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第12話 「十一番目の国 恐怖の国」

「お帰りなさい」


「ガイドさんから教わった自白呪文が役に立ちましたよ」


「そうですか。それはそうと、次の国は何処ですか?」


「恐怖の国」


「ああ。とうとうこの国の番になったんですね」


「どうしました。ガイドさんにしては珍しい」


「この国はちょっとやっかいです。と云いますのは、世界で5本の指に入る魔法使いが3人も居るのです。彼らは用心棒として王を守っているのです」


「と云う事は、例の防御呪文が破られてしまうと云う事ですね」


「そうです。そうなると、物理的な攻撃が有効になるので、貴方の命は風前の灯火となるでしょう」


「そりゃ、思いっきりまずいですね。何とかなりませんか?」


「こう云った状況は想定内です。対策は考えてあります」


「どんな手ですか?」


「この3人を取り除けば、残りは数を恃みの低級魔法使い、つまり烏合の衆です。3人を互いに戦わせ、自滅させようと云う作戦です」


「そんなうまい作戦が有るんですか?」


「もちろんです。3人を仮にA、B、Cと名付けましょう。

3人の関係はじゃんけんと同じで、一方に強く、もう一方に弱いと云う関係の連鎖です。もし、この連鎖の中に貴方が入れたらどうでしょう」


「それは…相手の弱点を突いて、互いに離反させ、戦わせることが可能ですね」


「その通り。ですから、貴方は、その3人の魔法使いに化ける事が出来れば良いのです」


「それはそうですが、具体的にどうすれば良いんですか?」


「わたしが変身魔法を掛けてあげましょう。貴方は呪文を使う事で、3人のどれかに化ける事が出来ます」


「でも、ニセモノ作戦の場合、本人しか知らない細かいことを質問されてバレるってのがお約束なんですよね」


「その通りです。それと、本物とバッタリ出逢ってバレるってもパターンですね」


「じゃあ、ダメじゃないですか」


「大丈夫。スキは有りませんよ。私の使う変身魔法は、化けた相手の記憶をコピーすると云う画期的な能力を持っているのです。ですから、化けている間は、質問でバレると云う事は物理的に有り得ません」


「それは結構。でも、本人とバッタリ…ってのはどうすれば良いんでしょう」


「これは貴方の運の強さに頼ることになるでしょう。それと立ち回りの旨さですね」


「やっぱりそうですか…」


 恐怖の国までは10時間ほど掛かると云うので、食事をしたり、風呂に入ったり、物思いに耽ったり、となかなか忙しく過ごした。


 最後は寝るだけだ。


 恐怖の国。一体どんな国だろう。きっと恐ろしい連中が至るところに居るのだろう。そんな事を想像しながら、ついには眠りに入った。

 夢を見た。ニセモノがばれてしまった夢だった。恐ろしい姿をした巨人に私は取り囲まれ、今、正に叩き潰されようとしていた。ドッと汗を吹き出しながら、目が覚めた。


「正に、恐怖の国って感じだったな…」


 窓の外を見ると、丘が連なっていた。その丘の上には、何故か大勢の人達が居て、こちらを見ているようだった。その人達の中に、時々キラキラ光る物が見えた。更に、妙にがさばった物が丘の上に置いてある。


「何だろう。何をやっているんだろう」


 駅に近付いたので、ガイドがやって来た。


「間もなく恐怖の国に到着します。新しい封書はこれです」


 封書には


「恐怖の国 ブルフォン」


 と書いてあった。


「誰だろう」


「いずれ判りますが、3人の魔法使いのリーダー格の人物です」


「知っているんですか?」


「ええ。みんな知っています。なぜかって? 世界の5本指の魔法使い達は、みんな同じ歳なんですよ。いわゆる、同期の桜ってヤツです」


「同期の桜…ですか。古過ぎませんか?」


「それは置いておいて、五行説と云うのを聞いた事は有りませんか?」


「ごぎょうせつ…ですか。知りません」


「古代中国の思想ですが、万物は5つの元素から成り立っている。5つの元素とは『木土水火金』です。昨日説明したように、これらにはじゃんけんの様に各々得手不得手があるんです。5人の魔法使いも同じです。暗殺の国で倒したエレーナは『火』の性格でした。恐怖の国の3人は『金木土』です」


「では、『水』は誰なんですか」


「それはいずれ判る時が来るでしょう。それより、恐怖の国の3人です。『金』はタレントのようにカッコイイ男です。『木』は華やかな女性です。『土』は地味ながらどっしりしている女性です。力関係から云うと、エレーナは『金』を支配していたんですが、『火』の性格が災いして自滅しました。すると、支配される事が無くなった『金』は『木』や『土』にちょっかいを出すことでしょう。そこに付け込んで、貴方が3人を誘導すれば、彼らは自滅することになるでしょう」


「なるほど。では、先ずは『金』つまり、ブルフォンに変身ですね」


「その通りです」


「じゃあ、念のため防御呪文をお願いします。それと、変身呪文が使えるように」


「判りました」


 私はガイドに呪文を掛けてもらった。


「では、ブルフォンに変身してみて下さい」


 私は変身呪文を唱えた。


「メイクアッ~プ! ブルフォン」


 私は、長身の美形に変身した。ガイドは私の姿を見て、ほぉっとため息をついた。


「では、いってらっしゃい」


 私はホームに降り立った。


 ホームは凄いことになっていた。ホームに面した駅の建物の周りには土嚢が山のように積み上げられ、その隙間から、戦車砲やら、ガトリング砲やら、自動小銃やらが針の山の様に突き出していた。列車を狙っている。土嚢を積み上げた内側では、多くの兵隊が、右往左往しているのが見えた。


「ここは戦場かい」


 ブルフォンの心の中をサーチした。エレーナへの想いと悲しみが占めている。他の二人の女性への特別な感情は無いようだ。…もう一人いる。暗い影のようなイメージの女性が。それは誰だか判らない。ソフィーナ?

 更に、この国よりもっと悪い国をサーチしたが、答えはなかった。


「おい!そこの!止まれ!」


 突然、兵隊に呼び止められた。


「ボクのことか?」


「そうだ…って、貴方はブルフォン卿ではないですか」


「そうだが」


「これは失礼しました。何しろ、我が国を滅ぼそうとする強力で凶悪で凶暴な魔法使いがこの駅から入ってくると云う情報が有りましたので」


「なんだ、その事か。君たち、遅すぎるよ」


「え?」


「その魔法使いは既に我が国に侵入したとの情報を得た」


「な、なんですって!そりゃ大変だ! どこですか?そやつはどこに?」


「国王の宮殿に決まってるさ。他に何処を狙おうと云うんだい」


「ま、まさに。失礼しました。おい!全員に命令だ。ここを撤収して、直ちに王宮に戻るぞ!」


 罵声と怒号が入り乱れ、兵隊達は荷造りもそこそこに、武器を背負って王宮に向かい始めた。


「さて、私は別なヤツに化けるとするか」


「アラ! ブルフォンじゃないの!」


 明るく高い声が、私を呼び止めた。


「ああ。セレンじゃないか。どうしたんだ」


「この国を滅ぼしに、強い魔法使いがやってくると云うので、手ぐすね引いて待っていたのよ」


「お気の毒さま。既にヤツはこの国に入ったよ。キミも王宮に向かった方が良いんじゃないか?」


「大丈夫よ。王宮にはジョゼフィーヌが居るから。それより、この素敵な列車でも見て回りましょうよ」


「ははは。相変わらずだな、セレンは」


「だって、この列車の豪華なこと。凄いと思わない? まァ、ブルフォンって、いつも仕事仕事って云って、全然付き合ってくれないからね」


「いやいや、キミのことを忘れたりはしていない。だが、近頃は例の国滅ぼしの呪文を使いたい放題にしている魔法使いがいるので、この国も危険なんだよ」


「でも、ボクたちはこの国に雇われているだけだし、そんなに義理堅くしなくても良いんじゃないの?」


「君たちはそうでも、僕はプロの意地ってものが有るからね」


「そうかな? プロの意地よりも、エレーナの弔い合戦って気持ちじゃないかな?」


「おいおい」


「ま、ブルフォンはエレーナに首っ丈だったから、それをどうのこうの云う気は無いけど。でも、寂しそうなブルフォンを観ていると、ボクも寂しいな…」


「ははは、セレンの僕に対する気持ちは痛いほど分かるよ」


「え~!ウソばっかり!全然わかってくれてないよ」


「まァ、冗談はともかく、エレーナの面影ってのが抜け切れてないんだよ、悪いけど」


「しかたないよね。つまんないの」


「済まないね。そうだ、今日の夕食は、ごちそうしてあげよう」


「え?ホントなの?いいの?」


「ああ。じゃあ、時間が出来次第、連絡ハトを飛ばすから」


「判った。じゃあ、期待しないで待ってるよ」


 セレンを見送った。


「さて、次はセレンに変身と」


 建物の陰に隠れて、


「メイクアッ~プ! セレン」


「さて、心の中をサーチすると…。やれやれ、そんなにブルフォンが良いかね?ジョゼフィーヌに対しては、それほどライバル意識は無い…と」


 私は王宮に向かった。駅だけではなく、道路もひどい状態だった。国が亡びると云う恐怖心から、家財道具をまとめて国外に脱出しようとする人々が溢れかえっていた。しかし、兵隊は逃亡を食い止めようと、銃を使って、人々を押し返していた。銃で撃たれても、後ろの人間が更に進み、ついには兵隊達の阻止線を突破して、銃撃の中、多くの人々が脱出に成功していった。

 失政が続いたこの国は、国民の不満を表面化させまいとして、警察と軍を強化し、国民の統制に励んだ。とどめは、世界最強の魔法使いを3人も雇い、国王の警護を行っている事であろう。彼らは強大な権力を与えられ、不穏分子の摘発や捜索を行い、国民の不満にフタをする役目を負っていた。押さえつけられた熱い沈黙が、この国を覆っていたのである。そこに降って沸いた様な大事件発生。最強呪文で国が滅ぼされると云う情報は、そのフタを蹴飛ばすほどの威力があった。国民は生き延びるために、命賭けで国外脱出をするしか道はなかったのである。つまり、「恐怖はより大きな恐怖によって克服される」と云う教訓である。


「既に終わっている…何と云う哀れな状況だ」


 時々不規則に飛んでくる流れ弾を避けながら、王宮に入った。防御呪文が掛かっているので、例え弾に当たっても傷にはならないが、痛いのには変わりない。暗殺の国での痛みを思い出してしまう。


「セレン殿!」


 士官らしき兵隊がやってきた。


「どうした?」


「敵が既に我が国に潜入した模様です。我々はこれから、敵の捜索の為、街でローラー作戦を実施します。セレン殿にも一緒に来ていただきたいのですが」


「判った。すぐに行こう」


 私と士官は王宮前の広場に向かい、数百名の兵隊と共に、駅前一帯の捜索に取りかかった。まァ、捜索の目標である当人の私としては腹を抱えて笑える位の滑稽な話なのだが、真面目な顔をして、各家々の強制捜索に付き合った。士官によると、敵の探知を魔法使いの私に期待しているそうだ。それにしても、悲惨なのは一般市民。強制的に道路に連れ出され、人相書き(どこでどうやって手に入れたのか)に似ていないかチェックされた。不運にも似ている者は、私の前に引きずり出され、私の魔力で、魔法使いかどうかを調べた。当然ながら、全員無罪である。


「ここには居ない様だね」


「そうですね。やはり偽情報だったのか…」


「ボクは取り敢えず王宮に戻っているから」


「有り難うございました」


 やっと、王宮に到着した。


「ジョゼフィーヌの部屋はこっちか」


「ジョゼフィーヌ。どう、様子は?」


 王宮の中心部。敵魔法使いの捜索司令部である。仕切っているのは、ジョゼフィーヌである。兵隊からの情報と、自らの探知能力で捜索を進めていた。


「セレン、随分と時間が掛かったじゃないの?」


「ちょっと兵隊の家宅捜索の手伝いをしていたんだ。それより、敵の反応は有ったの?」


「全然」


「ふーん、あんたの探知能力でもダメか。ひょっとして、敵はまだ来ていないとか?」


「それはないわ。複数の情報源から、間違いなく、駅に降り立ったと考えて良いわ」


「そうなの。それはそうと、さっきブルフォンに遭ったよ」


「え?ブルフォンに?」


「そう。何か悩んでいたみたいなんだけど」


「悩み?」


「うん。聞いてみたら、ホラ、彼ってエレーナを失って、かなり落ち込んでいたんだよ」


「え…ええ」


「でも、悩みってのは、そうじゃなくて、エレーナを失ったばっかりなのに、ジョゼフィーヌの事が気になってしまう自分が許せない…そう云っているんだよ」


「ええ!まさか!」


「ホントだってば。つまり、彼はあんたに気があるって事さ。それをボクの前で云う位、あんたにホの字みたいだよ。云っておくけど、ボクは、彼は好みじゃないからね」


「どうしましょう。エレーナに悪いわ」


「取り敢えず伝えたよ。じゃあ。ボクは敵を探してくるよ」


 そそくさと退出する私であった。


「ふむ、ふむ、掴みはオッケーだな。最後の仕上げは、夕方のお楽しみって事だな」


 ブルフォンに変身し、連絡ハトを飛ばした。デートの場所は、王宮の裏側の繁華街の通りに設定した。ジョゼフィーヌがにらみを利かせている場所である。デートのシーンをジョゼフィーヌに見せて、精神的なショックを与え、スキを作ろうという作戦である。


 さて、既にデートの真っ最中である。


「ブルフォンがこんな所で食事を奢ってくれるなんて、嬉しい~」


「実のところ、僕はエレーナに支配されていたんだね。その呪縛が解けた今、僕はキミの魅力にやっと気がついたと云うワケさ。まァ、ワインをもっとどうぞ」


「うーい。そうそう。エレーナなんてさ、美人を鼻に掛けて、みんなをパシリ扱いして、ホントいやなヤツだったよね。うん。今夜は飲み明かそうよ、ブルフォン」


 レストランの外を警護隊が巡回していた。ジョゼフィーヌは責任感から率先して警護隊を率いていたが、おかげで、とんでもない光景を目にしてしまった。憧れのブルフォンと、ブルフォンには興味が無いと云っていたセレンのデートである。


「うそ…」


「ん?隊長、どうしました」


 副隊長が聞いた。


「い、いえ。何でも有りません」


 内心はささくれ立っていた。セレンの裏切り?ウソなの?あんな楽しそうにして。この国が危機に瀕しているというのに、二人して何を考えているの?悲しさと怒りが交互に去来した。


 と、後ろから、ブルフォンが走ってきた。ジョゼフィーヌは思わずきつい目で睨んだ。


「ちょっと待ってくれ、ジョゼフィーヌ。話が有るんだ」


「…今さら何よ?」


「敵を発見したんだ」


「え?」


「さっきのレストランで、僕と酒を呑んでいたセレンが居たろう」


「ええ。楽しそうだったわ、とってもね…」


「あれが実は敵の化けた姿だったんだ」


「…な、なんですって!」


「うさん臭かったので、呑みながら、色々聞いてみたのさ。そうしたら、でたらめな事を云っているのさ。間違いないよ。あいつはニセモノだ」


「直ちに拘束ましょう、隊長」


「とんでもない。そんな事をしたら、仕返しの呪文でこの国の半分くらい吹っ飛ばされてしまうよ。ここは不意打ちを食らわせるに限るよ」


 と、ブルフォンは提案した。


「でも、もし間違いだったら…」


 ジョゼフィーヌは流石に慎重である。


「間違いないよ。ぐずぐすしていたら、勘づかれちゃうよ。…判った判った。僕が先に行って合図するから、法撃(魔法で攻撃すること)宜しくね」


「それだったら、出来ると思うわ」


「宜しくね」


 ブルフォンはレストランに向かって走っていった。警備隊が近付くと、二人の座っているテーブルでチカチカする光が見えた。


「隊長、合図です」


 ブルフォンが席から立った。


「いまだ」


「法撃!」


 警備隊の法撃手達が、一斉に攻撃魔法を加えた。セレンは電撃に撃たれたように飛び上がり、煙を上げながら、床に倒れた。


「やったぞ。それ、踏み込め!」


 警備隊はレストランに突入し、セレンの身柄を確保した。


「隊長、気を失っていますが、捕らえました」


「よし、良くやったわ。…ところで、変身魔法が解けないけど…」


「確かにヘンですね。あ、こ、これは本物のセレン様。し、しかも、死んでいる!」


「な、何ですって! 法撃で死んだと云うの! …確かに、死んでいるわ。しかも、セレン本人に違いない。完全に無防備だったんだ。そうだわ、ブルフォンはどこに行ったの?」


「見当たりません」


「なんですって! しまったぁ、計られた…。やつこそがニセモノだったんだわ!」


「そうか。我々をハメたんだ。我々はなんて事をやってしまったんだ!」


「ぐずぐず出来ないわ。偽のブルフォンがどこかに隠れているはず。探し出しなさい!今度こそ正体を暴いてやるわ!王が危ない。私は王宮に向かいます」


 その頃、私が化けたブルフォンは王宮にあった。


「国王よ。一大事です。敵が我が国に潜入し、ジョゼフィーヌに化け、セレンを殺しました」


「な、なんだと」


「まもなく、偽のジョゼフィーヌがここにやってくると思われます。国王陛下は、敵にスキを与えず、即座に法撃で殺すことをお命じ下さい」


「うむ。お前に任す…」


「では、親衛隊。偽のジョゼフィーヌが現れたら、私の命令一下、直ちに法撃で殺せ!」


 待つこと、少々。予想通りと云うか、義理堅く慎重な彼女に取っては当然の行動だが、ジョゼフィーヌは王宮に現れた。


「国王にお目に掛かりたい。敵が潜入している可能性が有りますので、警備を強化致します」


 侍従長が答えた。


「…そうか。大儀である。陛下はこちらだ」


 ジョゼフィーヌは王の前に跪き、頭を垂れた。その瞬間に王の間の石柱の影から、法撃が飛んだ。ジョゼフィーヌは声を上げる間もなく、絶命した。


 その頃、本物のブルフォンは駅経由で王宮に向かっていた。


「ブルフォン!」


「セレンじゃないか。どうしたんだ」


「大変よ! ジョゼフィーヌが王宮で敵に殺されたの!」


「なんだって! 王宮にまで入っていたのか。急がねば」


「ボクも行くよ」


「ああ。セレンが一緒だと心強い」


 二人は走りながら、喋っていた。


「それにしても、あのジョゼフィーヌが簡単にやられるとは信じられない」


「ボクもそう思うよ。ところで、ブルフォンはここよりもっと悪い国があると思う?」


「それほど悪い国とは思ってないけど、なんでそんな事を聞くんだい」


「いや。ちょっと前にエレーナと話したことが有ったの。ブルフォンだったら、どう云うだろうかって?」


 下手な理由を作れば怪しまれる。しかし、エレーナと云うキーワードは、理性や警戒心を無効化するほどの力がある。


「そうだなぁ」


 二人の前には王宮の門が見えてきた。死んだはずのセレンが通過すれば、正体がバレる。答えは未だか?


「例えば、真実の国かな。真実ほど残酷なものは無いからね」


「エントルゥザンク、召喚!」


「え?」


 地面が消えた。正確に云えば、人や建物が有る場所の地面がフッと消え、底なしの穴がぽっかりと開いた。穴の上に有ったものは驚愕の悲鳴を残して、奈落の底に墜ちていった。


 私は落下前に列車に連れ戻された。

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