ピンチ
「なんでサッサと始末しない?」テーブルに静かに着いた大きな男が先生に声を掛けた。
リアムだ。
『あ〜ッ、なんで先に捕まえとかないんだよ〜美沙!』倫子は心の中で舌打ちする。
「行くぞ!高飛びの用意は出来た。」2人は国外に逃げる気なのだ。
さすがに公安も封鎖したろうが、偽のパスポートを用意されたら軽々突破される。
先生はなでる倫子の手を握り返す。
「倫子さんは良い客でした。3カ月に1回で良い定期検診も何も考えないで1月ごとに来てくれるし。」
『うん?』
「3回くらいで済む治療を6回にしても文句言わずに通ってくれるし。」
『あん?』
「奥だから銀歯で良いのに、保険はずれるセラミックにしても文句言わず払ってくれるし。」
『ああん?』
「他のマダムはすぐ股間触ってくるのに、倫子さんはミイラみたいに不動だし。皆が倫子さんみたいな客なら問題なかったのに…」
『ああああん!!!』
先生は、アホな客として倫子を気に入ってたのだ!
ライラックに続き2度目の失恋となった。
「お皿をお下げしますね。コーヒーのおかわりはいかがですか?」ウエートレスとギャルソンが来た。
おかわりのコーヒーと水を持ったウエートレスが片付けるギャルソンの後ろに控えてる。
この店は、男性はギャルソンスタイル、女性はメイド服で可愛いのだ。
「いや…もう結構だよ。」と先生が断った瞬間、後ろのウエートレスが牛刀を隠したナプキンに熱いコーヒーを掛けた。
「わあっ」先生は思わず手を引いてしまう。
その瞬間、ギャルソンが先生の手を後ろにひねり、牛刀を取り上げた。
「クソっ!モタモタしてるから!」リアムがサバイバルナイフを構えた。
「オイッ、サバイバルナイフは銃刀法違反だぞ!」と言いながらメイド服のウエートレスが警棒を伸ばしてテーブルをまたぎリアムに襲いかかった。
そう、それはメイド服の美沙だった。
超可愛いのに!宙を舞いながらリアムの顔面を警棒でフルスイングする姿は、殺気しかない。
リアムは辛うじて避けたが、上体が不安定に。
体格差があるが、テーブルに乗ってるので美沙の方がデカい。
そのまま今度は振り被って飛ぶが、リアムのリーチは長い。足を狙われて靴底で辛うじて避けた。
多分鉄板が入った安全靴のブーツなのだ。
牛刀を取られた先生は他数人に取り押さえられて大人しくなった。レストランの厨房まで後退する。
すでに店員は避難していた。
めちゃくちゃでも話していて良かった。倫子は安堵する。
倫子達が座ってた窓辺のテーブルでリアムと美沙がにらみ合っている。体格差が凄い。
リアムは父が海軍の士官だったので、小さい頃からサバイバルナイフの扱いは慣れてる。
小さい頃は海軍を目指していたようだ。
しかし、目に見えない小さな差別があり、リアムは海軍で父のようにはなれないと断念したようだ。
日本は敵軍だったのだ。その血を引くリアムに海軍はそんなに甘くはなかった。




