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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第23話 探索士という職業

「あらぁ、あんな子供が探索士にねぇ」


 いつの間にか背後にいたシンゼルが溜息混じりに言った。手にはファイルに挟んだ書類の束を抱えている。


「ちょっと、反対したくなっちゃうわねえ。あんな危険な仕事は辞めときなさいって。稼ぎたいだけなら、命懸けじゃない別の仕事だってあるもの」

「まあ、それだけ魅力ある職業だってことですよね。国としても探索士を増やすことに力を入れてますし」


 カギモトが穏やかに返した。


 その労働環境の厳しさから、国の探索士数が激減した時期があった。

 しかしカギモトの言うとおり、政府の積極的な補助と広報活動等の結果、近年、志願者は増加傾向にあるというのはソナも知っている。


「でも、きらきらしたイメージばっかり押し出してる感じがしてね……。受付けして遺跡に送り出して、それっきり帰って来ない探索士もたくさんいたわ。現実は甘くないわよねぇ」


 シンゼルが少し遠くを見るように言う。

 そうですね、とカギモトが頷いていた。


 この仕事をしていれば、顔見知りになる探索士もできるはずだ。そんな者たちとの別れを、遺跡管理事務所の職員は何度も経験しているのだろう。


 父も、遺跡管理事務所の職員とこんな風に関わっていたのだろうか。

 リケの書類を整理しながら、ふとそんな考えがソナの頭を掠めた。


 危険な仕事に見合わない不安定な収入。

 家の中にはどこか不穏な雰囲気が漂っていて、欲しいものも欲しいと言えなかった。お金のことで父と母の喧嘩は絶えなかった。


 探索士という父の仕事を理解する気などなく、

 「もっと安定した仕事をしていてくれればよかったのに」

 とそれだけを思っていた。

 

 父が探索中に命を落としたと聞いても、それは仕方がないとしか思えなかった。

 正直、探索士という職業は嫌いだった。

 

 気持ちが沈みかけたソナに、「ところで」とシンゼルの明るい声がかけられる。


「ソナちゃん。あなた堂々としてていいわねぇ。本当に配属3日目? すごいわぁ」

「え……」

「本当に」

 カギモトが後を受けた。

「俺の新人の頃よりずっと落ち着いてるよ。安心して見てられる」

「……」


 優しく言われたカギモトの言葉は、ソナの心をざわつかせるだけだった。


 カギモトの手助けがなければ、まともに対応はできていなかった。その点を指摘せずに、にこやかに褒めるだけとは。 

 内心でこの男は、どう思っているのだろう。

 本当は、自分のことを馬鹿にしているのではないかと疑りたくなる。


「まあ、もちろんまだ分からないこともあると思うけど、最初から完璧にできちゃったら、俺の立つ瀬がないからね」


 ソナが怪訝な顔をしていたからか、カギモトは笑いながら付け加えた。


「そうよぉ。それにしても思い出すわ。配属されたばかりのカギモト君のミスの数々……」

「あ、それはあまり言わないでいただけると」


 シンゼルとカギモトのやり取りを遠目に見ながら、ソナはリケの書類を所定のファイルに綴じた。


 西部地区の遺跡の資料を見ていた女性2人組探索士が窓口に戻ってきた。

 

「あのさ、色々資料あって助かったんだけど、アレス遺跡の新通路の資料ってないの?」


 小柄で可愛らしい雰囲気の女性の方が尋ねる。


 アレス遺跡の新通路。


 昨日、管理係のバルトロが口にしていた話をソナは思い出した。

 最近発見された、遺跡の未調査部分。


「えっとですね、そこはまだ軍や連盟と調整中のようで詳細が未定でして、まだ探索には入れないんですよ。アレス遺跡自体が一部封鎖されている状態なんです」


 口籠ったソナの代わりにカギモトが答えた。


「えー、そうなんだ。早く行ってみたいのに」 

 背の高い方が残念そうに言う。

「諸々決まったら、お知らせします。どこか連盟にご所属ですか?」

「うちらはカルルス探索士連盟だよ」

「であれば、連盟経由で通知がいくと思いますのでお待ち下さい」

「はぁい」と返事をした後、小柄な方の女性がカギモトを難しい顔でじっと見つめた。


「ところでお兄さんって……まさか魔力がゼロの人?」

「そうですよ」とカギモトはさらりと答えた。

「え、まじ?いや、感じないなと思ったけど、魔力隠してるとかじゃなくて?」


 相棒の女性が驚く。


「へえ、西部は魔力が無くても公務員になれるんだ。進んでるー」


 その言い方は酷く皮肉っぽく聞こえた。


「ここが変わってるだけかもしれませんけど」


 カギモトは穏やかに返す。


「なんだ、お兄さんかっこいいと思ったのに、残念」

「ま、頑張ってくださぁい」


 好きなように言って、女性2人組は資料を手に帰っていった。

 出て行く彼女らを見るともなく見ていたカギモトの表情に変化はない。

 ソナの視線に気がつくと、カギモトは

「資料コーナー、直して来ようか」

 といつもの調子で言った。


 そう言われて何もしないわけにもいかず、ソナはカギモトの後について行った。


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