条約の有効性
人間と魔族、魔物は争わないと条約が結ばれたはずですが……
祐鬼が覚悟を決めたとき。唐突に声がした。
「そこで何をしている?」
どことなく威厳に満ちたその声に男たちが振り返る。
「なんだ、お前は? このコボルドは俺たちの獲物だ。渡しはしないぞ」
夕闇の星の武闘家・リッキーが声を荒げる。
「別にそのコボルドが欲しくて言っているんじゃない。魔物を狩ることは禁じられているはずだ。犯罪者集団ならまだしも、それなりに名前を知られた冒険者である君たちがなぜ魔物を狩る?」
声をかけてきた男・シンが問いかける。シンの言うことはもっともであった。5年前に勃発した人間と魔族の戦争。苛烈を極めた人魔大戦では、人間の勇者と魔王が戦い決着がつかなかった。最終的に人間と魔族の間で条約が結ばれたのだ。
●魔族と人間で境界を決め、それぞれ侵さないこと
●魔族、魔物は人間を襲わない
●人間は魔族、魔物を捕えたり殺したりしない
積極的に交流を図るわけではないが、争いを起こさないこと。この条約によってある程度の和平が担保されることとなった。
もちろんコボルドの角を狙う人間がいるように、密猟をする者も少なからずいたが、露見した場合厳しい罰が与えられていた。だからこそ有名な冒険者パーティーがこのような愚行を行なっていることがシンには理解できなかった。
「なるほどなぁ。あんたはあの条約がいまでも厳正に守られていると思っているわけだ」
苦笑しながらカシアスが言う。
「あんな条約、もはや有名無実化しているぞ。そんなことも知らないのか?」
カシアスの言葉にシンが怪訝な顔をする。人里離れた場所に住んでいるシンは、人間界の流行などに疎い。しかし条約が破られるような事態になっているとあれば、さすがにそういった知らせは入ってくる。
「有名無実化? どういうことなんだ。そうなったとしたら魔族が黙っていないだろう」
シンの問いにカシアスが冷淡な笑いを浮かべる。
「本当に知らないのか? 魔族の統制が崩れているんだよ。勇者と戦った魔王が代替わりするとかで、後継争いが勃発してな。その間、統制が取れなくなり人間を襲う魔物が出てきている。条約を破ったのは魔族側だ。だから俺たちに魔族、魔物の討伐や素材の収集依頼が来るようになったというわけだ」
その言葉にシンは一瞬考えこむが、疑問を口にする。
「討伐依頼があるとして、収集依頼があるとしてだ。それはあくまでも人間に害をなそうとする魔物に関しての話ではないのか? このコボルドがそういう罪を犯しているとは考えにくいのだが」
シンの言葉を受けてケーラが苛立つ。
「うるさい奴だな。お前も殺されたいのか!」
そう言うや否やシンに向けて鋭い矢が放たれた。
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