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プロローグ

英雄として讃えられない勇者の話です。

「おい、待て!」


 複数の男たちが一体のコボルドを追いかけている。魔物のなかでも下級であるコボルドは鬼の一種であるが、その角に滋養強壮の効果があると信じられているため、貴族など上流社会の人間たちからの需要が絶えない。結果、冒険者にとっては「手軽に狩ることができて、高収入が得られる獲物」として人気であった。


 小柄なだけに戦闘力に優れているわけではないが、敏捷性や速度に関しては目を見張るものがあるコボルド。並の冒険者だと捉えることが難しいのだが、今追ってきている冒険者たちはB級のパーティーの中でも速度に特化しており、速度に関していえばS級冒険者にもヒケを取らない。彼らの名前は「夕闇の星」。人間族のみで構成されており、「人間以外はどうなってもかまわない」と考えている。それは魔物だけではなく、エルフやドワーフなどの亜人に関しても同様。だからこそ目の前にいる子供のコボルドを殺すことにためらいはなかった。


 コボルドもバカではない。人間が自分たちを手ごろな狩猟対象として狙っていることはわかっている。それにも関わらず、子供のコボルド・祐鬼が人里近くまで来ていたのには理由があった。母親の病気を治療するための薬草が人間の村周辺に群生していたからだ。薬草さえあれば母は助かる。しかし人間の村という危険領域に、わざわざ出向く大人はいない。「だったら僕が」と祐鬼は震える脚を抑えて向かったのだ。


 そしてその結果が冒険者に追われることを招いている。魔物の住処である「常夜の森」近くまでなんとか辿りついた。

「もう少し、もう少しで逃げ切れる」

 必死に足を急がせる。常夜の森はその名のとおり、人間では視界が利かないほどの漆黒の闇に包まれている。森に入れば状況は好転するはず。しかも騒ぎを聞きつけて、ほかの魔物が寄ってくるかもしれない。そのなかに上位の魔物がいれば、助かる確率はかなり高くなる。


 シュッ!


 あと少しというところで、夕闇の星の弓使い・ケーラが放った矢が祐鬼の足を捕らえた。

「痛っ!」

 その場に転倒する祐鬼。


「まったくちょこまかとすばしこい奴だ。そろそろ観念するんだな」

 夕闇の星のリーダー・カシアスがそう言いながら腰の剣に手を伸ばす。


 祐鬼は「母さん、ごめんね。僕、先に逝っているから」そう思いながら、グッと目を瞑った。


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