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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
3/150

第3話 ヘルベティアの忠告

改行など修正しました。


 失礼しました、とソナが所長室から出ようとすると、前触れなく外から扉が開いた。

 ノックもせずに所長室に入り込んできたのは、長い桃色の髪を緩く2つに結んだ女性。


 一輪の花のように華奢な体躯。職員らしからぬ派手な花柄の短いワンピース。ソナよりも一回り小さく、その顔つきは少女のように幼い。

 大きな金の双眸がソナをじろりと見る。

「あっ、ヘルベティア、どこ行ってたんだよ、ちゃんと僕を起こしてくれよ」

 ソナの後方からキィトが情けなく言った。

「起こしたけど起きなかったんですよ。あたしだって忙しいんですから」

 ヘルベティアと呼ばれた少女はキィトにぞんざいな返事をすると、ソナを上から下まできつい目付きで眺める。

「あなた……例の新人さんですかぁ?」

 どこか攻撃的な口調でその少女は言った。恐らく初対面の相手だが、なぜか向けられる敵意のようなものにソナは内心たじろいだ。

 それは顔に出さないで背すじを正すと、身長差から、少女を見下ろす形になる。

「はい。ソナ・フラフニルです。よろしくお願いします」

「ふぅん……」

 不満げに鼻を鳴らしたと思ったら、ヘルベティアは背伸びをして、その人形のように整った顔をソナにぐっと近づけた。

「いいですかぁ? 新人さん」

 星の光を思わせる濃い金の瞳。美しさの中に、全てを焼き尽くすような激しさがある。 

「ティーバ様に近づいたら容赦しませんからねぇ?」

 ソナは目を瞬かせた。

「おーいヘルベティア。新人くんを威嚇するのはよしなさい」

「ふん」

 ヘルベティアはソナを部屋から追い出すようにして、音を立てて扉を閉めた。

 ソナは呆然と所長室の閉じられた扉を見つめていた。


 理不尽の塊のような女性だった。

 本当に職員なのだろうか。


 それに、あの金の瞳──


「……“琥珀の民”」


 今や希少な古代文明の末裔の総称を、誰にも聞こえないような声で呟く。それから、まさかと思いひとりで首を振った。

 そんな立場の人間が、こんな寂れた職場にいるはずがない。

 ソナは1階へと上がるため、元来た階段室を目指した。



……………



 階段室の扉を抜けて1階の廊下に出ると、ナナキが待ってくれていた。

 まともそうな職員の姿を見て、ソナは少しほっとした。

「……どうでしたか?所長」

 ナナキは恐る恐るといった様子で尋ねる。

「普通に挨拶してきました」

「それは、よかったです」

 ナナキは安心したように微笑み、「それでは総務係を案内しますね」とソナを先導する。

「この扉の向こうが総務係の執務室兼遺跡管理事務所のロビーです」

 笑顔で言いながら、廊下の突き当たりの簡易的な扉をナナキが引いた──瞬間。


「ふざけんじゃねえ!!」


 野太い怒号が響き渡り、ナナキは「ひっ」と小さい悲鳴を漏らした。

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