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「いっちゃんが私と一緒にお酒飲むのって初めてだよね。」
理奈がさらに三本缶チューハイを開け、俺がようやく一本缶チューハイを開けた時、それまで一人で騒いでいた理奈が話しかけてきた。
理奈を見れば笑窪が出来ている。
「当たり前だろ。俺が酔っぱらったら、誰がお前を家に帰すんだよ。バカ理奈。」
貶されたにもかかわらず理奈は嬉しそうに、ザルのごとくアルコールをお腹に納める。
「だっていっちゃんって最近私と本音で話してくれること無いんだもん。」
「今だって本音で話してるだろ。これ以上何を話せば良いってんだよ。俺は知らん。」
「………………だっていっちゃん。………私にいっつも何か隠し事してるよね。」
息が止まってしまった。
固まってしまった手は不自然に思われなかっただろうか。
身体は熱いのに頭の中が急速に冷え切っていく。
理奈の視線を鋭く感じたのは気のせいだろうか。
「別に隠し事なんてしてない。それに別に理奈に隠し事したってとやかく言われる謂れはないだろ。お前だって、俺に隠し事してることの一つや二つあるだろ。同じだよ。」
今日は何もしないで早く家に帰したほうがいい、頭の中でアラームが鳴り響き警告する。
親にバレると面倒だが、ちょっときつめの酒を出したほうがいい、そう判断した俺は立ちあがると隣の部屋にあるブランデーを持ってくるために歩き出そうとした。
「いっちゃん何処行くの~。一人で寝ちゃいやだよ~。ここにいてよ~。いっちゃん~。」
甘える理奈に『隣から酒を取って来るだけだから』と断り、部屋を出てから一息吐く。
……………引き際、か。
無意識のうちに呟いていた。
これ以上一緒にいると理奈が傷に気付いてしまうかもしれない。
理奈を傷付けている俺が言うのは筋違いだと分かっているけど、理奈にはこれ以上傷付いてほしくない。
そして今一番理奈を不用意に傷つけているのは俺だ。
昔に戻そう。
俺はそう決意した。