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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第34話 契約準備

昨日誤って33話より先に投稿してしまいました。失礼しました。

ここまで通しで読んでくださっている方がいるかわからないのですが、謝罪の上再投稿します。

 メッツェンから受け取った資料をゴシュが人数分複写し、総務係全員に配った。


「ひっ」

「あらぁ」

「うえぇ、まじかよ」


 資料を見たナナキ、シンゼル、トレックは一様に悲鳴のような呻き声を漏らす。

 ティーバだけは黙って早速書類に書き込みを始めていた。


「見てのとおり、そこに書かれた期日までにそれらの物資なんかを準備しなきゃいけない。とりあえず午後に上と打ち合わせがあるから、それまでにある程度調達の目処をつける必要がある」

 ゴシュはいつもより一層早口である。

「みんなで手分けして、知り合いの業者や他の遺跡管理事務所、あらゆるツテを使って何とかしよう。新通路への対応は急を要するみたいだから、みんな頼むよ」

「……」 


 これから担う業務量を思ったのか、1階フロアが重たい空気で満たされる。


「──と言いたいところだけど」

 とゴシュが声の調子を明るい方に変えた。

「新通路が見つかった時点でこうなることは予想できたからね。僕の方で既に業者とかに声は掛けてあって、基本的な物資は押さえてあるから」

「……ゴシュ係長、この一番後ろの資料は」


 ページをめくりながら、セヴィンが驚き混じりの声を漏らす。


「僕が手配したものを記載したメモだよ。あとは細かい数量調整と、今回のリストにある希少な物資とかは手を付けられていないから、そこはみんなに頼みたいんだ」

「係長……」

 感じ入るようにセヴィンが呟いた。

「──さすがです」

「よしてよ。セヴィン君に言われるとなんかむずむずするんだよなぁ」

 ゴシュは顔をしかめる。

「まあとにかくそういうことで、皆への仕事の割り振りはセヴィン君にお願いできる? あ、シンゼルさんは僕を手伝ってね。財務課に予算の追加申請もしないと」

「あらぁ、それくらいはお任せください」


 シンゼルが先ほどとは打って変わってやる気に満ちた声で言った。

 ゴシュの指示通り、セヴィンはすぐさま必要な作業を各人に割り振っていく。


  ナナキとティーバ、トレックもそれぞれ異なる道具や消耗品の確保を担当するらしい。


「おい、レベル7の麻痺薬とかめちゃ劇薬じゃねえか。その辺で扱ってんのか?」

「公園通りの雑貨店だったらあるかもしれません。でもそんなに在庫はないでしょうから、早めに連絡した方がいいかもですよ」

「一旦、調達が難しそうなやつだけリストアップし直そう。店関係はナナキが詳しいから、それで問い合わせる先を決めた方が早い」


 資料の場所や進め方などを遠慮なく相談し合っている。士気は低くない。

 

 この係には、不思議と“一体感”と呼べるものがある。

 人と協力し合うことに不慣れなソナでも、それは感じられた。


 初めは、“掃き溜め”と呼ばれる部署に配属された者同士の単なる馴れ合いだと思っていた。


 でも、もしかしたらそれは違うのかもしれない。


 今はそう思い始めていた。


 セヴィンが近くに来た。


「新人の君は、カギモトと一緒に動いてくれ。2人には魔導機械の修理士の手配を頼みたい」

「このリストの最後のやつですね」

 

 セヴィンの言葉にカギモトが頷いた。


 危険な遺跡──特に未踏の地における調査には特殊な魔導機械を使用することが多いことはソナも知っていた。


 しかしその機械の手配、整備、故障時の対応などを誰がやっているかまで考えたことはなかった。


 ソナが難しい顔をしているように見えたのか、カギモトは、「大丈夫だよ」と言う。


「係長が下準備してくれてるから、そんなに難しく無いと思う。一緒にやってみよう」


 ソナはただ頷いた。

 カギモトは引出しから古そうなファイルを引っ張り出し、過去の資料を見せながら修理士との契約についての簡単な説明を始める。


 ソナはやはり静かに話を聞いていた。


「管理係からのリストでは、修理士3人を確保して、一日おきに交代で回していくのを想定しているみたいだね」


 カギモトの説明によれば、本当なら業者間で契約金額を競争させて安くさせるようだが、今回は緊急事態かつそれなりの技術力のある業者が求められている。 

 そのため修理士達については、遺跡管理事務所で指名するやり方を取るらしい。


「修理士さん達に連絡するのは俺の方でやるね」

 カギモトは先程取り出した分厚いファイルをソナの机の近くに置いた。

「予算がついたらすぐに契約を交わしたいから、フラフニルさんは、このあたりを参考にして契約書の素案を作ってみてくれる?」

「はい」


 ソナの返事に頷きを返すと、カギモトは早速電話を掛け始めた。

 ソナはファイルをめくって資料を確認しながら、素案作りに取りかかる。


 今は係にとって大事な時なのはわかりきっている。カギモトとのやり取りで業務に支障をきたすようなことはあってはならない。


 カギモトは、単なる記号だ。


 こなすべき仕事を適切に処理するために、必要最低限の関わりをするだけの存在でしかない。


 そう割り切りさえすれば、恐らくあの金髪の青年がもたらした、しこりのような何かが緩和されるのではないか。


 そう、ソナは期待していた。

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