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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第56話 ソナ・フラフニルのミス

休みの日も仕事を気にしちゃうような人は読まない方がいいかもですね。


※少し追記修正しました。

 メッツェンからの書類をゴシュに渡したその後は、表面上は何事もなかったかのようにカギモトはソナの仕事をサポートし、終業時間を迎えた。

 契約業務に一区切りが付いた今は、ソナが無理に残業する必要もなかった。


「なにか手伝うことがありますか」

「んっ」

 ソナが話しかけると、コーヒーに口をつけていたカギモトがむせた。

 何度か軽い咳をした後、机の上の書類を汚していないかを気にした様子で、カギモトはあっさりと言った。

「いや……特にないかな。天気も良くないし、早く帰った方がいいんじゃない」

 そこまで言ってから「そういえば」と思い出したようにソナを見た。

「今日の朝、修理士宛への契約書って……」

「特急箒便で送りました」

「ありがとね。あのさ、送る時って、誰か他の人に宛先とか確認してもらった?」

「いえ、自分でやりました」


 カギモトは少し黙り、まあフラフニルさんなら大丈夫かな、と苦笑いを浮かべる。


「みんなばたばたしてたからね。でも今後は、送る前には必ず誰かにチェックしてもらってね」


 ソナは頷いた。 


 仕事に真面目なカギモトは、やはりいつもどおりだった。


 ナナキやシンゼルにも手伝うことがあるか尋ねたが、新人にやり方を教える時間の方が惜しいのか、礼と共にやんわりと断られた。


 早く帰ることができるのなら、それに越したことはない。


 霙は止んでいたが、空気は重く湿って、纏わりつくように寒い。

 冷気の入り込む隙間がないように上着を着込み、ソナは箒に乗った。

 


 事件が起きたのは翌日だった。

 


 始業と同時に、ソナは4度目になるドードー探索士への伝心蝶を送った。

 その時鳴った朝一番の電話を、ナナキが取った。


「──えっ?」

 受話器を握るナナキの顔がさっと青褪める。

「それは……大変申し訳ありません」


 ナナキの向かいに座るソナとカギモト、ティーバの3人は、何となく顔を見合わせる。


「あの、すぐに確認いたします。はい……確認いたしますので、……またご連絡します。はい、必ず」

 ナナキはぺこぺこと頭を下げ、再度、「大変申し訳ありません」と深刻そうな声で告げた。


「どうしたの?」

 受話器を置いたナナキにティーバが聞く。

 ナナキは一瞬ソナとカギモトを見たが、「いえ、ちょっと」と固い面持ちのまま、ゴシュの元へと駆けていった。

 

「なんだろね」とカギモトもその背を見つつ、自分の作業に戻る。

 ソナはティーバから依頼された物資購入関係の書類の数字などをチェックしていた。


 間もなく、神妙そうな顔のナナキを連れ、汗を拭きながらゴシュがやって来た。


「カギモトくん達、昨日、契約書類を修理士に送ったね?」

「はい、送りました」

 立ち上がり、ソナが答える。


「今朝先方に届いたみたいなんだけど、それね──違う修理士の契約書が入ってたって」


 ゴシュはさらりと告げたが、カギモトが僅かに息を呑むのが聞こえた。


「中身を入れ違えて送ってしまった……ということですか」

 カギモトも立ち上がり、ゴシュに訊く。

「開封は」

「間違って開けちゃったってさ。秘密便になってなかったみたいだよ」

「……」

 カギモトは押し黙った。


 どうやら封筒の宛先と中身を入れ間違えてしまったらしい。

 それに秘密便。

 そう言えばカギモトが送る前に説明していたかもしれないが、すぐに激励会の準備に入ることになり、秘密便設定が頭から抜け落ちていた。

 完全に自分のミスである。

 ゴシュ達はまるで葬儀のように沈鬱な雰囲気だった。セヴィンやトレックらほかの職員も、こちらの話を気にしている様子である。

 

「フラフニルさん」

 カギモトは真顔でソナを見る。

「書類を間違った相手に送るのは、中身が何であれ、仕事では絶対にやっちゃいけないミスのひとつだよ。だから、他の人にチェックをしてもらうのが大事なんだ」

「……」

「それに今回は契約書だから、競合相手の契約情報をうちが漏らしたことになる。正直訴えられる可能性も、ないとはいえない」

  

 そう言われて初めて、どこか他人事のように感じていたソナの中で、じりじりと、焦りのような気持ちが這い上がってくる。


「す、すみません。どうすれば……」

「脅かすようなこと言ってごめん。一緒に確認しなかった俺が悪い。でも、起きた事の重大さはわかってほしい」


 ソナが唇をきつく噛んで頷くと、カギモトは少しだけ表情を緩める。


「大丈夫だよ。一緒に対応するから」 


 もう関係がなくなるとまで言った相手に、仕事とはいえここまで優しく言葉をかけることができるものだろうか。

 カギモトの言葉に安堵し、頼りたくなってしまう自分の都合の良さに嫌気が差した。


「今朝の連絡してきたのはこの人ね。かなりご立腹の様子みたい」

 ゴシュは修理士のリストを出して指さした。

 それは、修理士グイド・エルンストだった。

 カギモトの方を見ると何ともいえない顔をしている。恐らく自分も同じ顔をしているだろうとソナは思った。


「他の修理士にはナナキさんに連絡取ってもらう」


 ゴシュがそう言うと、ナナキは頷いて素早く席に戻った。


「上への報告は僕の方でするね。で、まずはこのグイドさんのところに今すぐ謝罪と回収に行かないとなんだけど」


 ゴシュは少し躊躇うようにカギモトを見た。


「……行ける? カギモトくん」

「行けます」

 カギモトがすぐさま返事をした。

 それでもゴシュは煮えきらないように腕を組んだ。 


「カギモトくんがしっかり対応できるのはわかってるけど……君には当たりが強い人もいるからさ。セヴィンくんかティーバくんでも」

「グイドさんには一度お会いしてますし、俺にも責任がありますから、一旦は自分が」


「うーん……わかったよ」

 ゴシュはようやく頷いた。 


「あの……すみません、私が……」

「いえ俺がちゃんとチェックしなかったからで」

「僕に謝る必要はないよ。原因と対策は後で考えればいいから」

 2人を遮るゴシュの言葉は端的だった。

「何をおいてもまずは謝罪ね。君も、カギモトくんと行ける?」


 ソナは、消え入りそうな声で「はい」と答えた。

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