第3話 ヘルベティアの忠告
改行など修正しました。
失礼しました、とソナが所長室から出ようとすると、前触れなく外から扉が開いた。
ノックもせずに所長室に入り込んできたのは、長い桃色の髪を緩く2つに結んだ女性。
一輪の花のように華奢な体躯。職員らしからぬ派手な花柄の短いワンピース。ソナよりも一回り小さく、その顔つきは少女のように幼い。
大きな金の双眸がソナをじろりと見る。
「あっ、ヘルベティア、どこ行ってたんだよ、ちゃんと僕を起こしてくれよ」
ソナの後方からキィトが情けなく言った。
「起こしたけど起きなかったんですよ。あたしだって忙しいんですから」
ヘルベティアと呼ばれた少女はキィトにぞんざいな返事をすると、ソナを上から下まできつい目付きで眺める。
「あなた……例の新人さんですかぁ?」
どこか攻撃的な口調でその少女は言った。恐らく初対面の相手だが、なぜか向けられる敵意のようなものにソナは内心たじろいだ。
それは顔に出さないで背すじを正すと、身長差から、少女を見下ろす形になる。
「はい。ソナ・フラフニルです。よろしくお願いします」
「ふぅん……」
不満げに鼻を鳴らしたと思ったら、ヘルベティアは背伸びをして、その人形のように整った顔をソナにぐっと近づけた。
「いいですかぁ? 新人さん」
星の光を思わせる濃い金の瞳。美しさの中に、全てを焼き尽くすような激しさがある。
「ティーバ様に近づいたら容赦しませんからねぇ?」
ソナは目を瞬かせた。
「おーいヘルベティア。新人くんを威嚇するのはよしなさい」
「ふん」
ヘルベティアはソナを部屋から追い出すようにして、音を立てて扉を閉めた。
ソナは呆然と所長室の閉じられた扉を見つめていた。
理不尽の塊のような女性だった。
本当に職員なのだろうか。
それに、あの金の瞳──
「……“琥珀の民”」
今や希少な古代文明の末裔の総称を、誰にも聞こえないような声で呟く。それから、まさかと思いひとりで首を振った。
そんな立場の人間が、こんな寂れた職場にいるはずがない。
ソナは1階へと上がるため、元来た階段室を目指した。
……………
階段室の扉を抜けて1階の廊下に出ると、ナナキが待ってくれていた。
まともそうな職員の姿を見て、ソナは少しほっとした。
「……どうでしたか?所長」
ナナキは恐る恐るといった様子で尋ねる。
「普通に挨拶してきました」
「それは、よかったです」
ナナキは安心したように微笑み、「それでは総務係を案内しますね」とソナを先導する。
「この扉の向こうが総務係の執務室兼遺跡管理事務所のロビーです」
笑顔で言いながら、廊下の突き当たりの簡易的な扉をナナキが引いた──瞬間。
「ふざけんじゃねえ!!」
野太い怒号が響き渡り、ナナキは「ひっ」と小さい悲鳴を漏らした。




