第14話 「十三番目の国 心の国」
「お帰りなさい」
ガイドの声が聞こえた。何も変わらない日常の様に。しかし、列車に乗っていた日々の状況とは明らかに変わっている。
「ハインデル。再び会えて嬉しいよ」
声の主は、例の依頼人。世界征服を狙う王だ。
視界が復旧した。
王の顔が間近に見えた。そのうしろにガイドの姿が。いや、黒い法衣をまとったソフィーナだ。私は冷たいコンクリート製の床に座っている。壁は遠く暗くて見えない。王の声の響きから、かなり大きな空間のようだ。上からスポットライトが私に当てられている。王は金と赤を基調とした派手な服装をしている。世界の王としてふさわしい格好を意図したものだろうが、単にケバいだけと云う事も出来る。荘厳と滑稽の差はほんの一歩だとはよく言ったものだ。
「さて、ハインデル。ついにキミの最後の仕事の時間だ。早速、この悪い国を滅ぼしてくれ。そうすれば、キミとの契約は終了だ」
「ここは何処ですか?」
「心の国だ」
「なぜ、この国が悪いのですか?」
「…ハインデル。茶番劇は止めようではないか。時間の無駄だ。私はキミが全てを知っていると云う事を知っているのだ。なぜかって? 真実の国のアレンに聞いたからだよ。と云っても彼はもう死んだがね」
「殺したのか?」
「真実を知りたかったからだ。言い忘れたが、キミに掛かっていた全ての魔法は解除した。つまり、ブルフォンに変身したり、攻撃から身を守ったり、ピストルを出したりすることは出来ない。キミにできることはただ一つ。自分の心の中で最強呪文を唱える事だけだ。そして、キミは死ぬ。証拠は消える。我々は世界の王として、最強呪文を自在に使い、君臨する」
「力の国は滅んだんだぞ」
その言葉に、一瞬顔を曇らせたが、王は憤然と云った。
「ふん。国の一つや二つ、どうって事は無い。何しろ、これから全ての国を手に入れるのだからな」
私は内心、にやりとした。そうか、うまくいったんだ。やっぱり、最強呪文のオプション指定は有効なんだ。ここ以外の場所を遠隔で破壊することが可能なのだ。
「私は最強呪文を唱えたりしない」
「そうか。だったら、我々が推薦者を召喚するところを眺めているんだな。云っておくが、お前も同じ事をやって、力を中和しようと考えているのなら、それはムダだ」
「…どうして?」
「推薦者召喚は限りなく使えるのだ。そう、100回でも200回でも。この呪文を完全に中和する為には、召喚のタイミングが完全に一致しなければならない。お前は、無限に続く召喚のタイミングを全て完全に一致させる自信が有るか?出来るはずがない。幾ら合わせても微妙にずれるのは当然だ。タイミングが合わないとどうなるか。呪文エナジーの一部が解放されて、お前の心を痛めつける。お前は、その痛みに耐えかね、次の召喚のタイミングを更にずらしてしまうだろう。すると、呪文エナジーは一段とお前を痛めつける。それが限りなく続く。最後はどうなると思う。お前の死だよ」
「そ、そんな事、やってみなけりゃ判らないだろう。それに、呪文エナジーを浴びるのはお前たちも同じだろう」
「その通りだが、我々は最高レベルの防御呪文で保護されている。だが、お前にそれは無い。結局、お前の負けだ。さぁ、どうする?」
どうする。確かに中和作戦は最後は私の負けになるだろう。彼らにはダメージを与えるには、彼らの心の中で最強呪文を唱えるくらいの事をしなければ…。そうだ、そうだよ。そして、その標的は、先ずは魔法力の強いソフィーナだ。次に王。
私は床に両手を突き、頭を垂れ、すっかり力を無くした様子を演じた。
「王よ。私の負けだ…」
「ほう。思ったよりも賢いようだな。では、大人しく、ここで最強呪文を唱えるんだな」
「判った。ただその前に、冥土のみやげとして聞いておきたい」
「何だ。助命以外は大抵のことは叶えてやろう」
「王の名前を聞いておきたい。新しい世界の王の名を」
「はははは。ちょっとお前を見直したぞ」
「王、油断してはなりません。何やら作戦が有るかも知れません」
ソフィーナがさすがに気づいて、助言した。
「なんの。こやつもついに抵抗のムダを知っただけさ。媚びて命を助けてもらおうとでも考えているのさ」
「い、いや、そんな、助命など…。わ、わたしは考えていません」
「わはは。正直で結構なことだ。我が名はジェームズ王だ。冥土のみやげになったかな?」
「エントルゥザンク ソフィーナ、召喚!」
キャァと云う声を残して、ソフィーナは倒れた。
突然の事に、倒れたソフィーナに釘付けになった王。
「ハンス ジェームズ、召喚!」
バキと云う音と共に、王は倒れた。頭から煙が立ち上っている。
「や、やったか?」
「お、おのれ…よく…も」
まだだ。
「ルドルフ ジェームズ、召喚!」
「オットー ジェームズ、召喚!」
「エーリッヒ ジェームズ、召喚!」
「ジョー ジェームズ、召喚!」
「カール ジェームズ、召喚!」
「ドロス ジェームズ、召喚!」
「マーフィー ジェームズ、召喚!」
「エレーナ ジェームズ、召喚!」
「ゲオルグ ジェームズ、召喚!」
「ブルフォン ジェームズ、召喚!」
ひざがガクガクした。恐怖の余り、推薦者召喚を使いまくった。
気が付くと、頭が無くなり血の海に浸ったジェームズ王の姿が目の前にあった。
「やったか…。ついにやったか」
荒い息をしながら、ソフィーナの方をみた。彼女は倒れたままだった。しかし、世界最強の魔法使いなのだ。油断は出来ない。とどめを刺すには、最後の最後まで手を抜いてはいけないとの諺を思い出した。形が無くなるまで召喚してやる!
「ハンス ソフィーナ、召喚!」
「ルドルフ ソフィーナ、召喚!」
「オットー ソフィーナ、召喚!」
「エーリッヒ ソフィーナ、召喚!」
「ジョー ソフィーナ、召喚!」
「カール ソフィーナ、召喚!」
「ドロス ソフィーナ、召喚!」
「マーフィー ソフィーナ、召喚!」
「エレーナ ソフィーナ、召喚!」
「ゲオルグ ソフィーナ、召喚!」
「ブルフォン ソフィーナ、召喚!」
はぁはぁと息が切れるまで、召喚し続けた。しかし、ソフィーナの姿は変わらない。ヤバい。全く効いていないのかも知れない。恐る恐る、ソフィーナに近付いてみた。まるで眠っているように穏やかな顔である。頭部の変形や異状は見当たらない。ヤバい。こりゃ、ホントにヤバい。私の使える呪文は既に使い切っている。これが効かなければどうすりゃいいんだ。
ソフィーナの目が突然開いた。
「ブルフォン、召喚!」
わたしはとっさに、
「ジョー、召喚!」
どうだ!名前が短いから、遅れてもタイミングは一致するはず。
バシッととてつもなく強烈な痛みが頭に走った。くそ、少しズレたか。私は気を失ってしまった。
★付録
推薦人一覧
「公開処刑の国 ハンス」
「強盗の国 ルドルフ」
「嘘つきの国 オットー」
「探偵の国 エーリッヒ」
「無法の国 ジョー」
「大砲の国 カール」
「聖人の国 ドロス」
「ゴミの国 マーフィー」
「暗殺の国 エレーナ」
「不幸の国 ゲオルグ」
「恐怖の国 ブルフォン」
「真実の国 アレン」(次の国を推薦していないので無効)




