表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
51/153

第51話 キィト・ザクソンの演説

 ゴシュを始めとして、カギモト、トレック、ソナが待つ会議室に、最初にやってきたのは藍色のローブが鮮やかな管理係だった。

 見上げるような巨体の係長、マロウは、ごく浅く、顎を引くように挨拶をして入ってきた。


「お忙しいのに準備とかしてもらっちゃって、ほんとにすみませんね」


 頭をぺこぺこ下げながらメッツェンが続く。次いでオズワルド、バルトロ、そしてその後ろに顔の知らない男性職員がいた。


「えっと、管理のみなさんはこちらっすね。マロウ係長はこっちで、ハオさんはあっちかな……」


 トレックが配置図を見ながら適当に案内をしている。


 次に調査係である。

 全員が深緑色のローブを羽織る。


 長い黒髪を今はきっちりと束ねた係長のルドン。その後ろにノイマンとアドネ。それと、ソナが未だ接したことのない男女の職員がいた。


「調査係のみなさまはこちらへ」


 ソナも再度配置図で名前を確認し、職員を所定の場所へと案内する。

 一瞬ノイマンと目が合った。昨日の階段室以来である。冷たくソナに探りを入れるような雰囲気で、ソナはさっと視線を外した。


 係ごとに2列ずつ並ぶ。

 やがて、定刻ぎりぎりのところでキィトとヘルベティアが会議室に入ってきた。

 

 キィトは裾に金のラインが入った、格調高い紫色のローブ姿だった。

 初めて見るが、遺跡管理事務所の所長用の公的な装いなのだろう。


 キィトとヘルベティアは、演説台の横に置かれた椅子に腰掛ける。

 

「さて、定刻になりましたので、これよりアレス遺跡新通路調査に向けた激励会を開催します」


 キィトのいる演説台の横で、ゴシュが汗を噴き出しながら早口に告げる。


 まずは選抜隊メンバーの紹介ということで、ゴシュが職員の名を順番に述べた。


 総務係は会議室の端で立っていた。

 時折、噛み殺したようなトレックの欠伸が聞こえた。一方でカギモトは、いかにも真面目そうな顔で姿勢を正している。

  

「──それでは、次に所長のご挨拶となります。キィト所長、お願いします」

 

 キィトは立ち上がり、実にゆったりとした足取りで演説台の前に立つ。

 演説台に両手を乗せると、冬の空のように冴えた青い瞳で、居並ぶ職員を端から端まで見回した。


 見慣れぬ色のローブのせいか、ぼさぼさの銀髪に無精髭は変わらないのに、今朝のキィトとはどこか雰囲気が異なるようにソナには思えた。



 す、とキィトが人差し指を立てる。



 微かな魔力。



 キィトの頭上。

 重たげな国旗が風もないのに揺らめいた。

 


 カノダリア国の国章──満ちた月と交差する2本の杖。

 それが今、はっきりと皆に向いている。



「──遥か昔」



 ぞくりと、ソナの全身に鳥肌が立つ。

 よく響くキィトの声だった。



「迫害から逃れるため、我々の祖先は“海向こうの世界”からこの地へとやってきた」


 紫のローブを纏うキィトの姿に視線が吸い寄せられる。


「我々の祖先はこの地に住まう古の民と手を取り、共に魔法文明を発展させてきた。古代魔法文明と呼ばれるその時代は、夢のような世界だったという」


 淀みなく言葉を紡ぐキィト。

 皆が、紫のローブの男の話に聞き入っていた。

 キィトを“腰掛け所長”と罵ったルドンでさえも、神妙な面持ちをしている。

 ヘルベティアだけが──腕を組んで違う方を見ていた。


「夢の日々は文明戦争により終わりを告げ、現在我々は、古代魔法文明から断絶されている。今回発見された新通路は」


 キィトはそこで区切り、じっくりと職員を眺めた。 


「謎多き古代魔法文明解明の一端になるものだと信じている。その調査の結果が我々の世界にもたらすものは、非常に大きいだろう。諸君の健闘を──祈る」

 


 沈黙。



 ぱらぱらと、ゴシュが手を叩いたのを皮切りに、会場内にさざめくような拍手が生まれる。


 眠そうにしていたトレックも、そしてカギモトも、拍手をしていた。

 ソナも遅れて、それに倣う。

 拍手の音は長く続いた。

 

 人を言葉で弄し、人を研究対象だと言い捨て、人を惹きつける。



 一体、あの男は。 



 席に戻った今、キィトは役目は終えたと言わんばかりに、普段どおりのだらりとした表情に戻っていた。

 

 その後の式では選抜隊の代表として調査係の誰かが何か挨拶をしていたが、ソナの耳には大して何の言葉も残らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ