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第 1話 「或る依頼」

 今度の依頼は、それほど難しい物では無さそうだった。


「13の悪い国を滅ぼしてくれ。最強呪文を貸す。専用の列車とガイドを用意する」


 いや、難しいどころか、結構美味しい依頼のような気もした。


「いいでしょう。お引き受けしましょう」


 と私が云ったのも当然の成り行きであった。ただ、職業的カンと云うか、ちょっと気になったのは、依頼主が身元を明かさない事であった。姿形はどうにでもなるから当てにならない。


 そこで、念押しをした。


「依頼を受けるからには、表と裏の事情を教えて頂くことが条件となります」


「知っている。私は或る国の王なのだが、世界を良くしようと思っている。笑うかね。ほう、キミは一流のビジネスマンのようだ。それはそうと、相手は独立国ゆえ、なかなか手が出せない。私が呪文を使って自分の手で滅ぼすことも出来るが、それでは私の意思が正しく伝わらない。つまり侵略と考えられてしまうからね。それは私の望むところではない。だから、キミに依頼するワケだ」


「なるほど…しかし、悪い国々を滅ぼした後はどう為さるのですか? 世界の王…ですか?」


「その様な野心はない。その証拠に、指定する13国は誰に聞いても判るほどの悪い国だ」


「しかし、悪い国と云っても国民に罪はありますまい。その国民ごと滅ぼすのですか?」


「ならば、キミに聞こう。正しい国と悪い国のどっちを取るかと選択を迫られた時、キミはどっちを選ぶのかね」


「私なら、そんな状況に追い詰められる前に逃げてしまいます」


「逃げられるならイイ。しかし、逃げられない者も居るのだ」


「閣下は逃げられない…と云う事ですね」


「国民の犠牲の重さを考えても滅ぼさねばならない」


「…では、具体的な手順を教えて頂きたいのですが」


「依頼を引き受けた…と解釈して良いのだな」


「その通りで」


「先ず、キミは駅から専用列車に乗って、最初の国に行く。途中でガイドが封書を渡すだろう。そこには最初の国でキミが会う者の名前が書いてある。キミはその者に会って、次の国の名前を聞き出すのだ。ここよりもっと悪い国はどこだとな」


「なぜ、そのような面倒な事を…」


「最強呪文のお約束だ。国を滅ぼすには推薦者が必要なのだ」


「なるほど」


「ポイントは説明した積もりだが。細かい事はガイドに聞いてくれたまえ」


「判りました」


「では、依頼が終わった時、再び逢えることを期待しているよ」



 次の日、私は、中央駅から指定された専用列車に乗って旅立った。専用列車と云っても、王族の列車はみな専用なので、特に凄いものではない。それにして、どっしりとした調度品に飾られた客室は、これで動いていなければ、まるで城の中にでも居る様な見事なものであった。わたしが調度品と、窓の外の流れる風景を半々に眺めていると、ガイドなる者がやってきた。重厚慇懃な執事かと思ったら、軽装の女性であった。思わず「おぉ」とため息をつく位の美人である。どの位美人かは人それぞれの好みがあるので、何とも言い難いが、一口で云うとため息をついて、ついでに息をするのを忘れる位の美人であった。その女性が玉を転がす様な声で説明を始めた。


「主人からの説明が有った通り、貴方には13国を滅ぼすと云う任務をお願いしております。宜しいですね」


「はい」


「国を滅ぼす為に、最強呪文エントルゥザンクの使用許可が下りているはずですが、許可書はお持ちですね」


「はい、ここに」


 許可書を提示した時、ふと、魔法省でのやりとりを思い出した。

呪文の使用許可願を提出した時の係官の驚いた様な表情。許可願と私の顔を見比べて、更に、例の依頼主の推薦状に目を凝らして、一層難しい表情になった。


「確認しますが、この呪文を使うのは、あなたですね」


「そうですが、何か?」


「いや、これほどの呪文の使用許可と云うのは殆ど例が無いもので」


「まァ、国一つ滅ぼすわけですから。でも、世界を滅ぼすワケでも無いですし」


「いや。条件が揃えば、それも可能ですぞ」


「え?」


「職権を超えますので、これ以上は…」


「気になりますね。注意事項として聞きたいです」


「これは秘密なのですが、呪文を使う対象によっては、世界それ自身を滅ぼす事が可能とだけ云っておきましょう」


「対象…か」


「どうしました」


にこやかな笑みを浮かべたガイドの顔が間近にあった。


「いえ、失礼しました」


 次の瞬間、ガイドの笑みは消え、事務的な表情に戻った。


「許可書は確認しました。この呪文を唱える事により、その国は滅亡します。滅亡の仕方は状況によって異なりますが、基本的には天変地異に類するものとの事です」


「国民は国と運命を同じくする…と云う事ですね」


「その通りです」


「その辺が納得行かないのですが」


「貴方は納得したはずです」


「そりゃまァ一応は」


「次に参ります。これに最初の国で貴方が会う者の名前が書いてあります」


 ガイドが差し出す封書を開けると、「公開処刑の国 ハンス」と書いてあった。


「公開処刑の国…ですか」


「その国の詳細は私は知りません。貴方はその者に会い、次の国の名前を聞いてくる事になります」


「もし、聞いて来れなかったら?」


「そんな事は有りません。会えば貴方の質問に答える事になります」


「で、私が例の呪文を唱えると、その国は亡びるワケですが、わたしはどうやって列車に戻るのですか」


「例の呪文を唱えると、自動的にここに戻ってきます。貴方の安全は保証されます」


「まァ、大体は判った様な気がします。後はぶっつけ本番と云う事ですかね」


「質問が有れば、随時お受けします。そういえば、間もなく、最初の国に到着します」


 愛想良くガイドは応え、無表情に去って行った。


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