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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第54話 仕事は仕事

 執務室に戻るとゴシュが「本当に助かったよ」とカギモト、ソナ、トレックの3人に何度も礼を言った。

 カギモトの言ったとおり、誰かがやらなければならないことなら、そこまで感謝されるものではない。仕事だからだ。

 それでももちろん、感謝されて嫌な気分にはならなかった。


 ソナは席につき、事務作業に取り組む。


「それにしても」 


 来客対応を終えて受付窓口から戻ってきたシンゼルが、いつもの大きな声でカギモトとソナに話しかける。

 ソナは、調査係が以前壊した箒の修理代の処理を、カギモトに教わっているところだった。


「例の彼、結局取りに来ないわよねぇ、探索士証」

「ドードーさん、ですか。……そうですね」


 カギモトが受付カウンターの方を見る。

 カウンターの執務室側の引出しには、ドードーの探索士証が入っていて、持ち主が取りに来るのを待っている。


「あの後も、連絡取ってみてるんだよね?」

 

 ソナは頷いた。

 今朝も、始業してすぐ伝心蝶を送っていた。それで3度目だった。

 不着で戻ってこないところをみると、今のところ、送った住所には届いているということだ。後は読んでいないのか、読んでも無視しているのかどちらかである。


「やっぱりちょっと心配だな」  


 カギモトが顎に触れて呟いた。


「それこそ、他の人が落とした探索士証を拾ったりして、遺跡にでも入っちゃったのかしら」

「怖いこと言わないでくださいよ。資格剥奪ものですからそれ」

 カギモトは眉根を寄せた。

「まあ、システム上できちゃうんですけどね……」

「そうなんですか」

 ソナが口を挟むと、落とした本人が失効申請しない限りは、探索士証さえあれば遺跡の結界解除はできてしまうとカギモトが教えてくれた。

 つまり探索士証は、個人を識別して結界解除をしているわけではない、ということらしい。探索士証にあてる予算上の問題だという。


「あまり大ごとにはしたくないけど、知り合いの探索士とかにドードーさんの所在を聞いてみようかな……」

「ひとりの探索士に肩入れするのは感心しないな」


 ソナの横でティーバが呟く。分厚い書物を開きながら、キーボードを叩いていた。


「そんなことしてたらキリがない。僕達は誰に対しても平等に、だろ」

「……そうだけどさ」


 カギモトは痛いところを突かれたような顔をする。


「今はただでさえ業務が逼迫してる。気持ちはわかるけど、探索士の行動は自己責任だ」

「まあ、まだ連絡つかなくて3日目くらいだものね。余計な心配させちゃってごめんなさいねぇ」


 シンゼルも申し訳なさそうにカギモトに言う。


「いえ……まあ、そうですね」


 納得いかないようではあったが、カギモトは引き下がった。


 やり取りを聞きながら、ソナは別のことを考えていた。

 トレックの言葉が頭を掠める。

 明るいシンゼルも淡々としたティーバも、何か事情があって、キィトに連れられてここの職場に来たということだ。その事情が何なのか、思わず考えてしまう。 

 きっと愉快なものではない。そしてそれは自分も同じだ。

 だから、踏み込むようなことまでわざわざ知りたいとは思わない。


 “俺たちは仕事をしに来てるわけだし”


 先程会議室でカギモトの言った言葉は全くそのとおりだ。

 仕事は仕事と割り切り、同僚への余計な感情は持つべきではないのだろう。

 

「あらぁまたお客さん。今日は混んでるわねー」


 言いながら、シンゼルはぱたぱたと窓口まで駆けていった。

 確かに、複数の探索士がまとめてロビーにやってきた。恐らく全員が同じチームというわけではないようだ。

 

「ちょっと手伝おうか」

「はい」

 カギモトが立ち上がり、ソナもその後に続いた。

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