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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第57話 飛行

「急ぐんだろ、僕が箒を出す」


 席で身支度しているとティーバがカギモトに言う。


「え、それは悪いな。それに俺、箒はちょっと……」

「でもトラムじゃ時間がかかりすぎるだろ」 

 君が、とティーバがソナを見た。

「2人乗り箒を操縦できるんなら貸してもいいけど」

「……できませんよ」

 2人乗り箒は高価であまり一般的な乗り物ではない。操縦方法も特殊で別免許が必要になる。

「なら僕も行く」

 ティーバが足元から黒いケースを取り出して立ち上がる。まさかそこにいつも2人乗り箒があるのか。

「助かるよ、ティーバ」

「お互い様だろう」

 短い言葉を交わし合い、頷く2人。


「というわけなんで一旦ティーバも連れていきます」

 カギモトがゴシュに告げる。 

「任せるよ。もし、どうしようもなかったら僕も出るから──連絡してね」

「はい」

 

 あの時、ぼんやりしていたとはいえ、封筒も中身もちゃんと確認したつもりだった。なのに、どうしてこんなことに。


 ソナはカギモトとティーバの後を追いながら、自分の行動を何度も何度も頭の中で思い返す。意味はないとわかっていても、後悔せずにはいられなかった。

 

………………


 冬空の下の屋上に出て、箒を準備する。今日の風は冷たく、からからに乾いている。


 ティーバは黒いケースから箒を引っ張り出した。その箒を見てソナは息を呑む。

 

 ティーバの持つケース自体、空間圧縮機能のある特殊なものだったらしい。

 出てきたのは黒塗りの大きな箒だった。2人乗り箒の中でもかなりの高級品であることはソナにもわかった。

 上着の襟元をきっちりと閉め、鍔のついた帽子を目深に被ったティーバが前の操縦位置につく。やや青ざめた顔のカギモトがその後部に乗った。


「行くよ」

「あの、確かに急いでるんだけど、できればなるべく低めでそんなにスピードは出さないでもらえると──」


 カギモトの必死な言葉を無視するように、ティーバの箒は曇り空へと急上昇していった。

 続いてソナも屋上から飛び立つ。

 

 ティーバの箒は滑るように飛んでいく。

 2人乗り箒の操縦には高いレベルの魔力制御技術が求められるはずで、普段のティーバからは想像もできない技能だった。


 操縦時には普段のような猫背にはならないのか、背筋を伸ばしたティーバは上背もあり、中々に様になっている。

 高いところが苦手らしいカギモトはぎゅっと目を閉じ唇を噛みながら、手すりにしがみつくようにしていた。

 

 そんな2人を横目に、ソナは一心に箒を飛ばす。

 風は切るように冷たかったが、あまり感じなかった。

 空から見える景色は農地帯を越え、市街地が近づいていた。

……………………… 


 グイドの魔導機械修理会社の近くに着陸した。


「ティーバは近くで待っていてくれる? それか一旦事務所に戻ってくれてもいい」


 カギモトはハンカチで額の汗を拭っている。よほど飛行が怖かったらしい。


「僕も同席しなくて大丈夫か?」

「こっちの方が大人数ってのはよくないからね。俺とフラフニルさんで」

 ティーバはなにか言いたげにソナを見たが、すぐに頷いた。

「じゃあ、一度戻る。必要だったら伝心蝶で連絡して」


 ティーバはソナに向けて言い、再び箒に乗って飛び去っていった。

 

 修理会社の扉の前に立つと、足が竦んだ。


 ここはカギモトに──“杖無し”に対して辛辣な態度を取った老修理士グイド・エルンストのところである。

 今回の件で、また、何と言われるのか。


「ミスは誰でもするって言ったでしょ。起きたことは仕方がないから、後は誠心誠意謝るだけ」

 カギモトは上着を脱ぎながら気楽に言うが、その薄茶色の瞳は真剣だった。 

「謝罪は慣れてるんだ。任せといて」


 頼ってもいいのだろうか。

 その思いが再び掠める。

 ソナの中には、すんなりと割り切れない何かがあった。

 しかし今ここで、自分にできることなどほとんど無いとしか思えなかった。


 ソナは微かに震える手で、修理会社の扉をノックした。

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