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名前は?

夕闇の星、歯が立ちません

 ケーラとの距離を一気に詰めたシンがみぞおちにパンチを放つ。その一撃でケーラは悶絶して立てなくなった。たとえ立ち上がったとしても腹筋に力をじゅうぶん入れることができないので、前と同じように鋭い矢を撃つことはできない。かぎりなく無力化に近い状態に追い込むと、次にシンはサラに向かう。


 迫るシンに対してサラは闇雲に魔法を唱えるが、いずれも当たらない。あまりにも四方八方に魔法を放つため、カシアスもおいそれと近づけない。本来であれば、サラの魔法やケーラの弓矢を援護にカシアスが直接攻撃を加える予定だったが、あまりにもあっさりケーラが倒されたことでサラはパニックになっていた。そんな状態の魔法がシンに通用するわけもなく、サラも首筋に手刀を貰い昏倒する。


 残されたカシアスは恐怖とともに困惑していた。いくらシンが得体の知れない強さだとしても、Bランクのパーテイーである自分たちがここまで一方的にやられることに納得がいかない。Bランクと言えども、もう少しでAランクに到達できそうなところまで来ている。国内に2組しかいないSランクのパーテイーが相手だったとしても、ここまではやられないはずである。ましてや相手はパーティーではなく個人なのだ。

 そんなカシアスの思いなど関係ないように、シンが向かってくる。


「やるしかない」


 カシアスが剣を握る手に力を入れる。構えは大きいものの無駄な動きを排除した剣先がシンに振り下ろされる。

「ほう、なかなかじゃないか」

 Bクラスの剣士というと、王国騎士団に入っていてもおかしくない腕前である。しかし騎士団のトップクラスとまではいかない。そのため身体能力に依存して、強いけれども無駄な動きがある者も少なくない。しかしカシアスの動きは無駄が削ぎ落とされていた。ケーラの弓、サラの魔法も冷静さを失わなければ、なかなかのものだったと予想される。夕闇の星が短期間でBクラスまで登りつめたのも納得できる。


「これで心も備われば文句なしなのだがな……」。シンは残念な思いにかられながら、カシアスの剣を躱すと腰の刀を一閃した。いわゆる居合抜きの形でカシアスに攻撃を加えたのだ。その一撃でカシアスは崩れ落ちる。


「すごい……」

祐鬼は呆気にとられていた。途中からシンが負ける姿は想像できなくなったが、ここまでカシアスたちと差があるとは思っていなかったのだ。


「大丈夫だったか、少年? 少年だと失礼だな……。名前を聞いてもいいかな?」

 シンの問いかけに祐鬼は驚く。人間から名前を尋ねられることなど、これまでなかった。良くて「コボルド」、だいたいは「小鬼」「魔物」と呼ばれてきた。それが目の前の人間は自分に名前を聞いてくれた。自分に対して「失礼だ」と考えてくれた。驚きのあまり、口を開くことができなかった。

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