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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第52話 後片付け

やっと10万字超えたようです。

今回は短めです。

 ゴシュの忙しない閉会の挨拶によって激励会は締め括られ、職員達は三々五々に戻っていく。

 気怠げに去っていくキィトの後ろ姿を、ソナはまだ目で追っていた。いくら眺めてもそれは、やる気のない男の背だった。


 「ほんっと悪いんだけど、片付けも3人にお願いできる? 僕も決裁書類が山になっちゃって」


 ゴシュも再三謝りながら会議室を出ていった。


「係長、俺たちに頼みやすいからって……」

「予想はできただろ。それに誰かがやらなきゃならないんだし」

「真面目かよ。ったく、なくせばいいんだよこんな式典」

 閉じた窓のカーテンを乱暴に開きながら、トレックがぼやく。

 外はまだ、寒そうな霙が降っているようだ。

「伝統っていうのは続ける労力よりやめる労力の方が大きいのかも」

「ままならねえなぁ」


 演説台を壁の端へと寄せながら、「でも」とカギモトはソナを見る。

「所長の挨拶は、けっこう迫力あったでしょ」

「え……」

 カギモトの口から自然にキィトの名が出ることに、ソナは戸惑う。

 慎重に言葉を選びながらソナは答えた。


「あんな風にお話されるとは……思いませんでした」

「ギャップがすごいよね」


 笑うカギモトに無言を返し、ソナは長テーブルを運搬魔法で動かして部屋の中心に据える。

 体を動かさないと眠いから、とトレックは、何脚もの椅子を元の位置に戻すのは、ソナの魔法に頼らず自力でやっていた。


 続けて国旗を外したソナは、それを畳むため、棒を抜いて長テーブルの上に広げる。


 カノダリア国の国旗。


 “海向こうの世界”の反対側であることを示す満月。

 その前で白と黒の杖が交差する。白い杖は古代の民、黒い杖は流れ着いた我々の祖先。

 

「やっぱりフラフニルさん、所長に何か言われたんじゃない?」


 国旗を畳もうとするソナの横で、カギモトが小声で聞く。トレックが雑に戻した椅子の位置を微調整していたらしい。


「え……」

「勘違いだったら恥ずかしいんだけど、所長のサインもらいに行ってから、なんかいつも以上に気まずい感じがするんですけど」


 ふざけた口調で深刻さは一切ない。


「……」

「……もし所長が、俺のことを何か言ってても」


 ソナは手を止めてカギモトを見た。何の気負いもない、いつもの表情のカギモトがそこにいる。


「所長には感謝してるんだよね。そこは本当」


 ソナは僅かに目を見開いた。


「変人なのは確かだけど」とカギモトは苦笑いをした。


 自分はカギモトの恩人だとキィトは言っていた。その認識は誤っていなかった、ということなのだろう。

 ソナは手元の国旗に視線を落とす。

 魔法至上主義であるカノダリア国。その成り立ちを表す意匠。


 この世界に、“杖無し”の居場所はない。


 であれば、自身の尊厳というもの売り渡してでも、社会的な立場を得るという彼のやり方は、別に間違ってはいないのかもしれない。

 

「まあ、何にせよ、新通路の件が落ち着くまでだから」


 カギモトの言葉にソナは小さくはっとする。

 昨日カギモトが告げた、教育係の期限だ。 


「俺たちも仕事しに来てるわけだし、余計なことは気にしないで割り切っていけるといいかな」 

「……」

「おーいカギモトぉ、いつまで2人でくっちゃべてんだ」 


 全ての椅子を戻し終えたらしいトレックが不満顔でやってくる。

 後はこの国旗をしまえば片付けはほぼ終わりだ。


「今までどおりにね」

 とカギモトが小さく付け足した。

 固まっているソナをよそにカギモトは横から手を出して国旗をさっと折り畳み、箱の中に放り込んだ。


 棘が刺さったかのように、胸の奥がちくりと痛む気がした。


「おっ、なんだこれ」

 歩いてくる途中でトレックが声を上げた。何かを拾い上げ、小走りに寄ってくる。

「どうした?」

「そこの床に落ちてた。なーんか見たことあるな、これ」


 トレックが手にしていたのは、美しい銀の万年筆だった。

 よく見てみると、何か紋章のようなものが鈍く光る表面に精緻に刻まれていた。

 ソナも、どこかで見たことがあるような紋章だと思った。


 カギモトが顔をしかめる。


 「この紋章……」

 

 その時、扉の開く音がした

 

 撫でつけられた金髪、調査係の深緑色のローブ。

 部屋の温度がすっと下がったような感覚。


 「……万年筆を見なかったか?」


 冷ややかな声で尋ねたのは、ノイマン・シーシュメイアだった。

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