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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第26話 返信

「いつまでソナさんと喋ってるんだよっと」

 カギモトとソナの間に手刀を下ろすようにして入ってきたのはトレックだった。

「仕事をしたまえ、仕事を」

「おまえに言われたくないんだけど」

「ちゃんと窓口当番やってますぅ、これを見せに来ただけですぅ」


 ふざけた調子のトレックがカギモトの机に置いたのは、1枚のカードだった。


「これ……」

 カギモトの言葉に、ソナもそれを覗き込む。

 散々踏まれて揉まれたのか酷く汚れていたそれは、探索士証だった。


「さっき窓口に来た探索士が、遺跡の近くで拾ったって持ってきてくれたよ。これアレだろ、今朝のうっかり代表探索士」


 カギモトが溜息をつく。


「ドードーさんのだね。……まったく」


 カギモトが言ったとおり、探索証には、今朝再発行受付をしたばかりのドードーの、どこか冴えない顔写真とその名があった。


………………


 ドードーの探索士証の失効手続はまだ終わってない、とカギモトが確認して言った。


 「今なら手続きの取消しは間に合うね。それは俺がやるから、フラフニルさんはドードーさんに探索証見つかったって連絡してくれる?」


 カギモトがすぐに指示を出し、ソナは慌てて頷いた。


 探索士証の再発行申請用紙に記載されたドードーの滞在場所の宿を確認し、そこに向けて伝心蝶を送り出す。


 「探索士証が無いと遺跡には入れないから、多分どこにも出掛けてない、はず。ちゃんと届くと思うんだけど……」


 伝心蝶の飛んで行った窓を見送りながら、カギモトは自分に言い聞かせるように呟いていた。


 確かにあの探索士はどこか軽くて、危うい感じはあったけれども、探索士をそこまで心配する必要があるのか。

 ソナにはよくわからなかった。


 その後は、細々した事務処理をカギモトに教わりながらやっているうちに、夕方を迎えた。


 「来なかったな、うっかり代表」


 窓口を片付け終えたトレックが、受け付けた書類を手にカギモトに言いに来る。


 「うーん……」


 カギモトはまだ事務所の入口を見ていた。

 その時だった。


「あらぁ、あれ伝心蝶よ」

「あ、そうですね。……なんか、よろよろしてますけど」


 シンゼルとナナキが声を上げた。


 伝心蝶がアーチ型の窓をすり抜け執務室に入り込んできた。

 ナナキの言うとおり、どこか怪我でもしているかのようによろけて飛びながら、迷うことなくソナの元に向かう。

 その掌に着地して、羽を休めた。


 「ドードーさんだよね、何だって?」


 カギモトが覗き込んできたが、手の中の伝心蝶を見てソナはぎくりとした。


 蝶に書かれた消え入りそうな名前。


 これは母からだ。


 ソナは伝心蝶を手で隠し、音を立てて立ち上がった。その勢いのせいか、カギモト達が目を丸くする。


「す、すみません、これ私の……個人的なもので……」

「あ、そうなの?」

 皆がきょとんとしている中、ソナはとりあえず廊下に向かった。


 母は、“杖無し”程ではないが、魔力量がかなり少ない方の人間である。伝心蝶を作るのも一苦労のはずだった。


 床から寒さが這い上がってくるような廊下で、ソナは伝心蝶の中身に触れた。

 広げた羽に浮かび上がるのは。

 

『…………』


 何も、読み取れる明確な文字はない。

 母の魔力が足りなかったのだろう。


 「……」


 母が伝えたかったのは、普通に考えて、ソナがナナキ達と明日昼食を取ることに対しての返信だ。

 二つ返事で承諾、というのをわざわざ伝心蝶で送ってくるとは考えにくい。


 となると、答えはひとつしか無いだろう。


 手のひらの伝心蝶は魔力を込めるとすぐに魔素の粒になって消えた。

 苦い気持ちが、喉元まで込み上げてくるような気がする。

  


「私の母からでした」

 ソナが執務室に戻って告げる。

「何かあった?大丈夫?」

 緊急事態でも起きたと思ったのか、カギモトは心配そうな顔をしていた。

「いえ……ちょっとした連絡で」

「そっか」

 安心した様子でカギモトが頷き、

「職場に急に親から連絡来たらどきっとするよね」と笑った。

「え。ええ……」

 カギモトは椅子に座り直しながら、「ドードーさんだけど」と話を切り替える。

「返事がない以上、とりあえず待つほかないかな」

 ソナは頷く。

「……探索士だからね。俺が個人的に心配してるだけで。フラフニルさんはそんなに気にしなくていいから」

 確かに、ソナにとっては単に連絡のつかないドードーよりも、読めない伝心蝶を送ってきた母の方が今は気にかかっていた。

「ほんと、気にしすぎだと思う」

 横からティーバの呟きが聞こえた。

「ひとりの人間にそんなに構ってたら、終わる仕事も終わらないだろう」

「手厳しい」とカギモトは顔をしかめた。

「でも、良い人だからね。何事もないといいなと思ってる」

 はあ、とティーバの呆れ気味の溜め息が漏れた。

 カギモトは机の上の書類に手を伸ばす。

「まあ一応、明日も連絡してみようか。他に何もなければ今日は帰って大丈夫だよ」

「……はい」


 カギモトは今日も残るらしい。

 頭を掻いて書類を眺めるカギモトの後ろ姿を見ながら、ソナは帰り支度をする。


 タイミングが重なり、トレック、シンゼル、ナナキと共に執務室を出た。

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