母の病気
祐鬼の母、どのような病気なのか?
「あの……祐鬼です。僕の名前」
「祐鬼か。カッコイイ名前だね」
シンの答えを聞いてさらに驚く祐鬼。名前を聞いてくれただけではなく、自分の名前をカッコイイと言ってくれた。そんな人間が存在するなんて!
「俺の名前はシン。よろしくな」
そういって右手を差し出したシンは祐鬼の手をしっかりと握る。「なぜ自分なんか、コボルドなんかにここまでしてくれるのだろう?」。祐鬼のなかで尽きない疑問がわいてくる。
「それでどうして祐鬼は人間の村の近くまで行ったんだ? 嫌じゃなければ教えてくれるかな?」
優しい眼差しで訊いてくるシンを見て、「この人間は、ほかの人間たちとはまったく違う」と感じた祐鬼は、母が病気であること、治療のために薬草を採ろうと出かけたことを正直に話した。
「それで? お母さんはどんな症状なんだ?」
「熱が出ていて、それが一向に下がらないんです。咳もひどいし、喉が痛いって言って。食べ物も欲しくないって……」
母が辛そうにしている様子を思い出して涙目になる祐鬼。
「実際に見てみないと、はっきりとは言えないがそれだと野風邪かもしれないな」
野風邪は人間の風邪と酷似した症状を呈する魔族特有の病気。通常であれば薬も必要なく完治する病気であるが、体力が低下していると深刻な状態になることも珍しくない。祐鬼の話を聞いて、おそらく普段からあまり栄養状態が良くない暮らしをしているのだろうとシンは考えた。
「シンさんはお医者さんなの?」
「医者というわけではないけど、自分の体のことは自分でやらないといけなかったからね。怪我にしても病気にしても。だから自然と詳しくなっていったんだよ」
そうだとしても、魔族の病気にまで詳しいのはなぜだろう? さらなる疑問を持つ祐鬼にシンは尋ねた。
「だとしたら薬草よりもポーションのほうがいいよな」
「そんな高価なもの買えるお金……。それにポーションを買うためには人間の村に入らないといけなくなるから。絶対に殺されちゃう」
確かに魔族が人間界で流通している商品を手に入れることは不可能ではないが困難である。夕闇の星のメンツが言っていたことが本当ならば、人間と魔族の関係が悪化している現在は、さらに困難を極めるだろう。
「祐鬼はどこの村に住んでいるんだ? コボルドの村はいくつか俺も知っているが」
「ソオ村だけど……」
村の名前を聞いてシンは思い当たる場所があった。
「よし! 行くか」
「え! 行くってどこに?」
「ソオ村に決まってるだろう」
祐鬼は驚きのあまり無言になる。人間が村の近くに来たからといって、問答無用で攻撃を仕掛けるようなコボルドはソオ村にはいない。その点は人間の町や村とは大きく違う。しかし村の中に入るとなれば話は別だ。
「いや、それはさすがにシンさんが危ないよ」
心配を口にするが、シンは「大丈夫、大丈夫」と朗らかに笑っている。
「それにソオ村に何しに行くの?」
祐鬼の疑問に心底不思議そうな顔をするシン。
「え? だって祐鬼のお母さんの病気を治療しないといけないだろう? 祐鬼だってそのために危険なのを承知で人間の村近くまで行ったんじゃないか」
「!」
信じられなかった。自分を助けただけではなく、母のために村に来て治療してくれるという。なぜそこまで親切にしてくれるのか? 何か別の狙いがあるのではないか? 先ほどシンが見せた戦闘能力からすると、村の住民が総がかりで攻撃しても全滅することは予想に難くない。複雑な表情を見せる祐鬼にシンが笑顔を向ける。
「まぁ、こいつ何考えているんだとなるのが普通だよな。だって祐鬼のお母さんを助けても、俺にはメリットがないと思うだろうし」
シンの言葉に祐鬼が戸惑いながらもうなずく。
「あのな、祐鬼」
シンの呼びかけに祐鬼は黙ったまま次の言葉を待つ。
「俺は暇なんだ」
予想もしない言葉に祐鬼は驚いたまま固まっている。
「祐鬼には悪いけど、お母さんを助けるのは“暇つぶし”だ。どうせ暇を持て余しているなら、少しでも誰かの役に立つことをしたほうが気分もいいだろう?」
そんな理由で危険を冒してまで、自分たちの村に来るというのか。祐鬼には理解ができなかった。
「寝る前に“今日は良いことしたなぁ”と思えたら、気持ちよく眠れるじゃないか。まぁ俺のワガママだから気にするな。とにかく村に行こう」
なんだかめちゃくちゃな理屈ではあるが、母が助かるのであればそれに越したことはない。
「お願いします!」
深々と頭を下げた祐鬼。その頭に優しく手を置いてポンポンと軽く叩くシン。
「さて出発!」
元気なシンの声を合図に2人は村へ続く道を歩き始めた。
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