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1 その子の不思議な力

ある都市のメインストリートで、母親が小さな男の子の手を引いて歩いていた。


 その子は、すれ違う人々を注意深そうに観察し、場合によっては失礼にあたるのではないかと思われるくらいジロジロ見ていた。




 母親は自分の息子のことをよく理解しているらしく、とりたてて注意せず、歩く速さも、その子が観察するのに丁度良い速さで歩いていた。




 突然、その子が立ち止まった。


 母親が聞いた。


「どうしたの。」


「お母さん、今すれ違った大人の人、ものすごく泣いていたよ。」


「私は全然気がつかなかったけど。大人の人が泣きながら歩くことはあまりないんじゃないの。また、何か感じたの。」




 男の子は、背の高い紳士の後ろ姿を指した。


「あの人、大切なことを誤解して知らないようだから、僕が教えてあげなくちゃ。お母さんいいでしょう。」




 いつものことなのか、母親は少しも驚かず息子の目を見て話した。


「いってらっしゃい。大切なことを教えてあげなさい。」


 母親から許しをもらうと、男の子は急いで紳士の後を追いかけ、そして呼び掛けた。






「すいません。 すいません。 大切なことがあります。 聞いてください。」




 背の高い紳士は振り返り、とても小さな子に話しかけられたことに少し戸惑った表情を見せたが、穏やかな落ち着いた口調でたずねた。




「ぼうや、私のことですか、何か。」


「昨日、なかなかお見舞いに行けなかったお父様に会いに行かれた時、お父様は顔を背けて一言も話されなかった。そして、今日、息を引き取られた。」




「えっ!」


 紳士はとても驚いた。




「昨日、お父様は怒っていたわけではありません。むしろ、困難に()っても決して逃げずに戦う、今のあなたのことを誇らしく思っていました。




 そして、息子が多忙な中、会いに来てくれたことをとても喜んでいました。あなたの時間を奪うことを大変心配して、早くお仕事に戻らせようと思ったのですよ。」




「 ……… 」




「今から、とても大切なことが待っているのですね。お仕事がんばってください。」




「ありがとう。ぼうや。」




 背の高い紳士はかがんで、男の子の頭をなでた。少し目には涙がにじんでいたが、右手でそれを格好良く拭ぬぐった。


 それから紳士は振り向いて、歩いて行った。


 その姿には自信と活力がみなぎっていた。






 紳士がある大きなホテルの入口まで近づくと、数人が駆け寄った。「○○株式会社第△△期株主総会会場」という看板が立てられていた。


「社長、株主の皆様が待っていらっしゃいます。会場のひな壇に御案内しますので、別の入口にお回りください。今、直ぐに御案内します。」


「かまいません。ここから入ります。」




 通常は全くあり得ないことだが、株主総会会場の株主席の入場口が開けられた。今日の株主総会は会社の業績不振があり、大荒れ模様が予想されていた。




 株主達は会場のひな壇にまだ社長が座っていないことに、大きな不信感をもっていたが、自分達のすぐ後ろに現われ、そこからひな壇に歩いていく社長を大注目で注視した。




 社長は姿勢の良い姿で歩いてひな壇に上がると、その最前列で株主達の方を向き深々と頭を下げた。




 それは強いオーラを放ち、一言文句を言おうと思っていた株主達の気持ちを強く抑え込んだ。






「てらすちゃん。あの人、今日、あなたが話した人じゃない。」


 母親の天春子あまはるこが言った。昼間に男の子が後を追いかけ話した、背の高い紳士だった。


 テレビで取材された株主総会の様子が伝えられていた。




 アナウンサーが報道していた。




「今日、本県地場産業最大手の○○株式会社第△△期株主総会が開かれました。同社は今期創業以来最大の赤字を計上し、株主総会は大荒れになることが予想されました。




 しかし、□□社長から、赤字計上は短期的な原因によるものであり、今後の経営改善により来期には十分に黒字に転換し、従業員の雇用と地場産業を支えていくことが明確に説明されました。




 その結果、株主から□□社長を支持する意見が多く出され、建設的な雰囲気の中、全てが承認され終了しました。」




 父親の天夏彦(あまなつひこ)天夏彦が聞いた。


「てらすは何を話したんだい。」


 天てらすは、照れくさそうに微笑みながら父親に話した。




「知らなければならない、ほんとうのこと。」

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