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勇者は落ちぶれた  作者: ももらら


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6/8

苦手なもの

誰だって苦手なものはありますよね?

「よっ!」

「ブギィ」

 シンが剣を一振りすると、足元に野ブタが転がる。祐鬼の住むソオ村までは徒歩で5日ほどかかる。常夜の森を歩きながら、今日の食料を狩っていたのだ。


「よし、この野ブタ1頭でソオ村に着くまでの食料は確保できたな。とりあえず今日の分を焼くとするか」

 そう言うと、仕留めた剣とはまた違う小振りな一刀を取り出し、肉を切り分ける。木の枝に刺した肉を火で焼き始めると、パチパチという音とともに香ばしい匂いが立ちこめる。

 おもむろに祐鬼が立ち上がった。

「どうした?」

 シンの問いかけに祐鬼が答える。

「僕もご飯の材料になるものを獲ってこようかと……」

 その言葉にシンが呆れたように返す。

「何を言ってるんだ? ご飯ならもうすぐできあがるじゃないか。それとも肉は嫌いか?」

「え! 僕も食べていいの?」

 驚いて訊き返す祐鬼に、シンがいよいよ呆れる。

「祐鬼、こんな大量の肉。俺一人で食べきれると思うか? 野ブタを獲ったのは、最初から君と俺の食料を確保するためだよ」


 命を助けられただけではない。母を救うために村まで来てくれる。そのうえ道中の食料までくれるという。祐鬼はいよいよ言葉を失った。

「シン……本当に……ありがとう」

 涙声でお礼を述べる祐鬼の頭をクシャクシャ撫でながら、シンが明るく言う。

「子供なんだから遠慮せずにガンガン食わないとダメだ!」

「ありがとう。いただきます」

 そうして二人は野ブタの肉を心ゆくまで堪能した。ここまでほぼ飲まず食わずだった祐鬼は夢中で肉を頬張った。久しぶりに満腹になると安心したのか、静かな寝息をたて始める。


「こんな小さな子が母親のために……。母親……か」

 祐鬼の寝顔を見ながら、シンは自身の産まれについて思いを巡らす。そうこうするうちにまどろんできたので、そのまま意識を手放すことにした。


 翌朝、祐鬼が起きるとシンは朝食の支度をしていた。

「おはよう、祐鬼」

「ごめんなさい、シン。朝ごはんも任せちゃって」

「いいんだよ。言っただろう? 俺は暇なんだから」

「ありがとう……」

 物心ついたときに父親がすでにいなかった祐鬼。「お父さんてこんな感じなのかな?」と思ったが、それにしてはシンは若すぎる。「年の離れたお兄ちゃんかな?」。そう考えているとシンが「できたぞ。食べよう」と声をかけてきた。


 朝食を終えて、今日歩くルートを確認するとシンの表情が少し曇った。

「どうしたの?」

 祐鬼も不安になって尋ねる。

「いや、今日のルートでタマス沼の近くを通るだろう? あの辺、イート・フロッグがめちゃくちゃ多いから、ちょっとな……」

 確かにタマス沼周辺にはイート・フロッグが大量にいる。しかしイート・フロッグはコボルドの子供たちでも捕まえることができる生物で、シンが嫌がる理由がわからなかった。

「シン、カエルが苦手なの?」

「あまり好きじゃないかな。あいつらなんかヌルヌルするじゃん。手に着くと気持ち悪いんだよ」

「そんな理由かぁ。あんなに強いシンにも苦手なものがあるんだね」

「誰だって苦手なものはあるだろう? 祐鬼は何が苦手なんだ?」

 シンにそう訊かれて、しばし祐鬼は考えた後に大きな声で答えた。

「怒ったときのお母さん!」

 その答えに2人で笑いあった。

「そりゃ確かに苦手だろうな」

 ひとしきり笑った後、2人は今日の旅路につくのであった。

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