、修復は殆ど終わり、続いて、どの食事だか判らない食事をした。


「いててて。脇腹が痛い」


「肋骨を何本か骨折しています。癒しの呪文が効くまでに暫く時間が掛かりますので、無理な動きをしない様に」


「…判りました」


「次の封書はこれです」


 開封すると、こう書かれてあった。


「探偵の国 エーリッヒ」


「探偵の国…ってどんな所なんでしょうねって、やはり知りませんか?」


「ええ。ところで、この国には、この指輪をつけて行って下さい」


 その指輪は、金色で、2羽のスズメの絵が彫り込まれていた。


「なんですか、このマークは」


「さァ、判りませんが」


 さっそく、指輪を付けた。


「…さて。探偵の国には、あと、どれくらい掛かるんでしょうか」


「予定では、あと4時間位です。その間、少し休憩されたら良いのでは?」


「ええ。勿論そうする積もりです。次の国もどうせ、ハードな展開になるのでしょうから」


 ソファの上で、横になり、眠りに落ちた。

 と、夢の中で、何かイヤな感覚が走った。起きなければ。しかし、身体が動かない。やっとの思いで、腕を振り動かした時、目が覚めた。

 何の感覚だったんだろう。いや、今でも感じる。後ろからだ!

 しかし、そこには象牙の彫刻が置かれているだけで、異状はない。


「観られている…。だが、誰も居ない」


 納得は行かなかったが、再び眠りについた。不思議な感覚は最後までつきまとっていた。


 メイドに起こされた。


「探偵の国です」


「判りました。じゃあ、行って来ます」


 ホームに降り立った。人の気配が殆ど無い。駅員と思える人が何人か歩いているだけだ。


 駅の外、大通りに出てみた。流石に人通りが多い。馬車はひっきりなしに走っている。しかし、歩行者は皆サングラスを掛け、帽子を深々と被っている。中にはマスクをしている者も居て、これでは顔が殆ど見えない。馬車は窓に鎧戸が下ろされ、中を伺い知る事は出来ない。


「なるほど。探偵の国では、自由を守るために、あんな苦労をしているのだな」


 歩行者の一人に声を掛けた。


「すみません」


 と、その人物は雷に打たれでもした様に、ビクッとして、足早に去った。


「自分は探偵じゃないのに…何を警戒しているんだ」


 もう一人に聞いてみた


「ちょっと聞きたいのですが…」


「何か?」


「人を捜しているんです。エーリッヒと云うんですが」


 すると、彼の周り50cmの空気が凍り付いた様に感じた。

同時に、周りの歩行者の目が自分に焦点を結んだ様にも感じた。


 あ、何かヤバイかも。


 その場から脱兎の勢いで逃げた。

 大通りから1本入った路地で様子をみていた。特に変化は無い様だ。人通りも元に戻った様だ。


「ちょっと店にでも入って、ほとぼりを冷ますか」


 ちっぽけな食堂に入った。カウンタが5席ほどの店で、向こうには主人が居た。


「いらっしゃい」


「チャーハンとか出来るかい?」


「へい」


「じゃあ、それを一つ」


「まいど」


「所で、ご主人。人を捜しているんだが、教えてもらえるかな」


「どなたさんで」


「エーリッヒと云うんだが」


 再び、空気が凍った。


「どうしたんだ、ご主人。私は外国人なので、事情が全然判らないんだ」


「旦那。だったら、その名前を口に出さない方がいい。…それと、その指輪は何ですか? ダメだ、旦那。すぐにここから出ていってくだせい。オレ達が巻き添いを喰っちまう!」


「何だか知らないが、判った!」


 店を飛び出して、左右を伺った。幸い人影はない。大通りの反対側へ足早に向かった。


「くそ! 名前が云えないんじゃ、捜しようが無いじゃないか。とにかく、どうやらヤバイ人間の様だ。エーリッヒってヤツは。そう云った連中が居る場所と云えば、昔から地下水道か」


 路地ウラの人目の無い場所で、マンホールの蓋を開けて、中に入った。蓋は昔から動かした様子が無いので、自分の推理が合っているかどうか、心配ではある。

 鉄の梯子を下りる。ぬるぬるしていて、やっぱり使ったことが無い様だ。底に下りた。相当にひどい臭気が漂っている。しかし、嬉しいことに、通路面に多くの足跡が有った。


「間違いない。ここは使われている」


 水道の支線から本線へと進んだ。ふと、向こうから明かりがチラと見えた。正体が分かるまでは身を隠さねば。明かりはどんどん近づき、足音も聞こえてきた。時折、金属がぶつかり合う音が聞こえるので、銃を持っているのかも知れない。


「こっちで良いんだな」


「はっ。間違い有りません。不審者が逃げ込んだのは、この先の支線です」


「赤外線レーザー検知器の反応は?」


「本線に向かっているとの結果です」


「警戒を続けよ。遭遇するかもしれん」


「ピィ」


 突然、警報音が鳴った。


「どうした」


「例の組織が北部本線B地区付近で爆弾テロを起こした模様です」


「なに。すぐに周辺地下水道の制圧に出なければ」


「こちらの不審者はどうします?」


「優先順位だ。北部本線に行く」


「陽動とも考えられますが」


「兵力の厚みが違いすぎる。問題ない」


「判りました」


 軍靴の音が急に騒がしくなり、やがて遠ざかっていった。


「やれやれ。上手いこと助かったか」


「手を挙げろ」


 突然、背後から声が聞こえた。


「だ、誰だ」


「振り向くな。ゆっくり両手を上げるんだ」


 云われた通りにした。


「お、この指輪は!」


「少佐、あの指輪を」


「うむ。ちょっと聞きたいのだが」


「なんだい。こんな不利な体勢で何を聞こうってんだ」


「キミは、フライギルドを知っているか?」


「なんだ、そりゃ」


「知らないのか」


「知らない。オレは外国人で、或る人物に会いに来ただけだ」


「だれだ」


「エーリッヒと云う人物だ」


「それはオレだ」


「え?」


「オレに何の用件だ」


「質問がある。この国より…」


 突然、強烈なライトが当てられた。


「…全員、手を挙げろ。そこまでだ!」


「しまった、陽動だったか!」


「撃て!撃て!」


「発砲許可!」


 サーチライトがぶっ壊れる音や、銃声、怒号、悲鳴、絶叫がこだました。このままではやられると、私は支線に向かって走り出した。そこへも銃弾が降ってくる。どうやら、暗視装置を使っている様だ。そのまま走り続ける。前から何個ものサーチライトがやって来た。エンジン音がする。どうやら装甲車を水路に入れた様だ。重機関銃の重い発射音がとどろく。コンクリート製の壁面に当たった跳弾が、その先の連中を次々と倒して行く。


 敵味方関係なしかよ。そんなヤバイ連中と付き合う気はない。


 一気に装甲車との間合いを詰め、車の底のドブを目がけて飛び込んだ。装甲車の後ろに出ようと云う作戦だ。ブハッと顔を水面に出したら、そこは自由の空間ではなく、重武装の特殊部隊の真ん前であった。


 5本の銃身が向けられ、数発が身体をかすめた。狙った撃ち方だ。技量は高い。とても勝てる相手ではない。手を挙げながら、ゆっくり立ち上がった。後ろから銃座で殴られ、再びドブの中に崩れ落ちた。


 目が覚めた。全身がひどく痛む。頭は割れる様だ。しかも身動きできない。鉄製の椅子に縛り付けられている。ローブではなく、有刺鉄線でだ。


「あ、目が覚めたかね」


「ここはどこだ」


「そんな事は気にしなくても良い。早速本題に入ろう。お前は何者だ」


「ただの外国人だ。頼まれて、エーリッヒと云う人物を捜しに来たんだ」


「キミは、エーリッヒが何者か知っているのかね」


「知らない。この国に来て聞いても、誰も教えてくれなかった。地下水道で出逢ったんだ」


「そうかな。キミはウソが上手い様だ。本当のことを話したらどうなのかね。キミがエーリッヒの部隊の仲間であると云う事を」


「え? それは違う」


「違うという証拠でも有るのかね。無いだろう。いや、全ての事実はキミが彼の部隊の仲間であると示しているのだ」


「どう云う事だ」


「我々相手にシラを切れるとでも思うのか? キミがこの国の駅のホームに降り立った瞬間から今までの全ての行動は監視されているのだよ。いや、もっと正確に云うのなら、キミが列車に乗っている時からね」


「そうか、あの感覚はやっぱり監視されていたんだ」


「キミの行動に関する詳細な、そう、如何なる事も逃さず書かれた詳細な報告書がここにある。どうだ、分厚いだろう。1mはあるかな。ここに書かれている事実は語っている。キミはスパイなのだと」


「全然違うぞ」


「キミの指輪はここにある。これはエーリッヒの部隊のメンバーのみが使うものだ。連中の仲間意識を高める為のものだ。これだけで、キミの有罪は確定だな」


「その指輪はもらったもので、別に自分で進んで付けていたものではない」


「そうかね。全く説得力のない話だ」


「エーリッヒだ、エーリッヒは何と云っているんだ」


「慌てなくとも、ちゃんと尋問しているさ。キミの事については、知らないとの事だ」


「ホラ、やっぱりそうだろう」


「因に、キミが入った食堂の主人も尋問したが、大した情報は手に入らなかったよ」


「なんだって。あの人は無関係じゃないか」


「それを判断するのは我々だ」


「なんてひどい事を」


「それはそうと、エーリッヒの尋問が緩い様だ。もっときつく絞り上げれば、真実を白状するだろう。来たまえ。…と云っても、その状態では歩くこともできまい。おい、そいつを椅子からはずせ。後ろ手錠を付け直せ」


 私は、ポタポタと血を垂らしながら、尋問室へと向かった。分厚い鉄のドアが開かれ、一同はその中に入った。目の前にはエーリッヒが居た。まァ、エーリッヒと云われたから判った位で、拷問でボロボロになった状態では、顔や姿を見ても、誰だか判らない。


「おい、水をぶっかけろ!」


「さて、テロリストのエーリッヒ君。キミと、ここに居る外国人の関係を聞きたいのだ」


 エーリッヒは、やっとの思いで、こちらを観たが、見えているかどうか判らない。


「さァ、答えろ。この外国人はお前の仲間だな。どうなんだ!」


「ち…ちがう…」


「違うだそうです、将軍」


「ちょ、ちょっと待って下さい」


 私が口を挟んだ。このままではエーリッヒから答えを聞くことが出来ない。生きている内に聞いておかねば。


「なんだ、スパイ」


「同じ質問を繰り返しても、埒があきません。どうです、質問の方向を変えてみては」


「ふむ。そう云えばそうだな」


「先ずは、この国よりも悪い国はどこだ…なんて云うのはどうでしょう」


「そうか、うまくするとテロリストを支援している国を白状するかも知れない。これはポイントが高いぞ。スパイくん、良い事を教えてくれた。早速やってみろ」


 将軍の部下がエーリッヒの耳元で云った。


「我が国よりももっと悪い国はどこだ?」


「…無法の国」


「無法の国…ですね」


「なるほど、無法の国か。そこと繋がっていたワケだ! 早速、連絡だ」


 興奮する将軍を後目に、3歩下がった私は、両側の兵士の様子を見た。彼らは将軍の命令に気を取られている様だ。


 いまだ。



「エントルゥザンク、召喚!」



 次の瞬間、全ての光が消え、あらゆる物と人が闇となった。そして、巨大な音と悲鳴を響かせながら、一気に崩れ落ちた。


 私は、後ろ手錠をしたまま、列車に戻された。


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